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練習用の倉庫

五月雨のクッキー

作者: レバニラ

初めてなので広い心で読んでくれると嬉しいです。

“雨は嫌いだ”




窓の外では、バケツをひっくり返したかのような大雨が降り注いでいる。頬杖をつきながらそんな景色をぼぅっと眺め、佐藤はため息をついた。雨というだけで思い出したくもない記憶が蘇り、気分が薄暗く翳りを帯びるのだ。その上、気圧による片頭痛が煩わしい。

それでも佐藤はなんとか6校時目の授業まで耐え、授業の終わりを告げるチャイムの音を聞いた。解放されたとほんの少し気を緩ませていると、佐藤は背後から声をかけられた。緩慢な様子で後ろを振り返ってみると、保育園から仲の良い鈴木が立っていた。


「よぉ、もう帰んの?」


鈴木も同様にこの大雨の所為で気分が優れないのだと佐藤は思った。仲の良い佐藤でなければわからない程微細なものだった。鈴木を大して知らない人がみると、ニヤニヤとまるで悪戯を考えている小学生のような表情をしているのでわかりにくいだろう。といっても、気分が優れないのは事実なのだが、何かを企んでいるのも事実といった表情なのだと佐藤は思った。仲が良いと言えど、さすがに鈴木の心中全てがわかるわけではないので問う必要がある。こういう時の鈴木は何を言っても意見を変えることはないし、ましてやその企みには佐藤が巻き込まれる事は確定している。問いたくないという気持ちと、問わなければならないという気持ちがないまぜになり、佐藤は不快そうに顔を歪めた。

こんな日だからこそ早く帰りたかったというのに帰れなさそうだと、今日ばかりは鈴木のことを恨めしいと佐藤は思った。


「なんで?そりゃあ雨だしもう帰るよ」

「もう2時間したら雨止むらしいけど」

「いいよ、2時間も待ってられないし僕は帰る」


佐藤はすぐさま踵を返し帰ろうとした。

しかし、すぐに鈴木に腕を掴まれてしまった。


「なぁって、待てよ。クッキー作ろうぜ。」

「今日、この日に?」

「この日だからこそ、だろ?」


いつになく真剣な表情の鈴木に気圧されて、ついつい佐藤は甘くなってしまった。


「……はぁ。わかった。けど、どこで?」

「決まってんじゃん、家庭科室」


鈴木は家庭科室の鍵を顔の高さまで持ち上げ、誇らしげに佐藤に見せた。用意周到な鈴木に、佐藤は一層ため息が出た。



***

「材料は?」

「ひと通り買ってある」

「そう。それで、分量は?」

「いま調べる〜」


鈴木は素早くメッセージのアプリを開き、トーク画面を遡り始めた。それを横目で見ながら佐藤はボウルやらヘラといったクッキー作りに必要そうな道具を出した。このトーク画面は、佐藤と鈴木のグループのトークだ。

鈴木のスマホの画面が黒くなったことから、無事に分量を見つけることができたのだろうと佐藤は判断し、薄力粉の袋をハサミで切った。


「それで?」

「薄力粉100g、溶き卵1個、グラニュー糖45g、バター50gって書いてる。」

「ところどころ性格出てるのおもろいね」


このレシピは、本来のレシピとは少し異なる。

本来であれば溶き卵は二分の一であるし、バターは無塩のものを使用するはずだというのに使用しているのはパンに塗る安いマーガリンだ。

佐藤と鈴木はレシピ通りに材料を量り、テーブルに並べた。


「この次は?」

「んーと、160°Cのオーブンで30分焼くって」

「予熱は?」

「何も書いてない」


予想していたとはいえ、佐藤も鈴木もクッキーなど生まれてこのかた一度も作ったことがないのだ。仕方なく鈴木にネットで調べてもらい、予熱をすることにした。最近のオーブンはとても有能で、予熱機能がしっかりと備わっているようで二人は安心した。

オーブンを予熱している間、二人は無言でクッキーの生地をを切り、天板に乗せていた。とくに話すこともなければ、こんな日の会話などたかが知れているからだ。話せば今よりも気分が悪くなることを二人は理解していた。




ピピピッピピピッ



雨の音が聞こえる室内に、予熱の終わりを知らせる機械の無機質な音が鳴り響いた。

その音に驚き二人は微かに肩を揺らした。


「これで予熱終わったの?」

「たぶん。あとはこれ入れて15分焼くだけだよな?」


あらかじめ用意していた生地をオーブンにセットし、二人はまた無言でタイマーが鳴るのを待った。

なんとなく鈴木が視線を窓の外に移してみると、雨が止みかけていた。天気が変わるほど時間が経ったのかと、佐藤が時計を見てみると既に約一時間半もの時が過ぎていた。時間を気にしていなかったこともあり、そこそこに長い時間二人は家庭科室に篭っていたようだ。佐藤は相変わらず静かに俯いている。佐藤が今何を考えているのかなんて聞かなくても鈴木には手に取るようにわかる。

二人してダンマリを決め込んでいると、室内に二度目のタイマー音が鳴り響いた。


「できたな」

「うん。これ、開けていいよね?」

「いいと思う。火傷するなよ」

「わかってるって」


軽く言葉を交わし、佐藤は出来たばかりのクッキーを取り出す為オーブンを開けた。湯気が勢いよく飛び出し、佐藤は眉を顰めながらクッキーをオーブンの外に出した。

レシピ通りに作ったおかげが、目立った失敗はせず普通のクッキーが出来上がっていた。まるこげになっているものはなく、全てのクッキーが均一に黄土色に染まっている。


「成功したな」

「失敗するほうが難しいよ」


二人は顔を見合わせ、クッキーを食べ始めた。


「硬い、岩みたいなクッキーってどうやったらできるのかな…」

「さぁな。レシピ通りにやって成功したんだから、アイツはレシピ通りにやってなかったってことだろ?ある意味、俺たちには一生かけても作れないものだったってことだ」


二人が好きだったクッキーは、何を間違えたのか非常に硬く、真っ黒に焦げたものだった。不思議なことに味は完璧だったのだから、何を間違えていたのかさっぱりだ。カラメルのように甘くて少し苦い味に、岩のように硬いクッキー。

なぜかクセになるクッキーだった。

佐藤が窓の外をみて、声をあげた。


「あっ、晴れてる」


鈴木は佐藤の視線の先をちらりと確認し、また静かにクッキーを食べ始めた。

味のしないクッキー。材料も手順も何ひとつとして間違えていない普通のクッキーのはずなのに、これほど美味しくないと感じるのはなぜなのか。

人知れず佐藤と鈴木は悲嘆に暮れた。

読んでくれてありがとうございます。

一次創作だが内容はチープ。

初めて書いたもので、今は練習中なので結構文章が酷い。許してください。

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