サナトリウム
世界の始まりは突然だ
誰にだってあるであろう幼少時代の友達の話
ここはどこなんだろう……
僕はどうしてここに? そもそも僕って何だろう?
「あ、えっと、初めまして」
どこからか声がして、暗闇だった僕の視界に、少女が映った。
少女は白い床に座ったまま、僕を見つめる。
「……」
ここはどこなの? って言おうとしたけど声が出ない。
「ふふ、大丈夫。怖くないよ?」
喋らない僕の頭を優しくなでてくれる。
僕は慌てて、座ったままの体を起こそうとしたけど動けなかった。
「……(ここはどこなの? 君は誰なの?)」
やっぱり声が出せない。
「さすがにおしゃべりは無理だね。しかたないよ、口がないもんね」
少女は苦笑いを浮かべて、僕の頭を撫でた。
その時思ったんだけど、どうやら僕より少女はデカいらしい。
だって僕の体を持ち上げて笑ったから、その顔が凄く可愛らしかった。
「今、お茶会の用意をするね?」
少女はそう言って僕を椅子に座らせ、目の前に何かを置いていく。
「……(これは何?)」
「朝積みハーブの紅茶だよ? 後ね、スコーンを持ってきてもらったわ」
喋れない僕の意図をくみ取ってくれたのか、指をさしながら教えてくれる。
紅茶、スコーン。どちらも茶色いんだ……
少女は自分の分を用意するとそれを食べ始めた。
僕は食べれないけれど、嬉しそうな笑顔に幸せな気持ちになる。
僕は彼女の笑顔を見るために生まれたのかもしれない。
「あなたが家に来てくれて、とっても嬉しい。私の初めての友達よ」
「……(友達?)」
「友達なんだから、いろんな場所に行こうね? 私は、行ってみたい場所がたくさんなの」
「……(君が行きたいなら、僕はどこへだってついて行くよ)」
それが僕の使命だとおもうから……どこか悲しげな表情に僕は悲しくなって、「笑って」って声を出したかったけどやっぱり声はでなくって、悔しくなる。
「ごめん、ごめん。悲しませたかな? それともお出かけは嫌い?」
どういうわけか、彼女には僕の考えが分かるらしい。
「ママがね、寂しくないようにって君を連れてきてくれた時すごく嬉しかったの。だから、君には嫌な思いはさせたくないし、嫌われると悲しいな……」
「大丈夫、大好きだよ」
「え?]
驚いた顔で僕を見てくる。
僕も驚いた。声が出たんだから……凄い渋い声だけど。
「パパの声だ……」
パパ? 僕は君のお父さんなの?
「もしかして……」
僕の背中を探って何かを見つけて、少女は笑う。
「お父さんがサプライズを仕掛けてたのね」
すごくいい笑顔だ。
「きーちゃん。検診の時間だよ」
僕達だけの世界に、誰かが入ってきた。
その人は、僕の友達を抱えて連れていく。
嫌だ、行かないで……
でも声の出せない僕は何も言えなかった。
「すぐ戻るから、待っててね」
そんな僕に少女は声をかけてくれる。
「仲良しなのね? 少しだけきーちゃんを連れていくね。テディベアさん」
僕にそう言い残して、二人はどこかへ行ってしまった
(完)
久しぶりに短編書きました
どうですか? ぬいぐるみを友達にしたりしてた事あるですかね?
私はぬいぐるみで世界構築したり話を作って生活してました笑
楽しんでもらえていただけたら嬉しいです。