序章
鬱蒼とした密林の中に神殿のような大きな遺跡がひっそりと建っている。
壁は所々崩れ、びっしりと植物の蔓と緑色のふかふかの苔に覆われ、隣接する樹に取り込まれ、一体化したようになっている。
よくよく周りを視ると樹の根や苔に覆われた石造りの小さな遺跡が幾つも眼に留まる。
ここはかつて神殿を中心とした大きな都市だったのだ。
その都市は大いに発展した。しっかりと区画整理された街並み、神殿の東西南北に走る石畳の広い主要道路、完備された上下水道、紙の入る隙間もないほど石を綺麗に積み上げて建てられた住居など他の街には無いものがここにはあった。
そこに暮らす人々も笑顔に満ち溢れ、露店が多く立ち並び、大陸中から商人が様々な商品を持ってこの都市に行き交いしていた。
しかし――
突如としてその都市は歴史上から姿を消した。
理由など誰にも解らない。
疫病か貧困か、はたまたはこの都市を統治していた神殿への反乱か――
あらゆる仮説が飛び交う中、依然として真実は闇の中だ。
『Lost Polis』
突如として歴史から消えた、名前の解らないその都市はそう名付けられた。
消えた都市の謎を解き明かそうと様々な国が調査隊を送り込んだが、成果はどれも今一つだった。
全くと言って良いほど痕跡が無いのだ。古文書に相当する物も無ければ、神殿上層部にあるであろうと推測された神への言葉を記した石板も、その痕跡を遺して消えていた。
まるで故意に隠蔽されているかのように、だ。
しかし必ず何かある、そう学者達は考えあらゆる方面から調べるも謎は深まるばかりだった。
学者達が率いる調査隊とは別に独自にこの都市に来ている者達もいる。
彼らは謎を解き明かそうと来ているのではない。大いに発展した都市なら何か価値のある物があるだろう、という考えを持っている者達である。
彼らが考える『価値のある物』とは――
それは金や銀、宝石といった財宝である。彼らはトレジャーハンターなのだ。悪く言えば盗掘者とも言える。
彼らが考える財宝のある場所とは、それは神殿。神殿の広さはかなりの規模だ。上層部には三層、下層部には一層の階が存在することは、それ以前の各国の調査で判明している。これ程の規模の神殿を中心とした大きな都市を支えるには、それ相応の資金が必要だろうから神殿には宝物庫のようなものが有るだろう、ということらしい。
これは、その歴史から消えた都市に挑んだハンター達の物語である。