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青い春を君へ、かつて夢を捨てた誰かへ。

作者: 夜月桜 麗

季節は冬。受験シーズンまっしぐら。俺はそろそろ高校二年生になる。夏には運動部の声が聞こえていたが、三年生は引退して夏よりも少し静かな放課後。

「二年生か・・・」

あっという間な一年だった。高校卒業後は何をしよう。会社入って、上司に怒られながら仕事して、呑みたくもねぇ相手と呑んで、くたくたになって帰って、何もせず寝る。そんなつまらない普通の毎日を送るのかな。親の言う事聞くならこの人生だ。やりたいことはあった。俺はそれを捨てた。

「拓海!そろそろ二年生だよー?なにするー?」

後ろからふと声をかけられた。こいつは俺の幼なじみの裕太だ。

「別に、なんもしない」

「なんでだよ〜、中3のときは音楽作ってたじゃん」

「・・・もういいんだよ」

「え?でもあんなに」

「もういいんだって!」

怒鳴ってしまってハッとする。放課後に残っている生徒たちがこっちを見ていた。

「ごめん、俺帰る」

逃げるようにその場を立ち去った。




ピンポーンと鳴った。俺は誰だかすぐわかってしまった。正直出たくない。だが、怒鳴ってしまったことを謝らなければと思い、意を決してドアを開けた。

裕太が立っている。

「その・・・ごめん、急に怒鳴って」

「ううん、僕もごめんな。けどもういいってどういうこと?」

「・・・曲作るのは楽しいよ、でも、親には否定されててさ、収入入ってこないことだってあるだろうし、安定した職につけって、だから諦めて普通に就職とかの方がいいかなって」

「じゃあさ、俺と音楽活動してよ。手伝い」

「・・・え?」

「もちろんお金は払う。といっても少ない賃金かもだけど」

「なん、で?」

裕太はまっすぐ見て言った。

「僕お前の曲好きだから。一緒に活動したい。俺が作詞でお前が作曲、歌は・・・ボーカル探せばいい」

キラキラした顔で裕太がそういった。夢を捨てた俺とは正反対に夢を追いかける裕太がチカチカと

眩しく見える。

「メンバー集めるって言ったって、お前どうやって」

「そんなの今の時代ネット見ればいるだろ。それに、お前みたいに夢を諦めた人たちだっている、そいつららはきっとお前みたいに努力してきてたはずだ。そいつらを誘う」

俺は嬉しさと裕太のめちゃくちゃな案ともう一度夢を掴んで良いという裕太の話で視界がぼやけてきたのをグッとこらえた。

「お前・・・ほんっとばかだよな・・・」

「なっ!僕は本気だぞぉ!」

「わかったよ、でも親を説得できるくらい頑張って売れなきゃだめなんだぞ」

「そんなことわかってる。二年間で勝負ってことだな」

「ああ、それで無理なら解散な」

ピコンっと裕太のスマホが鳴った。

「ちょっと場所変えて良い?俺の家で話そ」



というわけで裕太の家に上がった。

裕太はスマホの画面を見てニコニコして俺に見せて言った。

「ボーカル引き受けてくれる人きた」

「お前、俺を誘えてなかったらどうすんだよwてかよく引き受けてくれたな」

俺は昔から裕太に振り回されている。行動力の鬼だ。断ったことがない、だから引き受けてもらえると思っていたんだろうとは予測できる。

「拓海の曲送ったらこの曲を自分が歌ってもいいなら引き受けたいってきた」

勝手に人の曲を送りつけるなと思うと同時にそう思ってくれる人がいることが嬉しい。

「歌ってくれる人、チャンネル登録者2000人らしい。歌声聴いたんだけど歌唱力が高いし後々売れそうだなって。こんなところで埋もれる人じゃない気がしたんだ、拓海の曲にも合いそうだし早めに捕まえようと思ってDMした」

送られてきたアニソンのカバー動画を聴いてみる。綺麗な声だが、力強さが感じられる。

引き込まれる歌声だ。俺は自分の曲をこの人が歌唱しているのを想像した。昔のアニソンでありそうなテクノ感のある音に混じって響く力強い歌声。

「・・・良い」

気づけばそう言葉が漏れていた。





「貴方がこの歌唱してる人ですか?」

「ええそうよ」

駅前のカフェで会うことになった俺たちに目の前の女子が一人。失礼な気がするが、想像していた人と違う。なんというか、清楚な黒髪の人を想像していた。実際来たのは明るめの茶髪に猫のような吊り目をしたツインテールの子だった。アニメの見すぎだとはわかっているが、ツンデレキャラみたいな見た目だ。

「私がkanadeよ、私を見つけてスカウトするなんて、あなたいい目を持ってるわね」

うんーーーこれは絶対ツンデレだろ。

「あはは、kanadeさんの歌声が欲しいんだ。こいつの曲に貴方の歌声をのせてほしい」

俺は新しく作った曲の音源をkanadeさんに渡した。

無言でイヤホンを装着し、真剣に曲を聴いてくれる。

裕太はドキドキした様子だ。俺は緊張している裕太の横で静かにカフェオレを飲み干した。

「・・・・・なんか、違うわね」

「・・・え?」

kanadeは俺の曲を聞き終えてそう言った。裕太は驚いていた。

「送ってきてくれた曲の方が出来が良かった。これは私に合ってない」

「kanadeさん、ごめんなさい、それ違いました」

「・・・え?」

「それ、俺が作ったものじゃないです。今AIに作らせたものです」

「あたしを試したっていうの?なんのために」

「・・・俺の曲に本当にふさわしいか見極めるため、ですかね。俺たちは本気なので。すみません、お願いしてるのはこっちだというのに」

「・・・ふふふ、そう、燃えるじゃない!私も舐めた曲だったら断る気でいたの。本物のあなたの曲聴かせてよ」

俺は聴かせる予定だった本物の音源を渡した。




「裕太、歌詞の方はできそう?」

「まぁ任せてよ」

二人で帰路を辿る。あのあと、kanadeは俺の曲を聴いて合格を出してくれた。つまりボーカルを引き受けてくれることになった。

「裕太、俺を誘ってくれてありがとな」

「何いってんの、僕のワガママに付き合ってくれてありがと」

裕太が誘ってくれなかったら俺は諦めたまま大人になってたと思う。裕太は変わらない、小さい頃からキラキラした目でやりたいことはやるし、興味があることにすぐ飛びつく。裕太が何かを諦めたことはあっただろうか。俺が忘れているだけであるのかもしれない。

「裕太って、なんか諦めたってあるっけ」

「えー?・・・そうだなぁ」

少し考えて裕太は口を開いた。

「一回だけあるかもなぁ」

「そうなの?珍しいな。それってなに?」

「さぁ、なんでしょー?」

裕太は笑ってそのまま家に帰った。聞いたらまずかったかなと考えて、俺も家に帰った。




ガタンっとドアを勢い良く締めた。

「諦めたこと、ねぇ」

僕は暗い部屋に一人つぶやいた。

一回だけ、どうしようもなくて諦めたことがある。

拓海には一度も言っていない。中学3年の出来事。僕は本当は今の高校じゃなくて姉ちゃんと同じ高校に行きたかった。姉ちゃんみたいなカッコイイ高校生。でも僕は行けなかった。姉ちゃんはとても成績が良くて、学年順位はいつも5位以内に入っていた。僕は親戚中に期待されていた、姉ちゃんと同じ学力の高い高校に行くことを。でもそれは無理だった、僕は人並み以上に勉強したつもりでいた。でも届かなくて、親にも先生にも止められてしまった。どうしても行きたかったのに、僕の目標は途絶えた。諦めて別の高校に入ろうと考えていたときだった。拓海が最高傑作できたといって送ってきた曲を聴いた。すごいという気持ちと同時に元気がもらえた。拓海は今までで一番きらきらした顔で自慢したり、行きたい高校の話をしてくれた。そこらの学力のみ重視の普通科の学校よりも、副教科の芸術系の学問を重視した学校なのだと。姉ちゃんが行ってる高校より学力は劣るが、僕の成績で少しだけ余裕をもって入れそうな学校だった。特にやりたいこともないし、拓海が行くというから推薦で入った。

でも拓海は入学して半年と少し経ってからぼーっとしていることが増えた。きらきらと光るダイヤモンドが薄汚れ、埃を被って光を失ったみたいに見えた。僕はただ悲しかった。拓海の音楽が好きだから、いつも待っていた。まだかな、まだかなって。でもその日は訪れなくて。捨てないで、その夢はあきらめないでほしい。昔の拓海をもう一度――――――。

 作文で表彰した生徒がいた。僕はなんとなくその人の作文を読んでみたんだ。

気づけば拓海のいる教室へ走っていた。

『拓海!そろそろ二年生だよー?なにするー?』

僕にできることはただ一つ、拓海を引っ張り出してやることだった。





「拓海、kanadeちゃん、歌詞できました」

後日僕らはまた駅前のカフェにいた。

二人は僕の書いた歌詞に目を通した。ドキドキしながら感想を待つ。

「これ、いいね」

「あたしもいいと思う。ところでこれ、タイトルが書いてないわよ?」

「ああ、書き忘れてた!タイトルは『青い春を君へ』です」






X月X日―――。

「初投稿から一週間で1万回再生突破したよ二人とも‼‼‼」

「kanadeさんの個人チャンネルの登録者も増えてるな」

「まぁまだまだだけどね」

スタート地点にようやく立った。裕太の歌詞は誰かの背中を押してくれるような言葉だった。

俺は動画の数少ないコメントに目を通した。

『ただの青春を謳歌するような曲だと思ったら「挫折したあの日があれど、君のために這い上がれ」この部分でいろんな苦悩もあったんだなと。流れが変わった感じがして好きです』

『歌ってる人すごい良い声じゃのぉ・・・』

『夢を無くすは自分の死だろ の部分でハッとなりました。諦めようとしてたんですけどもう一度頑張ってみます!救われました、ありがとうございます』

『声が良い・・・』

『kanadeちゃんかわいいよーーーーーー!!!!!!!!!!!!』

「視聴者さんたちはここらへんの歌詞気に入ってるんだな。kanadeさんを褒めてるコメントもある」

「あったりまえでしょ???あたしを誰だと思ってるの?」

フンっとツンデレってぽい仕草をしたその顔は少し赤くなっている。照れているようだ。

「まだこれはスタート地点にすぎない、波に乗ってきたうちに新曲作るぞ」

「拓海やる気だね〜」

「早く作ってよね、でも手は抜かないでよ?」

「はいはい歌姫様、言われなくとも全部本気で取り掛かる」




この先、どうなるのかは誰にもわからない。僕たちは成功して、拓海は夢を叶えられるかもしれないし、成功せず、拓海は親に反対されて夢を叶えられなくなるかもしれない。そうしたら、kanadeちゃんはまたソロ活動に戻るだろうし、僕は平凡な日常を送っていることだろう。

わからないのは恐いことかもしれない、けれど、チャンスを捨てるのは違うのではないだろうか。時間がないと逃げるのは違うのではないだろうか。何かをやるには覚悟が必要だ。数年後にはただの思い出話になってるかもしれない、けれど、やったその時間は全力でやったのなら誇っていいんじゃないだろうか。

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