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夜になったら


「ふ~。危なかった。」

だいぶ運に助けられたがこれで一安心だ。


今度は林さんを迎えに奥の部屋へ向かう。


あとはいつ林さんが夜の姿になろうが大声で喚きだそうが大丈夫。

むしろ変身する瞬間を見たいかもしれない。


「林さーん!」

扉を開け名前を呼ぶと、家具の裏から林さんが顔をのぞかせた。

「林さん、お待たせ!あと大丈夫だから一緒にあっちに行こ。」

林さんは座ってこちらを見たままキョトンとしている。


座っている林さんの目の前に両手を差し出すと、林さんは手を乗せ立ち上がった。勢いでスカートがふわりと動き林さんの顔が目の前に来ると目が合った。

(やっぱり綺麗。)


つい見とれてボーっとするが、林さんの不思議そうな顔に気付き急いで意識を戻す。

「あ、ごめん!よし!行こ!」

急いで片手は離し、片手はつないだまま手を引いて部屋を出た。


そのままリビングに向かっていると

「これから何をするんだい?」

と林さんが訊いてきた。


ただそれだけのことなのになぜか嬉しい。


「そうだね。お米も炊かなきゃいけないし、晩御飯の準備かな。あ!今日はシチューなんだよ。シチューは食べたことある?パンもあるからお米でもパンでも好きな方で食べてね。おじいちゃんは絶対にお米で食べたいんだって。わたしはどっちも好きだからその時の気分で決めてるんだ。そういえば林さんは好きな食べ物はあった?」


わざわざ立ち止まり、自分でもビックリするくらい話してしまった。


林さんは話が聞き取れなかったようでポカーンとしている。

(しまった・・。)

恥ずかしくなり

「ごめん。えーと、これからご飯の準備をするんだよ。」

と短くゆっくり言い直す。


すると林さんは両手を口元に持っていき

「杏ちゃん、たくさん話すからビックリした。」

とクスクス笑い始めたので余計に恥ずかしくなった。


なんだかさっきから空回りしてばかりだ。顔が熱い。


「しちゅーは食べたことないから楽しみ。嬉しい。」

恥ずかしくて林さんの顔を見れないが、林さんは気にしてなさそうだし、ご飯を楽しみにしてくれているので良しとしよう。


--

---


「これはじゃがいも。これはニンジンとお肉。玉ねぎも知ってる。これは何?」

「コーンだよ。」

「ふふっ。コーンっていうんだ。コーンも美味しい。」

林さんはシチューを気に入ったようで質問しながら機嫌良さそうに食べている。


ご飯も片付けも終わった後にゆっくり話そうと思っていたのだが、祖父もわたしもお腹いっぱいで一気に眠たくなってきてしまった。

寝るには少し早い時間だったが、しばらくは母の車が見えたら急いで奥の部屋に隠れてほしいということだけを林さんに伝え「そろそろ寝ようか」とそれぞれの寝室に行くことにした。


林さんも奥の部屋へ向かうがまだ変身はしていない。もしかしたら今日は人間の姿のままなのかもしれない、とぼんやり思った。


布団に入ると、昨日からの出来事を一つひとつ思い出す。

(林さんの変身には何か条件があるのだろうか。)

(ママにはいつなんて説明しよう。)

(あまりじーっと見過ぎて林さんに変に思われたかな。)

瞼が重くなりウトウトしていると、あの声が聞こえてきた。


「ギキー!」


閉じかけていた目を開くと急いで奥の部屋へ向かう。

着くとやはり林さんが夜の姿になっていた。口にはスカーフが巻かれている。


「キィー」

今度は怖くない。

「林さん?大丈夫?」

不思議と悲しそうに見えたので声をかけてみる。


林さんがこちらを見た。

犬みたいだと思っていたが、近くで正面から見ると狼のように迫力がある。

目が合うと少し怖くなって一瞬ためらったが続けて話す。

「もしかして寂しくて泣いてるの?一人で寂しいならあっちで一緒に寝ようよ。どこか痛くて泣いてるならお薬もあるし。」


「キキー」

何か言っているようだがさっぱり分からない。


「杏ちゃん。林さんはいつも、これから明け方まで何かしてるんじゃ。終わってからは寝てるみたいなんだがなぁ。」

いつの間にか来ていた祖父が教えてくれる。


そして、林さんの邪魔になるからそろそろ部屋を出ようかと祖父に促されたので寝室に戻った。

祖父の言う通り林さんの声はしばらく聞こえ続けたが、わたしはなぜか途中からその声が気にならなくなり、むしろ心地よく感じ、気付いたら朝を迎えていた。


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