#6 恐怖のチェーンソー
「なーんか、チャイム鳴らねぇな」
「先公も戻ってこねぇし」
「お、アールくん」
「なんなんだ? 講義も何も始まらないけど……暇だし、お前ら『良い子ちゃん』連れてこい。ぶん殴ってストレス発散しようぜ!」
「いいねぇ!」
「さっすがアールくん!」
廊下にて――ゲスの極みみてぇな会話を繰り広げる、アールとアールに雇われた上級生ども。
リリーを連れてくため教室に入ろうとするクソガキどもに、俺は声を掛ける。
「待ちやがれ。卑怯者軍団め」
「「「「はぁ?」」」」
小さなアールと、大きな体の三人組。
合計四人が一斉に振り向いて、
「な、な……何だアレ!?!?」
アールが俺を指差し、露骨に怯えた表情をしながら叫ぶ。
そりゃそうだ、怖いだろうよ。
今、俺は――血(ってのは嘘で赤い絵の具)だらけのエプロンとゴム手袋、溶接用マスクみてぇなのを装着。
そして両手で持ってるのは、
「俺自慢の、チェーンソー!! 吹かすぜ吹かすぜ〜〜〜!!」
――ブィィィィン!!
すげぇ音を鳴らしてトゲトゲ刃を回転させる、『武器ガチャ』で出したチェーンソーだ。
その見た目だけで恐ろしい殺戮兵器に(本当は木を切ったりする道具だが)、ガキどもは恐怖を隠せない。
「「「「ぎゃああああああ!!」」」」
「待ちやがれコラァァ!!」
ブンブン振り回しながら、俺は廊下を一直線に逃げまくるアールたちを追いかける。
が、アールは一人足を止めて振り向いてきた。根性あるな。
ヤツは杖を取り出し、
「俺は将来、魔術師になって魔術師団に入るんだ! くらえっ〈ファイア・バレット〉!!」
小さくも破壊力バツグンだろう、炎の球体を打ち出してくる。
――言ったろ? ここは剣と魔法の世界。魔法には火・水・風・土・光・闇と属性があって、今のは火属性の魔法だな。
まぁ強力そうだが、ブチ切れた俺には効かん。
ブィィィィィンンンン!!
「な、なぁっ!?」
怒り狂うチェーンソーを縦に振って火の玉を一刀両断。
真っ二つになった魔法は、俺の背後で儚く散る。
「お前らバラバラにしてやんぞぉぉ!!」
「うわぁぁぁぁ!! マジでヤバいこれ逃げろ逃げろ逃げろぉぉぉ!!」
顔面蒼白のアールは三人組と一緒に逃げることに徹し始める。
だが走り疲れたのか『美術室』と書いてある部屋に逃げ込み、鍵を掛けてる。
「ま、ま、マコト・エイロネイアー!! 言っただろ俺のパパは有名な貴族の――」
「知るかぁぁぁ!!!」
「「「「ぎゃあああああッ!!」」」」
ドアまで辿り着いた俺はチェーンソーを滅茶苦茶に振り回し、ドアをバラバラに切断。
そして部屋内に一歩踏み出した俺に、クソガキどもはビビりまくり部屋の隅っこまで避難。
「どこまで逃げても無駄だ……チビども」
「ひ、ひぃっ」
「アールくんどうしよう」
すぐそこに彫像みてぇなのがあったんで、
「見ろこの威力ッ!!」
「「ひぃぃぃ!?」」
チェーンソーを水平に振り、まじまじと首チョンパを見せつける。
「な、何でこんなことするんですかぁぁ! 俺たちが何したんだよぉぉ!」
――あーあ、小さく体丸めて怯えちゃってるよ。俺はチェーンソーを停止し、溶接用マスクを外し、ひとこと。
「お前ら、被害者ぶってんじゃねぇ。覚えてねぇのかよ? 俺はリリーのダチだと言ったが」
「あ……!」
ようやく、俺がリリーの代わりに復讐しに来たことを理解したらしい。
「今のお前らにゃ、怖がる権利もねぇ。有名な貴族家だぁ? 知らねぇよ、アホ!」
「ひ……!」
「四人でリリーのことイジメてたんだろ!? か弱い、一人の女の子を! あの子がお前らに何したんだ!? 人気者で、優等生で、何が悪いってんだ!」
止まっててもチェーンソーが怖いのか、それとも俺の言葉が効いてるのか?
わからねぇが、四人は黙って聞いてる。
「俺は、あの子を尊敬するぞ。先生のこと、この『学園』のことを考えて、あの子は誰にも相談しないようにしてたんだ!!」
「……!」
「対してお前らはどうだ!? 人気者になりたい、弓が上手くなりたい……良いことじゃねぇか。それをどうして嫉妬にしちまうんだ!?」
そうだ、この際もう言ってやる。
「人より優れたきゃ、人を蹴落としてねぇで自分を磨け! 蹴落とす時点で心根が優れてねぇんだよ!」
「……ま、マコト・エイロネイアー!」
「あ!?」
「ひっ……そ、その!」
アールが俺に怯えながらも、震える声で脅しを始める。
脅しって言ったってどうせ、
「パパに言いつけてやる! あ、あんたは死刑になるぞ!!」
ほら、これだ。
「……言えばいいじゃねぇか。ただ」
「そ、そう! じゃあすぐ帰って言って――」
「ただ、リリーは誰にも言わず耐えたけどな。お前はすぐチクっちゃうってこったな。ザコ野郎」
「ッ!!!」
調子に乗ってたアールの顔は、俺の一言で大きく歪んだ。
「これで明らか。リリーは一人でも強い子だが、お前らは四人で束になってもバカみてぇに弱い。ヨワヨワだ。負け負けだ」
「「「「ッ!!!」」」」
煽りまくりの俺の言葉に、大の男が四人揃って黙りこくる。
こりゃあ勝ちだな――リリーの。大勝利だ。
そんな時、
「マコト……おじさん……?」
「ん? あぁ、いたのかリリー」
まぁキラーの俺と、四人のサバイバーとのチェイスが始まったのは、リリーのいる教室のすぐ外の廊下だからな。
そりゃバレるか。
「ク、クソ……!」
「「「あ、アールくん待ってー!」」」
駆け出したアールを、三人組も追いかけて行ったな。
リリーはそれを横目に見ながらも、美術室から廊下に出てきた俺に心配そうに話しかけてくる。
「だ、大丈夫なんですかマコトおじさん……? もし大事になっちゃったら……」
「大丈夫だよ。あんな調子乗っただけのチビには何もできねぇ。面倒なことに男には『プライド』ってもんがあるからな」
「『ぷらいど』? ですか?」
「あぁ、異世界語さ。そのうち教えてやる」
「はい。……あの、マコトおじさん。私なんかのためにありがとうございました。私、ずっとマコトおじさん達に助けられっぱなしですね……」
「気にすんな。俺も気に、しな……ッ!?」
――その時。俺は背後から殺気を感じた。
「おらぁっ!!」
「グエェッ!」
反射のみでチェーンソーをブン回すと、何かに命中して床に叩きつけることに成功。
そいつの名は、
「ガーゴイル……!?」
「マコトおじさん大丈夫ですか!? ど、どうして魔物がこんな所に……!」
いつの間にか学園内に侵入していたらしい、角と翼を持つ空飛ぶ黒い魔物『ガーゴイル』だ。
リリーと二人で、恐る恐る横を向く。窓ガラスの先に見えるのは、
「が……ガーゴイルの大群ですっ!?」
リリーが言ってくれた通りだった。