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緑色と赤色


それからは学校の帰りに祖父の家に寄ったり、休日に祖父の家で過ごしたりすることが増えていった。

祖父とは元々仲が良いし、母の仕事が忙しい時もあるので家に一人でいるよりは、と母もとくに怪しんでいない。


林さんは、わたしが昔読んでいた絵本や小学校の頃に使っていた教科書を読むようになったので言葉や文字をだいぶ覚えてきた。

本を読んでは「見て。杏ちゃん。このカブすっごく大きいんだよ。」「こっちには海とたくさんのお魚が出てくるんだよ。」と教えてくれる。


まだ全て読めるわけではないので、隣に座ってゲームや漫画で時間をつぶしながら訊かれたら教えてあげていたのだが、勉強している林さんの横で遊んでいるのもばつが悪くなり、いつの間にか本を読む林さんと並んで学校の宿題をするのが日課となった。

学校とは関係ない林さんのおかげで勉強するようになるとは不思議なものだ。


---


学校生活では菜乃花(なのか)という新しい友達ができた。

菜乃花は絵を描いたり手芸をしたりするのが好きで、美術の授業を通して仲良くなった。


「杏子~。練習中なんだけど見て~。」

ある日、菜乃花が手作りのアクセサリーをいくつか見せてくれた。

どれもキラキラしていて、光を反射させると更に綺麗だ。


「すごい!これ作ったの!?すごく可愛い!どうやって作ったの!?」

「ありがと~。意外に簡単なんだよ。材料は家にあるし足りないの買っても安いから、興味あるなら今度一緒に作る?」


細かい作業はそんなに好きではないが、こんなに可愛い物が手作りなんて、と珍しく興味を持ったのでさっそく次の休日に約束をした。


---


日曜日、駅前で菜乃花と待ち合わせをして必要な材料を買いに雑貨屋さんへ行く。


「パーツはここら辺から選んでね。何作るか決めた?」

「ん~・・なんとなく。」


実は作ると決まってからずっと考えていた。

自分の物を作ろうか、それとも林さんにあげる物を作ろうかと。


菜乃花の作ったアクセサリーを見た瞬間、林さんの顔が頭をよぎったのだが、「これ何?いらない。」と言われたら落ち込むのでアクセサリーをあげる決心がつかない。


菜乃花のようにイヤリングや指輪も作れるみたいだがどうなんだろう。

「ん゛~~。」

悩んだ末、林さんにあげるにしても理由がつけやすく自分でも使えるヘアピンを作ることに決めた。


失敗しても大丈夫なよう二つ分のパーツを選び、買い物が終わると菜乃花の家に移動してさっそく作業に取り掛かる。


紫外線で硬化するレジン液という専用の液体を使って作るらしい。

レジン液の色は、一つは林さんの瞳と同じ緑色、もう一つは林さんに似合いそうな深い赤色の二色にした。


ヘアピンに対して少し大きめの楕円形の土台にレジン液を少し流し入れる。

「この小さな気泡を爪楊枝でつぶすのが綺麗に完成させるコツだよ。」

菜乃花も一緒に作りながら教えてくれるので真似しながら集中する。

ビーズなどの飾りを重ねたり、レジン液を数回に分けて流し入れたりしていたら一時間はあっという間だった。


「できたー!!」

鮮やかな緑色に輝いてるヘアピンと、上品な深い赤色のヘアピンが完成した。

どちらもキラキラしているし、色も飾りも可愛い。

売り物みたいに綺麗ではないが、菜乃花のおかげで初めてにしてはなかなか上手にできたと思う。


これはぜひ林さんに見てもらいたい。

ただ、完成して綺麗に出来た方を林さんにあげようとしていたので、同じくらいの出来のどちらをあげようか悩むところだ。

あと、何て言ってあげれば良いのかもまだ考えていない。


---


数日後の放課後、意を決して祖父の家へ行くことにした。


祖父の家に着くと林さんは初めて会った時のように玄関先で掃き掃除をしていた。


「林さん、こんにちは。」

「杏ちゃん!こんにちは。」

林さんはわたしを見つけ笑顔で挨拶をしてくれたが、またすぐ掃除に戻った。


今なら林さんも掃き掃除に集中しているのであまり身構えられずにさらっと渡せるかもしれない。


足を止め林さんを見る。

視線に気付いた林さんもじっとこちらを見つめている。


「林さん・・あの~・・これね・・髪につけるピンなんだけど・・良かったら林さんつけないかな~と思って・・いらない?」

結局一つには決められず、二つのヘアピンを見せる。どちらか気に入った方をもらってくれればいいし、もしかしたら両方もらってくれるかもしれない。

ちらりと反応を伺う。


「これ、私にくれるの?」

林さんは両手でヘアピンを持ち、目を輝かせている。

「うん」という言葉も出ず、黙ったまま首を縦に何回も振る。


「嬉しい!これどうやって髪につけるの!?」

林さんはさっそくヘアピンを頭に乗せたり刺したりしていたので、花壇に腰掛けてもらい一つ前髪につけてあげた。

続けてもう一つをつけてあげようとしたのだが、一つで林さんは待ちきれず立ち上がると鏡のある玄関へ走って行ってしまった。


しかしすぐに戻って来ると

「杏ちゃん!すごく綺麗!これ似合う?」

と珍しく興奮している様子で訊いてきた。


改めて見るとやはり深い赤色が似合っている。


ヘアピンで林さんが愛用しているスカーフも挟むことができるので、それも教えてあげた。ヘアピンの使い方を覚え林さんは感動している。


「ピンすごいね!杏ちゃんにもつけてあげる。」

そう言うと林さんは手の中で待機させている緑色に飾られたもう一つのヘアピンを取ると、少しかがみ同じようにわたしの前髪につけてくれた。


「ふふっ。杏ちゃんも似合うよ。鏡、見に行こ!」

林さんに手を引っ張られ玄関に移動すると、嬉しさと恥ずかしさを隠しきれないくらい真っ赤な顔が鏡に映っていた。


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