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#74 騎士レオン&騎士アーノルド vs 冬の騎士&謎のジジイ


 『冬の騎士』とかいう青い鎧の謎のヤツと、レオンとアーノルドが対峙する。

 クソ。ジャイロvsハイドとブラックビアード、ってだけでも充分ヤバい状況だってのに。


「この壁さえ壊れりゃ……あ、そうだ」


 俺とプラム(とジキル)はブラックビアードの強制支配魔法で作られた、無敵の壁に囲まれちまってんだが、


「レオン、アーノルド! 周りに生えてる緑色の結晶を壊せねぇか!? アレさえ消えれば俺たちも出られるはずだ!」


「本当か。やってみよう」


 冷静に答えてくれたレオンが走り出す。すると冬の騎士も動き出す。


「さむい……!」


 フラフラと走り出したところに横からアーノルドが飛び込んできて、


「とぁっ!」


「お……さむい」


 振り下ろされるエクスカリバーを、冬の騎士も剣で受け止めやがる。

 ま〜た一筋縄じゃいかなそうな相手……


「シュコー……」


 とはいえ、エクスカリバーの重みは半端じゃねぇ。冬の騎士の足元にはヒビが入ってる。

 冬の騎士は無言で飛び退いて、


「おお!!」


 その結果振り下ろされ、地面を抉り斬ったエクスカリバーから斬撃の波動が生まれる。

 一本の矢みたいに真っすぐ飛んでくが、


「さむい」


 クルクルッと回りながら横移動した冬の騎士には当たらず、か。

 何なんだアイツ。常に脱力してるような、変な戦闘スタイルだな。タコとかイカでも見てる気分だ。


 そんでレオンの方はというと、


 ――ガキンッ!


 全力で『風の結晶』を剣で斬りつけてるが、ヒビすら入らねぇようだ。


「クソ……俺では力不足なのか。アーノルド、交代だ!」


「ん、了解です!」


 悔しげに言うレオンに、冬の騎士と何度か斬り結ぶアーノルドが答える。

 ――いや、確かにレオンは強者ではねぇかもしれんが、あんだけ全力でやって結晶には傷一つねぇってのはおかしいだろ。


 アーノルドが距離を取ると同時、


「さむい……っ」


「今は俺で満足しとけ、遊び相手ぐらいにはなってやる!」


 踏み込んだレオンの振るう剣を冬の騎士もガードする。

 力では敵わないと踏んでか、レオンはヒットアンドアウェイ、とにかく手数で誤魔化すように戦ってるな。


 斬り結びつつも、


「ジャイ坊だって必死に戦ってるんだ! こっちは忙しいってのに、お前のせいでだいぶ話がややこしくなってるんだぞ!」


「さむい……コー……」


 対話を試みるってか? レオンも真面目だなぁ。

 あ、今さらだがジャイ坊ってのはジャイロのことだからな。


「その雪雲は何だ!? 答えろ!」


「……コー……我が名《冬の騎士》……」


「話にならん。お前みたいな得体の知れん輩に構ってる暇は無いってのに……目的は!?」


「……我が求むは……」


「ん?」


「我が、主……」


 あるじ?? まさかの展開だが、レオンの質問に割と真っ当な答えが返ってきた。

 え? もしかしてコイツ……


「レオンせんぱーい! 全然ダメですわ〜、エクスカリバーでも斬れませんわこれ!」


 すっげーヘラヘラした態度で『失敗』を報告しに走ってきたアーノルドをよそに、レオンも俺と同じ考えを抱いたらしく、



「おい『フユノ騎士』とやら。お前、俺たちと戦う気が無いのか?」


「我が求むは……主のみ……」



 冬の騎士は剣を鞘に納める。


 やっぱりか。雪雲の件も本人が『寒い』とか言ってるし、わざとじゃなさそうだ。

 ダンジョンだからって、頭ごなしに敵だと思っちまうのも良くねぇな。


「そうか悪かったな……お互い、余計な時間と体力を使っちまったようだ」


 それを見たレオンも反省しつつ剣をしまう。


「とはいえお前の雪雲が邪魔なのは本当なんだ……悪いが、ご退室願えるか?」


「さむい……さむい……」


 冬の騎士はガタガタと震えながら肩を抱いてる。敵意は無いが、動く気も無さそうだ。


「こりゃダメだな。アーノルド、結晶の方もダメだったか。ジャイ坊は?」


「団長? ()()()()()()()よ」


「「「はぁ!?」」」


 冷気のせいで、こっからじゃよく見えねぇジャイロの様子。

 あっけらかんと言いやがったアーノルドに、レオンも俺もプラムも耳を疑った。


 直後、



「ぐおっ……」


「ジャイロっ!!?」

「「「団長〜〜〜!!」」」



 すごい勢いでジャイロがぶっ飛んできて、地面を転がった。

 俺もモブ騎士たちも大パニック。

 息はあるし、命に別状は無さそうだが、ボロボロの満身創痍……


「ジャイ坊!? おい、大丈夫か!」


「あー……ちくしょー……二人はキツいぜ……」


 仰向けで、出血する頭部を押さえながらボヤくジャイロ。悔しそうだ。

 だが――


「やっぱハイドとブラックビアード二人がかり相手じゃ、勝てやしねぇな……いくら騎士団の団長といえども、これはマジで責められん」


「……!」


 俺の言葉に驚くジャイロだが、まぁ本人もわかってはいるだろう。

 むしろ、


「よくここまで粘ったよ。しかも生きてる。普通だったら一瞬で死ぬぜ? 大したモンだ」

「すごいよジャイロ! たいしたもんだ〜!」


「……う、うるせーな……!」


 俺とプラムの激励に頬を赤く染めちゃって、ジャイロも満更じゃなさそうだ。


「さて、問題は……」


 1つ。強制支配魔法によって出来たこの壁は、どうやっても解除できねぇこと。

 2つ……


「ヒャッハー! 追い詰めた! 追い詰めた! マコト・エイロネイアーっ!」


「ぎゃははっ! 俺様の時代だぁ〜〜!!」


 ヤベェ悪党二人がこっちに来ること。

 モブ騎士たちが恐れおののき、レオンやアーノルドが身構える……そんな中。



「さむい……おお、我が主よ……シュコー……」



 ん? 明後日の方向を振り返った冬の騎士が、何か言ってるぞ。

 壁が曇っててよく見てねぇが俺も目を凝らしてみると、


「何だ……あのジジイ!?」


 ギャグかと思うぐらいムキムキマッチョで半裸のお爺さんが、酒を飲みながら歩いてくる。顔や白髪を見るに60……いや70歳とかじゃねぇか?

 でもスゲー肉体……


 ってか、あの方向に出入口あったか!? 壁壊してきたのか!?



「む? おおー『冬の騎士』! 探したんじゃぞぉ、ここにおったか! ふぉっふぉっふぉっ!」



 肉体美とは裏腹に、割と普通の爺さんっぽい声と喋り方で豪快に笑ってる。赤ら顔でな。

 こいつが冬の騎士の言う『我が主』か? 関係性の繋がりが全く見えてこねぇが……


「何だこのジジイ!!?」


 無遠慮にエクスカリバーを向けながら叫んでるアーノルド。

 対するレオンは、


「ちょ、ちょっと待て! ご老人! こっちは取り込み中なんだ、これ以上話をややこしくされては……」


「ふぉふぉ! んな固ぇこと言わなくたってええじゃろがい! ふぉふぉふぉ!!」


「話を聞け!?」


 爺さんを止めに入るも完全に無視され、ズカズカと横を素通りされちまった。

 酔っ払いのパワー恐ろしいな。


「あ? 何だそのジジイ! 何だそのジジイ!」


「誰だろうとここの全員〈神威断(カマイタチ)〉で切り刻んでやる……!」


 おいおいおい爺さん。そっちの方に向かうとジャイロも倒れてるし、バケモンみてぇな悪党いるんだが。

 またカオスにカオスが重なったような状況になったが、



「どれ」



 グビッと一口飲んでから、よく見ると超巨大なひょうたんを地面に置いた爺さんは、拳を振り上げる。


「ッ」


 は?



 ――バゴォォオオオオオオン!!!



 意図もクソもわからんが、爺さんはエゲツねぇ威力のパンチをかまし、一撃でこの部屋全体の地面がぶっ壊れた。


 いやいやいや。



「「「何このジジイ〜〜〜〜!!?」」」



 敵も味方も関係無く、今の気持ちが率直に叫ばれるのだった……

 じゃねぇよ! 俺たちも下に落ちる!! 急いでプラムとジキルを両脇に抱えるが、


「あれ、結果として魔法の壁から脱出できたんじゃねぇか!?」

「ホントだ! あのおじいちゃんにお礼言わなきゃね!」


 まぁ助けるって意図は、まず無いと思うが。酔っ払っておかしくなってたんだろ。

 あの部屋にいた全員が落ちてるが、その先には、


「お! マコトさんじゃないっすか! どっから落ちてきてんすかw」

「みょ〜〜〜ん♪」


 ラムゼイとネムネム。

 そしてラムゼイに背負われる、なぜか合流できたらしいアバルド。気絶中か。

 二番小隊の生き残りだな。


 あ、あと、


「ぎやあああマコト様ぁぁ〜〜!! 何度はぐれても何度でも再会しちゃう!! 赤い糸ですっ赤い糸で繋がっちゃってますぅ〜〜〜」


 ポンプもいる。

 うん、確かによく会うな。



▽▼▼▽


▽  ▽



「ルーク氏っ、次はどっちだ!?」


「え〜……右です」


「よしっ!」


 色々と偉そうなことを言った僕だが――ちょっと魔法を使ったら()()()がしてしまい、今はこうやってウェンディさんに担いでもらっている。

 魔物を斬りながら疾走するウェンディさんだが、流石の筋力と体力。

 担がれていても安定感があり、充分に休める。もう少し休めば僕も復帰できるはず。


 この調子だと、僕が復帰する前にウェンディさんは『ボス』の部屋に辿り着いてしまいそうだけど。


 そんな時。



「のわあああ!!!」

「お〜」



 突然、轟音とともに天井が崩れ、同時に誰かの叫び声も聞こえてきた。

 僕もウェンディさんも見上げる。


「ふぉ〜〜っふぉっふぉっ!! こりゃいかん! 久々に酔いすぎたわい〜〜〜!!」

「……我が主……」


「どういうことだ!? 上から……ご老人と、青い騎士と雪雲!?」


 ウェンディさんが驚愕しているように、ちょうど僕らの頭上を目掛けて落ちてくるのは、鎧のような筋肉のお爺さんと青い鎧を身に纏う細身の騎士さん。あと雪を降らせる小さな雲も飛んでくる。

 これは……僕も意味がわかりません。


「む? また騎士がおるぞ! さっきのもそうじゃが、サンライト王国の――」


「さっきの……?」


 お爺さんの言葉にウェンディさんが反応する。


「騎士団と交戦を……? ……ええいっ! 私だって疲れている! はぁ……はぁ……もう面倒事は御免なのだ!!」


 話を聞くにダンジョンに入ってから働き詰めだという彼女は怒り、右腕を振りかぶる。

 ……今も僕が余計に働かせてしまっているから、罪悪感があるけど……



「〈部分巨人化(ぶぶんきょじんか)〉ッ!!」


「「「!?」」」



 振りかぶられたウェンディさんの右腕が、一瞬にして巨大化する。

 僕もだが、お爺さんと青い騎士さんも言葉を失っている様子。


「うああッ!!」


 ウェンディさんは雄叫びを上げながら巨大な腕を振り回し、


「をぉおおおぉ〜〜〜ッ!?」

「お〜」


 抵抗もできずに薙ぎ払われたお爺さんと青い騎士さんと雪雲は、壁を突き破って、どこまでもどこまでも飛んでいってしまった……


「すごい……そ、その巨人化の能力、てっきり一回きりだと……」


「……私もそう思っていたんだが……うむ、使えたな……」


「あ、今のって意図してやったわけではないんですか……」


 どうやら感情が高ぶった結果の『ノリ』で、使えることが判明したらしい。

 あれ? 技名を叫んでたような……まぁいいか。やっぱり騎士団の人たちは面白い。


 すると今度は、


「……っ! ミニゴーレムですか……」


 一難去ってまた一難。

 気づいたらミニゴーレムの大群に囲まれてしまっていた。

 僕もダンジョンを駆け回っていた時に何度も遭遇したが……この数は厄介だ。


 剣を抜くウェンディさんだが、


「倒すのは困難だろう」


「はい。間を駆け抜けるか、もしくは飛び越えるか、で突破するのが得策でしょうか」


 いちいち相手にしていてもキリがない、というのも含む。

 確定ではないのかもしれないけど『ボス』さえ倒せば、ダンジョンそのものが消滅するはずなのだから。


「それにしても、こうも所狭しと大挙されてしまってはな……!」


 抜け道を探すも、どうしても立ち往生してしまっている僕ら。

 攻撃を避けつつ思案していると、


 ――ピュンッ!!


 何か光るものが、僕らの横を超高速で通っていった。

 それは一直線に進み、一体のミニゴーレムに命中すると、



 ――ドォンッ!!



 周囲のミニゴーレムも巻き込んで爆発し、一気に敵の数が減る。

 今のは? そういえばミニゴーレムも光線のようなものを撃てた記憶はあるが……


「ルーク氏、あれを!」


「え……!?」


 その『異常』の存在に、いち早く気づいたウェンディさんが指差す。

 見れば、やはり。


「今の攻撃を放ったのは……あそこにいる()()()()()()のようだ」


 同じ方向へミニゴーレムたちが振り返っているように、あの個体は、大群に混ざらずに離れた所から光線を飛ばしてきた。


「ギゴゴ」

「ギゴ」


 ミニゴーレムたちはあの妙な個体を『敵』と認定したらしく、襲いかかっていく。


「どうなっているのだ、ルーク氏? 魔物と魔物が戦うなんて見たことがないぞ」


「僕もです……」


 こちらだってミニゴーレムが敵なのは揺るがない、ゆっくりはしていられないが……冷静にあの妙な個体を観察してみる。

 と、


「雰囲気もですが……色も違いますね」


「何だと?」


「ほら、普通のミニゴーレムは石でできたような、灰色っぽい色です。しかしあの個体は茶色くて……まるで()()できているみたいな」


「言われてみれば」


「よく考えると先程の光線も、茶色だったような気がします。他のミニゴーレムは『闇の魔法』なので黒かったですが……」


 これ以上は考えてもわからなさそうだ。

 できる限りウェンディさんの援護をするしかないだろう。


「……!」


 でも、今。


 あの妙なミニゴーレムが、こちらに目線を向けたような気がした。

 敵意は感じない。


 期待はしないけど――やはり、僕らのことを助けてくれるのだろうか?



「何なんですか……あなたは……」



 魔物に対して、こんなに不思議な感情を抱いたのは初めてだった。



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