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犯人の思想

このエピソードが完結編となっていて、最初の方から犯人の告白が始まります。


「自殺だそうだ」


開口一番。


「細かいことはともかく、状況はそれ以外に考えられないそうだ」


鍵のかかった納屋での事件で、凶器は死体の手の中で。


納屋に鍵をかけたのも本人に間違いないと断定されたらしい。


「スピード解決だね」


莉緒と莉久が無邪気に笑っている。


京子も安心した様子だった。


「京子ちゃん,お父さんが心配してるから、今日はもう帰りなさい」


双子の祖父が優しく言うと、京子は気まずそうにしながらもうなずき、莉緒と莉久に「また明日ね」と言って自分の部屋に帰っていった。


「莉緒と莉久も、疲れただろう。じいちゃんの秘密基地で泊まるといい」


「いいの!?」


「今日は、大変だったらしいじゃないか。気分転換に、な」


「うれしい!」


「今日は良い日!!」


祖父の秘密基地というのは、雪や山に関する研究書のようなものや経営関係、地下ビジネスや詐欺的ビジネスの本がたくさん並んでいる。


昔、この雪山を購入することになった時に一悶着があったと双子は聞いたことがあった。


それを解決するために知識を身につけ、それが趣味となって家一軒を埋めるほど収集しているとも。


「最近、自殺大全とかいう本が手に入ってな」


「面白そう!」


「読みたい!!」


莉緒も莉久も本を読むのは大好きである。


祖父の書斎にたまにしか入れない理由は読み過ぎて食事も睡眠も取らなくなって、困った両親と祖父が出禁を言い渡したからだ。


「オーナー、何言ってるんですか? そんな本ありませんよね?」


常識人の健也が眉間に深いシワを作りながら問いかけるが。


「健也は今日もザンギョーだよね?」


「明日のご飯の支度があるもんね?」


2人のキラキラした視線が健也をまっすぐに見ている。


その子ども特有の真っ直ぐな目が、「邪魔だから来るなよ?」と語っていることは、まだ言葉を覚えるより前から面倒を見てきた健也にはすぐに分かった。


すっかりカラになった皿を差し出され、受け取る以外に道はない。


「夜の雪山で転ぶなよ」


それが健也に言える、精一杯の嫌味だった。


________



スキー場の灯りは消え、昼間は白銀が眩しい雪山は真っ黒に染まっている。


風は無く、満天の星が美しく輝いていた。


「俺の雪だるまが!!」


小さなランタンを持った莉久が秘密基地の裏手に作った傑作の無惨な姿を前に悲痛な声を上げた。


京子の母親が死亡した莉緒と莉久の秘密基地の前ではまだ規制線テープが貼られていたが、人はいない。


こんな時間にここにくる人間はいないと判断されたからだろう。


そんな場所で莉久は普段と同じように騒いでいる。


ひとしきり喚いたあと戻ってきた莉久を祖父が苦笑いで迎えた。


「ずいぶんしっかり固めて作ってあったな。頭もかなり重かった」


規制線の貼られた小屋を見ながら祖父は目をすがめる。


その様子にふたりは何も言わない。


「あの雪だるまを使って小窓から入ったんだろう?」


莉緒も莉久も何も言わないが、その目は輝きを帯び始めている。


「京子ちゃんのお父さんが言っていた。昼に奥さんが出かけた時、とても嬉しそうな顔をしていたとな。大崎の名前で呼び出したんだろう」


大崎健也はかなりの唐変木だが顔は良い。


それに料理の腕は一流だ。


あからさまなアプローチはないが、健也目当ての若い女性客はかなりいる。


殺された楠木が泊まっていたことでキャンセルが続出していたが、客室は埋まっていた。


「それでのこのこ出かけていったのがこの、お前たちの遊び場所だったわけだ」


「秘密基地だよ」


「作戦とか練る場所だよ」


ふたりは抗議したが、祖父は大きく白い息を吐いただけで何も言わなかった。


視線は小屋にあるようで、どこも見ていないようでもある。


真っ暗な小屋の先に何かかもしれない。


「凶器は割られたガラスの破片だったそうだな」


「うん。右手に握りしめてた」


「でも京子ちゃんのママは左利きなんだって」


「ずいぶんマヌケなミスをしたものだな」


祖父が小さく笑うと双子は不機嫌な様子で頬を膨らませた。


「ガラスはいつ用意したんだ?」


「当日の朝、健也がご飯の準備してる時だよ。雪玉を作って窓を割ったんだ」


「雪はかってに解けるから証拠隠滅はいらないしね」


「残ってたとして、割れた窓から新しい雪が入るだろうからまぎれるだろうしね」


「予想通り、かなり降ったよねー」


「首を切ったのは?背伸びしたって届かないだろう?」


祖父が聞くと、莉久がたちまち顔を自慢気に変えて答える。


「こういうふうに、こう言ったんだよ?」


と右の手のひらを横向きに当て、小さな声で手招きした。


「なるほど」


感心しつつ、莉久の言うとおりにしゃがんで耳を莉久の口元に持っていく。


「正義の味方、見!参!」


小さな声で言いながら、祖父の背中から伸ばした左手の人差し指で祖父の頸動脈に触れた。


「なるほどな」


これなら相手から近寄ってきてくれるし、しゃがんでくれる。


「しかも自分と反対側の位置を切るから血を被ることもないんだよ」


目当ての健也が小屋の前にいることは声で分かるが、伝言を持ってきた本人まで来ている。


そして目の前の子どもは何か知らせたいことがあるらしい。


となれば内容が気になるだろうし、相手が声を忍ばせるのもおかしくない。


「あと私も頑張ったよ!健也を怪しまれずにここに引き留めたんだから!」


呼び出す口実であり、アリバイの証言者にもされた従業員を、雇い主である祖父は少し哀れに思った。


ふと寒さを感じた祖父はふたりの様子をチラリと確認し、再び歩く。


昼間に降り積もった雪を踏むたびにサクサクと音がする。


背の低い2人には酷な深さかもしれないが、背負ってやることはしなかった。


「出てくる時はどうしたんだ?警察の話ではハシゴどころか物を使われた形跡がなかったそうだが」


「おばさんの頭を使って登った」


それが遺体が座っていた理由だった。


莉久は入る時に雪だるまの頭を使ったように、出るときに京子の母の頭を使ったのだ。


「1週間まえ、あの迷惑客を殺ったのもお前たちか?」


「そう。京子ちゃんのお父さんの、ね?」


「お母さん専用に作った頭がい骨カチ割りトラップで。ね?」


とっておきのイタズラに気づいてもらえた嬉しさが全身から滲み出ていた。


数日前に立ち入り禁止の森で死体で見つかった男の話だ。


背の低い木が密集しているうえに細い葉が生い茂り、陽の光がほとんど届かない場所なので、双子が見付けなければ春まで行方不明だっただろう。


「何でわざわざ知らせたんだ?」


「だって、京子ちゃんのお父さんが見つけちゃったから〜」


明らかに不満気な莉久。


「で、お父さんが通報すると、何でわざわざこんなところに?ってなっちゃうから」


トラップも京子の母を殺す用と言っていたから、ひょっとしたら何かの拍子に自白していたかもしれない。


それに引き換え、この2人はあの森を遊び場にしている。入っていっても不思議はない。


「これで京子ちゃんも京子ちゃんのお父さんも、健也もおじいちゃんも幸せになれるね」


「僕たちは悪い奴をやっつけたんだよ」


両の目をきらきら輝かせながら莉緒と莉久が擦り寄ってくる。


「”強いチカラは弱い人を守るために使いなさい”って、おじいちゃんがって教えてくれたからだよ」


満面の笑みを見せる子どもたち。


「そうだな___」


この双子の笑顔の意味を知る、唯一の存在である祖父。


「また雪だ」


コテージもすぐそこまで近づいた時、降ってきた雪に莉久が声を上げた。


「間に合ってよかったな」


曲がり角もない真っ直ぐな一本道で迷うことはないだろうが、まだ体の小さい子どもが積もった雪に足を取られながら進むのは困難だっただろう。


祖父がカギを取り出すと、莉久がさっと受け取り、鍵を開けて中に入る。


莉緒はついて入らずに祖父を見ていた。


「中に電気があるからそれは要らないよ」


「雰囲気を味わえるようなものを選んだんだが」


マッチの火を近づけて、カンテラに火が灯るとマッチを消した。


苦笑いをしながら莉緒の頭を撫で、コテージに入るように促す。


「あ、じいちゃん、電気のスイッチ場所変えた? それ何?」


建物の中は外と変わらないくらいに寒く、壁をペタペタと探る莉久は白い息を吐いていた。


「これはカンテラと言って、電気の代わりになるものだ」


「そういう意味じゃなくてね」


ちゃんとした電気のほうが良い、


そう言いかけた瞬間、祖父はカンテラを高く持ち上げ、床にたたきつけた。


「おじいちゃん!?」


カンテラの火が中の油に引火し、燃え上がった。


いきなりのことで呆気にとられた莉緒の手を握る。


仲の良い孫と手をつなぐように。


「窓が!!」


逃げ場を求め、カーテンを開けた莉久が叫ぶ。


窓は外側から板を打ち付けられ、出られないようにされていた。


「おじいちゃんが間違っていた」


「どうしたの? 火事だよ! 逃げないと!!」


「お前たちはやってはいけないことをしたんだ」


「そんなことより早く外に出ないと!!」


「良いことだとしても、許されないことはあるんだ」


「でも京子ちゃんたちはこれで幸せになれるんだよ!!」


「それでもだ!!」


脱出経路を探す莉久に一息に近付き、その腕をつかんで言い聞かせる。


「正義を執行したのに!嘘つき!!」


腕をつかまれて暴れる莉久。


その手が祖父の顔を狙っている。


「っ!!!!」


祖父の左目からは大量の血が流れた。


叫んだ莉久の手に、血まみれの鍵が握られている。


自分が渡したコテージの鍵を見て、驚きと痛みにうろたえた祖父。


そのの腕を振りほどき、莉久は壁まで走った。


手近な本棚から本を取り出し、燃えている火を移すとそれを祖父に投げつける。


「莉緒を放せ!!」


投げた本が祖父にぶつかり、火が燃え移る。


それでも祖父は莉緒を放さない。


莉緒ももがいてはいるが、大人の腕を振りほどけるほどの力はない。


祖父は莉久が投げつける本を体のあちこちに当てながらも前に進み、莉久に手を伸ばす。


「いっしょにお母さんたちのところに行こう」



_____________


ペンションで料理の下準備を終えた大崎が遠くで燃える炎に気が付いた。


遠目にもわかる大きな炎が上がる場所にオーナーのコテージがあることに気付き、急いで駆け付けたがすでに建物は崩れたあとだった。




プロローグ


「なんか、追い出すみたいになっちゃってすいません」


「いえ、こちらもお葬式等ありますから」


大人ふたりが大人の挨拶を交わす中、父親と手をつないだ京子は火事のあったコテージの方を見ていた。


「・・・子どものいたずらによる事故、なんですよね」


上目遣いに健也を見る。


そんな京子に曖昧な笑みを返してから頭を撫でた。


「京子ちゃんの思い出の中には、莉緒と莉久の楽しい思い出だけを残しておいてね」


曖昧な笑みが意味するところに京子は気付いたが、何も言い返してはこなかった。


距離が離れてもなお振り返って手を振る京子に手を振りかえしながら健也は思う。


良い経験で無かったことは確かだが、二人にはよい未来が待っているんだろうと。


「莉緒と莉久と、ケーキでも食べながら話したかったな」


死体を見つけたあの夜は重い空気の中で解散だったことが健也の心を重くしていた。


だが、今日、三人で京子と父親を笑顔で見送っていればそんな気も晴れて賑やかな夜になっていただろう。


燃え尽きたコテージにのある方向に目をやった。


京子たちには話さなかったが事故の状況について、すでに警察から聞いている。


窓に板が打ち付けられていたことや、脱出できそうな場所は燃えやすいものに油を染み込ませていたこと。


そして、現場では大人一人分の死体だけが見つかったこと。


「どうなってるんだよ・・・」


雪のまぶしさから目をそらし、空を見上げた。

重くなる気持ちとは反対に、空はまぶしいほど青く晴れ渡っていた。

ここまで読んでくださって本当にありがとうございます。

如何でしたでしょうか?

途中で嫌になって、投げ出しては戻ってきて投げだしては戻ってきてでかなり時間が経ってしまいましたが、完結まで投稿できて良かったです。

本編を読み、あとがきまで読んでくださった方、次回作も読んでくださったら幸いです。

良いねなどくださったら書く気が膨れ上がるかも知れません。

今後ともよろしくお願いします。

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