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#62 セーブポイント?


 これは、ついさっきのことだ。



「……はっ!!?」



 目を覚ます俺。

 天国にしちゃあ薄暗くて気味悪ぃ場所だ、と悪態をついてやろうとしたんだが、


「……マコト……?」


 なぜか天使──じゃなくてウェンディがすぐそばに立ってて、


「お、おいおい? これって」


「ああ、そうなのだ。先程、貴様が不用意に触れて攻撃を受けた……」


 金色の結晶。

 俺がなぜか触りたくなっちまって、ウェンディと二人仲良くビリビリ電流浴びたのが記憶に新しい──


「ウェンディと一緒に……こりゃ偶然か?」


「わからぬ。マコト、貴様には何かあったか?」


「『何か』って……どういう意味だよ」


「……私は、死を覚悟するほどの巨大な攻撃を受けたはずだ。当然に意識は失い、とうとうこの命尽きてしまったかと思ったが……」


 いやいやいや、マジかよ。


「俺もだ! ポンプと一緒にいて、ルークと合流したと思ったら……潰されちまった」


「潰された?」


「上からデッケェのが降ってきてよ、逃げる暇もなくグチャリ、だ」


「……私も同じようなものだ。あの巨大な手はきっと『ダンジョンの番人』ゴーレム、もしかすると貴様の死因も奴かもしれぬな」


「ゴーレムはよくわからんけど……ってことはよ、俺たち……」


 まぁそうだろうとは思ってたんだが、



「死んだ、ってことだよな」


「……うむ」


「だが、この結晶の力で生き返った」


「……恐らく」



 ダンジョンにはさんざん苦しめられてきたが、今度は助けられちまったのかよ。

 別の場所でそれぞれ死んだ俺たちだが、どうやら神がかり的にタイミングが一致して、ほぼ同時に生き返ったらしい。


「見てくれ、マコト」


「ん?」


 ウェンディが結晶を指差して、ちょいちょい、と手招きして俺を呼ぶ。

 なんか可愛いなコイツ。


「証拠と言ってはなんだが、この結晶……初めはこのような()()()()があっただろうか?」


「……いや、無かった」


 確かに結晶のてっぺんから、原因不明の謎のヒビ割れができてる。

 俺が触った時は超綺麗だったはずだが。


「だろう? 私が蘇るとヒビが入り始めたような気がした。そして貴様が蘇ると、更にヒビ割れが増したのだ」


 生き返るたびに増えたってことは、


「もしかして……このヒビ割れが一番下まで行って、結晶が割れちまうまで、まだ復活できるのかな俺たち」


「さぁ……試すこともできぬしな」


「できねぇっていうか、嫌だよな」


 できれば二度とゴメンだ。

 まさか異世界にやって来て半年、『死』まで経験するなんてな。普通は経験したらそれで終わりだってのに、マジで意味わからん。


「ってかお前何でまだ裸?」


「なっ!? 裸ではない、ちゃんと下着はある!!」


「いや変わらんだろ」


「貴様……マコト、なぜ貴様っ!? いつもの『すうつ』まで復活しているのだ!?」


「言われてみれば俺はスーツもバッチリ決まってんな。ありがてぇぜ」


「なぜだ!? なぜ私だけ!?」


 理由は知らんが、なぜか俺は服ごと復活してもらったのに、ウェンディは鎧とか無くて死ぬ前からまんま変わんねぇ状態だ。

 鎧だったからダメなのか? それともこのダンジョンがムッツリスケベな性質なのか?


 何にせよ、


「俺は行かねぇと。ポンプやルークも心配だし、プラムも無事だとわかったからな」


 白いポーションの小瓶も、ちゃんとスーツの内ポケットに復活してくれてる。どんな親切設計だよ、感謝するが。


「おお、プラムが見つかったの────」


 ウェンディの言葉は、『ぐぅ〜』っていう空腹を知らせる音に遮られちまった。

 俺じゃねぇぞ。


「腹減ったのかウェンディ? 俺は体調もバッチリだぜ! 数日前からの疲れも感じなくなってダンジョン様々だ」


「く……私は荷物も全て溶かされてしまったしな……食料を大量に運ぶ担当の騎士も、どこにいるかわからぬし……」


「そういう担当の騎士もいんのか」


「詳細不明のダンジョンの攻略だ。長期戦も考慮されていたが……まさかあのような突入になるとは誰も予想しておらずだな……」


「全員落っこちてバラバラになっちまったもんなぁ。してやられた、って感じだ」


 ──とりあえず探索してみるか、と二人で頷いて金色の結晶の小部屋から出る。

 そうだ、次の部屋は一本橋のトラップ部屋だったはず……


「は? 罠がねぇぞ??」


 俺はここで天井から吊り下がったハンマーにぶん殴られて落ちたんだ。幻覚だったとは言わせねぇぞ。

 と思いきやウェンディが反応。


「ああ、貴様が落ちた後のことだ。殺し屋ハイドが巨大な魔法を放ったのだ」


「ハイドが? ……そういやお前一人残ったんだったか、よく無事だったな!?」


「私も殺されるかと思ったが、奴は『マコトが先の部屋へ進んだ』という嘘を信じ、罠を魔法で破壊してさっさと行ってしまった」


「……そうか」


 今度はウェンディを見逃したんだな。ようやっと俺の脅迫の効果が出てきたワケだ。


 真相もわかったとこで──プラムゾンビのいる場所まで戻りてぇが、道がわからん。

 せっかく罠も無くなったしこのまま進もうかと思ったら、



「ん? おい見ろ」



 こんな時に都合良く、変な模様をしたキノコがスゥ〜〜と橋をスライドして俺たちの足元までやって来た。

 いや、こちとらスーパー◯リオブ◯ザーズじゃねぇんだよ。


 なんか毒々しい見た目だな……ちょっとタイミング良すぎるしオススメはできんが、


「……」


 ウェンディはじっと見つめてる。


「く、食うつもりか? コレ」


「……騎士としての鍛錬により、そんじょそこらの毒なら耐えられる体だ……」


 そうだったのか、嘘じゃねぇよな。

 初耳なんだが。


「いや、それにしても……まぁでも『腹が減っては戦はできぬ』って言うしな。当たって砕けろだ! もし死んでも復活できるし!」


「確定じゃないだろう!?」


 ──んで俺のせいで食っちまったウェンディは、巨大化しちまって……たぶん今はゴーレムとやり合ってんだろうな。


 俺も勘だけで『俺殺人事件』の現場に急行し、今に至る。



▽▼▼▽



「……というわけで俺死んだんだが、謎のセーブポイントに偶然触ってたおかげでウェンディ共々生き返っちゃいました!!! すげぇだろレオン?」


「あ……あぁ……要するに一回は本当に死んだんだろ? 久しぶりに会った気がするが、お前の軽さは相変わらずだな……」


 海賊船モドキをジャイアントスイングしながら、呆気に取られてるレオンに話を振るが、なんか呆れられてるな……

 だがアーノルドの方はテンション上がってる様子で、


「おおぉさすがは『救世主』っすねマコトさん! とりあえずウェンディ先輩が生き返ったのだけ良かったっす!」


「俺が生き返ったことも喜べ!? お前の失礼さも大概変わんねぇなアーノルド!」


「一応喜んでますけど?」


「じゃあ言葉足らずだな! なのにその『一応』は余計だし! ヨシお前後で殴る!」


「何で!!?」


 くだらん漫才はさておき。

 振り回す船からは盗賊どもが吹っ飛んでいったり、必死にしがみついてるヤツもまだいるが、



「ヒャッハー!! また出たなマコト・エイロネイアー!!!」


「……またハイドか……」



 わっかりやすい、うるさい声だぜ。


 ブラックビアードの盗賊団に、裏切り者のバートン、捕まってるプラムゾンビ、加えてジキルとハイドの殺し屋コンビか。


「この部屋、敵多すぎだろ!? レオンとアーノルドよく生き残ってたなオイ!」


「〈大災害(ディザスター)ァァ……」


「てめ、このっ……!」


 いきなりぶっ放してくる気かよ!

 だったら、こっちもやってやるぜ!


「潰れろぉぉッ!!」


 振り回してた船をぶん投げて、口腔でビームを光らせるハイドに一直線だ。


「うぐぉッ」


「「ぎゃあああ〜〜〜!!」」


 ハイドが船底に衝突し、乗ってた盗賊どももパニック状態。

 土埃を上げて船が倒れるが、



「……〈大災害(ディザスター)・ブレス〉ゥゥゥ!!」


「「「うぎゃああああ〜〜〜!!?」」」



 混乱の中、黒い極太ビームが真上方向に発射される。船は真っ二つで、土埃も晴れた。

 滅茶苦茶だなオイ……


 おっと、真っ二つになった船からはブラックビアードも飛び出してきたな。


「獣人風情が、よくも俺様の船をォ!」


「ヒャッハーハハ! もう一丁、もう一丁!!」


 空中でブラックビアードとハイド、悪党二人がご対面かよ。

 ハイドはまたも極太ビームを溜め始めるが、


「〈強制支配魔法──鉄壁の風鎧(ウィンド・アーマー)〉」


「〈大災害(ディザスター)・ブレス〉!!」


「────ッ!!」


 部屋内の闇の結晶が総じて緑色の『風の結晶』に書き換えられ、ブラックビアードは例の最強アーマーを発動。

 今度は顔までちゃんと覆われ、


「ぎゃ〜〜っははは効かねぇ!!」


「何だお前! 何だお前!」


 あのアーマー、極太ビームでも掠り傷一つ付かねぇのか!? 『強制支配魔法』とか呼ぶだけはあるな。


「お返しの〈神威断(カマイタチ)〉ぃ!」


 アーマーそのままに、空中のブラックビアードが剣を振って風の刃を放つ。

 それも何発もだ!


「〈大狂気(ルナティック)・クロー〉!!」


 ────ガキキンッ! ギィン!!


「ふん、光線だけの一発屋じゃねぇようだな……」


 だが闇の魔法で両手に大きな爪を生み出したハイドは、いとも簡単に風の刃を弾いてみせた。

 そのままアーマーに襲いかかる爪だが、どんなに斬りつけても効いてねぇ。


 何だよこの怪物決戦は……!


「……おっと!」


 戦慄してた俺だったが、直後に冷静さを取り戻して『あるもの』を両手でキャッチ。

 それは大きな檻で、


「……ゥカ"ァァ…! アァ"」


「プラム……やっと会えたな」


 檻に入ってるのは、誰にやられたのかボロボロにされて弱ってるプラムゾンビだ。

 綺麗な形じゃねぇとは思ってたが、よく見るとこの檻って──



「邪魔すんなヨ、マコトぉ! せっかく見世物にするために檻を作って捕獲してやったんダ!」


「やっぱりお前かバートン!」


「〈ストーン・ストーム〉!!」



 クソ。白いポーションの小瓶を取り出そうとしたのに、浮遊する岩に乗っかってるバートンが小さくて尖った石を連続で飛ばしてきやがる。

 岩か何かの魔法で作られたデカい檻だが、どうにか右手だけで持ち上げ、


「うおおおお!!」


 左手で石の礫どもを無理くりガード。

 痛ぇが、武器を生み出す暇も無かったんだ。


「どんな力技だヨ……!?」


「今度はこっちの番だぞ!」


 俺は火のついた爆竹の束を生み出し、バートンに向かって投げつける。


「〈アース・ウォール〉!!」


 バチバチバチッと小規模の爆発が連続するが、それはバートンが土の壁を地面から作り出すことで防御されちまった。

 ヤツが土の壁を消滅させると、


「──〈大暴れ(ランペイジ)〉ッ!!」


「ッ!? ぶはっ!」


 いきなり俺が目の前に現れたように見えたろうな、檻を置いてジャンプしてたのさ。

 あいつのフード被った顔面をぶん殴って叩き落としてやったが、


「ア"ァァァ"ァ────!!」


「うおぉプラム!?」


 バートンを痛めつけすぎたせいで檻の魔法が解除されちまったらしく、プラムゾンビが飛んできやがった。

 空中で取っ組み合いになる。やべぇ、俺が噛まれたらおしまいだってのに……!


 こんな状況で、



「はぁっ、はぁっ、部下を失って……盗賊に敗北し……団長とはぐれて……今度はいったい何が起こっているでありますか……!?」


「あ〜〜〜〜マコト様ぁっ! やっぱり生きていらっしゃったぁ! ……アバルドさんもういいですよ、ありがとうございました」



 本人も言ってるように何か不憫な騎士、二番小隊長のアバルド。

 そしてそのアバルドに纏わりついて扱き使ってたスライム騎士、ポンプ。


 また濃いヤツらが乱入してきやがった……


「あーっ、アバルド生きてたのか! あいつ後輩のくせに俺の名前パクった疑惑ある奴ですよ先輩! 俺の名前そっくりなの!」


「うるさいぞアーノルド!?」


 アーノルドとアバルドか。性格は真反対だが確かに名前似てんな。

 神様の采配ミスなんじゃねぇか?


 鋭いツッコミを入れたレオンだが、


「くっ……若い奴らは死なせんぞ!」


「「ひぃぃ!」」

「さっきからその獣人コワすぎる〜!!」


「ヒャッハーァァ!!」


 新人モブ騎士たちを狙いやがるハイドの前に立ちはだかり、体全体で止めようとしてやがる。

 マズい、今度こそレオン死ぬぞ。


 ──あまりにも乱戦じみたカオス空間が出来上がっちまったワケだが、






「〈強制支配魔法〉……」






 プラムゾンビに噛まれそうになる俺。

 ハイドにやられる寸前のレオン。

 困惑するアバルドやポンプ。

 阿鼻叫喚の盗賊どもや、様子を見ているジキル。


 この部屋の全てを置き去りに、






「〈尖った岩と(ロック・エッジ・)死の遊戯(デスゲーム)〉」






 バートンが、禁断の魔法を唱えた。

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