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#94 依頼をこなそう!②



「……? マコト、その手に持っている紙の束は?」


「ん? ああコレか。冒険者ギルド追放されちまったからよ、この際だからいっぱい依頼こなしていこうと思って」


「そうか、指名手配された挙げ句にギルドを追放か。今はどれをやっているのだ?」


 建物の影から路地裏を注視しつつ、ウェンディが聞いてくる。

 追放とかにはツッコミどころか呆れることすら無いとは……俺もそこはスルーして彼女の隣に並ぶ。



「これこれ。『最近、うちの家や周辺の家に毒蛇が出てきて夜も眠れない。どこから湧いてきているのか全くわからなかったが……ついこの前に路地裏で不審者の目撃情報があったらしく、そいつが怪しい』ってヤツ」



 ふむ、と顎に手をやって頷くウェンディ。

 俺は続ける。



「特徴は、頭にターバンみてぇなのをを巻いてて、ボロっちい身なりでガリガリのジジイだってよ」


「あとは……()か?」


「よくわかったな。もしかして」


「マコト。どうやら『たーげっと』は我々と同じようだぞ」



 すげぇ偶然だな。

 と思いきや、やっぱりギルドに依頼を出したのに冒険者どもが全然対応してくれねぇから、騎士団が呼ばれたんだと。

 確かにこれも報酬は少なめだが……マジであのクソ冒険者どもめ……


 騎士団が忙しいのも納得だぜ。


「小隊長、どうですか?」


 ポンプが様子を伺う。こいつやっぱり俺が関わってねぇとスゲェまともな騎士なんだよな。


「少し辺りを警戒している様子はあるが……先程の我々の大声は、笛を演奏していたからよく聞こえていなかったようだ」


「ああ、良かった……マコト様が凛々しすぎるせいでバレちゃうところでしたよ」


 てめっ……!

 本当に俺のファンか!? っと言いかけたがギリでやめた。


 あのガリガリジジイ、確かに上裸で笛を吹いてるようだな。頭にターバン巻いてて、地面にマット敷いてて……


「貴様ら見えているな? 怪しいのは周りの()だ。中から蛇が出てきた瞬間に現行犯逮捕する」


 おお〜現行犯逮捕とか、警察24時みてぇでカッコいいじゃねぇかウェンディ。

 割と上手な笛の演奏をもうちょっと聴いていると、


「壺から顔を出したぞ。蛇だ!」


 笛の音色に合わせて、禍々しい色の毒蛇たちが踊るように這い出てくる。

 『蛇使い』を現認したウェンディと他の隊員がジジイに突撃すると、



「――気づいとったわ、バカ騎士どもめ」



 バレてたか。

 路地に入ったウェンディたちはジジイに真っ直ぐ向かってたが、脇道から別の蛇が飛び出してきやがった。


「シャーッ!」


「うおお!?」

「噛まれるなよっ!」


 うじゃうじゃ寄ってくる毒蛇の群れに軽くパニックになる騎士たちだが、


「あ!? マコト様こっちにも!」


「おいおい後ろからは卑怯だぜ!」


 残ったポンプと俺も背後から多数の蛇に囲まれてた。クソ、無音すぎてわかんなかったぜ。


「守りますっ!」


 するとポンプはすぐにスライム化して俺に覆い被さってきて、



「〈スラスラの〜〜〜〜……」


「「シャーーーッ!」」


「……★(よろい)〉っ!!」



 は?

 まるでブラックビアードの風の鎧みてぇに、俺の全身をスライムボディがスッポリと包んだ。

 蛇が群がってきて、好き放題に噛みついてくるがノーダメージ。


「ポンプお前、毒も平気か!?」


「あ〜〜〜くすぐったい! 平気みたいですねこれは〜〜」


「調子狂うな……」


 いっつも心配して損してるよな俺。

 スライムがトラウマになりつつある俺だが、味方になるとこんなにも頼れるとは……

 あと技名なんか変だったが大丈夫か?


「ふぅんッ!!」


「「シャー!?」」


 ボヨ〜ンと一瞬にして膨張したポンプは、群がる蛇を弾き飛ばした。

 突撃した騎士たちの方もウェンディを筆頭に蛇どもを蹴散らしたようだが、


「シャー……」


 で、でけぇ蛇出た!

 アナコンダレベルの大蛇が、笛の音色で路地の奥から顔を出しやがる。

 おいおいこれ魔物じゃねぇのかよ? 普通に路地裏に住んでたってか? 異世界こわっ。


 他にも小せぇのが続々と壺から出てくるが、



「〈スラスラの〜〜★グミ()ち〉っ!!」



 両手両足を大きく広げて立つポンプの全身から、小さなスライムの玉がポコポコ飛び出し、


 ――ドドドドドドドドドドッ!!


 すごい勢いで射出され、マシンガンみてぇに小さい蛇をぶっ飛ばしてく。


 って、やっぱ技名おかしいだろ!!

 グミとか異世界にねぇし!! でもポンプだからもうどうでもいいやってなる不思議。


「な……!?」


 飛ばしたスライム弾丸は自動でポンプの体に戻っていく。蛇使いも驚愕してるが、


「このスライムの体、最高です〜! どうですかマコト様!」


「すげぇとは思うけど感想聞く前にデケェの仕留めろよ!?」


 興奮してるとこ悪いが、アナコンダがまだこっち向かってきてんだよ!

 俺は駆け出し、


「そらよっ」


「ジャ!!!」


 大口開けてきた顔面に横から蹴りを入れ、民家の壁にぶつけてやることで事なきを得る。


「ポンプやっちまえ!」


「マコト様のためならば〜っ!」


 呼び声に応えてポンプが突撃してジャンプ、



「〈スラスラの〜〜★スラ★ストライク〉ぅぅぅぅ〜〜〜〜!!!」


「混ざってる混ざってる色々と!!」



 巨大化した半透明のスライム拳が振り下ろされ、蛇使いに迫ってく。

 技名で焦る俺をよそに、


「ふぉぉぉぉオ〜〜〜〜ッ!!!?」


 ――バゴォォォン!!


 ぶん殴られ、蛇使いはあっけなく地面にめり込んだ。笛も壺もペシャンコだ。

 おいおい死んでねぇか? と思ったが、ウェンディが手錠を付けてるし、まぁ大丈夫だろ。



▽▼▼▽



「手伝ってくれて感謝するがマコト……本当に、我々の手柄ということで良いのか?」


「だって俺は蛇一匹蹴っただけだぜ。ほとんどポンプがやったんだし、俺は冒険者じゃねぇし、お前らの手柄だよ」


「すまぬな。では蛇使いは連行する……その大蛇の死骸は壁の外へ捨ててくるんだ」


「「はっ!」」

「うわっ、重っ……!」


 命じられた隊員たちは協力して大蛇を持ち上げて門へと向かった……騎士団も大変だな。

 え? 俺? 運搬は手伝わねぇよ?


「あのぅ、ウェンディ小隊長……」


「どうした」


「今日はもうちょっとマコト様についていっても……いいですか?」


「……うむ、まぁ良いだろう」


「ありがとうございますっ!!」


 え?

 ポンプついてくんの?



▽▼▼▽



 その後も俺は――届け物とか、ちょっとした家具の修理とか、人探しとか手伝った。

 どこに行ってもポンプが尊敬の眼差しで見学してくるモンだから、ちょい恥ずかしかったけどな。


「マコト様、今までは魔物の討伐依頼ばかりでしたよね。どうして急にこんな依頼を?」


「俺の今までの仕事を当然のように把握しやがって……」


 初めて会ったばかりとは思えねぇストーカーっぷりだ。

 大業を成すことだけが『救世主』じゃねぇって話があったが、確かにそれを考えたキッカケはあった。


「街の人たちの態度、だよ」


「え?」


「俺は賞金首になったが、街の人は一方的に責めてきたりしなかったんだ。相手がベルク家ってのもあったろうけど……間違いなく『魔王を倒した男』って評価があるんだろ」


「い、いや、でもそれって当たり前じゃないですか! マコト様は間違いなく魔王を倒したんですよね!?」


「倒したけど、それを信じてないヤツばかり会ってきたんでな。自分を嫌われモンだと思ってたんだ」


「そんな……」


「でもポンプ、お前にも救われた」


「えっ!」


「驚いたんだぜ? 俺のこと尊敬してるヤツなんていると思わなかった。友達とかはいるけどよ」


 もっと深い事情を言っちまうと、



「前に魔王を殺したのは、魔王が俺と同じ『()()()』だったから、その責任は転移者である俺が取るべき……それが主な理由だった」


「……っ!」


「『この世界を救う』って意識が薄かったワケだな。俺は……まだまだこの異世界のことを知らねぇ。だから、知りたいんだ」


「……!」


「名も知らねぇ人と交流して、もっと仲を深めたい。もっと馴染みたい」


「……」


「よく知らねぇ世界の『救世主』だから違和感があったんだ。納得いかねぇ部分があるから、俺自身は皮肉のように名乗ってたんだ」


「……」


「俺は……知ってる世界の……俺自身が愛すべき世界の『救世主』になりたくなったんだ」



 今さらだけどな。

 聞いていたポンプは、


「う……ううっ……」


「おい、どうした!?」


「感動で……感動で前が見えまぜぇぇん!!」


 ギャン泣きしちまった。

 女の子泣かせて、いよいよ街の人からの視線が冷てぇぞ。


 と、



「ひゃっはー!! 賞金いただきぃぃ!!」


「何ッ、『ヒャッハー』だとッ!!?」



 その言葉にまた別のトラウマが呼び起こされ、俺は背後からのナイフ攻撃を華麗に避けることに成功。

 ハイドが復活しやがったと思って振り返ると、



「……何だよ、ドラコか。久々で脅かすな……ってか、普通に殺そうとすんじゃねぇよ!!?」


「えー、だって『マコトっち』さぁ、アタシが超貧乏なこと知ってるでしょ? 命を捨ててお金ちょうだいよ」


「まだホームレスみてぇなゴミ漁り生活か……そんな理由で殺されちゃたまんねぇよ」



 ボロ切れみてぇな黒いマント? を羽織る、黒髪の美少女。

 いや顔だけは美少女なんだが、衛生的に近づきたくねぇ感じ。半年前と変わらねぇな。


「だっ、誰ですかその女……!」


 ポンプが、なぜか歯ぎしりしながら聞いてくるんで、



「こいつはドラコだ」


「お、またカワイイ女騎士なんか侍らせちゃってマコトっちはクソ女たらしだねぇ〜いやたらしっつってもプラムっちみたいな小さい女の子とかこのアタシであるドラコみたいなうら若き18歳の女の子ばっかり集めてるわけだから犯罪臭がスゴいというか、え? どういう意味の『救世主』なの? って、もしかしてそれ何らかの隠語なのかって噂で持ちきりだとか持ちきりじゃないとかいや全部ウソなんだけど」


「半年前からのダチで一緒に魔王軍と戦ったんだが、一言で説明するなら……」



 はい――頭のおかしいヤツです。

 見ての通り。


 半年前とマジで変わらん。

 身振り手振りのジェスチャーもやかましいし、口もベラベラベラベラうるさいし。


 だが依頼の中に、明らかにコイツと関わりのありそうな依頼があったような……

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