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5.綺麗な光の海が見える高台で

 行く場所は決まっているのか、迷うことなく歩いていくレイディルに、ミトセリスははぐれないようについていく他なかった。


 城門からすぐのところに階段の続く坂道があった。レイディルは迷わずそこに進んでいく。

 すでに街を歩いてまわったミトセリスはレイディルに着いていくのも大変だった。少し息の切れてきたミトセリスは思わず前にある背中に声を掛ける。


「あの!一体どこへ向かっているんですか!」

 レイディルは少しだけ振り返ると言葉を返してくる。

「行けばわかる」


 もー‼︎教えてくれたっていいじゃない‼︎ってか、坂道登りすぎー‼︎


 二人はさらに階段上に坂道を登り続けていたが、不意にレイディルが振り返り、手を差し出してくる。驚いてミトセリスも立ち止まるがどうしていいかわからない。

 自分よりも大きくしっかりした手を見つめて困っていると声をかけられる。


「少し段が高いんだ。手を」

「あ、は、はい」


 差し出された手に恐る恐る自分の右手を乗せると、ぐっと手を握られ、そのまま引き上げられるような感覚が来る。


「わっ」

 思っていたのと違う方向に引き上げられて思わず驚きの声が出た。びっくりしたせいで、レイディルの方に体重が掛かってしまう。

 謝ろうと思って顔を上げると思いの外近い場所にレイディルの顔があり、ミトセリスは何も言えなくなってしまう。


「すまない、大丈夫か?」

「は、はい」

 かろうじて頷いたミトセリスに対して、レイディルはホッとした表情を見せると、また歩き出す。ただ今度は大きな道ではなく、少し細いあまり舗装のされていない草木の生える道だ。


 やや足元に不安を感じてゆっくりと歩いているとレイディルもそれに気づいたのか、歩く速度を落としてくれた。


 しばらく歩くと木々の少ない小さな広がった場所にでた。

「着いた」

 そう言われてミトセリスは視線を足元から上へ移動させた。そこには、夕日が沈み始めた海が一望できた。


「わぁ!一面の海……!」


 グラシス王国の王宮やその城下町は、海に程近い西側にあった。ミトセリスの住むケルティア王国は、海に面した土地を持つものの、内陸部に位置する王宮からまともに出たことがないミトセリスにとっては、海はとても珍しいものだった。


 二人が立つのは少し上った高台。すでに日が暮れ始めており、空は徐々に橙色に染められていく。青色の空からのグラデーションが綺麗に見えた。

 そこから見下ろす海は、まるでたくさんの宝石が散りばめられたかのようにきらきらと光輝いていた。さらに海を飛び跳ねる無数の魚が、太陽の光を反射してチカチカと海の上で点滅するように移動している。いくつかの群れの動きが、光の島が移動しているかのよう見えた。

 

 見たことのない風景にミトセリスは見入っていた。

「すごいですね!」

 思わず隣を見てそういうと、ミトセリスの言葉に今までにない笑顔を見せるレイディルがいた。

「だろう?」


 わっ!……笑ってる!

 当たり前のことなのに、なんか、心臓に来るんだけどなんで⁉︎


 たまらずミトセリスはレイディルから目を逸らして、美しい景色の方に視線を戻す。とても直視し続けることはできなかった。


「あなたにこれを見せたかったんだ」

「え?」

 優しい言葉に思わず再び視線戻すが、すでに彼の表情は普段のあっさりとした表情に戻っていた。むしろ、どこか残念そうな表情になっており、ミトセリスは首を傾げる。


「本当は、一日街を俺が、……私が案内したかったんだが」

 しまったという表情が一瞬過るが、レイディルはすぐに表情を戻す。逆にミトセリスの方は、じっとレイディルを見つめる。


 ……俺って言ったのに、言い直した。別に気にしないのに。


「あの、レイディル殿下。俺、のままでも私は気にしませんよ?」

「いや、でも、……」

 流石にごまかせていなかったことに少し焦った顔をするレイディルを見ると、ミトセリスはその様子に嬉しくなる。硬い表情が常なのかと思っっていたが、どうやらそうではないらしい。確かに、ヨートリオに対しては優しい表情を見せていた。


「お互い自然にしませんか?私も多少猫かぶっていたところがありますし……」

 そんなミトセリスの提案に、レイディルは落ち着いた表情でミトセリスを見つめ返す。

「……、知ってる」

「え?知ってる?」

「グラークス殿から色々聞いてたからな」

「お、お兄様が言うことは半分以上嘘ですから!」


 お兄様絶対碌なこと言ってないでしょ⁉︎もーほんとやだー!


 そんな表情が顔に出たのか、レイディルが面白そうに笑う。そして少し俯きがちにため息をついてから、再び顔を上げる。

「ちょっと考えすぎたな。……、あなたの前では緊張する」

「緊張?え、緊張されてたんですか?」

 とてもそんな風には見えず、思わず聞き返す。

「あぁ、そうは見えなかったのか?それならそれでよかったが」

「緊張してたというか、……不機嫌に見えました。さっきもリオくんがいなくなった後とか……」

 ミトセリスの言葉に、レイディルの表情がバツの悪そうな顔になる。意外と変化していく表情に、ミトセリスはドキドキする。


「あれは普通に不機嫌だったんだ」

「え?どうして急に?やっぱり私を案内するのが嫌だったんですか?」

 理解できないミトセリスに対してレイディルの方も理解できないと言った顔になる。


「何でそうなるんだ?リオが俺より先にあなたを愛称で呼んでいた上に、リオといて楽しかったと言われれば俺としては面白くはない。……、年の離れている弟に嫉妬するなんて情けないな」


 視線をそらしてそんな風に言ったレイディルの言葉に、ミトセリスの方があんぐりと口を開けてしまう。思わず気を付けていたはずの大きな声が出てしまう。

「え、……えぇ⁉︎」

「そんなに驚かれるとは、逆に困るな」

「え、だって、レイディル王子は、ずっと嫌々対応してるのかと」

 焦るミトセリスに、レイディルが逆に彼女の顔を覗き込む。

「俺が嫌々対応?嫌々対応するぐらいなら、最初から断ってる」

 きっぱりはっきりそう言ったレイディルに言葉が詰まる。

「だ、だって、兄がまた勝手に進めてるんだと……」

 レイディルの言った「嫉妬」という言葉を思い返してしまい、いまさらながらミトセリスは顔が

赤くなり、たまらず両手で頬を抑える。


 まるでレイディル殿下が、私のこと好きみたいじゃない⁉︎

 いやいや、落ち着きなさい、ものは言いよう。ちょっと弟と先に仲良くなったからっていうぐらいで、大した意味は……。


「グラークス殿には感謝している。俺にこうして機会を与えてくださったから。……、留学中に、一度だけ会ったことがあるんだが、知らないだろう?」

 レイディルはケルティア王国に留学に来ていたと言っていたが、ミトセリスは挨拶をした覚えがない。むしろ非公式で来ているのだからそれが当然だと思っていたのだが、思わぬ言葉に驚く。

「え⁉︎知らない、です」

「俺も名乗ったわけじゃないし、あなたも名乗ってはいない。あなたがグラークス殿の妹であること、ケルティアの姫であることを知ったのも、結構経ってからだ」

「で、でも一体どこで」

「グラークス殿と出会った店と同じ、雀の木だ。あなたは銀色の髪を隠して、やけにきょろきょろとしながら、店に入ってきた」

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