#1
「お人好しもここまでくると、呆れを通り越して感心するわ!あはははっ、さよならカーラ!」
心底楽しげに、大きな声で笑い続ける目の前の少女を私はただ呆然と見ていることしかできなかった。
状況が理解出来ず無気力に床に膝をつく私の両腕を、兵士のような姿の男達が荒々しく掴み拘束する。
特に抵抗することもなく、言葉も発さず。
カーラと呼ばれた私は無抵抗のまま連行され、牢に入れられた。
明日の昼、私はどうやら処刑されるらしい。
公衆の面前で、領主様が寵愛する私の従姉妹リリィを妬みから殺そうとしたという罪で、だ。
暗い。
陽射しなんて少しも入ってこない。
息苦しくじめじめとした不快な空気が肌にまとわりつく。
「……どうして」
無意識に小さな声で口に出してしまっていた。
どうして私はここにいるのだろう。
先程挙げられた罪状は全く身に覚えのないものだった。
私にとってリリィは妹のように可愛がってきた従姉妹なのだから。
やましい事なんて、ひとつもない。
そのはずなのに、私は彼女を殺そうとした罪人として処刑されるのだ。
胸いっぱいに虚しさと悲しさ、全てを塗りつぶすような虚無感が溢れてくる。
誰も私の言葉を聞いてくれない。
誰も私を助けてなんてくれない。
私は、一族の嫌われ者だから。
「こんなことになるなら、お母様の言う通りにすればよかった」
社交性が皆無で本の虫のような性格の私を、母は常に心配してくれていた。
病で亡くなる少し前に、兄に『カーラの性格が心配です。私が言っても聞かない子だから…貴方からも、カーラに言ってあげてください』などと遺言書に書かれていたくらいである。
私は、失敗したのだ。
人とのふれあい方も、立ち回り方も、人生そのものも。
ようやく湧き上がってきた死への恐怖、強い後悔に体が大きく震える。
嫌だ。
まだ死にたくない。
冤罪で命を終えたくない。
まだ生きていたい。
こんなのってない。
嫌だ。
誰でもいいから、助けて。
助けて……!
溢れそうになる涙を拭いながら、目を閉じ強く願ったその時だった。
ガシャン、と何かが落ちて割れるような音が頭に響く。
同時に視界が真っ暗になる。
自分の手元すら見えない真っ暗闇。
それから直ぐに、視界が急速に明るくなっていく。
反射的に目を強く瞑ってしまう。
意識が鮮明になっていく。
目に映るのは、どこか見覚えのある煌びやかな装飾が施された誰かの部屋の天井。
私は上質なベッドに仰向けになりながら、それを眺めていた。
「あれ……?」
我ながら間の抜けた声が出てしまった。
今の音は何?
私は、さっきまで牢に閉じ込められていたはずなのに。
慌てて起き上がり辺りを見回す。
懐かしさを感じる調度品、机、ソファー。
全てが、記憶に残っている実家での私の部屋と同じだった。
心臓がやかましいと感じるくらいにどくどくと動いているのがわかるくらいの興奮と緊張を感じながら、私は姿見の前に立った。
一一一自分だ。見覚えのある自分の顔だ。
安堵の息を吐き出そうとしたその瞬間、強い違和感に目を見開く。
そこに映っていたのは先程までのボロボロな囚人服の私ではなく、上質なネグリジェを来て肌艶も良い、10歳くらいは若いであろう姿だったのだ。
初投稿作品となります。
何卒よろしくお願いいたします。