能力ガチャを引いたら、武器ガチャが出ました（笑×2）〜こう見えて異世界の救世主なんです〜

第三章 『ダンジョン』に突入し、友を救え

#68 魔術師ルーク、覚醒

（掠り傷一つも、つかねぇか……）

　ゴーレムの脳天にキックを入れた俺の感想がそれだった。ひでぇモンだぜ。

　マジでこいつだけは倒せるイメージが全く湧かねぇんだよなぁ。

　空中でくるくると回転しながら落下、ウェンディの隣に華麗に着地する。

「よぉ。調子どうだ？」

「はぁ……はぁ……巨大化のおかげで、身体の損傷は無いのだが……疲労は誤魔化せぬようでな……」

「ダメージは無ぇが疲れ果ててるってワケか。お前は休憩タイムだな」

「ああ……その抱えてるのは、ルーク氏か？　彼が戦闘不能になるなど……」

「ちょっと事情があってよ。ケガしてるワケじゃねぇから大丈夫、こいつはすぐ復帰できる」

　たぶん俺の攻撃が効いたんじゃなく、ルークも魔法の力を使いすぎて疲れただけだと思うんだよな。

　相手はゴーレムなワケで、

「マコト……私は数え切れぬほど殴られた……その分ゴーレムにも数え切れぬほど攻撃をしたが、決定打はほぼ一発も入れられていない……」

「……」

「奴の防御力は、常軌を逸している……！」

　こう見えて歴戦の騎士であるウェンディでさえ、こんなこと言うほどの相手だ。

　俺一人で倒すなんて夢物語もいいとこだろうよ。

　何にせよ狙うとすりゃ、

「ゴーレムの、あの額のヒビは？」

「あれはルーク氏とジャイロが協力した一撃と……私の最初の不意打ちの一撃で、ようやくあそこまで割れたものだ」

「おいおい、かなりの戦力じゃねぇか……！？」

　ダチで距離が近いからわかりづらいが、ルークやジャイロやウェンディって、たぶんこの世界でも上澄みの実力持ってんぞ。

　それでもちょっとヒビ割れる程度の魔物が潜んでるとか、ダンジョン怖すぎねぇ？

　こりゃ想定より遥かに……キツい戦いになりそうだ……

「それ以降はヒビ広がってねぇのか？」

「うむ。私も積極的に狙ってはいるのだが……ゴーレムも理解しているようで、なかなか届かず……」

「守るってことは、それだけピンチってことだよな……やっぱ狙うならあそこだな」

　しかしヒビ割れを攻撃し続けて穴なんか空けたりしたところで、ゴーレム死ぬか？？

　そうは思えん。もっと必要なことが――

「マコトっ！！」

「んぁ！？」

　ウェンディの叫び声が聞こえ、気づくと特大のパンチが降ってきてる。

　反射だけで俺はウェンディも抱え上げジャンプ、くるりと一回転してゴーレムの拳の上に乗る。

　パンチは空振りだったワケだが……当たった地面を大きく掘削し、ダンジョン自体が地震みてぇに揺れてる。

　デカさと重さが違う。食らったら確定で死ぬぞ、ゴーレムの攻撃。

「ま、当たらなきゃいいんだがな！！」

　拳の上から駆け出し、パンチで伸び切ったゴーレムの左腕の上を疾走する。

　このまま左肩まで行けば、額のヒビが射程距離に入るぜ。

「おいマコト、油断はするな！？　ゴーレムは防御力も異常だが――」

「喋らず休んでろって！」

「しかし――ぅぷ」

　抱えてる手でウェンディの口を塞ぐ。あんだけ疲れてたんだから、喋るのだって大変なはずだもんな。

　特にウェンディには休んでほしい――俺は死から蘇ることを二回繰り返したが、その度に疲労も傷も回復してんだ。

　だが彼女はなぜか回復してなかったそうだ。腹減り具合だってそのまま。

　つまり体力をずっと消耗し続けてる。まだ戦えてるのがスゴいぜ。

　そんなこと考えてたら、

「到着！　はっ、デカブツってのは攻撃や防御が凄まじくても、動きはトロいのが定石なんだよバーカ！」

　左肩の上で煽る俺。

　何か言いたげなウェンディとルークを一旦上に投げて、ロケットランチャーを生み出す。

「食らえぇ！！」

「ゴギ……！」

　額で大爆発が起きる。黒煙が晴れれば結果も見れると思うんだが――

「は？」

　影に包まれたと思ったら、俺たちの頭上、すぐそこまで巨大な何かが迫ってきてた。

　それは、よく見りゃゴーレムの右手。俺たちを平手で叩き潰そうとしてんだ。

　まるで右手が瞬間移動してきたみてぇな、

（何だこのス――）

　『スピード』って言葉も思いつかねぇ内に、俺の脳天に、巨大な手のひらの表面が触れる。

　そして、

「う……ああああぁぁぁ！！！」

　突然横からぶっ飛んできたル(・)ー(・)ク(・)によって、俺とウェンディは間一髪で助かった。

▽▼▼▽

「すまぬ……ありがとう、ルーク氏」

「た、助かったぜ……」

　風の魔法を使った猛スピードで助け出してくれたルークのおかげで、俺たち三人は無事に地面に戻る。

　ちゃっかりゴーレムの目元を凍らせて、少しだけ時間稼ぎしてやがるルークに礼を言う。

　と、

「ウェンディさんは良いですが……マコトさんは僕に謝ってください！！」

「えっ！？」

　ちょっと怒った顔だ。

　マジで驚く。あの優しいルークが俺にこんなこと言うの、初めてじゃねぇか？　そこまで言うほどだったか……？

「あなたはもう、僕の目の前で二(・)度(・)も(・)死んでいるんですよ！？　毎回見送っているこちらは、たまったものではありませんよ！！」

「そうか、そういやぁいつもお前がいたな……今ので三回目になるとこだったワケか」

「……僕は……僕は、あなたを失わないために距離を置いていたのに……！」

　ゴーレム圧死の時も、デスゲームでプラムゾンビの身代わりになった時もルークは目の前にいた。

　こいつは俺を責めてるワケじゃなく、優しいからこそ、もうそんな姿を見たくねぇって言ってんだな。

　まぁ最後のとこは……よくわかんねぇし、

「お、お前っ、んなこと言って！　さっきはお前に殺されかけたんだぞ俺！！」

「へ！！？」

　こっちも責める気も恩を売る気もねぇが、無かったことにされるのは困るんでな。

　ルークは何も知らないってリアクション。当然だけど。

「い、一体どういうことで……」

「暴走状態だったんだよお前。バートンが言うには、お前の魔法適性が強すぎてどうのこうの……」

「ああ……なるほど。『上書き』する際、恐らく『闇の瘴気』と僕の波長が合いすぎたんだと思います。それで魔法適性が暴走し、心まで制御できなくなってしまったと……え？　バートンさん？」

　才能ありすぎると『強制支配魔法』とやらがリスクにもなり得るってか。面倒だなぁ。

　あ。こ(・)の(・)こ(・)と(・)も言わねぇとだったな。

　だがあいつの本心までは、まだ言う必要ねぇだろ。というワケで簡潔に、

「バートンはな……暴走中のお前が殺したんだ」

「……っ！　そうですか……でも僕は、マコトさんのことまで！？」

「……そうだな」

「ぼ、僕は……何てことを……本当に申し訳ありま――」

「今助けてもらったからお(・)あ(・)い(・)こ(・)だろ」

　やっぱりルークは賢いから、話も割とスッとまとまってきたところで、

「マコト貴様……また死んだのか！？」

「まぁプラムを庇ってな」

「……そうか。立派だ」

　デスゲームのことは知らねぇウェンディが焦って聞いてきた。

　もちろん――『残機』を二人で共有してるワケだが、ウェンディはそこを気にしたんじゃなく純粋に心配してくれただけだろう。

　と、ここで。

「ギゴゴ……！！」

「お喋りはここまでだな！　ウェンディ、できるだけ奥に隠れとけよ！」

「すまないが頼む、二人とも……！」

　目元の氷を払い取ったゴーレムが動き出す。

　奥に引っ込んだウェンディが狙われないよう俺とルークは走り、わざと距離を詰める。

「ギギッ」

　相変わらずの特大パンチが飛んでくるが、

「――とにかく！　さっきのでわかりましたよねマコトさん！？　ゴーレムは機動力も並大抵ではありません！」

「おう、肝に銘じとく！」

　ルークは横に逸れ、俺はその腕に飛び乗ることで回避しつつ喋る。

　ひたすら腕を駆け上がるが、

「ギギゴ……ッ！」

　俺が走る腕を掲げつつ、またゴーレムはハエでも叩くみてぇにもう片方の手で潰そうとしてきやがる。

　見てたルークが走りながら杖を振り、

「〈アイス・スライダー〉！」

　そう唱えると俺の足場が氷に。

「うおっ、滑る！　すべっ……」

　尻餅をつくと、言葉通りスライダーに乗っけられたみてぇに氷の道を滑ってく。

「のわぁあぁ！」

　何だこの道！？　グルングルン回りまくって制御できねぇぞ！

　ってか滑り始めの地点、ゴーレムの手に潰されてるし！

　――シャアァァッ！！

「えっ？」

　スライダーは終わりを迎え、ジャンプ台みてぇに勢い良く飛び出す。

　でもってゴーレムの眼前まで迫る。いやすげぇ無茶振り！！？

「ん、んにゃろぉ〜〜！！」

「ゴォッ」

　大きなハンマーを生み出し、額のヒビに一撃かましてやった。

　――そういや、さっきのロケットランチャーの結果は……ヒビの大きさはあんまり変わってなかったっぽいな。

　と、

「ゴゴ！！」

「やっべ……！」

　空中に投げ出された俺を握り潰そうと、ゴーレムの開いた手が迫ってくる。

　どうしよう、殴れば押し返せるか！？　いや、ここは何か生み出して……

「〈アイス・ウォール〉！！」

　俺の目の前に氷の分厚い壁が出現し、ゴーレムの手がとりあえず停止。

　だが。

「ダメです割られます！　マコトさんこっちへ！」

「……サンキュー！」

　即席の壁は大きさが足りずゴーレムの手に収まり、端からバキバキ握り潰されてく。

　俺は氷の壁を足場にして下へ飛んだ。次の瞬間に壊されたか。危なかった。

　着地してすぐルークと合流。

「お前と共闘なんて久々――いや待てよ？　ちゃんと一緒に戦ったことあったか？」

「言われてみれば、初めてかもしれませんね」

「こりゃ熱い展開ってヤツだな！！！」

「ところで僕は一つ作戦を思いついたのですが……聞きますか？」

「冷めてんなぁ〜お前」

　別にルークとノリが合わねぇと思ったことはねぇが……俺一人だけテンション上がった感じになっちまったじゃねぇか。

　だが奇遇なことに、

「……ちょうど俺(・)も(・)アイデアが湧いたとこだ。すり合わせようぜ」

「え？」

　あいつが何を思いついたか知らんが……俺も少し思い浮かぶことがあった。

　間違いなく反対されるような内容だが……正直に話すことにしたんだ。

▽▼▼▽

「――半年前から、僕は……巨大な怪物を狩るのが役目なんです」

　走り出す俺を見送って、なぜかポツリと悲しげに呟いたルークが大きく息を吐く。

「フゥゥゥゥー……」

　杖を握りしめ、力を集中させていく。

　俺はゴーレムの薙ぎ払いを避け、足から腰、腰から肩へと登っていく。

「ロケットランチャーもハンマーも、全っっっ然効いてねぇけど……！」

　最初とほとんど変わってねぇヒビ割れを眺めながら空中にて、俺の全身から白いオーラが湧き出す。

「お前は……俺とルークで！！」

　全身の白いオーラが、右の拳に全部流れて。

「絶対ブッ倒す！！！」

　その拳のオーラが、さらに……人差し指の先端に凝縮される。

　人差し指がゴーレムの額にチョンと触れ、

「〈理不尽な暴力(アウトレイジ)〉」

　指が触れた部分からオーラが流し込まれ、ゴーレムの額の表面が一瞬ピカッと光る。

　直後、

　――バキバキバキィッ！！

「ゴゴゴ、ギギ……！」

　内部から破壊されたことにより、ヒビ割れが結構大きく広がった。

　……それでもこんなもんか。せっかくの新技なのにショボく見えちまうな。

　だが、

「これで終わりじゃねぇぞ？　ゴーレム……お前にも地獄ってモンを見せてやるよ」

「ギ……！」

　空中で身動きの取れねぇ俺に――ゴーレムの両手が左右から迫る。

　拍手するみてぇな動きで。

　俺の体は一瞬にして潰され、また『圧(・)死(・)』しちまった。

「マコトさん……！」

　ルークは歯を食いしばりながらも、集中することを止めない。

　部屋内の黒い『闇の結晶』たちが、徐々に青い『水の結晶』へと上書きされて――

「〈氷結の悪魔(アイス・デーモン)〉」

　暴走状態までは行かないよう、体の右半分のみを『氷の悪魔』の形態へと変化させる。

　角も、虚ろな目も、牙も、氷の翼も、右半分……つまり片方にのみ生えてくる。

　しかしまだ動かないルークを、ゴーレムは抜かりなく叩き潰そうとして――

「俺は、何度でも蘇るぜぇぇ〜〜〜！！」

「ゴ……！？」

　天井に穴が空き、上から降ってくるのは俺、マコト・エイロネイアー。

　さすがのゴーレムも驚いたように見上げてきた。

　もうわかったかな。

　ルークが力を溜めてる間に――俺はゴーレムの額に穴が空くまで攻撃し続ける。

　俺のアイデアってのは、いわゆる『ゾンビアタック』だった。