#55 闇の瘴気
「ふぅー……終わったな。出口も開いた」
自分で作ったクレーターから這い出てきたジャイロが、額の汗を拭う。
ミニゴーレムを全滅させることが条件クリアだったってことかね。
にしても、
「ジャイロお前……強くなったなぁ」
「変わんねーだろ」
「いや元から強くはあったけどよ……あ、ちょっと待てクシャミ出る……エッッキシ! ちくしょ〜い……」
「マコトさんそんな格好だから風邪ひくんすよw」
前よりも洗練されたジャイロの強さを褒めてるところ、鼻水がタラリ。
忘れがちだが俺パンツ一丁なんだよな。ラムゼイにヘラヘラ笑われて思い出したが。
でも心配なのは他のヤツらだよな。
「マコト様ぁ助けて〜! ……団長の炎が熱すぎて、溶けちゃいそうですよぉ私」
生き返った上に変な挙動して、勝利に大きく貢献してくれたポンプを見てみると、
「いやお前、はぐれメ◯ルみてぇになってんぞ!?」
「何ですかそれ?」
マジであいつの体溶けてんだけど!
あいつ自身『スライム』って単語を出してたが、体がスライム化しちまってんのか? 何が起きてんだ。
「――ミニゴーレムの異常な強化もそうだガ……どうやらその女騎士も『闇の瘴気』の影響を受けたようだナ」
「バートン……」
「別の部屋でスライムに何かされたんじゃないカ? その丁度良いところで『闇の瘴気』に当てられ、スライムと体が融合したんだろうヨ」
俺に殴られた頬を擦りながらバートンは「こりゃ興味深い」と、溶けたポンプを観察してる。
あいつがちょいちょい言ってる『闇の瘴気』ってのは、俺が『闇の塵』って呼んでたヤツだろう。
――確かにスライム部屋でポンプは白い触手スライムを飲み込み、操られてた。
ウェンディによって吐き出すことに成功したが、スライムの欠片が体内にまだ残ってる状態だったのかもしれん。
気絶してるとこに『闇の瘴気』は入り込んでいってたよな。そんでスライム化ってことか。
「敵ばっかパワーアップするんだったらクソだが……まさか味方までパワーアップさせてくる要素とは。ダンジョンって不思議だ」
「そうだナ。『闇の瘴気』の出どころは間違いなく『闇の結晶』だろうが、壊したってもう遅いからナ。とっくにダンジョン内に充満してる」
「この部屋だって結晶無かったもんな……」
必死になって『闇の結晶』を壊しても、防げるのは魔物の生成だけってワケか。
つまり誰がどうパワーアップするか、何が起きちまうのか……ダンジョンの匙加減で全てが決まる、と。
「なんか納得いかねぇな」
「納得いかねぇと言えばマコト・エイロネイアー、よくも功労者であるこの俺を殴ってくれたナ!?」
「功労者ァ!? あんな中途半端な手伝いでか!?」
バートンが突然キレて圧掛けてくるんで、俺も胸ぐら掴んで言い返す。するとジャイロが近寄ってきて、
「あー、バートンだっけ? 元敵で今魔術師団のあんたに言いたくねーけど……ありがとよ」
「「え?」」
俺とバートンが揃ってジャイロに呆けたツラを向け、気の抜けた声がハモる。
「だってよー、ミニゴーレムを減らして突破口開いてくれただろー? マコトが動けるようになったのも、挟み撃ちされてたオレが一体に集中できたのも、あんたのおかげだ」
「そっ、そうだ! それが狙いだったんだヨ!」
「お前『どの個体かわかんねぇ』つってたよな!?」
完全にランダム攻撃かましてたヤツがいい気になりやがって……だが物は言いようってことか。
結果としてジャイロが敵を全滅させるのに繋がったワケだからな。
だが本当にヤバい問題は――別にある。
「あぁ……カールーヌ……申し訳ない……自分は、自分、は……何もできなかったであります……」
戦闘中、ずっと部屋の隅で棒立ちしてた二番小隊の小隊長――アバルドが泣き崩れている。
彼の腕の中には――もう動かない隊員、カールーヌ。
事前に足を怪我してたことで攻撃を避け損ない、レーザービームで腹を貫かれてたが……
ダメだったか……
「ブラスト……カールーヌ……自分は、団長からも期待された小隊の、その長でありながら、何も……何もっ……」
その言葉にジャイロ団長が気まずそうに目を背け、俺も顔を伏せる。最悪だこれ。
バートンは興味無さげだが。
「おい。アバルド小隊長」
「っ、ビミパット! 無事だったん――ぐはッ!?」
何だ何だ?
黒焦げの重量級騎士ビミパットが立ち上がったと思いきや、アバルドを殴りつけたぞ!?
さすがタンク役、頑丈なんだな。
「うぅ……」
「――俺は隊員だが、あんたより歳上だ。だから言わせてもらうが……目ぇ覚ませ!!」
「ッ!?」
「俺たちは騎士。戦うことが仕事だ。戦っていれば、いつか必ず『失う』こともある」
「……!」
「だがそれにクヨクヨして動けないようじゃ……次もまた失う。失い続ける。それで良いのか!?」
熱い男じゃねぇか。
殴られて尻餅をついてたアバルドもその言葉に感化され、目を見開く。
「嫌であります……自分は、隊員を、罪無き国民たちを……守りたいであります……!」
「その意気だ。誰に期待されてようが関係ない。失敗は誰でもする。だが――止まるな!!」
▽▼▼▽
とんだ災難に遭った俺たちだったが、ミニゴーレム部屋から出ていく。
今の部屋とは打って変わって、外はまた洞窟っぽさ満々の鍾乳石だらけだ。
「『闇の結晶』もあるが……壊していくべきか?」
ミニゴーレム部屋は特殊だったが、やっぱダンジョン内は基本的に生えてるよな。
面倒くせぇがバートンに聞いてみると、
「どうだろうナぁ……俺は、キリが無いから魔物が生成される前にとっとと進むのが正解だと思うガ」
「オレもそれ賛成ー」
まぁ俺も一理あるとは思うが、ジャイロめ、バートンのこと気に入ってねぇよな?
半年前は魔王軍だったんだぞコイツ。
と、
「何か……人影が見えるでありますな。それも一人や二人じゃないであります……」
「む〜〜ん♪?」
元気づけられてズンズン前を進んでたアバルドが、そんな報告をしてくる。
こんなダンジョンの中で大量の人? 魔物の見間違いじゃねぇかと疑ったが、目を凝らすと本当に人間の集団っぽい。
「ゲホッゲホッ……ゴホッ……でも何か……おかしな格好じゃないか?」
「ビミパットさん、無理しないで」
やはりレーザービームの爆発ダメージがキツそうなビミパットは、ポンプに肩を貸してもらいながら歩いてたんだが、
「――ッ!?」
突然ジャイロが顔をハッと上げ、後方――ビミパットたちの方を振り返る。
何か感知したのか? 俺も続いて振り返ると、
「――――」
「お、お前らぁっ!!?」
ビミパットもポンプも、刃物で斬られたみてぇに首が吹っ飛んでる。
殺された……のか。二つの生首がゴロッと転がり、
「あ……あぁ……っ!!」
目撃したアバルドが頭を抱えて俯こうとしたが――すぐにさっきの集団の方を睨みつけた。
確かに変な服装の集団だ。その先頭にいるのは、俺と同じぐらいの歳の男。
「あなたが……あなたがやったんでありますな!? 誰か知らないが許さんでありますッ!!」
それを察知したアバルドが剣を抜いて、ものすごい勢いで突撃していく。
そのまま斬り殺しちまいそうな勢いだったが、
――――ボコォォォォンッッ!!!
「ぶふ……っ」
「アバルド!?」
アバルドはぶん殴られ、硬い地面に顔をめり込ませて、一撃でノックアウトされちまった。
「俺様に挑むなんて100年早ぇんだよ……小僧ォ」
あのヒゲ男、強ぇぞ。
でもあの服装見たことがあるような――海賊??




