#73 騎士団長ジャイロ vs 殺し屋ハイド
「……う……!? あ……ウェンディさん……」
「ルーク氏、起きたか」
目を覚ました僕の隣には、下着姿のウェンディさんが腰を下ろしていた。
剣は地面に刺している状態だけれど、
「僕を……守っていてくれたんですね。ありがとうございます、疲れているのに」
周囲には幾らか魔物の死体が確認できる。もちろん、ゴーレムも奥で氷漬けになっているけど。
「ゴーレムを倒すという偉業に比べれば、なんてことはない。あんなに巨大な魔法は初めて見たぞ。相当な反動が来ているはず」
「はい、正直……かなりキツいです……でも、手を抜ける相手ではありませんでしたので……それに」
「それに?」
「マコトさんが……あれだけ頑張ってくれましたからね」
「うむ……」
頑張った、なんて軽い言葉で済ませて良い話ではないと思う。
比喩とか冗談ではなく――何度も死んだんだから。
でもマコトさんの性格なら知っている。あの時のことを僕らが引きずっていたり、いつまでも恩を感じているのは、彼自身が嫌がるはずだ。
だから、話を切り換える。
「ウェンディさん、提案なのですが……どうせここにいても休めないのなら、先に進むというのはどうでしょう?」
「……! 確かに。貴様も目を覚ました今、その方が良いかもしれぬ……ゴーレムが死んでからというもの、魔物の動きが活発になっている気もするしな」
魔物の動きが活発に?
というよりは、
「ダンジョン自体が『番人』を失って焦っている、ということかもしれません」
「ん? なぜ、ただの洞窟に意思があるような、そんな言い方を……?」
今の僕の発言は、まぁ変だったろう。彼女の疑問もわかる。
僕にはダンジョン突入時から疑問があった。
「突入時を覚えていますか? ジャイロくんがエリートオークに急襲され、他の全員が穴に落とされ、巨大な魔物によってバラバラに分断された……」
「うむ。それがどうしたのだ?」
「ただの魔物たちにこんな連携が取れますか? しかも、団結力や人数が強みである騎士団を、バラけさせるという采配……完璧すぎます」
「っ!?」
「ここは決して『単なる洞窟』ではないと僕は見ています……ダンジョン自体に意思がある、と考えることもできますが……」
納得してくれたらしく、冷や汗を流すウェンディさん。
僕は指を一本立てて、
「やっぱり鍵は――『ボス』にあるような気がしてなりません」
ダンジョンには必ず『ボス』が存在し、それを倒せばダンジョンが消滅すると言われている。
最初から目的は(プラムを除けば)それだったものの、
「妙に計画性のあるこのダンジョンを裏から操っている存在が『ボス』であるなら、さっさと倒してしまった方がいいですよね」
「……含みを持たせた言い方だな……」
「はい。これだけなら話は簡単なんですが……不安定な今の世界。魔王を殺したマコトさん。闇の魔法……散らばった色々な謎の答えが、このダンジョンと密接に関わっている可能性もあると考えています」
「……一人そんなことを考えていたのか。ルーク氏、最近は私ともそうだが、マコト等にもあまり会っていなかったそうだな。やはり理由は……」
きっと、ウェンディさんの聞こうとした通りだろう。
そう――魔王討伐を果たしたマコトさんは、異例の処置により、新たな魔王には成り代わらなかった。
けれど、なぜか彼を狙う存在がある。動き始めている。これも世界の調和が乱れている理由の一つかもしれない。
普通に生活していたんじゃ気づけないだろう。そう思い、友人たちと距離を置いて調査をしている。
調査、なんてカッコいい言い方をしていても、今のところあまり成果は無いが……ダンジョンが手掛かりになるかもしれない。
だって、このダンジョンそのものが、どうして突然現れたのかわからない。
何者かの思惑を感じるんだ。
……ウェンディさんの言葉を遮ってしまうことになったのは本当に申し訳無いが、僕はすっくと立ち上がる。
「っ、ルーク氏……」
「進みましょう――実は言うことができずにいたのですが、『ボス』の居場所に心当たりが」
「ほ、本当か!?」
疲弊した体に鞭を打ってでも前へ進む。
心当たりというのは……一人でダンジョン内を彷徨っていたり、ゴーレムを追いかけている間に僕も探索はしていたから、その時のことだ。
▽ ▽
▽▼▼▽
俺とプラム(ついでにジキル)は、ジャイロやその他の騎士たちと合流。
が、
「ぐへ〜……」
「プラム?」
突然プラムが倒れた。何事かと思って振り返ると……頭がタンコブだらけじゃねぇか。
「頭いった〜い……」
「お前まさかっ、ジェット噴射中に岩盤突き破ってた時ケガしたのかよ! バカか!?」
「〈愛の盾〉やってたのに当たっちゃったかな……でもぉ、だってぇ、私強くなってたじゃ〜ん……」
「火力はな! 普通にフィジカルは変わってねぇらしい」
魔術師団にてルークの下で修行をしてるプラムだが、やっぱり十二歳の女の子。
ちゃんとした大人の団員とかには、体力とかで敵わねぇ。
『愛の魔法』とやらで超強化されたかと思ったが、身体能力は無関係か。
――そして、ジャイロの方はファイティングポーズを取ってる。
「戦ろうぜオイ。殺し屋オオカミ」
燃える闘志を映した視線の先には、俺を狙う殺し屋ハイド。
俺は、
「無理だよなぁ〜ハイドくぅ〜〜ん。報酬ゼロになっちゃうもんなぁ〜!」
「……」
肩をすくめて煽りまくると、ハイドは黙ったまま睨んでくる。イラつくだろうな。
「ジャイロ、残念だがハイドは俺以外に手を出せねぇ。戦いたいだろうが、そりゃできねぇ相談ってヤツ――」
「おー、もう聞いたぜマコト」
「は?」
……歯を見せてニヤつくジャイロに、俺は悪い予感と冷や汗が止まらなかった。
「お前が来る直前ってか、たった今! 言ってやってたとこだ! 『オレには攻撃してもいい』ってなー!」
「ジャイロぉぉ!!! なァにやってんだお前ェ〜〜〜〜!!!」
何だよジャイロのヤツ! 騎士団の団長になると理性がブッ飛んじまう呪いでもあんのか!?
あいつは……あのハイドってヤツは……
「俺とも勝負がつかねぇほどの、マジのマジで、冗談抜きでやべぇヤツなんだぞ!? 魔王レベルだ!」
「あーそれもさっき聞いた! いいねぇー、燃えてくんじゃねーか!」
「ダメだこいつ……」
半年前の、ジャイロとの初対面を思い出すやり取りだなぁ。
そういえばあいつ、有名になり始めてた俺にいきなりケンカ吹っ掛けてくるようなヤツだったわ。
「かかって来い! かかって来い!」
ハイドの方もジャイロに負ける気は無ぇんだろう、やる気満々だ。
こうなりゃ、
「おいジャイロ! 勝手な行動したんだから、俺が加勢するのも許せよ!?」
「ん? あー、まーいいぜ」
「俺とお前のコンビなら、さすがにハイドだってボコボコだろうよ」
俺も歩き出し、ジャイロの横に並び立とうとする。やっと俺たちが優勢な状況だ。
「2対1!? 2対1!? 卑怯だ!」
「うるせぇ殺し屋」
「しかも……女! ジキル! 倒しやがったのか!?」
「ああ、そこのタンコブガールがな」
気絶したジキルにやっと気づいたハイドが、より一層怒ったように見えた。仲間意識ってヤツがあんのか? コイツにも。
さてどんな武器を生み出してやろうかと考えていると、
「1対1のケンカをよぉ〜、邪魔すんじゃねぇよォ〜〜……」
どっからか男の声が響いたと思いきや、俺の目の前に緑色の壁が現れる。
周りの『闇の結晶』たちも緑色に変わっていって――まさか!?
「〈強制支配魔法――鉄壁の風鎧〉!!」
「うぉ!?」
「ぎゃっ」
現れたのは、やっぱり盗賊の長キャプテン・ブラック・ビアード。
不覚にも俺とプラム(ついでにジキル)は風魔法の壁によって押し出され、ダンジョンの硬い岩壁に押し付けられた。
途中何度も壊そうとしたんだがやっぱ〈強制支配魔法〉とやらは特別で、そうそう対抗できねぇらしい。
アーマーを纏うだけかと思ったら、こんな使い方もできんのかよ!
壁に挟まれちまったワケだが、破壊可能なダンジョンの岩壁の方を殴ろうとすると、
「おおっと、させねぇぜぇ〜〜!?」
「……クソ……!」
岩壁の方にも、ついでに地面にも緑色のアーマーが展開され、完全に閉じ込められちまった。
プラムも魔法を撃ってるが効き目が無い。
だが本当にマズい状況にあるのは、
「ジャイロぉぉ! すまん嵌められた!」
「マコト、プラム……ブラックビアードめ、あんにゃろーが……!」
ハイドとブラックビアードに挟まれ、しかも一人になったジャイロだ。
「だ、団長〜!?」
「我々どうすれば……!」
「手ぇ出すなお前らー! この悪党ども、そこらの魔物なんかとは格が違ぇーぞ!」
周りのモブ騎士たちじゃ、とてもついていけねぇよな。マジでジャイロ一人だ。
だが、
「〈炎の拳〉……〈激炎の拳〉……」
ジャイロは両手に炎を灯し、その火力を上げていく。
確かあれでミニゴーレムどもを焼き払った記憶があるが、
――ゴオオオッ!!
「〈獄炎の拳〉ッ!!!」
さらに火力が増した。両腕から放たれる炎の柱は、もはや天井に届きそうなほどだ。
あの時でもまだ底は見せてなかったか。『団長』と呼ばれる立場だ、それぐらいじゃなきゃダメなのかもしれねぇな。
走り出したハイドが腕を振りかぶり、
「お望み通り、てめぇから始末してやるぜっ!! 〈漆黒・ボムバ〉ッ!」
「うおおおおッ!!」
『闇』を纏った一撃を、『火』が真っ向から迎え撃つ。ぶつかり合う拳、
――ボゴオオオオンッ!!
黒と赤が入り混じった大爆発が周囲を包む。だが爆煙の中でも戦いは終わってねぇ。
「ヒャッハーァ!!」
「おら、おら! おらぁーあ!!」
――ボゴンッ! ゴォッ! ドォォオ!!
ぶつかり合いが続いてる。次々と爆発するもんだから、延々と爆煙が爆煙を掻き消してるような状態になってやがる。
たまに爆発が互いの体を焼いても、意に介してる暇も無ぇみたいに次の攻撃に移っていく。
あまりのレベルの高さに、モブ騎士たちも恐怖を超えてドン引きしてんな。
そして、
「んんんんだらァーーー!!」
「ごへぁッ」
一瞬の隙を突いて、ジャイロがハイドの顎に炎のキックを食らわせた。
ハイドも相手のパンチばっかりに集中しすぎてたんだろうな。
追撃を加えようとしたジャイロだが、
「やっぱ見てるだけじゃつまんねぇ〜〜なぁ〜〜! そ〜れ〈神威断〉!」
「!!」
ブラックビアードの野郎ぉ!
ジャイロの背中に向かって剣を地面に叩きつけ、地を這うように風の刃を飛ばしやがった!
クソぉこの壁さえ壊せれば!!
「うぉっとー!」
さすがの感知能力。ジャイロはすぐさま背中の剣を抜いて、振り返りざまに風の刃を受け止める。
「痛ぇな! ヒャッッッハー!」
一瞬にして体勢を立て直してきたハイドもジャイロに迫ってくる。
……おいおい、結局のところ悪党2人とジャイロ1人の2対1じゃねぇか!!
卑怯だとか邪魔するなとか言っといて、めちゃくちゃだなオイ!
あの二人を同時に相手すんのは……俺の推測だとゴーレムにも匹敵するほどの厄介さだぞ!
だがジャイロは文句一つ言わず、
「もっと痛くしてやろーか!?」
剣で受け止め続けてた風の刃を、ハイドが飛んでくる方向に受け流す。
まさかの攻撃に「げ!?」と驚いたハイドは風の刃と正面衝突、大ダメージを食らう。
ジャイロは別方向に飛び出し、
「らぁあッ!」
今度はブラックビアードの方に剣を構えて突撃するらしい。
拳の〈獄炎の拳〉が剣にも伝染して、ものすごい火力で燃える剣の出来上がりだ。
「騎士団長ともあろう奴が、構えがなってねぇな!! その首いただきィ〜〜!!」
「ジャイロ!?」
なぜか剣を振らねぇジャイロが、無抵抗でブラックビアードの剣に斬られちまった。
ん? 様子がおかしいぞ。
「〈炎分身〉……」
真っ二つにされたジャイロの体が、炎と化して揺らめいて消えた。
直後ブラックビアードの死角の物陰から本物が現れ、
「!?」
「ふゥんッ!!」
「ぶぎゃあああ〜〜〜!!?」
完全に油断してたブラックビアードが、右脇腹から左肩にかけてザックリと炎の剣に斬り上げられた。
が、
「ジャイロ後ろだ!!」
俺が叫んだのは、すぐ後方から闇の爪を携えたハイドが迫ってるからだ。
攻撃を終えたばかりのジャイロは反応が遅れ、
「〈大狂気・クロー〉!!」
「ぐおっ!」
肩を引っ掻かれて血が噴き出す。それでも怯まず、二度目、三度目の爪攻撃を的確に剣で弾いてく。
しかし畳み掛けるように、
「斬られた傷が痛ぇよぉ!? 対価として『お前を殺した』って称号よこせぇ!」
「ぐっ……!」
――ガキキ、キィンッ! ギギン! ガンッ!
反対の方向からブラックビアードが起き上がってきて剣を振り回す。
挟まれた。ジャイロ一人の一本の剣で、辛くもハイドとブラックビアードの猛攻を捌いてく。
あまりにも可哀想な光景に、さすがのモブ騎士たちも「助けに入った方が良いのか」とザワつき始める。
だが痺れを切らしたジャイロが、
「おらあぁぁぁあっ」
高速の回転斬りで二人を軽く仰け反らせてから、剣の火力を上げる。
まるで蛇のようにしなる炎を纏った剣でもう一度回転斬りをすると、
「ギャハッ!?」
「ぬお!?」
斬撃で刃が通過した部分に、金魚のフンみてぇに炎が後を引く。
しばらく消えねぇ炎に二人が度肝を抜かれて熱がっているところ、ジャイロは力を溜めてもう一回転。
「らあああああぁぁあ――――ッ!!」
「ヒャハァァァ〜〜!!?」
「ぐええぇえ!!」
放たれた炎の波動が悪党二人を同時に焼き、吹き飛ばす。
それぞれの方向へ飛ばされた二人は、勢い良く壁に激突していった。
「……すっご! ジャイロめっちゃ強くなってるじゃん!」
「な。お世辞じゃなくエバーグリーン――親父と大差無ぇよアレ」
プラムも目をキラキラさせてる。
エバーグリーンってのは、ジャイロの親父であり騎士団の先代の団長。
やっぱ『団長』の名に恥じぬ男になれるよう、鍛え上げたんだろうな。
そうなってくると、俺ともあんまり変わらねぇ強さってことになるか?
あれ……俺の存在価値、大丈夫??
「だが状況は依然としてよろしくねぇな……」
「ヨロシクない? なんで?? ジャイロが押してるじゃん!」
歯噛みする俺に、プラムが首を傾げる。経験者として言わせてもらうと、
「あの二人の悪党に共通してる、本当の恐ろしさの話さ……」
「え?」
「耐久力。まるでゾンビだ」
特にハイドが顕著だが、俺も何度もブッ飛ばしてるってのに何度でも立ち上がってきやがる。鬱陶しいぐらいにな。
ジャイロのこともナメてるワケじゃねぇが……あんな化け物ども相手し続けるのは、かなり苦しいだろうよ。
ほら見ろ。
ハイドも、ブラックビアードも、ダメージを受けつつもゆっくり立ち上がってきてる。まだまだ戦えそうだ。
この壁さえ壊れりゃ……そう思ってると、
「ん? 何だ、外が見えづらくなった?」
「マコト、なんか寒くない?」
「寒い? 言われてみると……そうだな」
こんな魔法の壁に物理現象が通じんのかよってツッコミはあるが、寒くなったせいか、緑の半透明の壁が曇ってきた。
プラムの吐く息も白い。
クソ、ちょうどジャイロたちのいる方が、曇りすぎてて全く見えん。
どうにか曇りの薄い部分を取って外を見てみると、『ガンッ!!』とすごい音を立てて一人の騎士が壁に張りついてきた。
「マコト!? それに……嬢ちゃん!」
「お前は……レオンだな!? 鎧のせいで顔がわかんねぇけども」
「レオ〜ン!」
「閉じ込められてるのか! 無事か!?」
心配そうに聞いてきたのは、小太りの中年騎士レオン。俺らのダチだ。
「俺たちは無事だが、問題はジャイロだぜ。あの狼の獣人と、盗賊長! あいつらと一人で戦ってんだ」
「ジャイ坊が……そうか……。だがあの相手では、俺やアーノルドが加勢に行っても足を引っ張るだけだしな……どうしたもんか」
こいつも年齢が俺と同じぐらいだし、昔からジャイロを保護者目線で見てるようなヤツだったな。
言い方からして、近くに『エクスカリバー』を持った騎士アーノルドもいるんだろう。
「……あとレオン、この寒さの原因は知ってっかよ? 急にどうしちまったんだ」
「ああ、それがな……」
レオンが困ったようにため息を吐きながら、指を差した方向には……誰かいる。
全身を青い鎧に包んだ、細身で長身の……騎士?
「魔物じゃねぇし……騎士団でもねぇよな……」
「当たり前だ、アホ」
アホ言われちまった。
サンライト王国騎士団の鎧は銀色の『鎧!』って感じのシンプルなヤツだ。
青い鎧ってのはこの世界で見たことねぇな。カッコいいけど。
「……マコトさん。うるさいこと言ってないでよく見てください、あいつの頭の上が問題なんすよ」
「アーノルド……」
うるさい言われちまった。いつの間にか来てたアーノルドに。ぶん殴るぞ。
あの青い騎士の頭の上を、言われた通り見てみるが……あれは……雲?
小さい雲から雪が降ってる……だが雲とは言っても、あの騎士が歩いてるのに合わせて動いてる。頭上から離れねぇ。
「雪雲を従えてんのか、あいつ?」
こっちに近づいてくる。だんだん見えてきたが、降ってる雪が全部、当たり前だが頭や肩の鎧の上に積もってる。
いや、何なのアイツ? 寒さの原因を聞いたのは俺だが、まさかの答えすぎるだろ。
しかも声まで聞こえてきた。
「コー……シュコー……シュコー……」
え、何?
ダース・ベ◯ダーなの?
「……さ……さむい……」
え?
「さむい……シュコー……」
????
あいつバカ? ひょっとして、ただのバカ?
「くだらん……」
レオンも呆れた様子で呟く。
「何が悲しくて、雪を連れて歩いてるのか知らんが――ジャイ坊の邪魔はさせんぞ」
「はい先輩。このエクスカリバーの餌食です」
珍しくレオンが本気だ。剣を抜いてる。
アーノルドもヘラヘラと横に並び、エクスカリバーの刃が青く輝く。
「さむっ……さむい……我が名……『冬の騎士』」
とにかくジャイロの邪魔をさせないため、よくわからん存在を追い払うつもりだな。
って、待てよ?
『冬』?
異世界に、そういう季節とかの名前、あったっけな……
いやアルファベットとか、横文字の魔法詠唱とかあるし、今さら、か……?




