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事件現場

険しい表情で辺りをうかがう莉緒。


その後ろで京子が困ったような顔をしていて、さらに後ろでは莉久が後方を警戒している。


やがて、莉緒が動き、ドアを小さく開いてまた聞き耳を立て、京子と莉久に目配せをするとドアの内側に音もなく滑り込んだ。


京子は戸惑いつつも莉久に促され、室内に入った。



そこにはパソコンの乗った無骨な机が一つとソファが2つ。背の低い大きなテーブルが一つ。


あとは壁際の大きな棚に道具類や生活消耗品が置いてある。


「これはパソコンって言って、書類を作る機械だよ」


「こっちはね、屋根の水漏れとか修理するのに使うんだよ」


オムライスを自慢したときと同じ顔で、このスタッフルームにおいてあるものの説明を始めた。


「あ、コーヒー飲む?ボタンを押すと自動で作ってくれるんだよ!おいしい・・・」


ふと、耳が何かの音をとらえた。


耳をそば立てると、スタッフルームの外で足音としゃべり声が聞こえた。


「誰か来る!」


莉久が小さな声で呟くと、双子の顔が途端に厳しくなる。


緊張する京子を含めた三人は耳を澄ませ、しゃべり声に集中した。


「あの声は健也と・・・、 おじいちゃんだ!!」


真剣な声で莉久と京子を交互に見やる。


「どうする?」


「テーブルの下に隠れよう」


莉緒の号令の下、莉久がうなずく。


京子はうなずかなかったが、何も言わずついてきた。


三人が隠れたのとほぼ同時に、双子の祖父と大崎がスタッフルームに入ってきた。


「間違いなく楠木の持ち物です」


「莉緒と莉久が巻き込まれないか心配だな」


「立ち入り禁止の柵が見えないようですからね」


「事件に関してはどうなんだ?」


「従業員やお客様も喜んでいる人が多く、恨みを買った、相手の正当防衛、などの意見がほとんどです」


「ホテルは宿泊拒否客だったそうだな」


「ウチも断りましたが行動の予測不可能な子どもの安全を理由に脅されました」


「莉緒と莉久は大丈夫だっただろうな?」


「今日は事件現場で被害者の私物を拾ってきてましたね」


「年頃なんだ。好奇心が旺盛なところは多めに見てやってくれ」


「年頃で済ませるには問題が多いと思いませんか?」


「子供を持てばわかる。お前ならいつでも女性を紹介するぞ?」


「・・・二人だけで出歩かないよう見張ってます。・・・仕事の合間に」


「そうしてくれ」


大崎は雇い主に対して不満を隠さない声で指示に答えた。


雇い主も不満げに話を終わらせた。


そして、


話がひと段落したのか、足音がぴたりと止まった。


同時に話し声も聞こえなくなり、不審に思った莉緒が足音の止まった方向に目をやると


「何やってんの?」


テーブルの下をのぞき込む大崎としっかり目が合った。

___________


祖父であるこのペンションのオーナーは双子を可愛がってはいるものの、わがまま放題なのは許さない人である。


京子は親の元に帰らせられることとなり、双子は祖父の前で立たされた。


双子の後ろで立つ大崎は妙に嬉しそうな顔をして立っている。


双子はひたすら床を見ながら、祖父の低く響く説教を聞いた。

___________


祖父から解放された後、逃げるようにペンションから出た。


行く先はふたりの”秘密基地”だ。


ちなみに京子も誘おうと部屋に行ったが留守だったので、2人だけだ。


背後には無言でついてくる大崎がいるが双子は仲間に入れるつもりはない。


自由がかなり制限されることになるから。


秘密基地はもともとスキー場の整備用品を置くために使用されていたが、場所が不便ということで新しくペンションの近くに建てられている。


それ以降は双子の秘密基地として使われていて、二人のソリやスキー道具などがある。


あとは古く使わなくなった整備用品を貰い雑多に置いて、秘密基地としての演出に力を注いでいた。


「足あとだ」


秘密基地まで目と鼻の先、という距離。


双子の膝上ほどまでに積もった雪の中に、一人分の足あとがあった。


それは初級コースの方から続き、双子の秘密基地まで続いている。


「泥棒だ!!」


「たいへんだー!」


言うなり秘密基地に向かって走り出した。


そして、


「「ゔ」」


かなり強い力で襟首を絞められ変な声が漏れた。


「ペンションに戻るぞ」


原因は焦った大崎が加減を忘れて捕まえたからだった。


本人が自覚しているより焦っているのだろう。


ジャンバーの襟首を掴む手が本当に苦しい。


しかし、そうなると隙だらけなのも確かだ。逃れるのはいつもより簡単だった。


迷うことなくチャックを開け、掴まれているジャンバーを脱ぎ捨てた。


「健也の足よりすごくちっちゃい」


「犯人は健也と僕らの間くらいの大きさの人だね」


「スニーカーで来るなんて、スキー慣れしてない人だね」


足跡の前にしゃがみ込む驚いて双子とジャンバーを交互に見ている大崎を横目に見ながら足跡の主を見抜いた。


「また子どもの侵入者ってことか?」


さっさと諦めた大崎はそれぞれのジャンバーを返却しながら聞いてくる。


「・・・子どもとは限ってないんじゃない?大人の女の人かもね」


「なるほど」


相手のイメージが掴めたことで少し安心したのか、帰ろうとは言い出さなくなった。


ただし、万が一のため、ドアを開ける役目は自分がやると主張する。


その気遣いに、双子は素直にうなずいた。


「鍵貸して」


「なんで?」


「鍵かけてるだろ?」


「いつも掛けないよ」


「いやダメだろ」


「こんなところ、誰も来ないじゃん!」


「そういう問題じゃないし入れないだろ、ほら」


ドアをガタガタと揺らすが開きはしない。


「なんで?!」


「鍵が掛かってるからだって」


「そんなはずないよ。かけてないもん」


「家に誰もいない時は必ず鍵をかけるだろう?」


「かけないよ?」


「なんでだよ!」


「ここは私たちの遊び場なんだよ?」


「だから何だ」


「何でわからないの?」


莉緒と大崎がもめだした。


こうなると長いのだが、その間に小屋の中で何かが動く気配はない。


莉久は無言のままその場を離れた。


___________



「終わった?じゃあこっち来て!見て!」


言い争いが少しだけ落ち着きかけたころ合い、莉久が二人を呼んだ。


莉緒と大崎がそちらを見ると、自身の体ほど大きな雪だるまと並んで莉久が満足そうな笑顔を浮かべていた。


「すっごい! 莉久!すごい!」


莉緒は歓声を上げたが、大崎は少しだけ気まずそうだ。


これほど大きな雪だるまを作るには、かなりの時間がかかる。


子どもとの言い争いにそれほど熱中していたとなれば、気まずいのは当たり前だろう。


「そうだ、鍵。どうにかならないかな」


言いながら、扉をカタカタカタッカタカタカタッと妙なテンポで揺らす。


すると、カチャンっと軽い音が鳴り、引き戸が動いた。


「なんで開いた・・・!」


驚愕する大崎を無視し、莉緒はそのまま扉を開いた。



異様な臭いとともに、壁にもたれて座り込む女の姿があった。


「いた!」


「なにやってるの?!」


不満を言いながら駆け寄る双子。


よく見ると、女の首から下が真っ赤に染まっている。


「だめだ!!」


大崎は双子の腕を引っ張りって連れ戻し、扉を閉めた。


「警察を呼ぶ!!二人は俺から離れるな!!」

__________


いつもなら人通りの少ないこの辺りも、好奇心に満ちた目をした人たちで人垣を作っている。


昼間の赤色灯は、それほど目立つものではないが、パトカーの存在感は大きいようだ。


少し離れた場所でいくつかのグループがこちらに視線を向けている。


大崎が電話を掛けた後、警察官はそれほど時間をかけずに到着した。


警察官のひとりが少し離れた場所で無線に向かって何か話していて、五人ほどの警察官が物置小屋に出入りしている。


そのうちの一人が大崎の前に来て軽くお辞儀をした。


「大変でしたね。第一発見者の方ですか?」


「あの、はい、そうです・・・」


「少しだけお話をよろしいですか?」


「はい・・・」


緊張してしたばかり見ている大崎の様子を気にすることなく、警察官は質問を投げかける。


「被害者と面識は?」


「お客様です。近くのペンションで働いてて、そこの」

「なるほど。最後に被害者と会ったのはいつですか?」

「昼過ぎです。昼食を用意できるかと聞かれました。1時30分くらいだったと思います」


「オムライスとパスタを食べて嬉しそうだったよ」


「その後は見てない」


「この子たちは、あなたのお子さんですか?」



双子は大崎にくっつきながら警察官をにらみつけている。


「いえ、俺の働いているペンションのオーナーの孫です」


「この女性は一人でオムライスとパスタを?」


「そんなわけないじゃん」


「家族3人でオムライスふたつとパスタを食べたの!」


警察官をにらみつけたまま挑むように言う。


「二人は先にペンションに戻ってろ」


「「さっきは離れるなって言ったじゃん!」」


警察官をにらみつけていた視線が大崎に向く。


双子はてこでも動かないつもりだ。


「なるほど。後ほどそちらにも話を聞かせていただきましょう」


「あの・・・、自殺、ですか?山内さんは楽しそうにしてましたが」


「他殺と自殺、両方の線で調べています」


「他殺?」


思わぬ返答に、大崎の全身に緊張が走る。


「でも、小屋の前にあった足あとはひとつで、入った時のものしか」


「そこはまだなんとも。

それで、窓ガラスが割られていましたが、いつ割れたか分かりますか?」


「いえ、気付きませんでした・・・」


「今日の朝に来たときは割れてませんでした!」


「朝とは、何時くらいかな?」


「健也が朝と昼のご飯を作ってる時間です!」


「・・・それは何時ごろなんだろう?」


「6時過ぎから8時までです。モーニングが8時からでして。でも何でそんな時間に?」


大崎の疑問に、警察官をにらんでいた双子の時間が止まる。


「ヒマだったから?」


そう言ったきり、そっぽを向いた。


「ぉぃ・・・」


「他に思い当たるところはありませんか?」


「・・・はい、まったく」


双子の行動を全く気にしない様子で話を進める警察官に、大崎はかなり戸惑っていた。



「では今日はこれで。また改めて、お伺いさせていただくと思います」


「わかりました、それでは」


大崎は双子の頭をつかんで足早にその場を去った。

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