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#52 二番小隊


 ダンジョン内を掘削しながら転がってくる大岩。

 全速力で逃げる中、俺はジャイロの『閃いたこと』について聞いたんだが、


「お前ホント脳筋な!!」


「だろぉー?」


「一応言っとくが褒めてねぇぞ!?」


 ちょっとイラっとするぐらいジャイロは楽観的だ。前はネガティブなとこが目立ってたが、心の曇りが晴れたらこんなんだったのか。

 まぁ話を聞くと俺を信頼してるってのは確かだから、協力してやるけど。


「団長〜〜! 問題でありますっ!!」


 すると坂道のずっと下の方で、アバルドがこっちに向かって手を振って叫んできた。

 ネムネムたちと一緒に立ち止まってるみてぇだが……


「扉がありますが、開くのが遅くて間に合わないであります! 全員潰されるでありますぅぅ!!」


 クソ。時間を掛けねぇと逃げられねぇなら、実質は行き止まりみたいなモンだな!

 逃げ場は他に無い!


「やっぱやるしかねーな、マコト!」


「ああ畜生、やってやる!」


 ジャイロが大笑いしながら走ってた足に急ブレーキをかける。俺も続いて足を止め、迫る大岩と対峙。


「「どりゃああああッ!!!」」


「なんと!? 止めるつもりでありますか!」


 互いに両方の手のひらを前へ突き出し、とうとう大岩の表面が激突してくる。

 俺が〈超人的な肉体〉を全開にして白いオーラを放ってるのも相まって、大岩はビタッと止まった。


「うぐご……ッ! こりゃキツい……!」


「ん、んじゃー……消滅させるまでだー!」


 これがジャイロの思いついた作戦……作戦って呼べるほどのモンじゃねぇよな。

 単純だ。ただ俺たち二人で大岩を止めて、



「……〈大暴れ(ランペイジ)〉!!」


「〈炎の拳(ファイアグローブ)〉!!」



 殴って、破壊するだけ。


 白いオーラと赤い炎を纏ったそれぞれの拳が、目の前にそびえる表面を打つ。

 途方も無いデカさだと思ってたが――てっぺんまで二つの亀裂が走っていって、大岩はバラバラに崩壊した。


「キャー! キャーッ!! マコト様カッコ良すぎぃぃ!! あんな大っきな岩を……いやぁぁぁ!!!」


「ポンプ、オレは!? 団長だぞ!」


「ふっふっふ……残念だったなジャイロ。ポンプは俺のファンなんだよ」


「あ? 『ふぁん』って?」


 いっつもスカしてばっかりの俺だが、こんな熱烈なファンができちまったんだ。腰に手を当てて自慢げにするぐらい許されるよな。


「えっと私、団長の強さは知ってるというか、見慣れてますので……」


「そっかー。言われてみたらそーだな」


 いやポンプの『俺と話す時』『俺以外と話す時』の温度差やめろよ。

 何かここまでくると俺だけガキ扱いされてるようにも見えてきたんだが。


「さすがは団長と『救世主』さんでありますな! 扉も開きそうであります!」


 アバルドの声がして、俺はポンプとジャイロとゆっくり歩き出そうとしたが、


「あー、あんまりこーいう話したくねーけどさ」


「ん?」


 ジャイロがちょっと真剣そうな声色で話しかけてきたんで、ちょっと歩くペースを落とす。



「アバルドが小隊長の『二番小隊』なんだがよー、新人ばっかりだろ?」


「……そうか。小隊長(アバルド)ですら新人だもんな」


「オレ『二番小隊』には今後の活躍が特に期待できそうな、才能のすげー奴らを集めてみたんだ。ただちょっと扱いにくいんで、アバルドみてーな真面目な奴を小隊長にしてな……だから今も、マコトを巻き込んででも守ってやりたくてさ」


「へぇ。でもウェンディ小隊長の『一番小隊』とか他の小隊も、期待してねぇワケじゃねぇんだろ?」


「もちろんだ! まー、他の隊は堅実に真っ当に強くなってってほしいなー」



 なるほどそういう事情があんのか。

 つまり『二番小隊』はダークホースみてぇなのを集めた、ちょっと特殊な小隊なんだな?

 言い方的にジャイロ団長も特別な感情を抱いてそうだな。今後に期待できる、か。


 ポンプに続いて俺とジャイロも扉の前に着くと、ちょうど扉が開き終わったようだ。

 向こう側には一人の騎士がいて、


「ラムゼイ! 無事だったんでありますな!」


「うぉ、小隊長!? しーっ! しーっ!」


「……し、静かにした方が良いでありますか?」


 再会にアバルドが喜んでるあの金髪イケメン騎士――ラムゼイ? あぁ、思い出した。

 『学園』でガーゴイル軍団を倒した後、しれっと学園長捕まえてきてたヤツだ。俺とは共闘どころか会話すらしてねぇ。だからうろ覚えなのか。


 静かに、とジェスチャーするラムゼイの背後に広がるだだっ広い空間――


「ロボット……が、いっぱい?」


 困惑しちまった。

 洞窟っぽさの無いタイプ……要塞みてぇな壁や床の部屋内には、今にも動き出しそうな、俺たちより一回り大きな人型のロボットみてぇなのがズラリと並んでる。


 人型っつってもガタイが良くて、材質もよくわからんが硬そうで、これが敵に回ると大変そうって予想がついちまうな。


 せっかくピクリとも動かず整列してるロボットどもだ。大きな音を出したりして刺激して、戦うことになったら面倒だよな。

 しかしアバルドはどうしても話したいらしく、小声で、


「偶然にも……無事に二番小隊の隊員が着々と合流できているであります……自分に、ネムネム、ビミパット、足を怪我してるけどカールーヌ……そしてラムゼイ」


 そんな名前か。あ、ここにいる騎士って全員が二番小隊なのか。すげぇ偶然。

 まぁ最初に地上から落っこちる時に、近くにいたってのもあるだろうけどな。


「今言ったメンバーで全員か?」


 俺も知りたくて小声で質問してみた。


 この部屋の出口なら、右奥でちゃんと開いてるのを確認できた――ロボットどもを刺激しないように端っこを屈んで歩く俺たちだが、


「いや、あと一人、行方不明の隊員がいるであります。名前は――」


「あと一人か。惜しいな」


 小声でアバルドが答えてくれる。

 でもって、その隊員の名前も言おうとしてくれるようだ。まぁ聞いたって俺はわかんねぇだろうが――




「ブラスト」




 アバルドの口から出たまさかの事実に、俺の足は止まっちまった。


「え……?」


 嘘だろ――その名前なら知ってるぞ。

 でも言えねぇだろ。この状況で。今すぐに言う必要もねぇし、せめてこの部屋を抜けてから……


「やや? マコトさん、その反応。何か知っていることがあるんでありますか?」


「い、いや……」


「少しでも情報があったら教えてほしいであります……心配でありますから、すぐにでも」


「え……」


「まぁマコトさんと一緒にいない時点で、探すのは困難でありましょうが……」


 やばい、やばい、やばい。

 アバルドが真面目なのは、脳筋のジャイロですらハッキリ認識してた事実。

 この状況でここまで問い詰めるってことは、相当な仲間思い。


 だからこそ、今だけは言えねぇだろ……『スライムに潰されて死んだ』だなんて。

 小隊長でも新人は新人。メンタルが鍛えられてるかどうかはわからねぇ。


「マコトさん? 浮かない顔でありますが……」


「そ、そんなことねぇ。アバルド、俺だってもちろん話したいが、ここは危険だから――」


「いや。この声量で話していれば問題無いであります。機械の魔物に反応は見られないであります。が……」


「ん?」


 アバルドが顔を伏せ、再び俺に視線を向けてきた。

 それは俺の勘が正しければ――



「何が起きたのでありますか?」



 『疑い』の視線だ。

 決して俺のことを悪く思ってはいねぇだろう、ただ、何か良からぬことが起きたと察した顔だ。


 だ、大丈夫。


 静かに話せば良いだけだ。

 嘘も思いつかんし、ここまできて騙すのもアバルドに失礼だし、俺は不器用だからどうせ見抜かれちまう。


 真実を静かに言うだけだ。



「ブラストは……俺の目の前で……スライムに飲み込まれて、潰されて……」


「え?」


「死んだ」



 無言のアバルドの黒髪が揺れる。凛々しい顔立ちが、苦しげに歪む。

 片手で顔を覆ったアバルドが、意識が遠のいたみたいにフラついた。


「小隊長……ッ!!」


 ラムゼイが絞り出すような、小声の中でも精一杯の声で警告する。

 なぜならアバルドのフラついた足元には……闇の結晶の欠片が落ちていたから。



 パキンッ――――



 踏まれ、割れる。

 思ったよりも大きな音。それは静寂に包まれてたこのだだっ広い空間に、余すことなく響き渡る。


 ロボットどもが……俯かせてた顔を一斉に上げて、それぞれの頭部に目のような黒い光が灯る。

 一斉に俺たちの方を向いてくる。



「みんな走っ――――え!? 出口が!?」



 開いてた出口が、いつの間にか閉まっていやがる。入口も同様だ。

 あぁ、こりゃマズい。



「――戦闘開始ッ!!」



 小隊長なのにアバルドは棒立ち。


 代わりのジャイロの号令に、騎士たちも一斉に武器を構えた。


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