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パンとスープ


ある土曜日。

仕事へ行く母の車に一緒に乗り、ついでに祖父の家で降ろしてもらった。

とくに用事がないので、夜まで祖父の家で過ごすことにしたからだ。


庭で花を育てている祖父の手伝いをしたり、定位置で林さんと勉強したりしながら過ごしていると、ふとあることを思い出した。


そういえばここから遠くない所にパン屋さんが新しくできたらしい。

小さなお店だけど美味しいとのことだ。


「近いみたいだしお昼にみんなで買いに行こうよ。」

以前、祖父と母とわたしの三人でパンを食べた時のことを思い出し、祖父に提案した。林さんとパン屋へ行ったら楽しそうだ。


「パン屋?」

林さんは興味津々だが、祖父はまごまごして何か言いたそうにしている。


「おじいちゃん?どうしたの?」

「あ~、杏ちゃん・・。この前、林さんと一緒に散歩に行ったんじゃが、歩いて少ししたらそれまで元気だった林さんの顔色が急に悪くなって・・。それで何か薬を飲ませようと急いで家に帰ったら、本当に何事もなかったかのように、けろっと治ったんじゃ。家の中にいたらそんなことないから、もしかしたら林さんはあまり外には出ない方が良いのかもしれん・・。玄関や庭では大丈夫だから、はっきりとは言えないのだけど・・。」


林さんとわたしが行く気満々なので祖父は言い出しづらかったのだろう。

しかしそれは仕方がない。

平穏に過ごしていたので当たり前になっていたけど、夜はやはり姿が変わるようだし、林さんは相変わらず謎だらけだ。原因がハッキリしなくても、とりあえず外に出るのはやめた方がよさそうだ。


「そっか。じゃあパン屋に行くのはやめておこっか。」

そう言うと林さんが残念そうな、申し訳なさそうな顔をしたので

「今度いっぱい買ってきてあげるね。」と声をかける。


そんな二人の様子を見た祖父がなぜか一番悲しげな表情を浮かべた後、

「よし。私が買って来よう!杏ちゃんも林さんもパンを食べたいだろう。近道を通って行ってくるからすぐ帰ってくるよ。杏ちゃんは林さんとお留守番してスープでも作っててくれるかい?」

と、張り切って言った。


わたしはパンを食べたかったわけじゃなく林さんとパン屋に行きたかったのだが、せっかくなのでお願いすることにした。行けなくても色々なパンは林さんが喜びそうだ。


「ありがとう!じゃあおじいちゃんの好きな野菜スープ作ってるね。」

「うんうん。おじいちゃんも楽しみじゃ。」


「いってらっしゃーい!」


祖父を送り出すと、さっそく林さんと一緒にスープ作りを始めた。

林さんの頭にはスカーフが巻かれ、そこに赤色のヘアピンも重ねてつけられている。




--同じ頃--


杏子の母、美桜(みお)はパン屋にいた。

小さな佇まいだけど、材料や作り方にこだわっていて美味しいと噂を聞いたお店だ。


この近くでの仕事が終わり、そのままお昼休憩に入ったので寄ってみた。


次のバスまで時間があるし、父の住む家まで歩いてもそんなに時間はかからない。

朝送った杏子も家にいるはずだ。

この前パンに喜んでいたし、このパン屋の話をした時も興味津々だったので携帯電話に連絡を入れているのだが杏子は気付いていないようだ。


結局、折り返しの連絡を待っている間に買い物は終わってしまった。フワフワの食パンと甘いパンを多めに買ったので袋から良い香りがする。

連絡がないのでどうしようかと考えるが、せっかく買ったし、やはり焼きたてが美味しいに決まっているので届けることにした。



最近はどうしても車で来ることが多かったので、この辺を歩くなんて久しぶりだ。


天気が良くて風も気持ちいい。

午後からまた仕事だけど、少しの間は仕事のことを忘れよう。

こんな日は庭で食べるのも良さそうだ。


と、考えていたらあっという間に着いてしまった。

運動不足の生活だったけど意外に疲れてないし、良い気分転換になった。


玄関前に来ると、家の中からカチャカチャという音がかすかに聞こえた。

(お昼ご飯を食べてて携帯に気付かなかったのかな?あ、しまった。もしかしてもうお腹いっぱいかもしれないな。)


袋に入った焼きたてのパンを覗きながら玄関チャイムを押す。


ピンポーン!


--


「あれ?おじいちゃん?本当に早いね。それとも忘れ物かな?林さん、玄関の鍵、開けて来てくれる?」

鍋の中の具材をかき混ぜながら、ちょうど手の空いた林さんにお願いする。

林さんは頷き小走りで玄関へ向かった。


カチャ。


「・・どちら様??」



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