表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
79/145

#79 青空の下……






「……あ〜……」


 硬い物の上で仰向けになる、俺。

 サングラスで眩しくはねぇが――暖かな日差しを、気持ちのい〜いそよ風を、全身に感じる。


 そうか。ここは戦車の上か。


 見回してみると、久しぶりなような気がする綺麗すぎる青空。日差しを受けて輝く草原。


「あれ? 青空? 突入した時も昼間だった気がしたが……まぁいいか」


 疑問はあるけどどうでもいい。暗くてジメついた洞窟に閉じ込められてた反動もあるだろうが、景色が綺麗だからな。

 あぁ、この世界はやっぱ美しい。


「……」


「え?」


 気づかなかった。すぐ横に金髪の美少女が立ってる。真顔のソイツと見つめ合って、


「……えい」


 ――げしっ。


 脇腹を軽く蹴られると、俺は戦車から転げ落ちる。


「っ!? ああぁぁぁぁ〜い!!」


 ぼてっ、と草原にダイブ。いや何で?

 よく見るとボロッボロに大破してる戦車が、俺が離れたことで消滅する。


「いでで……そこに穴があるが……爆発オチで戦車が突き上げられて、地上まで飛ばされたってワケか……」


 もしかして地層を突き破ってきたから頭が痛くて気絶してたのか? 後頭部を擦りつつ起き上がる。


「うん。私が『ばふ』かけてたから、みんな天井に潰されてもヘッチャラだったよ。『せんしゃ』とマコトはダメだったみたいだけど……当たりどころが悪かったのかも」


「全てが結果オーライだな。ところでプラム、何で蹴った? 今?」


「今ね〜、あっちで騎士団が点呼とってるみたいだよ。みんなマコト心配してた!」


「何で蹴った?」


「あ、ジャイロがこっち来るよ!」


「何で蹴った? おい?」


 そういやプラムってイタズラ好きのクソガキだったな。俺の質問を明確に無視し続けながら、ジャイロに手を振ってやがる。


「……よー、マコト。起きたの――」


「何で蹴ったって聞いてんだろうが、クソガキぃぃぃ〜〜〜〜ッ!!!」

「あぃたたたた!!? でた、頭ぐりぐり、やめてぇぇいぃだだだだ」


「なにやってんだお前ら……?」


「謝れコラぁ!!」

「イタタごめんごめん! ごめんなさ〜い!」


 ジャイロの呆れた顔は見えてるんだが、このクソガキに謝罪してもらわねぇと納得いかなかったんでな。

 スッキリしたとこでジャイロに目線をやると、


「……」


「……らしくねぇな。点呼はどうだった?」


 浮かない顔だ。

 そりゃそうだろ、犠牲者ゼロなワケがねぇ。そっとしておくべきかとも思ったが、やっぱ聞かねぇワケにもいかん。


「あー……魔術師団側は……バートンだっけ? あの土の魔術師が死んじまったんだよな」


「そう、だな。だがそもそも魔術師団はルークとバートン、あとはプラムが途中参加ってだけだからな。モブ魔術師はいねぇ」


「騎士団の犠牲者は……3()()だった。34人の内な」


「お……おお? こんなこと言うのは良くねぇが……思ったより少ねぇな」


「まーなー……」


 いや言ってから思ったがマジで不謹慎すぎる発言になっちまった。


 ――もちろん、騎士団をナメてるワケじゃねぇぜ?

 そうじゃなくて俺は『ダンジョンをナメすぎてた』んだよ。

 なんてったって俺が数え切れねぇほど大量に死んで、ウェンディが1回死んでんだぞ。あの金色の結晶が無かったら終わりだったんだ。


 そんなハードすぎるダンジョンにこんな大勢で挑んだら、半壊どころか全滅したっておかしくねぇ。

 なのに3人って……大健闘だろ。


 その3人については本当に残念だが、


「ん? 待てよ? 3人って……」


 俺は気づく。ジャイロが頷く。

 騎士の死んだ場面には何度か遭遇したと思う。問題はその回数だ。


 スライムに潰されて死んだ、ブラスト。


 ミニゴーレムのレーザービームで腹を貫かれた、カールーヌ。


 ブラックビアードに首を飛ばされた、ビミパット。



「おいおい……その3人って、全員、二番小隊のメンバーじゃねぇか……!?」



 死んだのってあいつらだけだったのかよ……ジャイロがまた、ゆっくりと頷く。

 そして振り返る。視線の先には、



「…………」



 これまでで最も虚ろな顔をした、二番小隊の小隊長アバルドが膝を抱えて座ってた。

 まるで魂が抜けちまってるみてぇだ。


「みんな……死……だ、団長の、みんなの、期待……自分は……小隊長……あぁ……あ……」


 時々、ブツブツと何やら呟いてる。

 可哀想すぎて誰も近づけてねぇ。


「だ、大丈夫かよアイツ……」


「どーだろーな……確かにオレ、二番小隊には期待してると言ったがよー……アバルドを苦しめるつもりじゃ……」


 ジャイロは本気で後悔してるらしく肩を落としてから、片手で頭を抱えた。

 まぁアバルドだって他の小隊に被害が出てねぇことを羨ましがってるワケじゃねぇだろ、最小限で抑えられたことは良いことなんだ。


 でも、やっぱ、自分の小隊だけ壊滅的な状態じゃあ、それはそれでヘコむよな……


 小隊長の様子を見かねて、隊員のラムゼイがズカズカと近寄る。

 暗いオーラ全開のアバルドの背中をあろうことかバンバン叩いて、


「大丈夫っすよ小隊長w 俺たちが通ってきた所だけ、やけに敵が強かったんじゃないすか?w」


「何も……できず……自分は……自分だけ、生き残ってる……なんて……」


「団長が期待してようが何だろうが、俺たちには関係ない、気に病む必要ないない!w」


「……小隊長として……うぅ……」


 あいつだって仲間の隊員を失っただろうに、アバルドに気を使って明るく振る舞ってるな。

 逆効果な気がしないでもないが……


「死んじまった奴らの分だけ、俺たちが生きればいいんすよ……知らないんすか? 死んでいった奴らは、俺たちのこと見てるって」


「っ!」


「メソメソしてたら、またビミパットにぶん殴られますよw」


 ラムゼイはヘラヘラした態度の中に、ちょっと核心をついたような台詞を入れてきた。

 言われたアバルドも、また何かを感じることができたようだ。


「みゅん♪ みゅ〜〜〜〜ん♪」


 ネムネムも励ますように声をかけた。

 何て言ったんだろうな。相変わらず俺にはわかんねぇけど。


「俺たち、こうして生きちまってるわけだし!w ね〜ウェンディちゃん!!」


「うおっ、ラムゼイ……」


 だいぶ強引だったが話の流れで、ほぼ裸のウェンディに覆い被さるラムゼイ。

 へぇ。あいつウェンディと仲良いのか。ん?何か違和感があるな。


「まったく貴様は、いつもいつも……本当は仲間の死だって堪えるだろう? 小隊長に寄り添ってやらないのか」


「そんなこと言ってウェンディちゃんだって言葉に詰まってるだけのクセに〜w 怖い目つきしてカワイイんだからもぉ〜w」


「くっ……わかったから、少し離れてくれ」


 優しいウェンディだが本心を言い当てられちまって、さすがに少し鬱陶しそうだ。でもグイグイ押されてもラムゼイはしつこく手を繋いできてる。

 ……そうだ。違和感の正体を思い出した。



「ウェンディお前さ……ラムゼイにいつも触られてんのか? 俺の時『男に手を握られるのも初めて』とか言ってなかったか?」


「……?」



 いつもベタベタ触られてんだとしたら、手を握ったごときで顔を赤くすんのはおかしいだろ?

 だがウェンディは首を傾げ、


「そういえば、そうだ。初めてな気がしたのだが……確かに。ラムゼイに手を握られるのは日常茶飯事かもしれない」


「……」


 こんだけボディータッチされても男に慣れないってんならまだわかるが……ラムゼイには呆れたように対応してるしな。

 変な話だな。ま、どうでもいいか。


 どうでもいいと言えば、


「……マコトさん。おはようございます。あの爆発……一時はどうなるかと思いましたが、結果としてまた助けられてしまいましたね」


「ルーク。ん〜『おはよう』か……」


 この青空もさっきどうでもいいって頭の中で処理したっけ。

 ルークは懐中時計みたいなのを取り出し、


「変な感じですよね。丸一日、僕らはダンジョンを駆け回っていたようです」


「1日!? 1日と聞くと……そんなに経ったか? って感じもするし、たったそれだけかよって感じもするな……」


「僕はコレを持っていたので時間は把握していましたが、あんなに暗い洞窟の中では感覚も狂うことでしょうね」


 そんなルークにプラムが突然に抱き着いたりとかしてる中。

 向こうの騎士団の方では……揉め事? 何かトラブルかな?



「――ちょっと待てアーノルド! 知ってたのか!? 何で言わなかった!!」


「いや〜別に大丈夫かと思い……ぼふぁッ!?」



 ジャイロが……アーノルドを殴ってる? あんなの初めて見たが……

 どんだけの異常事態だよ。俺も駆け寄ると、



「マコト! ()()()がいねーと思ったら、アーノルドの奴! 『せんしゃ』から振り落とされたとこ見たんだってよ!」


「あぁ!?」



 レオンが置いてけぼりってか!? ダンジョンは崩壊した上に爆発オチったんだぞ!!

 それを聞いた俺はダッシュを速め、


「何やってんだァァ!!!」


「がはぁッ!?」


 起き上がってきたアーノルドの顔面に蹴りを入れる。鎧はあるが、まぁ効いただろ。

 クソ、最近こいつ調子乗りすぎて『空気読めないキャラ』どころじゃなくなってる気がするんだが……


「だ、だって……レオン先輩なら大丈夫っしょ〜と思ったから……」


「一応お前なりに信頼してるってことか……」


「いや納得してんじゃねーよマコト!? 一大事だ! すぐに捜索するぞー!」


 ジャイロがかなり焦った様子で叫ぶと、モブ騎士たちも動揺しつつ声を上げる。

 疲れてるだろうにまたダンジョン戻る気かよ――指導役レオン、どれぐらい人望が厚いのかわかるな。


 だが、


「ちょっとちょっと、待ってください! 騎士団の皆さん! 止まって!」


 両手を大きく上げて騎士どもを阻止したのは、魔術師のルークだった。


「おいルークてめぇ! 止めんじゃねー!」


「誤解しないでください。心配なのは僕も同じです。ただ、衝動に任せてすぐにまたダンジョンに入ったら『入れ違い』になり無駄骨になる可能性があります」


「っ……!」


「レオンさんの経験値や生存能力なら皆さんの方がよく知っているでしょう! 彼が生き埋めにされていたり、爆発に巻き込まれたりしていないならば、確実に数日は生き残れるはずです!」


「く……! もしかしたら、自力で出てくるってこともあるかもしんねーか……」


「その通り。彼への信頼が本物なら、皆さんも少し休んで、後日また改めて捜索をするべきです! ダンジョンが消滅する仕組みもわからないままです。このまま再突入すれば今度こそ全滅かもしれません!」


 みんな疲弊しきってるのは間違いねぇし、こんなガタガタのコンディションで戻ったら大変なことになるだろうな。

 色々な事情を加味して、ルークの言葉には全員が否定を返せなかったワケだ。


「レオン……」


 プラムも不安そうな顔だな。


「俺だってレオンが心配だ。でもルークの言う通り、あいつがそう簡単に死ぬとは思えん。ダンジョン自体が消えるとあいつも一緒に消えるかっていう話も……何だかよくわかんねぇしな」


「うん……」


「はぁ〜〜〜……おかしいな。死んで復活するたびに全回復してたはずなんだが……疲れがどっと込み上げてきたぞ……」


「うん。マコトの『心』傷だらけだからね」


「……そういやお前に言われたな……」


 何なんだよその『心の傷』ってのは……小一時間は講義してもらわねぇと理解できねぇ。

 というワケで俺は、戦車の中に()()()()()()を背後から引きずり出し、



「突然だが、どうにもギスギスしそうな騎士団の皆様方? 悪いけど俺からささやかなプレゼント。はい、どーぞっ」


「「「は??」」」



 ギョッ――とジャイロやウェンディ、アバルドのみならず、モブ騎士たちもみんな、目をかっ開いて絶句。



「た、た、宝箱ぉぉっ!!?」


「プラム逃げるぞ」

「えっ、うん」



 プラムの手を引いて、気絶中のジキルを抱えて逃げ出す。


 そう、プレゼントは例の『ボス部屋』の先にあった部屋からこっそり持ってきた、金銀財宝がギッシリ詰まった一箱の宝箱。

 ただただ動揺が広がるが、これにはちゃんと理由があった。



「『学園の修繕費』だよ! アレはほぼ俺が壊したからな! いつか返すって言っただろジャイロ!?」


「言われてねーよ!?」


「あれ? 俺の頭の中だけだったか!? まぁいいや、どうでもいいから受け取っとけ!」


「誤解されんだろーが!! ちくしょーっ、ありがとよ!!」



 ガーゴイル騒動の時、校舎の修繕費を騎士団が出してくれることになった問題。

 俺はずっと納得いってなかったんでな。借りを返す良い機会だった。


 まぁ公表しちまえば、ダンジョン突入は金目当てだったのか? って誤解されるだろう。

 でも実のところ俺からの『プレゼント』だし、全然黒でもグレーでもない。真っ白だ。


 そもそも公表しなきゃいいだけだし。



「よっしゃ! 夢のマイホームを見せてやるぜ、プラム!」


「あははは! 楽しみ〜!」



 疲れたが、なぜか楽しく走ってる俺たち。

 ようやくダンジョンを出て、モヤモヤが全部晴れたワケでもねぇし、まだやることもあるが……

 とにかく今は、一旦休みてぇな。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ