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#89 闇の心臓



 俺の命を狙う誰かのせいってことになると、誰かがガーゴイル軍団を操作して寄越したってことになるよな?


「それにリスキーマウスが地下を通って俺のマイホームに侵入したのも……出来すぎだし、タイミングも神がかってたよな」


「ですね」


「こうなってくると魔物じゃなくてもベルク家とかポーション屋とか盗賊団とか、魔物じゃねぇヤツらまで、みんな俺の命を……!?」


 何か異世界の全てが敵に見えてきちまいそうになった俺だが、



「……マゼンタ団長が仰ってたんですが『魔王不在の世界は悪が蔓延りやすい』と……ちょっと違う話になりますかね」


「……でもそれ間接的に俺のせいじゃね?」



 ルークは目線を逸らして控えめに頷く。

 やっぱ俺のせいではあるんかい。



「魔物を創造し使役するのは『魔王』であることは知っていますね?」


「あ、あぁ。忘れてた」


「そして、これは不確定なのですが『魔王軍幹部』も同様のことができる可能性があるんです。どちらも闇属性魔法の使い手なのが定石ですし」


「え?」


「『魔王軍幹部』が魔物を操作していたことがある、という記録も残っていました。誰も彼もできるとは限りませんが……」



 要するに……創造、は魔王の特権かもしれねぇが、操作ぐらいなら幹部でもできることがあるってワケか。

 となると、


「マゼンタやバートンの話を聞いて……あのオオカミ獣人のハイドは『魔王軍幹部』ってことで落ち着きそうなんだが、全部あいつの仕業か?」


 敢えて俺は結論に飛びついてみた。

 いや、違うってことぐらいわかってるさ。



「ハイドさんも間違いなくグルでしょうけど――ダンジョンで彼が倒された後、姿を消してしまったという点が引っ掛かります」


「……そこだよな」


「もっと言うと、彼にここまで精密な魔物の操作ができるとはちょっと……武闘派のようですからね」



 決して『バカ』とか『頭が悪い』って言わねぇのがルークの優しさ。

 だが同時に、実はハイドは察しが良かったり、やろうとすれば理論的な会話ができることも見抜いてるのかもしれねぇな。

 その上で、アイツだけじゃねぇと言ってる。


「まぁ知能犯というか、もうちょっと参謀的なヤツが他にいるっぽいな」


 俺がそう言うと、ルークは俯く。



「……僕はダンジョンの『ボス』がそれだと確信していたんですが……拍子抜けでしたね」


「あぁ、そういう意味だったのか」


「ダンジョンが突然現れた理由も不明。突入時から魔物を操作して的確に騎士団をバラバラにしたりと、妙に計画的だったのも……この件に関係があるかと思いまして」


「なるほど」



 結果として『ボス』はクモ型の魔物"ジョーイ"だったワケで、言葉も喋れねぇあんなヤツが参謀になんかなれるワケがない。もう倒しちゃったしな。

 まぁ、


「裏から魔物を操作して、安全な所から俺を狙ってたヤツが、『ボス』として待ち構えて堂々と登場したら笑っちまうけどな」


「あ、はは……」


 少し赤面したルークは、恥ずかしそうに後頭部を掻いてる。

 バカにしたワケじゃねぇよ? 俺はシリアスな話でも『おふざけ』をねじ込みてぇんだ。


 ――ダンジョンと言えば、話すべきことはまだいくつかある。

 が、その前にさっさと聞いとかなきゃな。



「何で、俺ってこんなに命狙われちゃってんの? モテモテすぎだろ」



 その辺の小悪党とか、ハイドとかの比にならねぇレベルで暗躍してるヤツがいるのはわかった。

 そいつの壮大な計画(笑)に巻き込まれてんのもわかった。


 だが、暗躍も計画も、目的ナシってのはあり得ねぇんだ。



「マコトさん。魔王を殺すと、殺した者が魔王に成り代わる『めかにずむ』は理解していますか?」


「あ、あ〜っと、アレだろ? 『魔王』って存在は身体に『闇の心臓』を持ってて、殺されると、殺したヤツに『闇の心臓』が生えてくる……みたいな?」


「その通りです」



 あれ、自信なかったんだが正しかったようだ。じゃあこの認識のままでいいか。

 でも、



「俺は違うんだよな」


「……」


「半年前。『聖剣エクスカリバー』に、エルフの泉の『聖水』をぶっかけて、『闇の心臓』を一突きにしたんだ。聖なるパワーで浄化されちまって、俺には『闇の心臓』は発現しなかった」


「……」


「そ、そうだろ?」


「……」



 何で黙ってんだルークは。

 確かその『闇の心臓』自体が闇属性魔法を使える適性となるらしいが、俺は使えねぇワケだし、魔物だって普通に襲ってくるし……



「そこなんですよ、問題は」


「ッ!?」



 ルークの目が鋭い。

 こいつ、優しいし信頼してるんだが、時々怖く感じることもあるんだよな。



「マコトさん……魔王を刺し殺した直後、何か、()()()()を感じたりしませんでしたか?」


「は……? な、何が言いてぇんだよ……!?」



 この流れヤバくねぇか。

 正直どういう話になってきたのかは大いに察しちまってるから嫌だったが、仕方無く半年前の記憶を掘り返す。




『妙に胸が痛い。熱い。実際に刺激を与えてくるほど、俺の中の『罪悪感』は強いってのか。』




 それは、紛うことなき、半年前、魔王を殺した直後の俺のモノローグ。


 感情の変化だとか、ストレスとか、そういう感じの精神的な痛みかと思った。

 今の話が事実なら相当痛かったはずだが、戦闘のアドレナリンでわからなかったのかもな。


 汗が噴き出す。


 目が泳ぐ。


「……思い当たりましたか?」


 目を閉じてたルークが、覚悟を決めたように目を開いて問いかけてくる。


 口が、唇が震えちまって、俺は何も返事ができないまま――


「思い当たったん、ですね?」


 ルークに内心を見透かされ、完全に正解してるそれを否定することもできず、




「マコトさん。あなたの胸には人間としての『普通の心臓』が変わらずに存在します」


「……あ……」


「が、魔王を殺してから、あなたの胸には()()()()……『闇の心臓』も発現しているんです」




 ウソ、だろ。

 そりゃつまり『魔王の証』だろうが。

 あんなに努力して、新たな『魔王』にならねぇように苦労したのに……?

 それだけは避けようと、してたのに……!



「……はっ……笑えるな。俺が『魔王』ってか」


「……」


「もはや『救世主』って肩書きも……皮肉にしか聞こえねぇ……」


「……マコトさん……っ」



 ルークだって、言いたくなかっただろう。あいつも信じたくなかったはずだ。

 でも、また思い当たったことがあり、俺は伝えた。


 決定的な『状況証拠』ってヤツをな。




『その心臓ォオ! お前の呪われた心臓ォォォ! 俺たちにっ、寄越せェェェェェェ!!!!』




 それは――死闘の末、お互いに追い詰められた状況でのこと。


 『魔王軍幹部・ハイド』が放った、魂の叫びだった。

 『俺たち』ってのも、ベアヘルムだとかジキルだとかベルク家のモンじゃないよな――今なら納得だ。


 これが目的か。

 今までの全ての辻褄が合いそうだ。


 ――聞いたルークは頭を抱えていたな。






















前作からの話が多くて申し訳ないです。

いや、他のはどうでもいいことだったり、後付けだったりが多いのですが…

この『闇の心臓』のお話だけは、本当に前作からずっと、続編があったら必ず回収しようと思っていたガチの『伏線』だったんです。カッコつけるのは嫌いな作者が唯一『伏線』と呼べるものでした。

もし気になる方いらっしゃれば、前作#163の後半にしれっと書いてありますので…

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