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3.兄がとんだご迷惑をお掛けしました……!

 ヨートリオの案内でミトセリスたちは庭園に下りて来ていた。緑の木々に溢れた場所に連れて来てもらい、気持ちよさを感じながら歩いていると噴水を見つける。


「あ、ここって昨日の庭園?」

「うん、そうだよー。綺麗でしょ?」

「えぇ、とっても綺麗だわ。夜とはまた違う雰囲気ね」

 昨日来た時は夜だったため、幻想的な雰囲気だったが、今は爽やかな風が吹き抜け気持ちの

 良い場所だ。


「僕のお気に入りの場所なんだ。ミトスも気に入った?」

「えぇ、とても好きな場所だわ。あ、そういえば昨日のケガは大丈夫?ちゃんと消毒してもらった?」

「うん!お兄様が消毒してくれたよ」

 嬉しそうな笑顔でそう答えるヨートリオにミトセリスはレイディルのことを聞いてみたくなった。


「ねぇ、リオくん、……レイディル殿下ってどんな方なの?」

「お兄様?お兄様はとっても優しいよ。怒るとちょっと怖いけど。すごく頭がいいんだよ。僕いっつも、お兄様はこれぐらいの問題はすぐ解けましたよってエルダに言われるんだ」

「エルダって?」

 聞いたことない名前に聞き返すと気付いたようにヨートリオが答える。

「あ、僕の家庭教師の先生で、お兄様の先生でもあった人。髪が長くて女の人みたいにキレーで、でもすごくきびしー…」



 そう答えたところでヨートリオの頭の上に影がさす。

「で、そのエルダ先生から逃げてきたのは誰だ?」


 自分とヨートリオ以外の声がして後ろを振り返るとそこには昨日見たレイディルがそこに立っていた。



「わぁ!お兄様!あう、あ、その……、えっと、あー……、うー……、ぼくです」

 ごまかそうとして諦めたのかヨートリオは素直に返事をした。

「さっき会ったがすごい剣幕で探してたぞ。早く戻らないと午後からまた宿題増やされるんじゃないか?」

 兄のそんな報告にヨートリオはひっと怯えた表情をみせる。

「えー!やだー!」

「遊びたいならちゃんとやることやってからにしろ」


 声は意外にもとても優しいものでミトセリスはそんな兄弟のやり取りを静かに見ていた。

「ごめんなさい、戻ります。ごめんね、ミトス」

 しょんぼりとした様子のヨートリオにミトセリスは努めて明るい声で答える。

「ううん、私のことは気にしないで」

「じゃあ、また遊んでくれる?」

「もちろん!」

 可愛いお願いにミトセリスは強く頷いた。

「ありがとう!じゃあ勉強してくる!」

 元気に手を振って走って行ったヨートリオに、ミトセリス笑顔で手を振りかえした。彼の姿が見えなくなるまで、ミトセリスはその可愛らしい姿を見つめていた。



 可愛いなぁ。弟がいたらあんな感じなのかな。



 そんな風に思いながらにこにこしていると、レイディルに声を掛けられる。

「……、弟がすまなかった」

 とても申し訳ない様子で謝られ、ミトセリスは困惑する。

「いえ……」


 仮にも婚約者候補だし⁈何か話さないと何か話さないと何か話さないと‼︎でも一体何を⁉︎


「あ、……、あの」

 勇気を出して口を開いたミトセリスにレイディルが視線を送る。

「何か?」

「あの、兄とは、一体どこでお知り合いに……?」


 我ながらもっと何かなかったのかと言いたくなるが、案外普通に気になっていたことなので聞いてみた。

 そういうと逆にレイディルからは不思議そうな顔を向けられる。


「聞いていないのか」

「はい……」

「その様子だと本当に何も聞いていなんだろうな」

 ミトセリスが小さく頷くとレイディルが教えてくれた。



「グラークス殿とお会いしたのはケルティア王国に1年間留学していた時だ」

「留学……。ケルティアに留学にいらしてたんですか?」

 全く知らなかった内容にミトセリスは驚く。他国の王子が留学に来ていたというのになぜ自分はそれを知らないんだろうと不思議に思う。


「あぁ。うちでは18になる前に一度は留学しておくのが決まりなんだ」

「そうなんですか。でも、なぜ、ケルティアに?」

「できれば交流の少ない国に行きたかったから」

「なぜですか?交流がある国のほうが、居心地は良いのではないです」

「交流がある国だと、私をグラシスの王子としか扱わない」

「それはどこの国でも同じでは?」

 留学したとて王子であることが消えるわけではないのだから、当然な気がしてそう聞かと、レイディルは首を横に振った。


「いや、うまくやれば普通の学生としていくことができる」

「普通の、学生として?」

「あぁ。一般の学生と同じように学院で学ぶことができる。王子扱いされては、それは叶わない。そんな形で行っても、何の勉強もできないからな」 

 そんなレイディルの言葉に感心する。


 ちゃんと勉強するために留学したんだ。王族がする留学なんて、旅行みたいなものかと思ってた……。


 性格的にはきっと真面目な人なんだろうなと想像する。

「ん?でも、王子としていらっしゃってなかったとすると、一体どうやって兄と?一応、仮にも国王ですけど」

 ミトセリスの物言いに、レイディルが少し眉を顰めて困ったような表情をする。

「王宮近くに雀の木って食堂があるんだが、わかるか?」

「あ!わかります!あそこの自家製のパンはとってもおいしくて大好きなんですよね!って、あ……」

 普通王族が王宮外の食堂に行くなどない。自分が口走ったことがあまりよくないことだと自覚しており、ミトセリスは慌てた口をつぐんだがだいぶ遅い。


 ニーナにはいつもそんなとこに行ってるなんて外では言うなって言われてたんだった……。


 しかし、ミトセリスの言葉にレイディルは意外にも楽しそうに笑った。

「確かに、美味しいな」


 あ、……こんな風に笑うんだ。


 最初に見た時の怖い印象とかなり違い、レイディルは簡単に笑った。そこにはもう怖いなどという雰囲気は一つもなく、柔らかな親しみやすい感じが見てとれた。あまりの印象の違いにミトセリスは内心どきどきしていたが、表情を変えないように努めた。

 

「留学している間は毎日のようにそこでご飯を食べていたんだ。住んでいる寮にも近く、王立図書館にも近かったから。そんな風に店に通っているときに、グラークス殿に会ったんだ」

 そう言ってグラークスとの出会いを教えてくれた。

 


 いつも通り、寮近くの食堂雀の木で食事をしていた。すでに注文していた定食が運ばれて、レイディルは本を読みながらゆっくり食事を取っていた。

 

 ドアベルの高い音が鳴り響き、新しく客が入って来た。その人物の姿を見て、店の主人がすぐに声をかける。

「いらっしゃーい!あ、残念だな、今日はいつもの特等席は座られてるからべつのところにしてくれるか?」

「そうなのか?仕方ないな。とりあえず、日替わり定食で」


 入って来たのは銀色の髪に、緑の瞳の青年で、主人の言葉に答えつつ、店を見渡す。何気なくその様子をみていたら、その青年と目が合った。するとそのままレイディルの座っていたテーブル席につき、声をかけられた。

 

「君、どこの人?」

 突然声をかけられてレイディルは驚いたが、出来るだけ表情を動かさないように気をつけた。ただ珍しくて声を掛けられただけだろうと思いつつやや警戒する。

 

 どこかでみたことある顔のような……。


「グラシスから留学に来ています」

「春から?」

「……、はい」

 そう答えると相手の青年は少し考えるように天井を見上げた。すると何かを思い出したように指をパチンと鳴らして、レイディルを指差した。


「あった。みたみた、留学申請書類。グラシスからなんて珍しいなぁと思いながら、その上、なんか怪しげなところがいっぱいで……。俺の補佐役が却下しましょうとか言ってたけど、面白そうだったから俺が勝手に許可したんだ。身元もわからない人を留学に招き入れてどうするんですか!とか散々言われたから、調べまくって身元は突き止めさせてもらったんだよ、レイディル=グラシス王子」

 すらすらと澱みなくそう言われてレイディルは言葉に詰まった。誤魔化すことも何もできずに固まって相手を見ていると、ようやく目の前の青年の色彩に思い至った。



 銀色の髪に、緑の瞳。この国の王族の色彩。しかも外見年齢から推測してもこの人は、ケルティア王国現国王、グラークス=ケルティアに違いない。……、でも、国王がなんでこんな所で定食を注文?



 そんな疑問が一緒に出て来てしまったが、レイディルがどう答えていいかわらず冷や汗をかいているところに、店の主人がやって来て料理を運んできた。


「はい、今日の日替わり定食。今日はシャチオンの煮付けだよ」

 ゆっくりと置かれたそれを見て、グラークスの視線がレイディルから料理に移る。

「うまそー!頂きまーす」


 まるでレイディルとの会話はなかったかのように食べ始めたグラークス。立ち上がって逃げたい気分だったがタイミングがわからず、レイディルはそのまま自分も食事を続ける。

 グラークスはある程度食べると満足してきたのか、またレイディルに視線を向ける。


「会ったら話してみたいなぁと思ってたんだよ」

 またしても唐突に始まった会話に、レイディルは食べる手を止めた。

「申し訳ありません」

「ん?」

「偽った書類を提出したことです」

「あー、そんなことは俺はどうでもよくて。わざわざ身分隠して留学したいなんて王子さまはなかなか世の中にはいないからな。俺はそういうのは嫌いじゃない」

 にっと笑ったグラークスに、レイディルの口からは素直な感想が漏れた。

「……、変わってますね」

「よく言われる。俺は別に変だとは思わないけど」


 そんな風に言った時、突然外から人を探す大きな声が聞こえた。

「陛下ー!どこですかー⁉︎どうせこの付近にいるんでしょう⁉︎」

 明らかに「陛下」と呼んでいることからも、探されているのがこの目の前にいるグラークスであることは明白だ。

「まったく、よく鼻がきくなぁ。これ食ったら行くぞ」

 それが自分へ向けられた言葉だとわかり、レイディルは瞬きした。


「え?行くってどこへ」

 そう言葉を返すとグラークスが呆れた顔をする。

「俺がなんのために留学を許可したと思ってるんだ?君んとこの国の話でも聞かせてもらおうと思ってに決まってるだろ?丁度仕事に飽き飽きしてたところなんだよなー」


 すると扉を少し乱暴に開く音がしてドアベルが鳴り響く。明るい茶色の髪の青年が入ってきてすぐにグラークスを見つけた。


「陛下!やっぱりここでしたか!見つけましたよ!」

「お前は鼻のきく犬か!ほら逃げるぞレイディル!ごちそうさん!」

 お金を机に置くと、突然肩を叩かれレイディルは戸惑う。次の行動を迷っていると、がしっと腕を掴まれた。

「え、ちょ、えぇ⁈」

「あ、ちょっと、何逃げてるんですか⁉︎陛下ー‼︎」

 追いかけてきた人物を振り切るように走り出したグラークスに腕を掴まれたまま、レイディルは共に走るしかなくなり、慌てて足を動かした。



 そんな思い出話をされたミトセリスは思わず両手で顔を覆った。


「ご、ごめんなさい、兄がとんだご迷惑をおかけしたみたいで……」

「いや、むしろ、グラークス殿とお会いできたのはよかった。首都以外の街にまで連れて行ってもらって、私としても良い勉強になった」


 そんな真面目な言葉が返ってきて、余計に恐縮してしまう。兄は相変わらずとんでもないやつだと思う。

「そ、そうですか。でも、1年間も留学なんてすごいですね。私なんて、他の国に行ったこともほとんどなくて。今回が初めてです」

 ミトセリスの言葉に、少し考えたようにレイディルが言葉を返す。

「……、グラークス殿も、あなたのような人を国外へ出すのは不安だろう」


 ……、何それどういう意味⁉︎私みたいな未熟な人間じゃ外にでたら迷惑ってこと⁉︎いや、確かにそうかもしれないけど!

 

「今日は時間がないが、明日以降に、街を案内させてほしい」



 断りたい!ものすごく断りたい!でも、断るなんて許されるわけないわよね⁉︎この人だって所詮義務から誘ってるんだろうし!あー!お兄様覚えておきなさいー‼︎



 心の中ではそんな風に叫びながらもミトセリスはやや引き攣った笑みで返事をする。


「ぜひお願いします」

「あぁ。では、また時間等については使い者に伝えさせる。では、また明日(あす)

 立ち去るレイディルの後ろ姿を見ながら、ミトセリスは何故か怒りが込み上げてきた。



 って、え?今日はもう顔合わさないってことなの⁉︎ご飯とか一緒に食べなくていいの⁉︎いいならいいけどね⁉︎お兄様とは違う意味で困った人な気がする!リオくんはあんなにかわいいのに!

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