拠点
大型のカゴ付き台車が一通り山盛りになった頃、店内の薄暗がりを風が抜け、天井の梁がギシ……と軋んだ。
思わず天井を見上げる。
「まずいな。長居はできない」
「……はい」
台車の重さはかなりのものになっていた。
「とりあえず外に運び出して、どこかに“拠点”を作る」
「拠点……?」
「雨風をしのげて、人目の少ない場所。
物資を置いて、しばらく暮らせる場所だ」
彼女はこくりと頷いたが、すぐに不安げに視線を漂わせる。
「じゃあ……どこへ?」
俺はホームセンターの敷地を思い浮かべる。
裏には、従業員用の資材倉庫があったはずだ。
周囲の建物に押しつぶされてなければ、無事なはず。
「裏の倉庫。表からは完全に四角になってて、発見され辛い。
あそこならしばらくは隠れていられる」
「隠れる……?」
「まだ人が来ていないのは幸運だ。
でも、これだけの物資が残っていれば――すぐに誰かが来る」
盗まれるかもしれないし、誰かが俺たちから奪いにくる可能性だってある。
言葉にしなかったが、彼女は気づいたように顔を曇らせた。
「……わかりました。行きましょう」
その声は小さいけれど、震えてはいなかった。
俺たちはカゴ付台車を押し、崩れかけたホームセンターの裏口へと進む。
夕暮れは、ゆっくりと夜へ沈む。
街の灯りが失われた世界では、闇がこんなにも早い。
外気に触れた瞬間、冷たい風が頬を刺した。
「急ごう。夜になったら危険が増える」
「……はい」
彼女は荷物袋を抱え、俺のすぐ後ろから離れない。
その距離が、妙に胸を締めつける。
守らなければ、という焦燥と、
この距離に甘えてしまいそうになる自分が、同時に存在していた。
俺は顔を伏せ、歩幅を一定に保つ。
いまは、生きることだけに意識を向けるべきだ。
やがて、倉庫が見えてきた。
倉庫のような建物は地震で揺れても倒壊するだけの重量が無い。
思った通り、無傷だ。
「……ここで、しばらく生活する?」
彼女は不安そうに倉庫を覗き込みながら言った。
俺は頷く。
「今はここしかない。
でも、今ならまだ……生き残れる準備ができる」
夕闇の中で、彼女が静かに息を吐く。
その横顔には、強がりでも絶望でもない、
ただ必死に前を見ようとする意志だけがあった。
「……お願いします。
わたし、ひとりじゃきっと無理だから」
胸が、痛いほど熱くなる。
だが俺は、それを表情に出さない。
「一緒にやる。大丈夫。
――今日は、まずここを拠点にしよう」
倉庫の闇の奥へ足を踏み入れた瞬間、
遠くの街で、何かが崩れる轟音が響いた。
世界が壊れていく音だった。
その中で、俺たちだけが、かろうじて生き残りの場所を確保しようとしている。
――そのことが、恐ろしくもあり、どこかで安心してもいた。
・・・このあとがきの下にある『☆☆☆☆☆のマーク』を、
ポチッと押すと、誰かから嬉しいメッセージが来ます。
押さないと、ペットが微妙に不機嫌に。




