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別れ



彼女は歩くのも辛そうだ。

乗せた手に体重をかけながら身体を支えられてようやく歩いている。


弱っている姿を見るのも辛いし、祖父も同じような状況なのかと思うとそれも辛い。


「林さん、もう少し頑張ってね。」

出来るだけ暖かい格好をしてきたがそれでも寒そうだ。


裏の道を慎重に進み、森の中へ向かう。

薄っすらと積もっている雪に足跡をつけながら。


前住んでた所に帰れるかもしれないよ。と、道中ボソッと小声で言ってみたが、ちゃんと聞こえなかったようだ。

少し首を傾げてこちらを見ているが、気付かないふりをして歩くことに集中した。



------



歩き続けると、森の中にある湖に着いた。


祖父がよく散歩するコースだが、倍近く時間がかかったと思う。

それでも無事に着いたことに一安心する。


「林さん、お疲れ様。」


顔を見ると人形のように真っ白になっていた。

頭につけたヘアピンと唇だけが際立って赤く見える。


今日の月は満月でもなく欠けているが、綺麗なことに変わりはない。


空を見上げて、そのまま一度深呼吸をする。


澄んだ空気が身体の中に染み渡る。



祖父から預かった袋を自分の手ごと彼女の手のひらに乗せると、彼女は訳も分からずそれらを握った。


「今度はこっち。水、冷たいけど我慢してね。ごめんね。」


手をひきながら浅瀬を進むと水が靴に入ってきた。

冷たいというより痛い。


一歩進むたびに二人の姿は湖の中へ隠れていき、あっという間に腰の高さの所まで来た。


当然だが、冷たい水の中に入ったことで林さんは余計辛そうだ。

これで本当に彼女は助かるのだろうか。


「あのね、林さんが元気になるように、これから元々住んでた場所に帰るんだ。おじいちゃんがね、林さんにごめんって。」


林さんはボーっとしていて話を聞いているか分からない。

もし聞いているとしても理解はしていないと思う。


「おじいちゃんにね、林さんを見送ったらまた病院に来いって言われたんだ。わたしが何するか想像できたんだろうね。だけどおじいちゃんがママに話さなかったのはそういうことだと思う。」


林さんはこちらを見つめ黙っている。


「林さん、今までありがとう。大好きだよ。もしかしたらこれで最後になるかもしれないから・・。」


そして月が映っている水面の所へ進むと、手をより一層強く握る。


何が可笑しかったのかは分からないが、林さんは「ふふっ。」と力なく笑った。


林さんに会うのが最後になるのか、それとも祖父や母、友だちと会えなくなるのか、またはもう誰とも会えなくなるのか。

どうなるかは分からないが後悔する気はしなかった。



林さんに微笑みかけると、また力なく微笑み返してくれた。

そのまま赤いところへキスをして力を抜くと、引き込まれるように二人は水の中へ沈んでいった。



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