生存者
翌朝。
薄い光が倉庫の天井の隙間から差し込み、埃が舞う。
外は、昨日より静まり返っている。
生き残っている人間がどれほどいるのか、見当もつかない。
「行こうか」
俺がそう言うと、彼女は黙って頷いた。
倉庫の扉をそっと開け、外へ出る。
地面にはまだ瓦礫が積もり、車は横倒しになったまま。
人の声はしない。
だが数百メートルほど離れた交差点に、
“ゆっくりと歩く影” が三つ見えた。
「人、だよね?」
彼女の声は期待と警戒が入り混じっている。
俺も同じだった。
生存者がいるのは嬉しい――
ただ、それが“味方”とは限らない。
近づいてくる三人は、二十代ほどの男二人と女ひとり。
手には大きなリュックと、鉄パイプ。
防犯用に持っていたのかもしれないが、
どう見ても武器だ。
俺たちに気づくと、彼らは足を速めた。
「おい! そっち、食料あるか?」
開口一番、それだった。
彼女が小さく身を強張らせる。
俺は彼女の前に立ち、警戒をにじませずに答える。
「まだ集めてるところだ。分けられるほどはない」
男は舌打ちした。
「……ケチかよ。つーか、お前どこで寝てんだ? 昨日の夜、避難所は地獄だったぜ?」
地獄――
その言葉に、彼女が怯えたように俺の袖をつまむ。
もう一人の男が怪訝な目を向ける。
「お前……大丈夫か?」
“お前”
その言い方が妙に引っかかる。
こういう状況で女は特に危険だ。
俺は短く答えた。
「大丈夫だ。もう行く」
そう言って歩きかけたとき――
背後で、男たちがひそひそと声を交わす。
「やっぱ持ってんだろ……」
「おっさん一人、どうってことねぇ……」
音量は抑えているが、聞こえた。
彼女も息を呑む。
俺は振り返らずに、彼女の手首を軽く引いた。
「行くぞ」
その一言だけを残して、早歩きで距離を取った。
途中、彼女が小さくささやく。
「……怖い」
「大丈夫だ。今は離れるだけでいい」
声は落ち着いているが、胸の鼓動は早かった。
――もう、“ただの災害”ではない。
――“生存競争”が始まっている。
そして彼女も、その現実を悟ったらしい。
歩きながら、ぎゅっと俺の袖を握る指先が震えていた。
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