表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

続編のない短編達。

留学している婚約者が、隣国の王太子の婚約者と仲良くしていると聞いたので。

作者: 池中織奈


 私には幼い頃からの婚約者がいる。

 幼馴染で、不遜な態度だけど優しい所があって、為政者としての勉強をしていて……普通に私は婚約者のことが好きだなと思っている。



 その婚約者は隣国へ留学に行っている。

 正直私はそれを寂しいと思っている。だって、今まで一緒に居たのにこれだけ離れると寂しい。手紙でやり取りはしているけれど、声が聞けなかったり、そのぬくもりを感じられないのが私は悲しいと思っている。


 次期皇妃として私は勉学に励んでいる。結構忙しいけれど、その合間に婚約者との手紙のやり取りはしっかりしている。

 割とまめに手紙をくれているけれど、顔を見たい。声も聞きたいってそういう気持ちでいっぱいだ。




 婚約者からの手紙には、『面白いことが起きている』みたいな気になる情報が書かれていた。

 私は彼が楽しんでいるのならばそれでいいと思っているので、その手紙を愉しんで読んでいた。


 そんなある日、私は彼の通う学園に忍ばせている影から、気になる噂を聞いた。

 というのも、私の婚約者であるこの国の皇太子であるアロイヴ様が隣国の王太子の婚約者と仲良くしているらしい。

 その王太子の婚約者はとても人気者で、愛されていて……評判が良い。私の住んでいる国にもその評判は届いていて、正直時々比べられるので毎回比べられると何とも言えない気持ちになっていた。




「よし、乗り込みましょう」

「お嬢様、それは行動的すぎでは? ちゃんと許可を取らなきゃダメですよ」

「ふふ、もちろん。皇帝陛下に許可を取ってからいくわ。陛下は私がアロイヴ様を見に行くって言ったらきっと許してくれるわ」



 皇帝陛下は面白いことが好きなので、私が言えば許可してくれるだろう。

 さてさて、アロイヴ様が浮気をしていないか見に行かないと。浮気をされていたらどうしようかしら。私とアロイヴ様は政略結婚だから気持ちがなかったとしても結婚はする。けれど私はアロイヴ様のことが好きだから、アロイヴ様の心が離れたらこっそり泣いてしまうかもしれない。悲しくなるもの。


 でも留学に向かう前も、手紙でも、アロイヴ様の態度は変わっていないように見える。でも気持ちが変化していたらどうしましょう。

 


 そんなことを思いながら陛下から許可をもらった私は隣国へと早急に向かった。皇后様にも「いってらっしゃい」と笑顔で送り出された。



 学園にこっそりと訪問する許可を学園長にもらうと、制服を貸してもらった。

 魔法具で外見を変えて忍び込んだら、アロイヴ様は気づくかしら。なんてそう思いながら私は制服に身を包む。

 こうやって私は学園に通ったことはないから、制服姿が新鮮な気持ち。


 普段の金髪から色を茶色に変える。瞳も赤色から、茶に。

 それでいて眼鏡もかけて、顔がはっきり見えないようにする。

 


 よしっと私は気合を入れる。ちなみに私と一緒に侍女の一人が護衛として一緒に制服を着て忍び込んでいる。



「お嬢様、この学園は生徒が多そうなので忍び込むのは楽そうですね」

「そうね。平民も多いし、色んな国から生徒も留学しているし。……その中でも有名なのよね。王太子の婚約者様」



 ……ひっそりと忍び込んで、さりげなく生徒に噂話を聞く。



 どうやら王太子の婚約者であるブウラ様は色んな人に好かれているらしい。王太子からだけじゃなくて、宰相の息子とか、公爵家の嫡男とか、……婚約者が他に居る人からも懸想されているらしく私はどういう状況なのだろうかと不思議な気持ちになった。

 だって、婚約者が他の方を思っているのを噂になるほど隠していないって地獄じゃない? 私絶対嫌なのだけど。

 でもその婚約者の方々はブウラ様なら仕方がないみたいに思っているらしい。うーん、政略結婚だからというのもあるのかしら。



 それにしてもなんだか不思議な光景ね?

 アロイヴ様は私に異性が近づくのを嫌がっていて、私は皇族の住まう皇宮に住んでいて、外に出ることもあまりない。私もそういう風に言われるのが嬉しいから、あんまり外に出ないわけだけど。

 私もアロイヴ様が誰かに好意を見せていたら嫌だわ。

 普通、そうよね? あくまでどうでもいい相手と婚約するならともかく、私はアロイヴ様のこと好きだもの。




 そう考えると、愛されて当然だからって受け入れているのおかしいと思うの。

 そもそもそういう風に隠しもしない好意を向けられているのならばブウラ様は距離を置いたりしないのかしら。噂話を聞いている限り、自分に好意を向けている異性と進んで仲良くしているようなのよね。理解が出来ないわ。

 噂の中で、そのブウラ様とブウラ様を囲う男性たちの中にアロイヴ様も交ざったみたいに言われていてなんだか悲しくなった。アロイヴ様にブウラ様が愛されるのは当然みたいにきゃぴきゃぴしている生徒に、思わず「私の婚約者よ?」と怒りたくなった。




 ――私はよく彼らが集まっている場に行こうと歩き出した。

 そして食堂の中で、集まっている彼らを見かける。――その中に私の愛おしい婚約者であるアロイヴ様もいた。

 美しい黒色の髪に、黒い瞳。

 どこか面白そうに笑っているアロイヴ様を見て、私の胸はときめいた。

 ああ、久しぶりの生のアロイヴ様。素敵だわ。幾らでも見ていられる。



 ……でも傍に、ブウラ様がいるのが嫌だわ。

 ブウラ様は噂通りとてもきれいな人だった。同性の私でも綺麗な人だと思えるぐらいに。



 でも渡せない。

 私にとってはアロイヴ様は大切な人だから。

 さて、どうしようか。

 一旦、もっと情報収集を――などと考えていたら、アロイヴ様と目が合った。



 その瞬間、アロイヴ様が私に向かって笑いかけたように見えた。

 アロイヴ様の笑みに、周りがざわめくのが分かる。私もその笑みに、ドキドキする。




 私に気づいたのだろうか? と思いながら踵を返そうとしたら、「ユーヴェ!!」とアロイヴ様の声が響いた。

 気づかれたことが分かり、私はあきらめてアロイヴ様の方を見る。

 アロイヴ様は笑いながら私に近づいて、そのまま私の身体を抱きしめた。


 ……こっそり来たのになぁ。陛下も皇后様も皆隠していたのに。なのに、すぐに私に気づくんだから。そう思うとなんだか嬉しくなった。



 アロイヴ様が優しい笑みで、私を抱きしめるから――、周りがざわめいている。




「……アロイヴ様、すぐ気づいたのね」

「俺がユーヴェに気づかないわけないだろ? どうしたんだい? 姿も変えて」

「……アロイヴ様が、王太子の婚約者と仲良くしているって聞いたから」

「ははっ、嫉妬したのか?」


 楽しそうなアロイヴ様の声が聞こえる。

 そして私がアロイヴ様に答えようとしたとき、「アロイヴ、その方は?」という女性の声が聞こえた。

 ……ブウラ様だった。

 一つ言いたいけど、なんでアロイヴ様のこと、この女は呼び捨てにしているのかしら?

 思わずきっとブウラ様を睨みつけてしまった。そしたらショックを受けたような表情を浮かべる。




 そうしたら周りにいた男性たち、多分この国の王太子たちかしら。

 彼らが「ブウラを悲しませるな」って言って睨みつけてくる。うーん、いや、普通に考えて王太子の婚約者っていう立場の人間がこのくらいで悲しそうな顔をするのはどうなんだろうって思ってしまう。




「お前たちこそ、俺のユーヴェを睨むな。それとブウラ様、前も呼び捨てにするのはやめろと言ったよな?」

「……え、でも、私と仲良くしたいんでしょう?」

「観察対象として、お前たちが面白いと思っているだけだ。俺のユーヴェが嫌がっているだろう」



 私はアロイヴ様の言いぐさにほっとする。多分、アロイヴ様はブウラ様の環境が面白いと思っていただけなのだろう。それを思うと、嬉しい。


「そんなこと言うなんて……っ」


 ブウラ様が手を目にあてる。え? 泣いた? これだけで??

 私は驚愕した。王族に嫁ぐ貴族が、それだけ精神が弱いのは大変なことだと思う。それに周りがそんなブウラ様を当たり前のように見守っているのも。

 やっぱり見た目が良い美少女がそういうか弱い様子を見せているからとかなのかな。



「アロイヴ!! ブウラを悲しませるな。そんな地味な女より、ブウラの方が良い女だろう」

「お前、見た目のことしか言わないなぁ。ユーヴェは今はお忍びだから隠しているだけで凄く可愛いんだぞ。まぁ、見た目はそんなに重要ではないけれどな。俺は見た目で惚れたわけじゃないけど」


 確かに、地味だとか正直関係ない。地味だけど所作がきれいな令嬢も多いし。この隣国の王太子は見た目が地味な存在は見下すものなのだろうか?

 ブウラ様はこの王太子が婚約者で嬉しいのかしら??

 私は見た目が良くても、お友達の令嬢のことを見下すような人が婚約者なのは嫌だわ。



 正直面倒だわね。




「ブウラ様はこの位で涙を見せるなんて、王太子妃になる者としては不適格だろうな」

「アロイヴ!!」

「うるさいなぁ。俺はお前たちの関係が面白いなと見ていただけだっつーの。ユーヴェを悲しませる気は全くない。ブウラ様に俺が惚れているとかはありえない。大体なぁ、俺は好きな女を複数人で共有するような趣味はないし」

「なっ、何を言う!! ブウラの婚約者は俺だけだ」

「お前が名目上の婚約者だろうとも、ブウラ様を愛している男が周りに沢山いるだろう。そしてブウラ様はそれを拒否するつもりもない。そうなれば共有しているのと一緒だろう? まさか、これだけ露骨に気持ちを伝えておきながら、ブウラ様が気づいていないなんてありえないだろ」



 アロイヴ様がはっきりそんなことを言いきった。

 私もその通りだと思う。そもそも学園内で噂になるぐらいの好意ならば、気づかないのはありえない。だって王族に嫁ぐものならだれよりも情報を知らなければいけないから。もし本当に気づいていないならアロイヴ様が言っているように王太子妃になる者としてはどうかと思う。



「み、皆が私を愛している? そんなことはないわ!」


 本当に気づいていなかったの? とその言葉に驚く。それにしてもそんな風に否定されて、後ろの男たちがショック受けているわよ。別に婚約者がいるのに、なんで彼らはそうなのかしら?


 うーん、付き合うのが馬鹿らしい。でも観察者として見るのは確かに愉快な人たちなのかも。アロイヴ様もそういう気持ちで近づいたのかしら。




「その辺はお前たちで勝手に話せばいい。俺もお前たちを観察するのも飽きたし」


 アロイヴ様はどうでもよさそうにそう言って、次に私の方を見る。



「行こうか、ユーヴェ」

「いいのかしら?」

「もちろん。単位も足りてるし、俺はユーヴェの方が優先だから」


 そんな風にアロイヴ様が笑っていたので、そのまま私は頷いた。

 後ろの方でブウラ様たちが色々言っていたけれど、私はアロイヴ様に手を引かれて学園を後にした。



 それからアロイヴ様とデートしたの。

 アロイヴ様の借りている屋敷にも行って、そこにも泊ったわ。




「それにしてもあのブウラ様が王太子妃になったら大変ね」

「俺もそう思う。外交問題になりそう。でも不倫とかで騒ぎになったら面白そうじゃないか?」

「そういう醜態になったらびっくりね。私はアロイヴ様が浮気したら泣いてしまうわ」

「しないよ。ユーヴェが可愛いから」



 アロイヴ様にそう言って笑ってもらえて私も笑った。



 私は数日、隣国で過ごしてから帝国へと帰った。

 アロイヴ様はそのまま学園に通った。アロイヴ様は王太子たちに色々言われているらしいけど聞き流しているらしい。そして王国の国王にはアロイヴ様は王太子のことを告げているらしい。流石にブウラ様が泣いたとかどうでもいいことで、アロイヴ様に色々言っているので国王も王太子には注意しているらしい。


 それから一か月後にブウラ様がアロイヴ様に冷たくされたと婚約者以外の男に泣きつき、結局認めている風だった彼らの婚約者が怒り、修羅場になったらしい。


 不特定多数の男性と親しくしている、愛をささやかれて拒否をしないブウラ様は王太子の婚約者としてどうなのか? みたいな問題が挙がっているらしいので、王太子の婚約者ではなくなるのかもしれない。



 ひとまず私は隣国の噂を面白く聞きながら、早く留学からアロイヴ様が戻ってこないかななどとそんなことばかり思うのだった。






 

噂を聞いたので、乗り込んで、すぐばれて仲良くして帰っていくだけの話です。

ちょっと思いついたので書いた話です。


ユーヴェ

皇太子の婚約者。留学に行っている婚約者の噂を聞いて乗り込んだ。

婚約者のアロイヴのことが大好き。政略結婚だけど恋をしている。

王太子の婚約者はある意味凄いなと思っている。このまま修羅場が継続なのか?どういう末路になるのかと帰国してからは面白がっている。


アロイヴ

帝国の皇太子。婚約者のこと大好き。

留学先のブウラとその周りが面白くて観察していた。ユーヴェが突撃してきた後は、ブウラたち一行には近づかなくなった。それでブウラが情緒不安定→泣きつく→修羅場と突入しているので面白がって見ている。





評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 面白いけどここで終わりか〜…!いや、面白いからこそ、ここで終わりで残念です!!もっと見たかった!!
[一言] アロイヴさん、いい性格していますね。褒めています。 女性問題で国をぐらつかせる心配、一切なしですね。
[良い点] 観劇気分なんだろうなぁ、アロイヴくんww
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ