表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
67/145

#67 救世主マコト vs 氷の悪魔


 信じらんねぇな。

 アレがルークだなんて。


 もう言ったが、どっからどう見ても四足歩行する氷のバケモノだ。

 目は虚ろ、口には牙、手には爪。角と尻尾に加えて、どこか神々しい翼まで生やしたな。もちろん全部が氷だ。


「おーい、ルーク? 俺だよ。マコトだ」


「ヒャヒャヒャヒャ!!」


「ダメそうだな……」


 何かあいつ、俺が2回目に死ぬ直前、『強制支配魔法』に成功しそうな感じだったよな。

 あとバートンがさっき『魔法適性が強すぎて』どうのこうの言ってたが……


 要するにルークが魔術師として天才すぎて暴走しちまった、ってワケか?


「プラムがゾンビ化してるってだけでこんな四苦八苦だってのに、お前まで……どうすりゃいいんだよ俺は」


「ヒャヒャ……ヒャッ……」


「ん?」


「……〈(ヒヤ)〉ァァァ〜〜〜ッ!!!」


「うぇ!?」


 狂ったように笑ってたのを一瞬やめたかと思いきや、口から氷のブレス吐いてきやがる!

 まだ俺に到達してねぇのにもう寒ぃぞ!?


 食らっちゃマズい! でも咄嗟すぎて何も思いつかねぇ〜〜〜!


「ギャ〜〜〜〜お助けぇぇぇ!!」


 ああ、もう終わりだ氷漬けだ……と瞑ってた目を恐る恐る開けてみる。

 俺の突き出した両手の先には、


「……キャンプファイアー??」


 薪を縦横に組んで、漢字の『井』みてぇになってる中で、炎が猛烈に燃え上がってる。

 これでガードできたらしい。武器ガチャ良い仕事。


 ブレスを浴びた側だけちょっと凍ってるキャンプファイアーの組み木を俺は、


「どりゃっ!」


 蹴りつけ、燃えながらバラバラになる薪たちが暴走ルークに向かって飛んでく。

 だがヤツは、


「ヒャヒャヒャ!!」


 火をものともせず、飛んでくる薪を一瞬にして凍らせ片っ端から消してく。

 そのまま回転。自由自在に伸びる氷の尻尾を振り回して組み木を全部破壊し、


「……がっ!?」


 俺の横腹に衝撃。

 視界の外から接近されちまってたようで、尻尾に薙ぎ払われる。


 ――バコォォンッ!


「おうっ……!」


 ぶっ飛ばされた俺は壁に激突。あ〜〜……痛ぇけどすぐに体勢を立て直す。

 ってか冷てぇな! 当たった横腹ちょっと凍ってんぞ!


 氷を払ってショットガンを生み出し、


「このヤロ!!」


「ヒャヒャヒャヒャ」


 ひとまず撃ってみるが、ヤツは翼で飛び立っちまい外した。

 ニ発、三発。空中のヤツの動きに翻弄されなかなか当たらん。


「……ってかルーク撃っちゃダメだわ」


 いや、だってさぁ。

 ルークに見えねぇんだもんよ〜。まずあんな見た目なんだ、撃ったって効きそうもねぇし。


 どうすりゃルークを救えるのか、それを考えようとしてた時だった。


「ん?」


 見間違いじゃねぇな。暴走ルークの体だ。


 今さっき、キャンプファイアーの火がちょっと当たった部分の氷が溶けてる。

 すぐに氷は再生したが――溶けたところにルークの着てた服が見えた。


「ははーん。ルークそのものが変身しちまったワケじゃなく、体が氷に覆われてるだけの状態なんだな?」


 つまり、あのクソ氷を割っちまえばルークを助け出せるかもしれねぇな。

 確証は無ぇけど……やってみるか。


 バズーカ砲を生み出し、走りながら三発ほどぶっ放す!


「ヒャヒャ〈(ヒヤ)〉ァァァッ!!」


 砲弾はブレスで全部凍らされて爆発も防がれ、俺まで凍っちまいそうだったんでジャンプ。

 空中でフライパンを生み出して振りかぶるが、


「うおぉ!?」


 ヤツの尻尾の先端から無数の氷のトゲが発射。咄嗟にフライパンを盾にしたんだが、ガード成功だ。


「これ万能すぎだろ……ってなぁ!!」


「ヒャアッ!!」


 フライパンの一撃をドタマにブチ込んでやったぜ。

 暴走ルークは怯んだが、俺は着地と同時に気づく――無数の氷のトゲが、今度は四方八方の何も無いところから生み出され俺を狙ってる。


「クソ……!」


 消化器を生み出して乱雑に噴射しまくる。ヤツの目を欺けたようで、迫ってきたトゲを全て回避できた。

 俺は煙の中から飛び出して、


「らぁッ!!」


「ヒャ!!」


 フライパンを下から上へ、アッパーみたいに振り上げる。命中した顎の氷が砕ける。


「ふぅんッ!!」


「ヒャガ!」


 続いて振り回した消化器の底で胸を突く。また氷が砕けた。

 俺は武器を捨て、新たに両手に生み出したのは、


「百裂アイスピック!!」


「ヒャアアア――――ッ!!」


 氷を割る専門のヤツだ。


 二本のアイスピックに《超人的な肉体》の白いオーラを纏わせ、暴走ルークの全身を刺突。

 絶え間なく続く俺の攻撃。氷の装甲がみるみるうちに剥がれていく。


 だいぶ氷もまばらになり、元のルークの姿に近くなってきたところで、


「仕上げに――」


「……ヒャ!」


 百裂アイスピックを止めたその一瞬。暴走ルークの虚ろな目が俺を睨んだ。

 つい俺もその目に気を取られ、


「ッ!? ぶはっ」


 視界外から飛んできた尻尾の先端に顔を殴られる。頬がちょっと凍ってるって!!

 さらに、


「ぅ、ぐうッへ!!?」


 氷の爪で、肩から胸にかけて切られちまった。これがかなり痛い。

 ダメージを受けた部分が打撲や切り傷だけならまだしも凍傷まで追加されるんで、いちいちキツいんだ。


 そして、


「お前も……でけぇパンチかよ!?」


「ヒャヒャヒャ!」


 そういやバートン潰す時もそれやってたな……と思い出す暇もなく、空中から生成された巨大な氷の拳が降ってきた。


「あぐ……!!」


 《超人的な肉体》を全開にして何とか潰れずには済んだが、周りの地面にはクレーターができてるな。

 すると突然に氷が霧散し、


「ヒャヒャヒャヒャッ!!」


「うおっ!?」


 上から暴走ルークが覆い被さってきやがる。何とかヤツの両肩を掴んで密着は避けるが、同様にヤツも俺の両肩を押さえつけてて、


「あぁあッ!! つ、つめっ、冷てぇ!」


 恐ろしいことに俺の肩や腕が、ヤツの手を起点として凍りついていく。


 元の世界じゃ普通に生活してたら『氷漬け』は経験しねぇだろうが、異世界でも初体験だぞこれ……


 ま、それはともかく、だ。



「……やっと落ち着いて触れたぜ」


「ヒャ……」



 百裂アイスピックの仕上げにやろうとしてたこと、もう一回やるぞ。


 こんな至近距離で氷のブレスを吐こうと準備する殺意高すぎの暴走ルークをよそに、俺は白いオーラを全身から……相手に触れる俺の両手に流し込んでいく。

 ゆっくりと、丁寧にな。



「いい加減に出て来いよ――相棒」


「ッ!!!」



 成功した、それは例の『内部破壊』だった。



 ドォォンッ――――!!!



 俺の両手からルークに流れ込んだ白いオーラが、邪悪な氷の装甲を内側から吹き飛ばす。

 まだこの技の精度は低いからな。氷がまばらになったからこそ可能になった。


 もちろんブレスも中断され、顔もいつもの優男に戻る。


 勢いが強すぎて、ついでに俺の肩の氷も一緒に吹き飛んだ。

 と思いきや地面まで崩壊しちまう!


「やべっ!? おわぁあっ、やり過ぎたぁ〜〜!! ルーク起きろぉぉ〜〜!!?」


「……」


 死なんように調整したから気を失ってるだけだと思うが、動かねぇルークを空中でキャッチ。

 このまま下に落ちるしかねぇか……!



▽▼▼▽



 ちょうど下の階。

 巨大化した女騎士ウェンディは、未だに『ダンジョンの番人』ゴーレムの足止めをしていた。


 しかしルークの魔法で作られた氷の剣と盾は、激闘の末に破壊されてしまったようだ。


 そして彼女自身も、


「ぐう……っ!」


 顔を殴られ、もう限界が近かった。

 その上、


「か、体がっ……! やはり、時間制限は当然にあるものだったか……」


 ゴーレムの足止めに多大な貢献をしてくれた、謎のキノコによるパワーアップ。

 巨大化していた体が、どんどん縮んでいく。


 やがて普通サイズに戻るウェンディ。


 そこに再びゴーレムの巨大な拳が迫る。


「はぁ、はぁ……ここまでか……」


 長時間の戦闘で疲れ果ててしまったウェンディが、避けることもできずにいる。


 だが――心配ご無用。




「ウェンディ〜〜〜っ!!!!」


「……マコト!?」




 ルークを抱えた俺が、崩れた天井から急降下。


 ウェンディはよく頑張った。

 想定外のパワーアップを完全に利用して、俺やルークでも歯が立たなかったバケモノをずっと相手しててくれたんだ。


「あとは俺たちに任せろ!!」


「ギゴゴ……」


「〈大暴れ(ランペイジ)〉ッ!!」


「ゴォ!?」


 フルパワーのキックが『俺の仇』とも言えるゴーレムの脳天に炸裂!


 ――ルークやウェンディが必死で時間稼ぎするほど、ゴーレムは放置しとくと手がつけられなくてヤバい魔物なんだろう。

 仲間が散らばってるこのダンジョンで、これ以上暴れさせるワケにはいかねぇよな。


 まぁ、休む暇もなく戦うハメになるが……文句言ってる場合じゃねぇか。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ