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#60 巨大な番人との死闘


 超巨大なるダンジョンの番人──ゴーレムは、マコト・エイロネイアーとウェンディを殺害後も、縦横無尽に大暴れを続けていた。


 そして、


「はぁ……はぁ……やっと追いつきましたよ……!」


 あらゆる部屋を移動しながら追跡を続けていた魔術師ルークが、とうとう追いつく。

 ポンプとは途中ではぐれてしまった。


 さらに、


「おいおーい? 誰かと思ったらルークじゃねーかよ。どっかで野垂れ死んじまったかと思ったぜ、ブハハハ!」


「ジャイロくん……」


 偶然にも、騎士団長ジャイロまでゴーレムを追っていたようだった。

 合流してしまった赤髪と青髪の若者。


 この二人の仲について語るならば、


「どうやらここで、また共闘するしかないようですね……不本意ではありますが」


「あ? 不本意ってゆーか、どーせビビってるだけだろ? すっこんでていいぜ、オレ一人でも楽勝だ」


「あなたが下がっていてどうぞ。横でそうも喋られると集中力が落ちてしまって」


「んな辛気臭いツラしといてよー、他人の文句言ってんじゃねーぞ」


「……」


 どうしても相容れない、いわゆる『犬猿の仲』という関係。

 辛気臭い顔、と言われたルークは歯噛みして、


「一応忠告しておきます。このダンジョンの番人『ゴーレム』は異常に硬く、また攻撃力、機動力ともに規格外です」


「あー……こいつが『ゴーレム』か。んじゃ番人であってボスじゃねーな。『ミニゴーレム』と『ゴーレム』はダンジョン限定の魔物なんだっけ?」


「マコトさんを一撃で殺してしまうような魔物です。ダンジョン以外にも生息されていたらこの世の終わりでしょう」


「だよなー。あんな図体しといて機動力まで持ってるとあっちゃ、そりゃマコトも殺されちまうし理不尽が過ぎる──」


 ルークから説明を受けてうんうん頷いていたジャイロは突然「ん?」と俯いて首をひねり、



「マコトが死んだだとぉぉぉーーーッ!?!?」


「……行きますよ」



 目をかっ開いてジャイロが叫ぶと同時、ルークは顔に影を落としながら突撃していく。


「ギゴ……!」


 巨大すぎて洞窟を抉りながら移動しているゴーレム。

 接近してくるルークに気づき、また天井を掘削しつつ振り向く。



「〈ヘイル・ストリーム〉ッ!!」



 初撃からルークは、現時点での自身の最強の魔法を繰り出す。

 氷の礫が混じった極太の水流が、一直線に飛んでいく。


 しかしゴーレムは掌を広げ、難なくそれを受け止めてしまった。


「……くっ!」


 そのまま掌がルークを握り潰そうと迫ってくるのを、飛び退いてギリギリで躱す。


 ──レベルが違う。


 ルークはマコトが殺されるまで、一人でずっとゴーレムを足止めし続けていた。

 決して『戦っていた』などとは言えない、足止めで精一杯。


 ルークが弱いわけではない。彼はこの世界でもトップクラスに強いとされているのだ。

 それが敵わない魔物となると、暴れ出したら皆殺されてしまう。だから必死で足止めしていた。


(今のところ、一発も決定打を出せていない……どうすれば)


「〈激炎の拳(ブレイズグローブ)〉!! オラオラオラァーーッ!!」


 駆け出したジャイロがゴーレムの足を、腕を伝って、顔面に炎のパンチを入れまくる。

 多少なり怯むゴーレムだが、


「ジャイロくん危険です!!」


 無傷。

 巨大な掌が、空中のジャイロを握り潰そうと迫る。それを食らったらジャイロとはいえ死んでしまう。


「〈アイス・バレット〉!」


 ルークは急いで杖から氷の弾丸を撃ち出し、ゴーレムの手首に命中させる。

 弾丸は爆裂し、


「ギギ……ゴ」


 ゴーレムの手首から上が凍りつき、動かせないその間にジャイロは距離を取る。


「……れ、礼は言わねーぞ」


「……凍った? なぜ?」


「あ?」


「ここまで戦ってきて、ゴーレムに氷の魔法を当てても凍らなかったんです」


 難しく考えているルークだったが、


「濡れてっからじゃねーの?」


「……!」


 ジャイロの一言でようやく気づく。先程の水流の魔法が当たったゴーレムの手は濡れていた。

 だから凍りやすくなったのだ。


 とはいえ、少しゴーレムが手を振ると氷は吹き飛んでしまったが。


「これなら……! ジャイロくん、手を貸してください。奴に一撃食らわしてやりましょう」


「一撃と言わず二撃、三撃入れよーぜ!」


「欲張ると痛い目見ますよ。まずは一撃です!」


「わぁーってるよ冗談だ!」


 どうやらジャイロも乗ってくれるようなので、ルークも思いついたことを存分に試すことにした。


「〈ウォーター・バレット〉!」


 ゴーレムの顔──目と思われる部分で、水の弾丸が弾ける。

 続けざまに氷の魔法を撃ち込み、


「ゴギギ……ッ」


 ゴーレムの視界が氷に覆われ、巨大な両腕も空を切るだけ。

 そこへジャイロが飛び込み、


「いくぜー……!」


「〈アイス・ニードル・ラッシュ〉!!」


 拳に炎を纏わせて振りかぶるジャイロの周囲、無数の氷の棘が生成される。

 その全てがゴーレムの額に照準を合わせ、



「「〈ヒート・ショック〉ッ!!!」」



 パンチの衝撃が、炎の熱が、氷の冷気が、一緒くたになってゴーレムの額で爆裂する。

 爆煙に紛れてジャイロはルークのもとまで下がった。


「どーだ!?」


「作戦通りにはいきましたが……」


 煙が晴れ、ゴーレムの顔面が露わになる。

 ──額には、ほんの僅かなヒビ割れが見られた。


「チッ……」


「……」


 これを成功した、とポジティブに捉えるべきか。

 ここまでやって、あれだけの成果かと失望するべきか。


 二人が悩んでいると、




「だ……だあぁ〜〜〜〜ッ!!」


「「っ!?」」




 ゴーレムの背後……壁を突き破って何かが現れる。

 それはゴーレムと同レベルの巨体を誇る、人型の……




「な……ジャイロ!? ルーク氏!? こんな私を……みっ、見るなぁぁぁ!!!!」


「「え〜〜〜〜!!!?」」




 ジャイロもルークも、目玉が飛び出るほど驚く。


 それはなぜか下着姿のまま超巨大化した──女騎士、ウェンディ。

 ほとんど裸の体を、恥ずかしそうに隠して赤面している。



「よくも私を殺してくれたなぁ、ゴーレムぅぅ!!!」


「ギゴォォッ!?」



 言うなれば『()()()()』であるゴーレムの顔面に、巨大ウェンディは強烈なパンチを入れるのだった。


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