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#63 ROCK・EDGE・DEATH GAME

「〈アイス・ソード〉! 〈アイス・シールド〉! 今のウェンディさんにも合うように特大です!」


「おお、これは助かる……感謝するぞルーク氏!」


 ──巨大化したウェンディさんにとって、自分の持っている剣は指でつまむ程度の大きさ。

 だから僕が氷の魔法で、彼女の両手に合う大きさの剣と盾を製作した。


「いえ、感謝するのはこちらですよ」


「あー、まったくだ! オレらじゃゴーレムとやり合っても足手まといにしかなんねーしな!」


 ウェンディさんは体の大きさで、ゴーレムの攻撃も耐えることができるようになった。

 しかし僕らでは一発で『あうと』だ。正直、邪魔でしかないという結論に至った。


「では本当に飛ばすぞ……? 良いんだな?」


「はい。その剣と盾は壊されない限り、僕が死ぬまで有効としました。ここはウェンディさんに任せます」


「ここよりもマコトの向かってったらしい方向が騒がしいからよー。加勢に行くぜ!」


 困惑しながらもウェンディさんは、僕とジャイロくんを手の中に収める。

 グルン、グルンと大きく腕を回転させて、



「マコトを頼むっ、せぇぇいッッ!!」


 ────バキュンッ!!



 僕らは途轍もない勢いで投げられ、壁を突破していった……が。


「うぉ!? 止められた!?」


 ジャイロくんの反応の通り、途中の部屋で僕らの勢いが殺されてしまった。

 見上げれば、


「ボスオーガです。それに、オーガの大群!」


「うざってーな……」


 どうやらオーガという大きな鬼のような魔物の、その上位種『ボスオーガ』の剛腕に止められてしまったらしい。

 黒いボスオーガは仲間の赤いオーガ達を連れて、僕らをすっかり包囲してしまっている。


 しかし、


「おいルーク……」


「はい?」


「お前、先行けよ」


 不可解なことを言うジャイロくんが、両方の手を地面に突き刺す。

 刺さった地面が赤く輝き出し、



「〈噴火(フンガ)〉ァァァッ!!!!」


「「「オオオオ!?」」」



 彼の拳から撃ち出される火の魔法が、地中を四方八方に駆け抜けて、オーガたちの足元で次々と爆発していく。

 まさか……


「任せろ、オレはここを制圧してから行くぜ。お前、目の前でマコトに死なれたんだったよなー?」


「う……」


「んじゃーマジで生きてるか確かめてやれ。でもって、心配させやがったことを叱ってやんだよ!」


「で、ですが……」


「いいから行けぇー! ヒョロ青髪ぃ!」


 叫ぶジャイロくんが背中の剣を抜き、炎を纏わせた突き攻撃。

 前方のボスオーガやオーガを吹き飛ばして、僕のために活路を開いてくれた。


「……ありがとうございます!」


 助けられてしまった僕は、自力で壁を破りつつ進む。

 そして辿り着いた。


 マコトさんたちがいる────今まさに、地獄と化している円柱型の部屋に。



▽  ▽


▽▼▼▽



 数え切れねぇほどの勢力。

 敵と味方と入り混じりまくった狂気の乱戦カオス空間。


 そこに響き渡る、一つの詠唱。




「〈強制支配魔法──尖った岩と(ロック・エッジ・)死の遊戯(デスゲーム)〉」




 俺を噛む直前だったプラムゾンビの動きが、ピタリと止まる。

 いや。俺の動きもだ。理由はわからんがまともに動けねぇ。


 首だけで振り返る。詠唱したのは倒れてるバートンだった。


 『強制支配魔法』?

 ブラックビアードがやってたアレか?



「なっ、俺様の鎧がぁ!? おいバートン! 確かにコツを教えてやったが、どう考えても発動すんのは今じゃねぇだろ!」



 緑色した風のアーマーを纏ってたはずのブラックビアードだが、それが消滅しちまってる。

 それもそうか……だって壁の結晶が……



「書き換えられていた『風の結晶』が……どうやら茶色い『土の結晶』へ、さらに上書きされていってるようですね」


「ルーク!?」


「マコトさん……ウェンディさんもですが、本当に生き返ったなんて……!」


「おう。呆れるほど悪運強ぇだろ、俺?」


「ですね……また災難のようですが」


「あ、あぁ……」



 せっかく再会したってのに、お互いに謎の力で動けねぇ上に、バートンが凄まじく怪しい状態になってる。


 ルークは、悲しげだ。



「すみません。『災難』ではないですよね──これは()を連れてきた、僕の失敗です」


「……」



 バートンの野郎、本気で信頼してた優しいルークを悲しませやがって。

 俺もフォローしてやりてぇが、何も言葉が思いつかん。


「うぉ!?」


 この部屋の全員が動けない状態だったワケだが、動けないまま、それぞれの足元の地面がボコッとくり抜かれて浮かび上がる。


 倒れてたバートンも浮かぶ石たちに起き上がらせてもらって、そのまま天井付近まで浮遊していく。


 俺、ルーク、プラムゾンビ。

 レオン、アーノルド、モブ騎士たち。

 アバルド、ポンプ。


 ジキル、ハイド。

 バートンの仲間に見えたが──ブラックビアードに、盗賊の三下ども。


 全員が浮遊する床に乗せられ、バラバラな位置、バラバラな高さで止まる。

 ホバリングしてる状態かな。


 ──まさにバートンの手のひらの上で転がされてるような、不快な気分だぜ。


「な、地面が……!?」


 誰かが呟く。

 俺も下の方を覗いてみると、さっきまで俺たちが立っていた地面が崩壊し、代わりに流砂が真ん中に集まっていく……


 何だっけあれ……そうだ思い出した、『アリ地獄』みたいになってんだな。


 ──そして浮かんでる俺たちの中心の空間に、巨大な岩の柱のようなものがいくつも生成され、横向きのそれが塔のように積み上がる。

 だが不安定でグラついてる。


「なんだ、なんだ!?」

「高ぇ〜〜! 恐ぇぇ〜〜!」

「何が始まるんだよぉ!?」


 モブ騎士やモブ盗賊が大騒ぎ。


 この強制支配魔法とやらでこのフィールドを作り出すのは、もちろん遥か上から見下ろしてくるバートン。

 何考えてやがるんだ、あいつ……



「〈運命の回転盤(ルーレット)〉」



 バートンの隣に生み出された平たいそれは、俺も見たことのある……カジノとかにあるルーレットに似てる。

 賭け事をするような雰囲気ではねぇけどな。何だろうと思っていると、


「マコトさん、見えますか? どうやらこの場にいる全員の名前が書いてあるようです。中心には針のようなものがあって、ちょうど名前を指し示せる位置にあります」


「ってことは……ルーク……?」


「誰か一人を選ぶ仕組み、でしょうか」


 みんな慌てふためいてるってのに、こんな状況でもルークは冷静だ。


「参りましたね。手足も動かず、魔法も使えません。マコトさんの能力はどうですか?」


「俺もダメだ、武器ガチャできねぇ。魔法じゃねぇのに強制力どうなってんだ……」


 魔法で武器ガチャを使えねぇようにされる日が来るとは思わなかった。

 この調子だと今は《超人的な肉体》も抑えられてて、一般人同然の身体能力にさせられてそうだな。


 『デスゲーム』って言葉、固定されて動けねぇ足元、崩れそうな岩の塔、落ちればアリ地獄、誰か一人を選ぶシステム……嫌な予感しかしねぇから、



「ルーク、先に言っとくぞ」


「え?」


「俺は一度生き返ったが────たぶん、あと何回かは死んでも生き返れる」


「っ!!?」


「それだけだ。もしもの時は頼むぜ、相棒」



 あえて無表情で、俺はルークに託した。

 ルークは今までの冷静さが嘘のように驚き、悲しんだような顔になったが、



「さぁ……遊戯(ゲーム)を始めるゾ。楽しい、楽しい、死の遊戯(デスゲーム)をナ……!」



 バートンが指をパチンと鳴らすと、ルーレットの中心の針が回転を始める。

 何だか知らんが、クソ、始まっちまうようだ。


 針の先が人物名を通過するのに合わせて、それぞれの足元の土塊が光る。

 わかりやすっ!? いや、いくらダンジョンの特性を利用したからって、どんな魔法の精度だよ!?


 針が止まり、一つの名前を指し示す。

 足元の土塊が光ってるのは、


「よし、最初の犠牲者(プレイヤー)はお前ダ」


「……何?」


「お前だヨ、そこの太った騎士」


 選ばれたのはレオンだった。いきなりダチが選ばれちまったか。

 しっかりと足元が光ってやがるし、逃れようが無さそうだが。


「おい、ちょっと待て、土の魔術師。みんなが騒いでるように俺たちは何に巻き込まれたかサッパリなんだ。まずは説明──」


「うるせぇナ、そこの積み上がった岩に番号が彫られてるだろ。さっさと選べヨ」


「はぁ?」


 よく見ると確かにグラグラする岩の柱たちには、それぞれ番号が振られてるようだ。

 その内の一つを選ぶようだが、レオンは何かを察した。


「まさか、選ぶと……」


「早く選べってんだヨ! 残り時間が見えねぇのカ!?」


「残り時間!?」


 バートンの指差す先。

 ルーレットの横に、岩の破片で形成された数字が浮かび上がっている。


 10、9、8、7……って。


 10秒しか無ぇのかよ!?


 どうやらバートンもこれ以上説明するつもりが無いらしく、全然ルールもわからねぇまま、レオンは深く考えている。


「じゃあ②の岩だ」


 あいつが選んだのは、上から2番目に積まれた岩だった。

 残り時間1秒。ギリじゃねぇか。


「よし、②を抜くぞ」


「抜く!?」


 バートンが指を指揮者のようにスゥッと動かすと、②の岩が横方向に引き抜かれ、上に積まれていた①の岩が落ちる。

 下にあった③の岩に着地し、グラ、グラ……と傾いたが……ちゃんとバランスが保たれた。


 ってか、


「うおぉっ、危なぁッ!?」


 すごい勢いで引き抜かれた②の岩が、俺の真横を通り過ぎて下に落ちていった。

 アリ地獄に飲み込まれてく岩……俺今もしかして殺されかけた?


 それよりレオンは無事か。


「……今ので良かったのか?」


「レオンとやら、お前は難を逃れたナ──これで全員わかっただロ? 簡単な遊戯(ゲーム)サ」


「いや簡単すぎねぇ?」


 レオンは無事。

 俺は思わずツッコんじまったんだが……ルールとしてはジェンガみてぇなものかと思ったが、これはジェンガと違って岩が()()()()積み上がってるだけだろ?


 上から引き抜いてけばいいだけじゃねぇか、何の戦略性も感じられん。



「おーおー『救世主』様にそう言われちゃあ黙ってられねぇナ、増量といくゼ」


「え!?!?」



 岩の柱が新たに30本ぐらい生み出され、今までの塔に上から積まれる。

 すげー増えちゃった。部屋内の全ての参加者から冷たい視線を感じる。


 俺、また何かやっちゃいました……


 いや、でも増えれば増えるだけ、上の方から順番に抜いてきゃ良いんだから時間稼ぎになったんじゃね?

 とにもかくにもルーレットがまた回り、


「次はお前ダ。目隠れの女騎士」


「へ!? 私ですか!?」


 またダチが選ばれた……どう見てもルーレットはランダムなのに、今度はポンプかよ。

 まぁ、あいつも俺のこと以外ではアホじゃなさそうだし心配いらねぇな。


「ポ、ポンプさん、気をつけるであります」


 ポンプの隣のアバルドも、心配そうに見つめてるな。


 そうだ。このゲーム、もし失敗したらどうなるんだ?

 何か、大したことねぇような気がするが。


「増量されたからまた②番が新しくできたんですね? ②でお願いします」


「……いいんだナ?」


「……え? はい、いいですけど……?」


 バートンが指を動かす。

 ②と彫られた岩が横方向に引き抜かれる。

 上にある①の岩が、③の岩の上に落ちる。


 さっきの流れと同じだった。

 ──そこまでは。




 ────ドォォォンッ!!!




 ①と③が接触した瞬間、③の岩が爆音を立てて破裂し、その下にある40本ぐらいの岩全てに衝撃が走る。


「何だ、おい!?」

「何が起きてんだよ!」


 どよめきが広がる。

 俺にもよくわからなかったが、③の岩は刺激されると爆発するような仕組みだったワケか? 予想もできねぇただの罠じゃねぇか!


 塔が大きく揺れ、崩れ始める。経緯は置いといて、ゲームオーバーの瞬間はジェンガそのものだ。

 なんて思ってたんだが、



「失敗のようだナ。女騎士、お前は処刑ダ」


「えっ」



 崩れる塔そのままに、バートンが冷ややかにポンプに告げる。

 すると彼女の足元の土塊、その表面から尖った岩が何本も飛び出し、


「ぐふっ!? うわわわぁ!」


「ポンプ!!」


 ドスドスドスッと、太すぎるトゲが次々とポンプの体に突き刺さった。

 直後に足元の土塊が消滅。穴だらけのポンプがアリ地獄へ落ちていく。


「マコト様ぁ〜! また離れちゃう〜〜……」


「……あいつは大丈夫そうだな」


 そうだ、あいつ今やスライム娘だったわ。腹を貫かれてもピンピンしてた。

 何となくだがアリ地獄に飲まれても生きてそうだな。

 と、



「ちょ!? ちょちょちょ、ちょっと待つでありますよぉ!!?」



 アバルドの慌てた声に、俺は振り返る。

 ──マジかよ!? 崩れる塔の岩たちが、アバルドの方に落ちていくが!?


「おいバートン! リセットだろリセット! ポンプが処刑されたんだからさっさと次のヤツを選ぼうぜ!」


「……いや? 岩の塔が()()()()()()()次の犠牲者(プレイヤー)を選ぶんダ」


「ルーレットで当てられてねぇのにアバルドが死んじまうだろ! 岩を消滅させろ!」


「何言ってんだかよくわかんねぇナぁ……」


 この野郎……!

 まずい、アバルドが……飲み込まれる!



「うぁあああああ────!!!」



 ああ、そんな。

 アバルドは巨大な柱の一本に衝突、足元の土塊ごとアリ地獄へ落ちてった……



「巻き添え上等ってか……!」



 二人の脱落を悲しむ時間も貰えず、何事も無かったかのように、また岩の塔が形成される。

 またルーレットが回る。


 理不尽トラップありの運ゲーだってのに、処刑、巻き添え……


 バートンの野郎め、どうしてくれようか!!


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