#9 騎士団、見参
「……ん!? あそこのガーゴイル、ちょっと違う気がしねぇか? おいアバルド?」
――『学園』の五階。
俺と新人騎士のアバルドは、生徒を守りつつガーゴイルどもと戦う。
さっきから倒しまくってる、俺の知ってるガーゴイルどもは黒い体。
だが何体か灰色で腕の長いヤツがいるんで、気になってアバルドに聞いてみた。
「はい、あれは『ドロッパーガーゴイル』であります! ガーゴイルの亜種のようなものであります!」
「どろっぱー……初めて聞いたが」
半年住んでる俺が見たことねぇ魔物とは。魔物の種類多いな、さすが異世界。恐るべし。
「そうでありますか! では自分が説明をば……」
「頼む……っておい! アバルド気をつけろ!」
「や!?」
説明を始めようとしたアバルドの腰に、ドロッパーガーゴイルとやらの長い腕がビヨ〜ンと伸びてきて、巻きつきやがる。
そしてアバルドを捕まえたまま、ドロッパーガーゴイルは窓から外へ――
「誘拐じゃねぇか!?」
思わず叫んじまった。
だってそうだろ。捕まえたアバルドを、攻撃もせず空に連れてってんだ。ありゃあのまま戻らねぇパターンだろ。
「ああああ! 高い! 怖い! ……そ、そうであります! 此奴は別名『人攫いガーゴイル』! 攫われた者はどこへ行くのか、それは誰にもわからないのでありますぅ!」
「いや今お前が攫われてんだぞ!? よく冷静に説明できんな!」
メンタルの強さは尊敬するが、生真面目が過ぎるとどっか狂気的なもんだな。
「……そ、そしてこのドロッパーガーゴイルの厄介な点として、気分によっては攫った人を地面に投げつけることもあるのであります!」
「最低の気分屋だなオイ!?」
って言ってるそばから、
「あ! 今、自分、遥か下にある地面へと投げられそうでありますぅ!」
「わざわざそいつの気分良くねぇのかよ!?」
空高く飛ぼうとしてるドロッパーガーゴイルが、アバルドを大きく振りかぶって下に投げようと構えてやがる。
と言っても、まだ窓の外すぐ近く。アバルドを解放させちまえば俺が手を伸ばしてキャッチできる。
ならば。
「いでよ、遠距離武器!」
俺が両手に生み出したのは、まさかのロケットランチャー。
「えぇ!? よくわからないでありますが、とても物騒な物を持っているように見えるであります!」
「あ……あぁ。物騒中の物騒だな……だがお前を助けるためだ。許せアバルド!」
できるだけドロッパーガーゴイルに多く爆発が当たるように、発射した。
騎士なんだから耐えてくれよ!
「突然に謝罪され――ぼふぁぁっ!?」
「ギェェ!?」
いかん。かなりアバルドに当たっちまってる感じがするが、もうしょうがねぇ。
ドロッパーガーゴイルは黒焦げになって先に落ち、アバルドは窓のすぐ近くを落ち始める。
「て、手を伸ばせ! 俺が掴む!」
まずい! アバルドの反応が鈍くてあんまり手が伸びてこねぇ!
間一髪で手を掴むが、これじゃあ俺も一緒に落ちちまう――
「ふぉ〜〜ん♪」
助かっ……た?
落ちかけた俺の足を、ガシッと掴んでくれたヤツが現れたらしい。
なんか、変な台詞が聞こえた気がしたが……お、ぐいぐい引っ張ってくれる。
力強いな、俺ごとアバルドまで五階の廊下に引き戻してくれやがる。
「助かったぜ……ありが」
「ぽ〜〜ん♪」
「は?」
「みょ〜〜〜ん♪」
大の男二人をまとめて引き上げてくれたのは、子供みたいに小柄で華奢な女。フワッフワのピンク色の髪がカワイイな。
喋り方が変なのには、まだツッコまないでおく。
「やや! ネムネム! 良いところに駆けつけてくれたであります!」
「ぴょ〜〜ん♪」
ちょっと焦げてるけど元気なこのアバルドと……知り合い?
よく見りゃネムネムとかいう小柄な女は、鎧を着てるし、バカでかいハンマーを装備してる。子供みたいな見た目なのになぜか子供扱いできねぇ大人びたオーラ的にも、
「お前も騎士なのか!」
「む〜〜ん♪」
「正解であります! 実は自分は新人にして、ジャイロ団長より小隊長の肩書きを与ったであります! ネムネムも自分の小隊の所属であります!」
「え、新人なのにアバルド小隊長なのかよ!」
んでその小隊のメンバーってんなら、ネムネムもまた新人なんだろうな。
にしてもハンマーが気になるが、
「と〜〜〜ん♪」
「ギョゥッ!」
「ゥギェッ!」
ネムネムは澄ました顔で、当たり前みてぇに自分の体の倍くらい大きなハンマーを振り回し、寄ってきたガーゴイルを豪快に蹴散らす。
よし、ツッコむぞ。
「ネムネムお前喋り方おかしいだろ!!」
「……ふぉっふぉっふぉっ、ふぉ〜〜ん♪」
「今ちょっと笑ったのかお前!?」
俺はちっちぇートンカチを生み出して振り回しながら、ネムネムの喋り方にツッコミ。
なんか今バカにされた気がしたんだが、急にアバルドが話し始める。
「成程! ネムネムによるとどうやらジャイロ団長は現在、下の四階にて生徒たちの支援をしているらしいであります! すぐに終わらせて五階に来る、と仰っていたそうであります!」
「いや業務連絡だったのかよ! ってかお前は何で言葉理解してんだよ!」
さっきから『ぽ〜ん』だの『ふぉ〜ん』だの言ってるネムネムだが、まさか一つ一つに意味があるってのか? わかってないの俺だけ?
って、
「ジャイロ来てんのか!? ここに!」
「はい、来ているであります! あなた、団長を呼び捨てにするとは豪快でありますな!」
「ん?」
あれ、そういえばアバルドにもネムネムにも、俺の自己紹介してなかったわ。
有名人っつってもなぁ。名前が広まっただけで、俺の顔知ってるヤツは少ねぇだろうな。
「悪ぃ、紹介遅れたが俺はマコト・エイロネイアーだ。今日はここで特別講師やっててな」
「ふぉ〜〜ん♪」
「ややや! あなたは『救世主』マコトさんでありましたか! 失敬、失敬であります! ジャイロ団長とは友達なわけでありますね!」
認識のズレが無くて良かったが、騎士団の現団長ジャイロは、半年前に俺と一緒に魔王軍と戦った主要メンバーってワケ。
それより前からダチだったし、今でも相棒だし、普通にタメ口さ。
でもな、
「お前らも知ってるよな? ジャイロのヤツはつい最近までは団長じゃなかったんだぜ」
もともと団長はジャイロの父、エバーグリーンだったんだが。
半年前エバーグリーンは魔王軍に殺されちまったんだ。そこでジャイロが俺と一緒に魔王軍を討伐し、そのまま父の跡目を継いだ。
「もちろん知っているであります! エバーグリーン・ホフマンは、亡き今でも全国民が『永遠の英雄』として讃えているでありますから!」
そっか……最近あんまり名前を聞かなかったが、そんな感じなんだな。
話が逸れたが、何が言いたいかっつうと、
「俺さ、今でもジャイロが団長って慣れねぇんだよなぁ。だってジャイロの弱気なとこ何度も見てきたんだもんな」
「やや!」
「るんる〜〜ん♪」
興味ないフリをするアバルドとネムネムだが、どう見ても耳がダ○ボになってるし、目がキラキラしてる。
そうだよな、今となっては立派な団長でしかない男の暗黒期。興味ないワケねぇ。
ふふ、聞きたいか? 聞きたいか〜?
「なら聞かせてやろう! まずとある村で俺とジャイロが捕まった時のこと。あいつは檻の中でウジウジと弱音を――」
ん? 何か聞こえてくるような?
「マコトお前やめろー!! 新人の前でオレの黒歴史掘り返してんじゃねぇーーー!!!」
「うぎゃあああ!?」
クソ熱ぃんですけど!?
火の魔法を纏わせた剣を廊下いっぱいに広げながら、ジャイロが突撃してきやがった――ー