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プロローグ

新連載、不定期更新になります。 メインはヴァルハラシンドローム関連で息ますが、長く連載し続けているので、勢いが落ちていることを感じるのと、だんだん、固定読者のみになっている気がして、新規取り込みようです。

封じられた刻印と、公女の秘密


 私はどうやって生まれたのか覚えていない。

ただ、偽りの名前と人生を与えられたただの人形ーー 自分が何者なのか、どこから来たのかも私は知らない。


 私が覚えているのは、与えられた名前と命令だけ。過去も未来もない。

 ただ、暗闇の中で命令を実行するためだけに動く『キリングドール』として生きること。それが、私のすべてだった。



 

「いいかい、アリエル。 今日から新たな任務につくことになる。

 

 そう、お前の名前はアリエルーーじゃが、今日からはしばらくの間エカテリーナだ。


 皇太子妃ーーエカテリーナ、それが今日からお前に与えられる仮初めの名前じゃよ」



 冷えた声でそう告げたのは、リンドベルの当主エキドナ。彼女は私を見下ろしながら微笑む。まるで歪んだ母親のように。


 私は彼女から暗殺術を幼少期から教え込まれて、おそらく14ぐらいになる少女だ。

人殺しのための道具(人形)それが私だ。 幼少期より、他人を欺くことと殺すことをひたすら教え込まれ育てられた。


 それが生きるための処世術、エキドナの言うことを聞かなければ生きてはいけない。


 だが、思春期の少女でもある。私ーーアリエルというらしいは、年齢故か多感期故にいっぱしに少女としての夢に恋い焦がれても居る。


 だが、それが叶うことはない。


 何せ私の前に立った相手は必ず殺さなければならないのだから…………


 そう、今日から私はエカテリーナを演じなければならない。



 公爵の令嬢・エカテリーナ、それが私に与えられた偽りの役割だ。


 エカテリーナは、隣国ーールキアの第一王子との婚約が決まっているらしい?

 そこで私に与えられた命令は、王子の暗殺ーー上級貴族の争いなどには興味はないが、ここ暗殺一家ーーリンドベルにおいて当主エキドナに与えられる命令は絶対である。



「皇太子妃――それがお前の仮初めの役割じゃ。ルキア王国の第一王子、ビクトル様の婚約者としてお前は送られる。そして、任務を果たすのじゃの」


 エキドナは厳かな調子でそう言いながら、私の背中に刻まれた刻印に指を走らせた。その冷たい指先が、刻印の中に眠る闇を呼び起こすようだった。

 背中の刻印は黒い渦のような模様を描き、その中心には、毒と闇の力が宿っているとエキドナは言う。その模様が冷たく光るたびに、私の中で何かが目覚めるような気がした。



「この力を無駄にせんことじゃの。お前は毒と闇を使いこなせる。それが、お前が生きる理由じゃからな」

 その言葉に私はただ、うなずくしかなかった。エキドナに逆らうことは許されない。

 私の身体には、リンドベルの「呪い」が流れている。


彼女の用意した下毒剤がなければ、刻印の毒が私を蝕み、命を奪うだろう。


――私は命令通り、皇太子ビクトルの命を狙う。


それが、私の「生きる理由」


だが、どこかで思ってしまう。

――もしも、この運命から逃れることができるなら、私は何を望むのだろうか?


 一人の少女として生きる。 それが本来私に与えられるはずだった人生だったはず。



「――だが、そんな夢を抱くことすら、私には許されない。」



 私は人を欺き、命を奪う術を身につけた人形だ。それが私の役割だと理解している。だが、心の奥底では、そんな私を否定する小さな声が消えることはない。



 

「さて、アリエルや、すぐに潜入の準備をしてもらわなければならなくての、婚約者の皇太子家から、嫁入り道具は一通り送られておる。

 この中から、好きな物を選ぶがよかろう?」


 そうして、案内された、洋室に並べられた衣装ケースや数々の贈り物ーーどれも高そうな物ばかりだ。


 アリエルは気後れするのを感じつつ、手近な衣装ケースを手に取っていく。

中からは、きらびやか内証の数々、思春期の少女である、アリエルは次第に興奮が抑えられないのに気づくが、止められない。


 数々の贈り物どれも素晴らしく、そして、見たこともないような意匠が施されていた。


 紅、青、紫、数々の煌びやかでカラフルな衣装に目を奪われながら、だが彼女は同時に思わずにはいられなかった。


 キリングドールとしての私の偽りの姿だ。それがエカテリーナという女性だ。


 ならば、あまり自分の希望に合う煌びやかな衣装を選ぶべきではない。

きらびやかな衣装に憧れる気持ちを抑えたのは、自分が一時の贅沢を楽しむ資格などないと知っているからだ。

 これから向かう先にあるのは、宴の笑顔ではなく、命を奪う冷たい夜だと――



 まだあどけない少女ーー美少女といえる。

 しかし、気後れしながら、一つの黒いドレスを選び出した。


「なるほど、紫の髪にならその黒いドレスも映えるの、もっと少女っぽい者を選ぶかと思ったがの、まあ、それはそれで、お前さんには似合っておるわ。


 と言うとーー


「これ、ラヴィーナ、着付けをしてやりな。

 今夜が第一歩じゃ。目立たぬよう、完璧に仕上げるのじゃぞ」


 別室から現れたのは優雅な年頃の女性ーー義姉のラヴィーナだ。


「はいはい、そう大声でおっしゃらずとも聞こえていますわ。

 まあ、私の妹なら、着付けぐらいは覚えてほしいものですわ。でも大丈夫、ここはお姉様に任せて。


 アリエル、これが似合うわ。まあ、私ほどには見栄えしないけれど、それもまた控えめな良さよね」




 藍色の髪と、翡翠の瞳を持つ義姉のラヴィーナにきつけてもらう。

できあがった姿見に、アリエル自身が感嘆のため息を漏らす。


 鏡に映る自分を見つめながら、アリエルは一瞬これが本当に自分なのかという疑問に襲われた。

 しかし、その思いはすぐに飲み込む。これが任務なのだ、と。



「ふむ、なるほど、思った以上に見栄えがするではないか。これなら王宮の者どももお前を本物の公女だと思うだろうよ」




 黒いドレスを着こなしたしたアリエルは、その滑らかな姿見に映る自分の姿を見つめた。 アメジストのような薄い紫色の髪と、薄いコバルトブルーのような水色の瞳が控えめな輝きを放ち、この暗い色が妙に似合うのが不思議だった。


 頭にはヴェール、その下にはヘアバンドが装着されている。

首元がなく、やや大胆なデザインだと思った。


 黒いドレスには細やかな銀糸で刺繍が施され、控えめながらも気品を感じさせた。

 その裾には、歩くたびに揺れる小さな黒いフリルがついていた。


 少し調子に乗ってしまい姿見の前で一回転、ふわりと揺れるフリル付きのスカートが優雅にたなびく。


「ふむ、馬子にも衣装と言う奴だな」

 驚きのあまり背後を振り返ると、冷ややかな視線を向ける義兄ランディスの姿があった。


彼は、しばしアリエルを見つめた後、軽く咳払いをしーー


「これからお前はアリエルではなく、公女エカテリーナだ。 これぐらいのおしゃれはしておくべきだろう?」




 といって、髪に銀のブローチをつけてくれる。 大きな宝石がはまっている。瞳と同じ薄い水色をしている。


「まあ、それぐらいがお前にはお似合いだな」


 背後から低い声が響き、アリエルは驚きのあまり肩をすくめた。

と言いながら、美形の兄ランディスが言った。


「まぁ、ランディスがこんなに妹を気遣うなんて。驚きだわ。これから雪でも降るのかしら?」


「余計なお世話だ」


皮肉げに応じるラヴィーナとそれに応えるランディス。


 この姿で自分が何を成すべきなのか、アリエルにはまだ完全に理解できていなかった。それでも、自分が歩むべき道はまだ霧の中だ。


 この姿をまとった以上、逃げることは許されない――それでも、その先に一筋の光を見つける覚悟はできていた。


「そうそう、出かける前にその衣装、わしに預けな。ちと細工を施しておくでな――旅路でも役立つように、の。」


 返事を待つ素振りもなく、エキドナはドレスを抱えて振り返ると、自室へ向かって静かに歩き出した。その後ろ姿には、誰も逆らえない冷たい威圧感が漂っていた。


「隣国ルキアは近い。この王国ルコニーから馬車で1週間程度じゃ。道中は平原と森が続くが、気を抜くなよ――賊どもが出るかもしれんでな」



 その夜、アリエルは眠れなかった。窓辺に座り、星空を見上げながら、これからの運命に思いを巡らせていた。『こんな私に、人を傷つける覚悟なんてあるのだろうか?』


 その疑問は夜が明けても答えを見つけることはなかった。

 けれど、朝日が昇る頃、彼女は新たな決意を胸に立ち上がった。


 アリエルにとっては初の人殺しになる。

 暗殺一家と言えども幼いアリエルの手は汚れていないのだ。 

 決意はできないだが、やらなければならない。そうでなくては自身の命を失う。毒の仕込んである両腕の刻印を抱きしめるように手を添えながら、アリエルはその晩眠れぬ夜を過ごすのだった。



 翌日ーー


 ルキア王国から迎えの馬車が到着していた。 必要以上に豪奢すぎない商業馬車だ。


「なるほど、あまり目立ちすぎるの問題というわけね」


ーーと感想を述べるラヴィーナ。


 しかし、馬車は見るものが見れば判る、貴族用の、護送馬車のようで内部は個室になっている。


「さあ、さっさと乗り込むがよい、お前達ーー 悠長にしていては日が暮れてしまうわ、ここからルキアまでの旅路には夜な夜な、モンスターが多く出没するでの、細かいことを気にしている時間などないのじゃよ。


 そうして、馬車へと乗り込む、手綱を握る男も、商人に偽装した騎士らしく、目立たないところに、長剣を携えている。


 促されるように馬車へと乗り込む6人収容できそうな馬車に乗り込み、アリエルがすわると、正面にランディス、隣にラヴィーナが席に着いた。


 最後に空いている対角線上にエキドナが座ると、馬車は旅路へと車輪を進ませていった。




 馬車が石畳をゆっくりと滑り出すと、アリエルの胸に緊張が広がった。

 遠ざかる城の門が、彼女の新たな運命の始まりを告げているかのようだった。


 馬車の車輪が石畳を離れ、砂利道を軋みながら進む音が響く。遠ざかる城門は次第に霞み、朝霧が馬車の周囲を薄く包み込む。冷たい風が窓の隙間から忍び込み、アリエルは思わず肩をすくめた。


 エキドナがローブを抱えて立ち上がると、無言の圧力が馬車内に広がった。彼女の鋭い目つきは、どんな反論も許さない冷たさを湛えている。


 エキドナは静かに席に着くと、鋭い視線でアリエルを一瞥した。『覚悟を決めろ、アリエル。これが初めの一歩だ』と短く告げる。


隣に座るラヴィーナの落ち着いた横顔を見るたびに、自分の幼さが浮き彫りになる気がした。『本当に私にできるのだろうか?』と胸の中で何度も問いかけるが、その答えはまだ見つからない。

 


 内部の座席は柔らかいベルベットで覆われており、控えめながらも高貴な雰囲気を醸し出していた。 内装自体は非常に快適に作られており、外部からは見えない部分の作りの良さがうかがえる。


 そうしてしばらく走るうちに空は暗くーー夜になっていった。


「まあ、夜の森なんてロマンチックでもなんでもないけれど、安全第一ね」

ラヴィーナ浜戸の外を見ながら、と軽口を叩く。


 ランディス: 馬車の振動に不快感を示しながら「もう少しまともな道を選べないのか?」と不機嫌そうに呟いた。


 そうして完全に夜は帳をおとして、闇のカーテンが空を覆った。


 まだ田舎らしく、星々の煌めきがまぶしい。


 夜の食事当番は、末っ子の私だった。

 調理技能は幼い頃から、叩き込まれており、簡単なスープとおかゆを鍋で煮る。


 その間にも、護衛の騎士が、周りの哨戒をしているようだった。


「ひひひ、まあ、第一関門通過と言ったところじゃな」


「ようやく、ルキアへの旅路をすすんでおるわい」


 と言いながら、計画が順調に滑り出したことに満足げなエキドナ。


「こんな生活をあと一週間、不便ですわね。 できれば勘弁してほしいですわ」

 とラヴィーナが独りごちる。


「何あと一週間だ。 任務を果たすまではしばらくかかるだろうから、帰り道は今ほど余裕ではないかもな? 追っ手などついてきたりしたら面倒でそんな軽口はたたけないかもしれないな」


 とランディスが反応した。


 そこへ哨戒から帰ってきた騎士、商人風の変装は夜は解いており、端整な顔立ちに、金髪、騎士らしい体格の良い姿が、露わになる。


「思ったより、素敵な殿方でしたのね。 商人姿が冴えないのでわたくしはってっきり、と声を掛けるラヴィーナの方を軽く目配せしながら、騎士が応える。


「騎士・パーシヴァルです。 私などまだまだ若輩者ーー精進すべき部分も多いですよ」


「謙遜できるところもなかなか素敵ですわ」


とべた褒めするラヴィーナは、だが、相手の反応を伺うように、言葉をつぐむ、反応を楽しむと同時に警戒を緩める様子はないのが、長年の家族である私には分かる。


「まったく、男とみるとすぐこれだ、少しは慎め。 我が妹ながら恥ずかしいぞ」


「貴方こそ、宮廷の美女に心奪われて剣が鈍るなんて無様なまねはしないでほしいものですわね」


「そんな暇はないさ」とランディスが短く返し、焚火に目を戻した。



 ーー話の腰を折られたので、ラヴィーナは不機嫌そうに言った。


「ねえ、アリエル。貴方はお兄様と、騎士様とどっちがタイプ?」


 と私にイタズラを仕掛ける子供のような笑みで、質問してきた。


 それを聞いた、ランディスが眉間にしわを寄せ、不機嫌そうにこちらを睨み付けたので、私は、息を飲み込んで、黙り込んだ。


 ランディスは無言のまま焚火を見つめた。彼が黙るときは、大抵何かを考えている時だ。今も、恐らくは自分たちを取り巻く状況について――そして家族を守る責任について――思いを巡らせているのだろう。




 だが、全く意識しないわけには行かず、無意識と騎士様の方を盗み見た。


 金髪に、青い瞳の優雅な騎士、8割ぐらいの女性が彼と付き合えるならば断らないのではないかと思えるほどだった。


 アリエルは焚火の炎を見つめながら、胸の奥がざわつくような不思議な感覚を覚えた。それは恐れとも違い、憧れとも断言できない、曖昧なものだった。


 だが、アリエルは、同時にランディスの様子もうかがい、不機嫌そうにこちらに流し目を送る彼に萎縮し、それ以上考えるのを止めた。


「ふふふ、怖いお兄様より、騎士様が言いようね?」とラヴィーナ。


「いい加減にしないと、たたき切るぞ、お前もーー!」


 兄弟ゲンカが始まる。 この二人は屋敷でも度々ケンカをしているので、見慣れた光景だけど、寡黙に焚き火の番をしている騎士様に、それを見られたのがやや恥ずかしく感じた。


「まあ、いつものことさね、ケンカするほど仲が良い、実に結構な事よ」


 とエキドナが、パイプを吹かしながら、つぶやいたのだった。


 そんな光景を見ながら、ただ一人部外者である騎士様は苦笑しているのだった。


 ふと森の異変に気づく、森が動くーー木々が生き物であるかのように、ざわめく。

その瞬間、獣の遠吠えが響き渡った。


「まねかれざる客人達が、来たようだよ。全員武器を構えな!」


 そんなエキドナの亡霊に呼応するように、周りに異形の化け物が現れた。


ついでなので公開しておくことに、色々書きかけの物も公開したいのですが、長いのはこのあたりなので……

 

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