生存競争
街の惨状を前に、彼女は震えている。
家族も家も失ったその背中が、あまりにも小さく見えた。
俺は周囲を見渡しながら、脳のどこかが冷静に回り始めているのを感じた。
局所災害ですら三日間は自分で食いつなぐ必要があり、南海トラフからの連動大地震が起きれば日本中の食糧が枯渇し、地方では救援物資が遅れ死者が出る可能性すら示唆されていた。
それが……世界同時大地震。途絶えた通信。ラジオから聞こえた地球の軸がどうのこうのという言葉。恐らく救援物資は……来ない。
――避難所へ行くのは、後だ。
まず拠点。
水、食料。
生き残った人間同士での争奪戦。
出遅れたら……死ぬ。
「……行くぞ」
彼女を促し、近くのコンビニへ向かう。
ドアは開きっぱなしだった。
店内には足跡と紙くず。
転がった空の棚。
食料は、何ひとつ残っていなかった。
「……誰か、来たんですね」
彼女が不安げに言う。
「生存者はいるってことだな。……ただ――」
喉の奥が苦くなる。
「競争は、もう始まってる」
彼女の表情が強張った。
「……競争?」
「奪い合いだよ。生き残るための。
水も食料も……足りない。
俺たちも、いまから動かないと詰む」
自分でも驚くほど落ち着いた声が出た。
彼女の肩が少し震えたまま、俺の方を向く。
「……どうすれば」
その瞳に縋られると、胸がざわつく。
触れたい衝動を抑え、距離を取ったまま言葉だけを差し伸べる。
「本だ」
「本……?」
「サバイバル関連の本はまだ誰も取らない。
こういうのは、最初に“食い物”だけが消える。
他の物資は後回しになる」
雑誌コーナーに向かうと、予想通りサバイバル特集やアウトドア誌、
防災・応急処置の本が丸ごと残っていた。
全部、持っていく。
店を出る直前にペラペラとめくり、ふと気づく。
ホームセンター。
ソーラー式の発電機。
キャンプ用品。
水タンク。
保存食。
普段なら高くて手が出ない“本当に使える道具”が、一式揃っている場所。
「……間に合うかもしれない」
思わずつぶやくと、彼女が首を傾げる。
「何が……?」
「ホームセンターだ。
今すぐ行けば、まだ残ってる可能性がある」
彼女の目にかすかな希望が灯る。
「拠点をその近くにして、物資を運び込む。
動けるうちに動く。
生き残りたいなら、いまが勝負だ」
彼女は小さく唇を噛んで頷いた。
「……分かりました。ついていきます」
その言葉に、胸が痛くなるほど鼓動が跳ねた。
だが表には出さない。
ただ前を見据え、崩れた街の中を歩き出す。
二人は、まだ混乱の波が押し寄せていない“ホームセンターエリア”へ向かっていた。
生きるために。
そして、彼女を生かすために。
――それが、大人である俺の役目だ。
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ポチッと押すと、あなたの願いが誰かに届きます。
押さないと、冷蔵庫の中の牛乳が少しずつ減ります。




