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#95 依頼をこなそう!③



「あっちょっと! もし! そこのアンタだよアンタ『ドラゴン教』に入りませんかぁ!? 何ってドラゴン様だよドラゴン様! ちなみに若き教祖であるアタシの名前はドラコってことでドラゴン様とちょいとばかし似てるとこあるんだけど混同しないでほしいんだけど運命だよねコレ??」


「えっ……あの……」


「さぁアタシと一緒に尊きドラゴン様を崇めて、舐め回すように語り尽くそうじゃないの! 今入信するなら特典として『飲むと幸せになれる水』をあげちゃうよ! それで満足できないなら『魔法の壺』をあげよう! あぁ魔法っつっても魔法を使えるようになるわけじゃないよ!? そんな便利な物が存在していたら魔術師なんて要らないぜって話になっちゃうもんね〜!」


「い、いや……」


「まだ満足できないか! では今なら出血出血大出血! すぐにでもドラゴン様に実際に会えちゃうよ!!!?? ……それとも何ですかドラゴン様なんてどうでもよくて期待してるんですか何なんですかこのアタシに色目使っちゃってるんですかぁ!? もしかしてアタシが脱ぐとでもぉ!? ……はい脱ぎましょう入信してくれるなら今!! この場で!! 上着からパンツに至るまで全てを脱ぎ散らかして生まれたまんまのスッポンポンを白日のもとに――」


「ギャ〜ッ脱ぎだすな!!」

「公衆の面前で!!」

「誰か止めろ! やめさせろ!」




 ――『狂った宣教師を黙らせてくれ』。

 そんな依頼書を握りしめている俺は、通行人たちに対して大暴走を決め込むドラコを眺めていた。


「ん? ……おい! そこの変な格好の人! その持ってる紙はもしかして依頼の紙か!?」


「お、おう」


「じゃあ冒険者なんだな? それは俺たちの依頼だ! この女……見ての通りだ!!」


「いやぁ今は冒険者じゃねぇんだけど……」


「え〜いもう何でもいい! そこに騎士もいるじゃないか! 誰でもいいから早くこの女を止めてくれ!!」


 ドラコのヤツめ……

 やっぱりこの変な依頼、嫌な予感がしたんだよ。こいつドラゴン教に固執しやがって、半年前と丸っきり同じことしてるとは……


「どうするんですかマコト様?」


「う〜ん……騎士様としてどうなんだよポンプ」


「……手錠なら持ってますが」


「……何罪なんだよこれ……」


「猥褻物ナントカの罪ですかね……しかし、とにかくあの女……やっぱりマコト様と仲が良いことが一番の罪です!! 現行犯逮捕です! マコト様とイチャイチャした罪ッ!!」


「ダメだこりゃ……」


 やっぱ、俺が解決してやるしか無さそうだぜ。困ったモンだな。


「あー、俺は冒険者じゃないけど『救世主マコト・エイロネイアー無料……ナントカ』を営業中なんだ」


 自分でやり始めた事業の名前も忘れちまったなぁ。


「わかったからこの女止めろ!!」

「あぁ脱ぐな! もう手を動かすなって!」

「クソ、力強いなコイツ……!」


 まぁでも住人たちもとにかく困ってて、どうでも良さそうだ。この依頼もカスすぎてクソ冒険者どもの目に留まらなかったんだろうよ。


「ドラコ。お前さっき『すぐにでもドラゴン様に実際に会えちゃう』っつったな。どういうことだ?」


「え? あ、いや、マコトっちこれは違うんですわぁ口から出任せってやつで商売というのは口八丁の手八丁でギリギリの橋を渡っているところをやりくりせねばならんこともごじゃりますので何卒何卒今のは聞かなかったことにしていただいて穏便にサヨウナラと」


「……()()にいるんだろ」


「ホァーッ!!?」


 動揺しまくりのドラコ。図星か。

 実は『最近、ウチの納屋に巨大な生き物が入り込んだような気がして、怖くて開けられない。誰か確かめてくれ』……という依頼が別にあって、関係あるんじゃないかと思ってたんだ。


「この王都でドラゴンを匿ってんだな? 隠してたのに、営業トーク盛り上がりすぎて勢いで言っちまったか」


「う、うぐ……!」


「みなさーん、ご安心を! 冒険者じゃないから報酬は要らねぇ! この服脱ぎかけの変態宣教師は俺が鎮めるぜ! ……案内しろよ、ドラゴンのとこ」


「ガックシ……あぁ仕方ないね。半年経ってもマコトっちには勝てないなぁ〜……」


 ボサボサの短い黒髪をガシガシと乱雑に掻いて、ドラコは俺たちを案内し始める。

 なぜかポンプが『ブバッ!!』と鼻血を噴いてたのはスルーでいく。



▽▼▼▽



 辿り着いたのは、まぁ普通の民家だ。

 近くに問題の納屋がある。


「ほら……聞こえるだろ? バキバキッて音だ……たまに息遣いも聞こえる」

「人間でもないし……そこらの動物とも違うって私は思うの……」


 若い夫婦が出てきて、不安そうな顔で一生懸命に説明してくれる。

 でけぇ納屋だが、確かに生き物の気配がするな……相応にでけぇ生き物の。


 俺は扉を開けた。


「フシュー……ッ!!」


 納屋の中の暗闇から、なかなかの風圧。生温かい息だ。

 そして高い位置に鋭い目が浮かび上がり……



「ドラゴン……!」



 俺は語りかける。


「……お前何やってんだ!! まだ国民からの誤解が解けねぇってか!? そうだとしても王都の建物に隠れるのはマズいだろ!」


「……すまぬマコト!! わかってはおるのだが、事情がある! 説明させてはくれまいか!」


「説明するったってお前、喋れるんだからずっと黙ってねぇでせめて隠れ先の住人にぐらい気を使えよ!?」


「儂の姿を見たら誰だって逃げ出すだろう! ミステリアスな存在となっておけばとりあえず数日ぐらいは穏やかに過ごせると……」


「バカか!」


 わかってる。

 ポンプも、若い夫婦も目をパチクリさせてることはわかってる。

 何てったって――真っ赤な体の巨大なドラゴンが、冷や汗を流しながら俺に向かってペコペコ頭を下げまくってるんだからな。


「マ、マコト様……あのドラゴンと仲が良いという噂は本当だったのですねぇ〜〜〜っ!!?」


「いや噂っていうか、伝わってねぇのか? このドラゴンも俺の仲間ってことで半年前一緒に魔王軍と戦ったぞ?」


 どうも半年前のあの戦いは、間違って伝わってることが微妙に多いようだ。


「いいか? お前ら。ドラゴンってのは『魔物』じゃなくて『神獣』な。俺を異世界転移させた女神様のペットみてぇなモンだ」


「これマコト! 儂のことをペットと呼ぶのをやめないか!」


 こういうことを言うと『なんか嫌な言い方で不敬だ!』とか一番怒りそうな存在がいると思うんだが、


「抜き足差し足忍び足っと」


「ドラコ! 逃げんじゃねぇ! キッチリ説明してもらうぞ!」


「ひぃーっ!」



▽▼▼▽



 なぜドラゴンが恐れられてるかというと、


「救世主さん? あんたの『戦友』を悪く言いたくはないんだが……やっぱり許せないよ」

「あなたが魔王軍と戦う少し前よね……ドラゴンはサンライト王国を襲撃しようとして、それで騎士団のレオン様が……」


 若い夫婦は怯えてる。

 ドラゴンは神に作られ、この異世界の均衡を保つような役割だったらしい。

 中でもサンライト王国がお気に入りで、長きに渡って空から観察していたんだそうだ。


 だが厄介な『能力』を引っさげた転移者……つまり、


「俺が殺した魔王。あいつがドラゴンを操って襲撃させたんだ。国民の気持ちもわかるが、悪気はねぇ。どうにもならなかったんだ」


「……!」


 まぁ詳しい事情なんか知るワケもなく、依頼人の若い夫婦は絶句してる。

 ポンプも驚いた様子で、


「レオンさんが……知りませんでした」


「あぁ。操られたドラゴンにやられて大ケガしちまって、団長補佐の座を降りたんだっけな」


「でも(ドラゴン)を許したんですか? レオンさん」


「もちろんだ。魔王が全面的に悪かったんだからな」


 ドラゴンは長い首を深く俯かせて、


「『閃光のレオン』……許してはくれたものの、彼には……本当に申し訳無いと思っている……どうしても拭い去れない感情だ……」


 名前通りに怪物の見た目をしたドラゴンだが、すげぇ人間っぽいだろ?

 若い夫婦は、


「ドラゴンと救世主さんには悪いけど……ちょっと……信じられな」


「俺を信じられねぇなら安心しろ……ここに優秀な騎士団の騎士様がいらっしゃる!」


 ここに来てポンプが超役立つ展開だ! 夫婦のハートを掴めるように頼むぜ――



「マコト様は全てにおいて正しい存在! つまりドラゴンさんも完全に安全です!!!」


「……」

「……」



 い、いや何だろうなぁこの絶妙に信頼できない感じ!? もうちょっと普通にしてくれよ!

 まぁ夫婦も黙ってるしいいか……


「ってかドラゴンよぉ、王都に身を隠す理由って? 理由あんだろ?」


「あ、ああ。最近は魔物の挙動がおかしい。前はそんな事は無かったのだが、儂が壁外で眠っていると攻撃してくる……気も休まらぬ」


「やっぱ異世界全体が不安定なのか……」


 そんな『不安定』という言葉にはドラゴンの方も心当たりがあるらしく、



「今――『神界』では()()が行われている。現在の我が主人『女神ミネルバ』の()()を決めるという」


「ッ! やっぱ女神様は管理を外されちまうのか!?」


「いいや、女神が投票で勝てば継続である。しかし勝ちの目は薄いだろう……女神の失態によるもの、とされているのでな」


「全部、魔王のせいなんだけどな……神ってのも楽じゃねぇ。やっぱ、そういうのも相まって異世界のバランス不安定だったりするのか」



 参ったなぁ、テレパシーが通じにくくなってるのもそういうことか。

 俺、元の世界に帰れるのか!? いやどっちにしろ今のこの世界もとても放置して帰れる状況じゃねぇけど……


 いや、とにかく目の前のことに集中しようか。


 魔王軍幹部なのか神投票なのか原因は知らねぇが、とにかく魔物が王都の中にも侵入してくるし、ドラゴンにも噛みついてくるワケだ。


 ドラゴンだって強いが、無敵ではねぇ。あっちこっちで攻撃され続けるなんて可哀想だ。

 となると国民の誤解を解いて、どっか国内に住まわせてやりてぇよな。


「……なぁ、依頼人さんよ……見ての通り、悪いヤツじゃねぇ。もうちょっと泊めさせてやってくれねぇか?」


「えっ!」

「……なんか可哀想……いいんじゃないの?」

「えぇ……」


「ありがとよ。解決策は、俺が必ず見つけるから。近い内にな。あと報酬も取らねぇ」


 これについては、今すぐ解決できる依頼ではなさそうだ。

 ドラゴンも危険じゃねぇとわかって、納屋も今まで通りに使えるしな。一旦保留だ。


「……あ、もしよろしければこのアタシであるドラコも納屋の方に泊めさせていただいてもよろしいんですよぉ〜ッ!?」


 いやいや、ダメだろ。

 と思ったら、


「え? あ、いいよいいよ! せっかくなら納屋じゃなくて家の方でもいいよ! お風呂も使わせてあげ……いでででで!?」

「ちょっと」


 旦那さんがノリノリで美少女を泊めようとしてるんで、奥さんに耳を引っ張られてた。

 こりゃ数時間は説教コースかな。


 俺は調子に乗ろうとしてるドラコの腕を引っ張り、依頼人の家を後にした。



▽▼▼▽



 ――ガチャン!!


「……はぁ……何でこうなるのぉ……」


 俺の目の前で、ポンプがドラコに手錠をかける。

 そしてさっきドラコに入信させられそうになっていた人たちに見えるように連行させる。


 これで宣教師を黙らせる依頼は完了。


「まぁ……偉くてお堅い騎士団の方々には何度もお世話になったけれども……マコトっち、こりゃあんまりじゃないの? 仮にも一緒に魔王軍と戦った戦友にさ……」


「何度も世話になったのか? じゃあ大丈夫だろ。今まで普通に生きてこれてたんだからよ」


「そうだとしてもさぁ〜……」


 ポンプは『マコト様のお役に立てるなんて〜』と喜んでたが、連行し始めると意外に仕事熱心で無慈悲なようだ。

 しっかりとドラコを確保してくれるだろう。


 これで終わりでも良かったんだが。

 迷った末に……決めた。


 ――ぴらっ! と俺は一枚の依頼を、肩を落とすドラコに見せつける。



「えっ……マコトっち、これって……」


「……『アタシはドラゴン様を救いたい。彼だって救世主の仲間で神獣なのに、不当な扱いを受けていると思う。どなたか、彼の救い方がわかる人はいないでしょうか。協力してください』」


「……ああっ……」



 こんな依頼を書くヤツなんか、この世に一人しかいねぇだろ。

 そうさ、最初からわかってた。ドラコ本人もこんな依頼を出してたんだ。



「ごめんな。今すぐにはドラゴンを救えなかったよ。だが、さっきも言ったが必ず救ってみせる」


「……あ……」


「だからそれまで耐えろ。ドラコ」


「……やば。ちょっと待って泣きそう……」



 まったく、困るぜ。

 知らない人を助けてぇっつってんのに、知り合いの依頼じゃねぇか。

 あーあ、困るよ……ホント……



「うおおおおおお〜〜〜〜〜ん!!!!」



 ほら。こうやって泣いちまって……

 そう……前を歩いてるポンプが大号泣。



「「いやお前かいっ!!」」



 俺とドラコはツッコミを入れるだけだ。

 ドラコの涙は引っ込んだらしい。


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