してくれたこと
「杏ちゃん、ごめんね。辛い思いをさせてしまって。・・おじいちゃんはママとリビングで話そうかと思うんだけど、杏ちゃんはどうしたい?一緒に行っても良いし、疲れたなら休んでも良いよ。」
辛そうな表情をしている祖父をちらりと見たあと林さんに視線を移すが、林さんがこちらを見る様子はない。目が熱くて痛い。
「おじいちゃん・・ママに話すの、おじいちゃんにお願いしてもいい?」
そう言うと、祖父は優しく微笑んで頭を撫でてくれた。
「もちろんだよ。ゆっくりお休み。」
このまま林さんの部屋に残ろうかとも思ったが、祖父に促され出ることになった。わたしの考えなどお見通しのようだ。
部屋を移動し布団に潜り込んでも林さんの声は聞こえてきた。
いつもの鳴き声。
祖父と母はどんなことを話すんだろうと気になってきたが、もう身体を動かす元気はない。林さんの声は安心するはずなのに、今日は涙が止まらずそのままいつの間にか眠っていた。
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目が覚め、気配を感じて横を見ると林さんが近くに座っていた。
「・・林さん?」
「杏ちゃん、おはようございます。悲しかった?」
腫れてる目をじーっと見られている。
「もう大丈夫だよ。ありがとね。」
「ふふっ。杏ちゃん、ちょっと待っててね。お手紙が届くから。起きて。」
林さんに優しく手を引っ張られ強制的に起こされる。
林さんに連れていかれるままリビングへ行くと祖父がニコニコして待っていた。
「杏ちゃん、おはよう。杏ちゃんにお手紙だよ。」
祖父から手渡された封筒には住所が書いてなければ切手も貼られていなかった。
「・・手紙?」
急な手紙に不審がりながら、中から便箋を取り出すと何か書いてあった。
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しんあいなるきょうちゃんへ
林
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便箋には、上手とは言えないな字でそれだけしか書いてなかった。
「ふふっ。杏ちゃん、嬉しい?」
じーっと反応を伺っていた林さんだが我慢できずに話しかけてくる。そして口元を両手で隠しながらも隠しきれないくらいの笑顔を見せている。
「これは・・?」
反応の薄いわたしを見て林さんは「あれ?」と焦っている。
「本で読んだの。悲しい友達にお手紙をあげるんだって。杏ちゃん、昨日の夜、悲しそうだったからおじいちゃんに手伝ってもらったの。」
林さんの手には参考にしたであろう児童書が持たれていた。そして封筒も便箋も祖父の物だろう、和紙のようなシンプルな物だ。
(夜の姿の時も記憶あるんだ。)
(いつ書いたんだろう?朝早く?)
(わたしを元気づけるために書いてくれたんだ。)
気が付けば涙が出ていたので急いで手紙で顔を隠す。
それを見て林さんは
「杏ちゃん、どうしたの?まだ悲しい?」
と余計に焦り始めた。
「ううん。嬉しくて泣いちゃったの。林さん、ありがとね。ずっと大切にするね。」
「ふふっ。嬉しくて泣くなんて。杏ちゃん変なの。」
林さんはクスクス笑っている。
その姿を見て、また胸が苦しくなった。
「林さん・・、わたしは林さんに何もしてあげられなくてごめんね。」
震える声でそれだけ伝えると、林さんはきょとんとしている。
「杏ちゃん。こんにちはって言ってくれたのも、友達になってくれたのも、シチューを食べたのも、手をつないでくれたのも、これをくれたのも、全部杏ちゃんがしてくれたことだよ?」
林さんはそう言いながら笑顔で頭につけていたヘアピンを触った。
「・・林さんは嬉しかった?」
か細い声で訊くと林さんは
「もちろん!杏ちゃんがしてくれたこと、全部嬉しいよ。」
と答えてくれた。
林さんのためにというか、全部自分がしたくてしたことだったが、林さんは喜んでくれて覚えてくれている。それを知れただけで心が軽くなった。
また手紙で顔を隠すと、
「杏ちゃん、また嬉しくて泣いちゃった?」
と林さんが不思議そうに顔を覗き込もうとしていた。




