#80 魔改造メイド
やっと帰ってきたぜ、サンライト王国。
と言っても1日しか経ってないけど。
白くて高〜い外壁の下、門番に挨拶して門をくぐり、夢のマイホームへ向かう。
プラムだってビックリするぜ……
「え?」
「わ〜! マコト、こんなに高い家に住んでるんだね!!」
「……えぇ?」
あれ、おかしいな……確かにお屋敷のような家を見せるつもりだったワケだが、プラムが言ったのは値段の話じゃなさそうだ。
だって、
「伸びてる……よな? 縦に……」
マジで、高さがクッッッソ高くなってる。一瞬タワマンかと思うぐらいだ。
何度も正しい場所か確認する。サングラスも何度も拭いて見てみる。
やっぱ……俺の家だよな、コレ。
「あっ……マコト様! お帰りなさいませ!! また少しお家を弄りました!!」
声をかけられ振り返ると、笑顔のミーナとメイド軍団がゾロゾロ歩いてくる。
いやいや、
「お前何やってんだ!!? 何階建てだこりゃ!?」
「20階建てぐらいだと思いますが!!!」
「自信満々に言うな! ってか『ぐらい』じゃねぇよお前が知らなくてどうすんだ!!?」
見上げるほど高ぇし、てっぺんの方はもう雲まで届きそうだ。今までは序の口で、これが本当の魔改造だよな。
ミーナってこんな頭おかしい系のキャラだったっけ? 何の工夫も無く、ただ縦に伸ばしやがって……建築基準法とか大丈夫なのかよ。
「『異世界の救世主』であるマコト様に、あんなものでは足りないだろうと思いまして……増築させていただきました」
「どこからツッコめばいいのかわからんが、まず前から思ってた、お前ら何で大工さんみてぇなことできるの?」
「魔術師団のメイドですから!!」
「へ〜そうなんだ〜」
もはや思考停止で返事してる俺。
あと気になるのは、
「マゼンタ団長殿は知ってんのか? コレのこと……」
「知ってますが!!」
「えぇ……じゃあ何で縦に伸ばした?」
「敷地を増やすことはできないので!!」
なんか、なんだろう。頭痛くなってきたわマジで。質問はもういいか。
トンデモ魔改造だが、俺のためにやってくれたんだ。感謝は伝えないとな。
「あ……ありがとよミーナ。たぶん2階か3階ぐらいまでしか使わねぇけど……」
「とんでもございません!!」
「金払った方がいい?」
「結構です! 『無料さぁびす』です!!」
ダンジョンの財宝で持ち帰ったのはあの一箱だけだし、それも騎士団にプレゼントしちまったからな。
俺の財政状況は全く変わらん。まぁ無料ってんなら甘えていいか、ミーナ達とも付き合いは長いし。
すると、
「ミーナ〜〜〜っ!!」
念願の再会だな。
ずっと前から友達であるプラムが嬉しそうに、勢い良く抱き着いてった。
「あらっ……プラム様! そうでした、無事に戻られたのですね! 良かったぁ!」
「またマコトが助けてくれたんだ〜!」
無事に戻った、ってのはゾンビから人間に戻ったことと、ダンジョンから生還したことのダブルミーニングか?
熱く抱き合いながら俺にも視線を向けてくるミーナに、親指を立てた。
そして思い出す。
「う……うぅ……っ」
今にも意識を取り戻しそうなのは、脇に抱えてるメイド服の殺し屋ジキル。
こいつ、前にミーナを襲おうとしたんだった。
「マコト様? その方は……」
「あぁ。ベルク家の殺し屋、ジキルだ。ブチ殺すつもりではあったんだが……うっかり本音を聞いたら、どうにも殺しづらくなっちまった……」
「……」
「すまねぇ。騎士団に突き出すのもどうかと思って、結局連れてきちまった。今までのことは全部俺のせいだし、お前を襲ったことを許したワケじゃなくて――」
「大丈夫ですよ? マコト様。そんなに気負わないでください。前も言いましたけどルーク様が助けてくれましたし、本当に何ともありませんから」
「あ、あぁ……」
変わらない笑顔で、変わらない声のトーンで、彼女は話す。
強がってるとか、嘘とかには見えねぇ。
「マコト様はいつも飄々とされていて冗談ばかり言われますが――あなたの『生き様』を、『信念』を、私は信じています」
「っ!」
「あなたがジキル様を許すなら、私も許します。あなたがジキル様を愛するという道を選ぶなら、私もご一緒します。逆もまた然りです」
「……失敗しちまったら?」
「笑って誤魔化しちゃいましょうよ。みんなで一緒に!」
「はは……そうか……それもいいな」
おいおい、何だよ急に。ポンコツみてぇなイメージ出しといてそのギャップ。
……俺が泣きそうになっちまったじゃねぇか。
まぁプラムと楽しそうに話してるミーナに言う必要は無いと思うが、
(キッチリ、ベルク家を領地ごと吹き飛ばして、これまでの清算をしてやるからな)
それで筋を全部通す。
しなくて良いって言うヤツもいるかもしれねぇが、やっぱり俺の気が収まらねぇからな。
メイド軍団にもう一度お礼を言って、俺とプラムと、
「っ……ここは……どこ!? あなたの家!?」
起きやがったジキルと、魔改造マイホームへ足を踏み入れた。
▽▼▼▽
1階、2階は前のまんまだな。
上の階は……そうだな、今度時間がある時に探索するか……骨が折れそうだ。
2階にて、プラムと二人並んでふっっっかふかのソファーに座る。既にここがお気に入りの位置だ俺は。
「よっこらしょっと」
「あははっ、マコトおっさんっぽ〜い!」
「……よっこらショット!!!」
「ひゃっひゃっ」
デュクシ、とプラムの脇腹を小突いてやると楽しんでやがる。ガキだな。
「……」
床に置いといたジキルは、ムスッとした顔で何も喋らない。
抵抗ももうする気は無いらしい。〈愛の鞭〉とやらでキツく縛られてるから、不可能だろうけど。
「気分はどうだ小娘? 俺やプラムに完全敗北した上、任務は当然失敗で、本音は洗いざらい吐かされて、拘束されてから男の家に連れ込まれる……いやマジでどんな気分なの……?」
「……最っ低の気分だけど」
言ってて可哀想だなって思い始めた俺を、ジキルは『キッ』と横目で睨んできたが、
「なぜここに連れて来たの?」
「騎士団にとっ捕まって、牢屋にブチ込まれる方が良かったかよ」
「……」
放っとけば普通に捕まったと思うが。わかんねぇけど。
実のところ、何で連れてきたのかは俺にもよくわからん。まぁ逃げられたりしても困るしな……
また睨んでくるジキルだが、
「ウ〜おっかねぇぜ。じゃあコレはどうだ? ――明日の朝までに、俺はベルク家を滅ぼす」
「っ!?」
窓から、夕陽が差し込んでくる。もうこんな時間か。
オレンジ色の光がジキルの顔を照らす。
驚きの中に、若干の嬉しさや悲しみが混じったような、そんな複雑な表情を――
▽▼▼▽
▽ ▽
そんな予感はしていたが――このマコト・エイロネイアーという男は、『殺人貴族』と呼称されることもあるベルク家を壊滅させる気でいるらしい。
私は……少しだけ、安心してしまった。
正直言うと、あんな貴族はいない方がいいと思う。
ただふんぞり返っているだけではなく、何かしらサンライト王国に貢献しているとしても……それでも、消えた方がいい。
「ぐが〜〜〜……」
「すぴ〜〜〜……」
ソファーの上でお互いに身を寄せて、二人して絶望的な寝相で爆睡している。
――あんなにも何度も殺そうとした私が、目の前にいるというのに。『愛の魔法』で拘束されているとはいえ……緊張感というものをどこかに捨ててきたのだろうか?
先程、マコトに聞いたことがある。
『ベルク家を……滅ぼす!? じ、じゃあ、私のことも……!?』
『お前? お前は保留だ。とりあえずは殺さないでやるぜ』
家まで連れてきておいて、結局殺すなんて変だとは思ったが……やはり殺す気は今のところ無いらしい。
安心はできないが。
「……」
体は動かせずとも、顔は動く。
外にはもう夜の帳が降りていた。窓から月を見上げる。
アルドワイン・ベルク様が……いなくなる。
マコトは、やると言ったらやる男なのだろう。それはわかってきた。
だからきっと、アルドワイン様は殺されるのだろう。
本当は喜んじゃいけないのにな……
本当は……私だって、一緒に消えなきゃいけないのに……
「んがっ!」
「!?」
突然、マコトが変な音を出した。
起きたようだ。
「……ふぁ〜〜……ん? もう夜か? あ〜〜寝ちまった……プラム起きろ〜」
「ん〜……?」
「行くとこがあるっつったろ〜」
「う〜ん……」
え……嘘でしょ?
まさかこの男、私を家に置いたままどこかへ外出する気なの!?
「拘束しているとはいえ、家に敵を放置するなんて……無用心にも程があるね」
つい皮肉っぽく言ってしまう。
「『敵』? ……あぁ、そういうことか。留守番よろしくな〜」
「バイバ〜イ」
「えっ? ちょ、本気!?」
二人とも私に手を振りながら1階へ降りていき、扉から出ていく音がした。
「……」
奴らの能天気さにも心底驚いたが……
それよりも、『敵』と言われて数秒は本気で思い当たらなかった様子が、あまりにも不可解だった……
能天気とか緊張感が無いとか言ってますが、マコト達はジキルの本音を聞くことによって、ジキルはそれを聞かれてしまったことによって、互いに諦めたというか、ある種の信頼のようなものが出来上がってる状態です。
って何となくわかってもらえれば…




