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#66 救世主マコト vs 魔術師バートン

三章も終盤ですが、三章はラストまでこんな感じで戦闘が続くと思うのでチラ見せ程度にこちらを…





 バートンが両手の人差し指をクイッと上げると、ヤツの周囲の地面から土の鎖が何本も生えてくる。

 アルドワインもやってたヤツか。


「……〈アース・チェーン〉!」


 両手の人差し指が俺に向けられたと同時、いくつもの鎖がウネウネ動きながら飛んでくる。

 正面からのそんな攻撃に対して俺は横方向に駆け出す。思った通り鎖は追尾してきたが、


「そりゃっ!!」


 ポリゴン化した腕で、とりあえず8ビットソードを振り回す。

 驚いたことにそのカクカクの刃に当たった鎖は、何やらデジタルっぽい残像を残しつつ霧のように消えた。


 ゲームとかで、倒した敵キャラクターが消滅するみたいな挙動だ。


「!? 何だその剣……危険だナ!」


「うぉっ!?」


 バートンは驚きつつも対策してきやがって、俺の死角の地面から高速で飛び出した鎖で8ビットソードが弾かれちまった。

 手から剣が離れた瞬間、体のポリゴン化も無くなって普通に戻ったな。


「ふむ……どうやらお前がいつもやってる『妙な能力』とは無関係らしいナ」


「ただの拾いモンなんでね。ヒュッヒュッヒュヒュ〜〜〜♪」


「?」


 口笛を吹きながら俺はスナイパーライフルを生み出し、スコープを覗く。


(頭ブチ抜いて終わりに――)


「〈強制支配――」


「ッ!!!」


 スコープに入れたバートンの顔が、聞き覚えありまくりの技名を口に出す。

 やべぇ、あの魔法は未知数だ。


 とりあえずバッと上を見て、天井に生えた『闇の結晶』を狙撃。


「っ!?」


 異世界人には耳慣れねぇだろう銃声、そして落ちてきた破片にバートンが驚いてる隙に、すかさず部屋内の残り二つの結晶も狙撃しとく。


 あれ?

 一瞬焦ったが、この部屋って『闇の結晶』三つしか無かったのかよ。


「って、お前まさか……」


「チッ……ダンジョンの外でも実用できる可能性はあるが、今の俺では魔結晶が無いと無理だナ……!」


「え? 外でも?」


「ああ。〈強制支配魔法〉は『空気中に存在する魔力の制御』に真髄があるはずダ。ダンジョンの瘴気や魔結晶を利用すれば()()()()()だけのことで、恐らく、極めれば場所は関係ないんだヨ」


「なるほどわからん。魔法使いってのも楽じゃねぇのな」


 何か知らんが、かなり大事なことを教えられたような気がするぞ……

 しかも、こいつ明らかに『闇の結晶』が少ない部屋を戦いの場に選んだろ。


 ――ふざけやがって……


「死ねや!!」


「おぉっと」


 心を鬼にしてスナイパーライフルの引き金を引いたが、バートンの立ってる地面がボコッとくり抜かれて浮遊したことで避けられた。

 ヤツは両手のひらを上にし、


「〈尖った岩(ロック・エッジ)〉!」


 両腕を交差させる。俺の周囲の地面があちこち盛り上がり、


「どわっ」


 トゲトゲの岩が四方八方から飛び出してきた。ジャンプしてギリ避けたがスナイパーライフルは落としちまう。

 さらに空中の俺に、


「〈ストーン・ストーム〉!!」


 とうとう杖を構えたバートンの、尖った石の雨あられが迫る。

 俺は咄嗟に『盾』をイメージしたんだが、


「何で!? ぬががががっ!!」


 生み出されたのは公園とかにある木製のベンチ……イメージが曖昧だったか? 数秒と保たず壊れそうなんで次のを出すが、


「おぉ!? おおおおわ!」


 今度は木製のドアが現れた。おかしいな、冷静さが失われてるってか?

 とりあえず石つぶては防ぎ切ったんだが、


「〈ホーミング・ロック〉!!」


 どデカい岩が、ドアを真っ二つにぶっ壊して突撃してきた。

 俺も「打ち返してやる!」と木製バットを生み出して空中で構えたが、


「――破裂しろ」


「だばあぁあぁッ!?」


 打とうとしたその瞬間。目の前で岩が砕け割れ破片が飛び散り、俺は身を切られつつ衝撃にぶっ飛ばされる。

 クソ、痛ぇ! 完全に油断してた!


 壁に衝突しそうになる俺だが、まだ終わりじゃなかった。


「う!?」


 壁からバキバキバキッと巨大な拳が生えてきやがる。それは明らかに俺めがけて振りかぶり、



「〈奈落岩拳(ならくてっけん)〉」


「――ぼがぁあッ!!」



 上から降ってきた巨大な拳にぶん殴られ、今度は地面に叩き落されると思ったが、衝突するはずだった地面に穴が空いてる。


「あああああ」


 これも土属性の魔法かよ。いつまで経っても底に着かねぇ!

 ようやっと底が見えたら、


「ちょ、オイ! またか!?」


 底から拳が生えてきて、


「べふぁああああッ!!?」


 またぶん殴られたんだが、今度は穴の外まで突き上げられた。

 上から下に落とされて、また上に戻されたってワケだ。


「げほ……」


 仰向けで地面に倒れた俺は、吐血しながらも、


「ひとつ……聞いていいか?」


「ぜぇ、ぜぇ……随分と余裕があるようだナ」


 別に余裕があるワケじゃねぇけど。否定は返ってこなかったから質問だ。



「お前もここで会ったと思うが――あの狼の獣人ハイド。あいつ、いったい何なんだよ? 闇属性魔法を扱えんのは……」


「――『魔王』か『魔王軍幹部』くらいだナ」


「っ!!」



 やっぱりバートンのヤツ、あいつの正体に気づいてるっぽいぞ。

 とはいえ流石に棒立ちで話すワケはなく、



「〈グラウンド・フェス〉!!」


「おおっ!?」



 土塊で浮遊してやがるのを良いことに、俺が今立ってるこの地面全体が揺れ出す。

 でもって、あっちこっちからランダムに岩のトゲや岩の柱、土の鎖なんかが滅茶苦茶に生えてきてる。


「うぉ、おっ!」


 足元からの攻撃を躱す。


 あっ……ちょい離れた所に落ちてた8ビットソードが今、土の鎖に巻き付かれてぶん投げられてたな。

 壁を貫通してどっか行っちまった。


 四方八方から襲い来る、蛇みてぇな岩の柱どもをぶん殴って壊しまくる。

 そんな俺をバートンは楽しそうに見下ろしながら、


「あのハイドって野郎は――恐らくだガ、単なる獣人じゃないだろうナ」


「っあ!?」


「お前は知らねぇカ……あいつも串刺しになったはずなんだが、次会った時には綺麗に傷が治ってやがったんダ。一時間も経ってねぇのにダ、回復魔法でもそこまで完璧にはいかん」


「っ、ぐぉ!」


「それを見た俺が思い出したのは先代魔王『ギルバルト・アルデバラン』。奴は……()()()()()なんかを食料としてタ」


「っ!?」


 この状況で語り出すかよ! しかもスゲ〜大事そうな話を!

 正直こっちは飛んでくる土魔法をガードするので手一杯なんだが!?



「ギルバルトは……人間じゃなかったろうナ。青い肌、角、牙、黒い翼を差し引いても……『闇』――つまりは生物の負の感情なんかを食って生きてたわけダ。イカレてんだろ? まぁ少し違うが『魔物』に近い存在かもナ、魔王が創るから当然だが」


「っ!」


「ハイドもきっとそうなんだろうヨ……ダンジョンに充満する『闇の瘴気』の影響で、奴は戦闘力も回復力も上がってる状態ダ」


「な、んで! そんなこと、わかって……」


「奴の正体は――本来ならギルバルトに仕えるはずだった『魔王軍幹部』だろうナ」


「っ!? ぐあッ!」



 バーでマゼンタから聞いた話と、完全に繋がってきた――そう思ったところで土の鎖に手足を拘束されちまった!



「クソッ、離せ!」


「俺も少し仕えたから知ってるが、ギルバルトは欲深い男だっタ――そういやぁ『弱い幹部など不要』と言ってたナ」


「……!」


「自分が封印されるなど、ましてや殺されるなど考えずに……幹部となる存在を、強くなるまでどこかに隠してたんだろうナ」


「は……? それで、こんなに時間が経ってから幹部が世に放たれちまったって?」


「ああ。俺の仮説でしかねぇけどヨ」


「……ッ!?」



 動けねぇ俺の目の前まで近づいてきたバートンが、ノールックで右手をクイッと上げる。

 ヤツの右斜め後ろの地面がせり上がり、ものすごい高さに。てっぺんの形は、



「〈奈落岩拳(ならくてっけん)〉」


「またアレか……!」


「両手を拘束されてちゃ、いつもの妙な能力も使えねぇよナ? ……終わりダ」



 やべぇ。確かに『武器ガチャ』は基本的に手から武器を出す。

 こうもガッシリ鎖が巻き付いてちゃ、どうしたらいいのかわからん。


 バートンはこの一撃で勝負を決めるつもりらしく、薄ら笑っている。

 巨大な岩の拳が、力強く握りしめられる。



「ハッ、割と『救世主』も大したことねぇもんだナ……安心しろヨ、お前が死んでからも他の『魔王軍幹部』を見つけ出してやるからヨ」


「……やっぱ幹部って言うからには、ハイド一人なワケねぇか……」


「ああ。だが『魔王を失った魔王軍』だしナ、仲間意識があるのか、そもそも目的とかそういうのがあるかどうかも……わからねぇナ」



 何かバートンさっき、騎士団がどうのとか言ってなかったか?

 他の幹部についてもアテがあんのかな。


 いや今は……それどころじゃねぇ。


「あばヨ」


 天に向かって突き出されてた巨大な岩の拳が、軽くアーチを描いてから、俺の脳天に向かって猛スピードで急降下してくる。

 こりゃ確かに直撃しちまったら――トラウマになりつつある『ゴーレム圧死』の再来だ。


 生き返れるにしても……当然、死ぬのは避けてぇだろ。

 また光の結晶の部屋まで戻されて大幅なタイムロスも食らっちまうしな。


 迫る、拳。

 四肢を拘束された俺は動けず、


「――――」


 直撃。






「ハハ、ハハハッ! 残念だガ! 今回ばかりは俺の勝ちみてぇだナぁ! ハハハ……ハァ!?」






 ――ビキ、ビキッ。


 拳は俺の頭で止まって、動かない。


 その音は明らかに何かにヒビが入った音のはずだった。だがヒビなど見当たらない。


 バートンも何事かと見回すが、拳に変化は無い。依然として俺の頭で止まって……




 ――バキッ! ボコボコボコココッ!!!




「えっ……え!? 何ダぁぁ〜〜〜!!?」



 巨大な岩の拳はその()()を起点に不自然に破壊され、拳の先も連鎖するように砕けていく。


 もちろん俺は無事。

 額からちょっと出血アリだけどな。


「ど、どうやっテ……!? 無抵抗だったはずだろうガ!! 大きな力が衝突したようには見えなかったし、ヒビだってどこにも……まさか……?」


「んんっ!!」


 白いオーラを纏わせた両手で、拘束してきた土の鎖を全て破壊。

 バートンは忘れてたんだ……これも俺の能力だってこと。


 ――ボコボコココココ!!!


 岩の拳がデカくて長い分、爆砕の連鎖がまだ収まってねぇ。やっと中間くらいまで砕けてきたな。


「内側から……? その白い煙みたいなのを流し込んで、内側から破壊したってのカ!!?」


「とぼけんなよバートン。お前が教えてくれたんだろうが」


「……ッ!!」




 まぁ本人でさえサッパリわかってねぇ様子だな。

 とにかく拳が降ってくる直前。俺の脳裏を過ったのは――



『〈爆心地(グラウンド・ゼロ)〉』


『内部から破壊したのか?』



 またまた……しれっとバートンが俺の前で披露してくれてた、とある魔法のことだった。

 あれはミニゴーレム軍団と戦った時。あいつは数体の体内に隙間から砂を仕込み、内側から破壊した。


 内部破壊。


 考えてみると……相手の外側がどんなに硬くても、しかもこっちも必要最小限の動きで……確実で強力なダメージを与えられる方法だと気づいた。


 今思うと、バートンが俺の目の前で見せたのは偶然でも気まぐれでもなかったんだろう。

 間違いねぇ。教えてくれたんだ。


 だが、そういえば。


『〈貫流正拳(かんりゅうせいけん)〉ッ!!!』


 ウェンディのヤツも、ポンプにスライムを吐き出させるのに似たようなことやってたな。

 あれは破壊ではねぇが……とにかく使えて損は無ぇ技術だ。


 バートンは動揺してる。演技なのかどうかわからんがな。


「マジで身につけやがったナぁ〜〜!! って、うおおぁッ!?」


 ――ボココッ、ボコォォォン!!


 内部破壊の波が、とうとう岩の拳が生えてきた付け根のとこまで到達。

 すぐ近くのバートンも衝撃に巻き込まれてバランスを崩した。


 今がチャンス。

 出でよ!


「お!? 何だヨぉこの怪物はぁ!?」


 俺が生み出し、運転席に座ったそれは、油圧ショベル。見たことねぇ異世界人にはモンスターに見えるらしい。

 掘削や整地に使う建設車両。まぁショベルカーだな。土魔法相手にはピッタリだろ?


 レバーを操作し、運転席ごとアームをグルングルン大回転させつつ、キャタピラで前進。



「いけぇえ〜〜〜ッ!!」


「っ!? ぶぐぉオオオ!!」



 フラつくバートンを、大回転するアームの先端のバケットで横からぶん殴る。

 命中! 足場にしてた土塊までぶっ壊れ、バートンがものすごい勢いで地面に叩きつけられた。


「……ぐ……このぉオっ!!」


 仰向けのバートンが手のひらを向けてくる。

 ヤツの周囲から無数の岩の触手みてぇなのが飛び出し、油圧ショベルごと俺を八つ裂きにしようと群がってくる。


 だが油圧ショベルを回転させまくり、俺に死角は無くなる。

 迫ってきたのを全部破壊し、一旦ストップ。


「ふんっ!」


 アームを地面に押し付けると、車体が少し浮かび上がる。

 グググ……とアームに力を込めるように操作し、


「元気ですかぁ〜〜〜!!」


「はぁ!? まさかそんな重そうな体で、跳び上がる気かヨ!? 不可能ダ!」


「元気があれば何でもできる! 1、2、3、ダァァァァァァ――――ッ!!!」


 自分でもどうやったかわかんねぇが、アーム一本で油圧ショベルが大ジャンプ。

 宙返りしながらバートンに向かって落ちていき、


「ちょ待っ……うぉ!? ごおぉおッ!?」


 車両の底で押し潰す!

 ヤツの体が地面に豪快にめり込んで、周囲が土埃に包まれ、


「あぐ……〈サンド・ストーム〉……」


 バートンは血反吐を吐きながらも、土埃を上手いこと利用して砂嵐に変えてきやがった。

 視界が悪くて操作もできん。俺は油圧ショベルの運転席から飛び降りる。


「んなもん……今さら……」


 着地し、


「効くかぁぁぁ〜〜〜〜!!!」


「ぼぁッ!?」


 砂なんか食らったところでちょっと目が痛ぇ程度で済んだ俺は、倒れるバートンに全力の蹴りを入れて吹き飛ばした。

 砂嵐が解除され、俺も猛ダッシュ。


 バートンは転がりながらも、また俺に向かって手のひらを広げ、


「〈ホーミング・ロッ……」


「〈大暴れ(ランペイジ)〉ッ!!!」


「ばぉあああァァッ!?」


 もう魔法なんか撃たせねぇ! 追いついて、どてっ腹に全力のパンチを入れてやった。

 元々ぶっ飛んでたバートンは更に加速、壁に激突する。


「は……はぁ……はぁ……っ、ぐ……ぎぎ……」


 また壁にめり込んでるバートンが這い出そうともがいてるが、


「……あ……ちょ、ちょっと待っ……!」


「悪ぃな」


 もう目の前に立ってんだわ、俺。

 決めちまおう。



「――〈(レイン)(フィスト)乱打(レイン)〉!!!」


「待て、やめっ、や……べばばぼばばッ!?」



 とにかく殴りまくる拳の乱打だ!

 上からじゃねぇと雨って感じしねぇが、まぁ横殴りの暴風雨ってことで!



「おぉぉぉぉぉらおらおらおらァァ!!!」


「ぐぇ、が、ばがっ!? ぶぼぼおぼォ!? べふがはらだだだどごォォ!?」



 白いオーラを纏った二つの拳が、まるで増えたみてぇな速度でバートンの全身を打ちまくる。

 周りの壁まで巻き込んで、クレーターみたいになってるけどな!



「おらおらおらおらおらおらおら」


「だばぁばばばばばばぁば」


「おらおらおらおらおらおらおら」


「ぉが……でばだばら……」


「ん〜〜〜〜〜………」



 かなり殴りまくって……バートンの意識が飛びそうになってきたんで、ちょっと右手を振りかぶって力を入れ直し、



「ンンッ!!!」


「……っ」



 ズルッ……とバートンがそのまま落ちて気を失いそうになったところで、首根っこをがっしりキャッチ。



「おんどりゃあッ!!」


「……ぶげっ」



 後ろに投げた。気は失わせん。

 地面に叩きつけられたバートンが、ガクガク震えながら吐血を繰り返してる。


 だが、



「刺せヨ……トドメ、を……、させ、ヨ……」


「……」



 どうやら、それがお望みらしい。

 俺はありきたりな剣を生み出し、弱々しく這いずるバートンに歩み寄る。


 どこか安心したような表情の『悪党』の頭に狙いをつけ、俺は剣を振り上げ、



「ッ」



 突き刺した。

 ――――すぐ横の地面に。外したんだ。



「……? おい……ぜぇ、ぜぇ……どういう、つもり、だヨ……!?」


「なぁ、バートン」


「……?」


「黙ってて悪かった。俺さ――お前がハイドと話してるとこ、見ちまったんだよ」


「ッ!!!!」



 俺の手が離れ、突き刺さった剣は消滅。


 あーあ、せっかくここまで隠し通したのに。言っちまったよ。

 バカだし、無粋だよな……俺って。



「……ハッ……何か、ちょっと、様子が変だとは……思って、たガ……」


「あれがお前の本心なんだろ?」


「……そうダ……」



 バートンも自分をバカだと思ってんのか、苦笑してるようだ。

 あと、気まずくて小っ恥ずかしいだろうな。


 じゃあこのバトルは何の意味があったんだよって……なっちまうし。



「俺も最後まで黙って、お前を『悪党』として始末するつもりだったが――ごめんな。やっぱ無理だわ」


「……お、まえ……?」


「バートン、俺の手を取れ」



 屈み、俺は『悪党』に手を差し伸べる。

 なぜなら、



「お前はまだ『決定的なこと』はやってねぇ。俺のこと()()殺しただけだ……まだ引き返せるんだよ」


「……!」


「やり直そうぜ。迷ってんなら。これからゆっくりと『正義』になってけばいいじゃねぇか」



 俺が殺した『魔王』は、救うことができなかった。あいつは、やり過ぎたから。


 でもバートンは違う。


 ギリだったが、ルークやプラムゾンビも無事。敵しか殺してねぇ。

 俺はこうして生き返ってる。



「頼む。バートン」


「………………」



 今度こそ、救わせてくれ。

 そして、救ってくれ。この俺のことも。



「………………」



 血まみれで、震える手が、俺の手にゆっくりと近づいてくる。

 そして。






「……? っ、ぐぅあッ……」






 ――え?

 か細く、響いた声。


 大量に口から血を吐くバートンの、その体が浮かび上がる。


「あ……」


 貫かれてる。

 バートンの体が……背中から、腹にかけて。




「ヒャヒャヒャ……ヒャヒャヒャヒャヒャ!! ヒャヒャヒャ!!」




 何だあれ……


 氷の、四足歩行のバケモノみてぇなヤツが、いつの間にかすぐそこにいる。

 そいつの……尻尾? 長ぇ、氷の尻尾が、バートンを貫いたんだ。


「がふっ……マ……コト……」


「……」


「あぁ……コイツは……()()()……魔法適性が、強すぎて……魔力が……暴走し……てる、んダ……」


「……は……?」


 何言ってんだよ。

 こいつが、ルーク? 嘘だろ?



「俺を……殺すのが、ルークなら……本、望……!」



 パキパキ、パキッ……そんな音を立てて、串刺しのバートンが氷漬けにされてく。


「マコト……ありがとナ」


 絞り出せたのはたった一言。

 完全な氷の彫像が出来上がったとこで地面にポイ捨てされ、


「ヒャヒャヒャヒャヒャッ!!!」


 ――――バリィンッ。


 暴走ルークが生成した巨大な氷の拳が、無慈悲に割り砕いた。

 バートンが、死んだ。


「ヒャヒャ……ヒャヒャヒャヒャ!!!!」


 狂ったように笑いながらも暴走ルークは俺を睨みつける。

 背中に、大きな氷の翼を広げた。


 ……なぁ……こんな気持ちのまま、俺……ルークとも戦うのか?











バートンは、ユンボ(油圧ショベル)のことを「怪物」と表現しましたが、存在を知らない人の前にいきなり巨大な重機出てきたらそりゃ怖いしバケモノに見えますよね。

それを乗りこなすマコトは、異世界人バートンにとってはラスボスにしか見えなかったんじゃないでしょうか。そういうイメージで書いてました。

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