#87 SIDEルーク:彼の居場所
「――今の話、本気なんだよな? ルークさんよぉ……」
「はい。他でもなくあなただから頼みたいんですよ。ブラッドさん」
「ダーッハハハ! こんなチンピラに嬉しいこと言ってくれるな……頭の隅に置いとこう」
大通りから外れた、いわゆる路地裏。
魔術師団の二番手である青髪の若者ルークは、マコトの子分である冒険者ブラッドと、とある話をしていた。
その話もまとまったところで、
「ダンジョンはどうだったよ? あんたもプラムちゃんと関係が深いだろ」
まだ全身の包帯が痛々しい大男ブラッドは、木箱に座りながら「俺も行きたかったがこのザマでな」と自嘲しつつ問うてくる。
ルークも頷いて苦笑し、
「なかなか大変でしたね……でも、ゼインさんが見つけてくれたポーションのおかげでプラムは助かりました。ありがとうございます」
「いやぁ〜良かったっス! プラムちゃんが元に戻って!」
隣で聞いていたゼインも笑っており、喜ばしげな上に誇らしげだ。
「だが、何となくわかる。またマコトの親分は体を張ったろう? プラムちゃんのためとなりゃ、死に物狂いだったはずだ」
「っ……そうですね……」
言葉通り、マコトは死ぬほど体を張りまくっていた。それを目の前で何度も見てきたルークには、気の利いた返事は思いつかなかった。
「ルークさんよ、お疲れ様だったな。ダハハハ! 若ぇのに偉いよあんたは!」
「いえいえ……」
「おかしいな! 俺たちゃ半年前、一緒に魔王軍を倒したはずなのに! まるで初対面みたいになっちまってる!」
「本当ですね、もっとお話する機会があれば良かったですが……」
「これから仲良くすりゃいいじゃねぇか! ダッハッハ!」
陽気にルークの肩をバンバン叩いてくるブラッド。
だがルークは気づいていた――マコトの子分はブラッドとゼインの他に、いつも三十人ほど一緒にいたはず。
他に一人も見当たらないのは、彼らが殺し屋ハイドと交戦したことと……無関係ではないのだろう。
察していながら、ルークは触れることはしなかった。
そういえば、と思い出す。
彼らは最近まで診療所で治療を受けていたはずだが、
「もう一つ聞きたいのですが……ブラッドさん、ゼインさん。診療所の『205』の病室に『フィーナンさん』という女性がいたのを知っていますか?」
「ん? 誰だそりゃ。知らんなぁ」
「あれ? ルークさん、あんたの彼女は『ミーナ』ってメイドさんじゃないんスか?」
「いや、そういう話ではなくて……!」
ニヤニヤしているゼインにとりあえず否定を返し、ルークは咳払いをして真剣な表情に戻る。
「『学園』の新米教師で、ガーゴイル襲撃事件でマコトさんに助けられた方だそうですが……ある噂を聞いたんですよ」
「噂?」
「病室から失踪してしまったそうなんです。まだ治療は終わってないのに、突然」
「初耳っスね」
「ほぉ……でも、それって何か大事なことなのか?」
「わかりませんが……一応、マコトさんの関係者ですし。把握できたら良いなと思いまして」
街中で話題になっている、ベルク家壊滅事件、マコトたちの指名手配。
もちろんルークは把握していた。
――また色々と事態が動き出してきたようだ。
このタイミングでは、今のような『変な噂』も重要になるかもしれない。
「あんたも大変なんだな……」
「マコトさんほどではありませんよ。本当に彼は心労が絶えないと思います――さて、彼と話しますかね」
「ダンジョンも一段落したのに、また事件に巻き込まれてるみたいっスけど……どこにいるか知ってるんスか」
「その点心配はありません」
首を傾げるブラッドとゼインに、ルークは余裕の微笑みを返す。
次の瞬間、
――バゴォォォンッ!!!
「「!!?」」
三人のすぐ真横に、鞭を持った大男が降ってくる。
その男はブラッドと変わらない体格だが、顎を砕かれ、白目を剥いて気絶している。
「こ、こいつは確かBランク冒険者……ん? ルークさん? なぜ笑って……」
困惑するブラッドと対照的にルークは余裕の微笑みを崩さず、大男の飛んできた方向を見ている。
「ね? マコトさんはいつも騒動の中心にいますから」
彼の居場所をルークは確信していた。迷うことなくスタスタと歩いていく。
意味がわかったブラッドとゼインは、腹を抱えて爆笑していたのだった……




