#86 SIDEジキル:逃亡者
すいません。古のSIDE使いになります。
ただ「同じ場面の別視点」ではなく常にストーリーを進ませるので、そもそも使い方間違ってる…?
四章と最終章はコレを多用する可能性が高そうですが、多少わかりやすくなるかなと思い、マコト以外は三人称で地の文少なめで統一してみます。
「もぐ、もぐ……んー、おいしい」
マコトの家にて、ピンク色の鞭で大人しく拘束されていたジキルは、テーブルの上のお菓子のようなものを食べている。
ぐるぐる巻きの手足は使えないので、犬のように貪ってしまっているのは仕方が無かった。
「……あの話、本当かな……」
マコトが出かける前に言っていた、朝までにベルク家を壊滅させるということ。
本気で言っていたのなら、既に事件が起きているはずだが――
「キィーーー! キィーーーッ!!」
「わっ、びっくりした……」
ここは二階なのだが、大きな鳥が嘴に新聞を咥えて窓を叩いてきている。
開けろ、という意味か。
「無理。だって手が使えな……」
「ツカエルヨ!!!」
「は?」
バカみたいな甲高い声。ジキルは耳を疑う。
まさか鳥が喋ったのだろうか? いや、ずっと見つめていたがそんな様子は見えなかった。
するとピンクの鞭がスルスルと体から離れていき、
「アケテ! マドアケテ!」
「……は?」
ピンクの鞭がミミズのように這い回り、ジキルに喋りかけてくる。
その先端には、あのプラムとかいう子供の目・鼻・口が浮かび上がっているのだ。
「あはは! どうだったジキル〜? 鳥のマネ面白かっ――」
「キッッッッモ!!!?」
「え、キモい!? シツレーな!」
「いやいやキモいキモいキモい!! あんたの魔法、本気で何なの!?」
ニョロニョロと動きながら当たり前のように喋ってくるので、ジキルは完全にドン引きだった。
とりあえず「窓開けて」と言われたので窓を開け、伝達鳥から新聞を受け取る。
「……! これって……」
「あのね〜、マコトはベルク家やっちゃってないんだってよ?」
「マコトではない……? じゃあ、いったい誰が……!?」
「それがわかんなくて困ってるんだよね〜」
「っていうか何この懸賞金額!? マコトだけならまだしも、何であたしも!? しかもハイドまで!? 意味がわからない!」
「ね〜」
共感しかしてくれない役立たずのミミズと普通に喋っている自分に驚くジキルだが、あることに気づく。
「え……っと? 私を解放してくれたのって、もしかして……」
「うん! マコトが心配してたよ! だから私がエンカクソーサ? やってるの!」
「……あの男……っ! はぁ……あたしは、この家の金品とか全部盗んでいっちゃうかもしれないんだよ? また関係者を殺すかもしれないよ?」
「そだ! マコトから伝言あった! もう人はころっ、ころし……コロコロ……」
「『もう人は殺すな』って?」
「そ〜!! まぁでもそんなこと言って、ジキルのこと信じてるみたいだけどね〜!」
「……っ! わかった……ありがと……えっと、あの……プラム」
「バイバ〜イ!」
聞き届けたミミズ型のプラムは、もう魔力がもたなかったのか消滅していった。
奇しくもベルク家の関係者で最後の生き残りとなり、超高額の賞金首にまでなってしまったジキル。
だが彼女は存外、晴れやかな気持ちであった。
死んでしまったであろう同僚たちに対する、申し訳ない気持ちもある。
(でも……後を追うのは違うね、もう生きてしまっているから……だったらみんなの分まで、あたしが自由に生きるよ。できるかどうかまだわからないけど、今までとは違う人生を歩もう――!)
実のところジキルは――マコトと、そしてプラムによって、心を救われてしまったのだった。
そんな時でも、
ドン、ドン、ドン――――!!
激しいノック音。
世界は、許してはくれないのだ。
「ごめんくださ〜い! マコト・エイロネイアー殿のご自宅でよろしいでしょうか!」
「サンライト王国騎士団の者ですが!!」
(……騎士団!?)
ドアのある一階に降りようとしていたジキルだが、訪問者の所属にゾッとしてしまった。
正義の機関がこのタイミングで現れるなど、
(……目的は、あたし達を捕まえるか……もしくは殺すつもりか……)
「マコトさ〜ん! 二番小隊のラムゼイですよ〜、開けてくれませんかね?w 俺とマコトさんの仲じゃないっすかw」
「ダンジョンでは世話になりましたが、出てきてくれないなら仕方が無い!」
「開けますよぉマコト殿!?」
ラムゼイ、という名前には聞き覚えがある。ダンジョンの中でも目立っていたメンバーだったのだろう。
それ以外にも多数の騎士が来ているようで、
――ガシャァンッ!!
ドアが、強行突破されたようだった。
(クソ……騎士団と戦うなんて……それに)
立てかけてあった刀を拾う。
だが『彼』からのあの言葉は、ジキルの心の中で光り輝いていた。
『もう人は殺すな』
恩人からの伝言である。
簡単に破るわけにはいかないだろう。ジキルは三階へと階段を上る。
騎士たちも駆け上がってくる音がするが、
(!?)
ジキルは、階段のとある段を飛ばして進んだ。違和感がしたのだ。
騎士たちがジキルの気配に気づき、どんどん階段を上って、
「おわぁ〜〜!!?」
先程ジキルが飛ばした段を踏むと穴が空き、騎士の足が抜けなくなる。
それを越えていった別の騎士は、
「ッ!? ぼはぁッ!!」
天井から振り子のように降ってきたハンマーのようなものに顔面を殴られ、他の騎士ともども転がり落ちていった。
(何だ!? この罠だらけの家は!)
四階まで上がり、部屋へと転がり込む。
騎士たちも持ち前の粘り強さで立ち上がり、ここまで階段を駆けてきた。
「『殺し屋』ジキル! ベルク家殺害の容疑で、逮捕する!」
「止まれ!」
「やなこった!!」
騎士団を背に、ジキルは殺風景な部屋を――何かを避けるように奇妙な動きで――駆け抜けて、窓を目指す。
「待て! 覚えてるぞ、マコトさんを狙ってた卑怯な殺し屋め! 〈シャイニング・スラッシュ〉!!」
「ッ!? 当たるかっ!」
ラムゼイと名乗っていた金髪の騎士が、他の騎士たちが走っている後ろから光属性の斬撃を飛ばしてくる。
ジキルは走りながらも身を屈め、
――ガシャンッ!!
斬撃は窓を割り砕く。
ジキルが窓まで到達すると、
「うわぁぁぁ!!」
「ぎゃああ!!」
床の糸やボタンを踏みまくった騎士たちが、飛んでくる矢に吹き飛ばされ、網に捕まり、散々な目に遭っていた。
「すごい家ね、ここ……それじゃ!」
「「待てぇ!」」
割れた窓からフワリと飛び降りたジキルは、隣家の屋根に着地。
(探さなきゃ。マコトとプラムを)
そのまま屋根から屋根へ飛び移り、街を疾走していった――




