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林さんと話したおかげでなのか、気持ちが落ち着き視野が急に広がった。

辺りを見渡すと母が意外に近い所にいたので、咄嗟に林さんからもらった手紙を後ろに隠す。


母は少し気まずそうに視線を逸らすが、またこちらを見て声をかけてきた。

「杏ちゃん、おはよう。あの・・林さんのことで、今話しても良い?」


祖父とどんな話をしたかは分からないが、母は落ち着いているし、昨日のように殺気立ってる感じはない。

「うん・・。」

返事をすると、母は一度深呼吸をしてゆっくり話し始めた。

「正直言うと、完全には信用できないし今も怖い気持ちはある。・・けど、何か危険だと思わない限りは勝手に通報したり酷いことをしたりはしないって約束するわ。杏ちゃんにも林さんにも酷いことを言ってごめんなさい。」

母はテキトーに謝ってる感じでなく、目を見てしっかり話してくれた。


母が先に謝ってくれたので、

「わたしも・・色々と黙っててごめんなさい。ママはわたしたちのことを守ろうとしてくれたのに・・それも、ごめんなさい。」

と、こちらも素直に謝ることが出来た。


大きな喧嘩や、こんな話し合いをしたことがなかったので少し気まずいが、同時に心が少し軽くなった気がした。

改めて母の方を見ると目が合いお互いクスっと笑う。

するとなぜか林さんも反応し、嬉しそうにニコニコしていた。



-----



肌寒い季節になる頃には、母の警戒心もだいぶ薄くなり、林さんに話しかけたり一緒に家事をしたり、林さんがいることが当たり前になってきた。


そして祖父が体調を崩しがちになったのもその頃だった。

歳だから仕方ないよ、と祖父は笑って話すが、病院に行く回数は確実に増えていたので心配になった。


「ケホッ、ケホッ」

更に心配なことに、林さんが咳をする姿も見るようになった。


初めての冬で風邪でもひいたのだろうか。今まで体調が悪そうなところを見たことがなかったので考えてなかったが、林さんが風邪をひいても病院には行けないのだ。

「大丈夫?」と林さんに訊いても、林さんは笑顔で「うん。大丈夫だよ。」と答えるだけだ。



-----



寒さが本格的になり吐く息が白くなる頃、祖父が入院することになった。

そして、林さんも家で寝ていることが多くなった。


祖父が入院する病院にお見舞いに行き、母が席を外し二人きりになると

「杏ちゃん、林さんの体調は変わらず悪そうかい?」

と祖父が訊いてきた。


わたしが頷くのを確認すると、祖父は「そうか」と残念そうな表情で話し始めた。

「杏ちゃん、今から大事なお願いがあるから聞いてくれるかい?

私の寝室の机の中に、おばあちゃんが使っていた宝石箱がある。それを開けると古い布が入っている。その布には絵が描いているんだが・・それは林さんが元の世界に帰るための手順なんじゃないかと思っている。林さんを見つけたときに林さんが握りしめていたんだが、私がずっと保管していたんじゃ。」


急な告白に「え?」と聞き返すが、祖父は一度深呼吸をすると話を続けた。

「おそらくだが、私の体調が悪い限り林さんも弱っていく一方だ。私もこれからどうなるか分からない。だから林さんが手遅れになる前に、林さんを元いた世界に戻してあげてほしいんだ。林さんがそれで幸せかは分からないが、このままこっちで命が尽きるよりは良いと思うんじゃ。」


そして、こちらが何か言う前に小さな袋を渡された。

「私の髪の毛を少し切って入れてある。必要だと思うからこのまま持って行ってくれ。林さんに・・苦しい思いをさせて申し訳ない、と伝えてくれるかい?」

祖父はそう言うと涙を流した。


「・・わたし、林さんとお別れするの?」

ようやく言葉が出てきた。


「そうだね。無事に成功したらそうなる。なんとかしたかったけど・・ごめんね。林さんを見送ったら、報告しにまた来てほしいんだ。絶対だよ。」

分かった。と、祖父と約束をしその場を離れる。



いきなり林さんと離れることは考えていなかった。

学校を卒業して友達と離れるのとは訳が違う。

もう一生会えなくなるかもしれないと思ったら、胸が締め付けられる。だけど林さんがこのままの状態で良いわけもない。元気になるなら元いた世界に戻る方が良いに決まっている。だけど離れるのは嫌だ。他に方法はないのか。

ぐるぐると同じことを考えながら重い足取りで祖父の家へ向かう。


今日も病院へ行く前には寄ったものの、夜に祖父の家に来るのは久しぶりだった。

最近何かと理由をつけられて日中しか来られないようにされていたからだ。


当然、夜の姿の林さんに会うのも久しぶりだが、そういえば夜の姿になっても体調は悪いのだろうか。日中は今日もあまり元気ではなかったが、夜の姿になったら元気になるということはないだろうか。

そんなことを考えながら家に入ろうとした。


しかし、家の鍵を探していると林さんの鳴き声が全くきこえないことに気が付いた。


嫌な予感がしてガチャガチャと急いで鍵を開ける。

そしてそのまま奥の部屋へ行くと、林さんが寝ていた。


いなくなっていたわけじゃないことに安堵するが、林さんの姿を改めて見ると驚いて声が出なかった。林さんは日中の姿だったからだ。


「・・林さん!大丈夫!?」

急いで意識を戻すと駆け寄って声をかける。


「・・杏ちゃん?」

明らかに今までとは様子が違う。とても苦しそうだ。


見ると枕元に飲み物が準備されていたので、林さんの身体を起こしそれをゆっくりと飲ませてあげる。


「ふぅ・・。」

林さんの呼吸が少し落ち着いたところで、祖父に言われたことを思い出し祖父の部屋に走る。


「机、宝石箱・・。机、宝石箱・・。」

忘れないよう何度も声に出しながら机を開けると本当に宝石箱が入っていたので、震える手でそれを持って林さんのいる所へ戻る。


林さんの近くに座り、一呼吸してから宝石箱を開けると、祖父の話していた通り、布が入っていた。古くて汚い布だ。

布に書かれている文字のようなものは読めないが、一緒に描かれていた絵でなんとなく分かった。

林さんはその家に仕える召使いのような存在で、仕える主人が死ぬとき、林さんも一緒に死ぬ運命らしい。

あと、林さんがどうやってここに来たかも分かった。

そして帰る方法も。


祖父が自分の髪の毛を渡してきた理由も分かり、預かった袋をギュッと握りしめる。


「林さん・・。動くの辛いと思うけど、一緒に来てくれる?」

ゆっくり林さんに話しかけ、同時に手を差し出す。


彼女は熱でボーっとしながらも、笑顔をつくりこちらを見つめながら手を乗せてくれた。


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