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#50 ワン、トゥー、分岐点

強キャラで、しかも絆の強い仲間同士のみに許される…絶体絶命の状況下でふざけ合うの、良くないですか?創作ですからね。

あとそういう『おふざけ』の時に主人公でもヒロインでも関係なく殴られるような、そんな空気感が世界には必要だと思うんですよね(?)

嫌う人もいると思いますが、この作品、特に三章はそれがテーマでもあります。






「やっっべ逃げろぉぉぉ!!」


 ったく、忙しないったらありゃしないぜ!

 ジキルとハイドに見つかっちまった俺たちは、出現した出口を走り抜ける。


「……え?」


 まさかの小部屋だ。狭っ。

 俺に続いてウェンディとポンプが入ってくると、また封鎖されて密室になっちまったらしい。


 真っ暗でよく見えねぇが――


「うぉ眩しっ!?」


「これは……?」


 いきなり部屋の中心で何かが輝き、その金色の輝きは持続する。

 見てみると、腰くらいの高さの台の上に金色の結晶……みたいなものが乗っかってて光ってる。宝石か? 綺麗だなオイ。


 俺には何が起きてんだかさっぱりだが、ウェンディは何か思い出したように唸って、


「そういえばダンジョンの最奥には……『ボス』のみならず、『莫大な財宝』もあるとか……そんな話もあったな」


「マジか! 騎士団(おまえら)それ目当てじゃねぇだろうな!」


「馬鹿を言え……それにここは最奥ではないはずだ。もしそうだとしたら、あまりにも道程が短すぎる」


 一生懸命に説明してくれてるが――俺は理由も無く、目の前の金色の結晶に釘付けになってた。

 吸い込まれるように手を伸ばして……


「マコト!?」


 手のひらを、結晶に当てる。



「ッ――ぎゃあああああぁぁ!!!?」



 全身に迸る鋭い痛み!! 熱いし、手のひらから電気を流し込まれたみてぇだ!

 経験は無ぇが、ひょっとすると雷に打たれるとこんな感じなんじゃなかろうか。


 結晶から手を離せないまま意識が飛びそうになるが、


「今助けっ――」


 ウェンディが俺のもう片方の手を掴む。



「ぐぁああああッ――ううっ!!」


「おぁ……」



 彼女まで余計に電流を浴びながらも、俺を引っ張って結晶から引き離してくれた。

 二人揃ってブッ倒れ、ポンプがオロオロしている。


「ぐ、ぅ……マコト! 貴様……よ、よくもこんな正体不明の物体を触る気に……なったな!?」


「……すまん……だってよ……ダンジョンでいつも見かけてたのは黒い結晶ばっかだったから……珍しくてよ」


「だからといって触るなど……!」


 何も言い返せねぇ。

 俺ってこんな軽々しい行動するヤツだったっけ。今回のは完全に自業自得だぜ。


「どうして、だろうな……触っても大丈夫って気がしたんだ。自分でもよくわから――」


 その時。

 この小部屋の入口、そして反対側に出口がまた出現した。


「や、やべぇ……!」


「ポンプ……逃げるぞ!」


「はいっ」


 フラフラしながらも焦って走り出す俺たち――だが、どうやらジキルとハイドは前の『スライム部屋』にまだ入ってきてねぇみたいだ。

 理由は知らんが好都合。とっとと先進んで距離を離しちまおう。


 次の部屋に入ると、また入口が閉まった。少しずつダンジョンの仕組みにパターンが見えてきた気もするが、


「おいおい……何だよこりゃ……」


 今回のは明確に殺意を感じる部屋だ。


 壁なんかレンガ……いや石造りってのか? 洞窟っぽさは完全に消えて、『要塞』の中って雰囲気。

 ただ一つ目の問題は……床だ。部屋の真ん中に一本道。それしか無い。同じ石造りで柵も無い、一本道というか橋だ。


 橋以外は、底も見えねぇ真っ暗だ。


「この橋を渡る以外は……奈落に落ちるしかないようだな。私たちは地上から落ちてこの階層へやって来たのに……更に落ちるとどうなってしまうのだ?」


「運が良けりゃ『ボス』や金銀財宝に近づけるのかもな。まぁ俺から見ると……死ぬだけっぽいが」


 橋の先には扉っぽいのがある。リスクを背負いたくないならこの一本道を順当に進めば良いってワケ。

 だが、問題はもう一つ。



「ハンマーとか……斧とか……よくわからん刃物とか炎とか……何だよこのトラップ部屋?」



 たった一本の道なのに、これでもか、これでもかとトラップがてんこ盛り。

 よく見る天井からぶら下がった()()()タイプのハンマーや刃物が一番手前にあるな。


 刃物なんかデケぇし当たったら即死だろうが、ハンマーでも奈落に落とされるな。


「とはいえ、行くしかあるまい……仕方が無いな。ここは私が先陣を切ろう」


 おお。ウェンディが行ってくれるそうだ。あいつなら信頼できるし、こりゃ助かる。

 と思いきや、


「いいえ……小隊長に先に行かせるなんて、部下の恥でしかありません。このポンプ、命を懸けて参ります」


 おお。ポンプが行くか。やっぱ小隊長に任せっきりってのも本人的に納得いかない面もあるのかね。

 こりゃ助か――


「何を言う。貴様はスライムの魔の手から解放されたばかり。私が行くとも」


「いえいえ、ウェンディ小隊長が……体を張って私を助けてくれたんですから。今度は私の番です」


「無理をするな。小隊長に格好を付けさせてくれ」


 なんか、流れが変じゃね?

 そんなことないか?

 冷や汗ダラダラの俺は、


「え……?」


 と、情けない声を出しちまった。

 でも二人の騎士は止まらん。


「いえいえいえ。マコト様のお役に立てる初陣というものですから」


「それを言うなら私も――」


 ちょ、ちょっと待て。

 ちょっと待てよ?

 はっ、そ、そんなまさか。そんなワケねぇ。

 そんなワケねぇよな。この流れ。なぁ?


「じゃ、じゃあ……」


 俺がチワワみてぇに体を震わせながら、震える声で、震える手を控えめに上げていく。

 喉につっかえる声をどうにか発する。



「俺」


「「どうぞどうぞ」」


「ああああああああ早ぁああああ!!!」



 まだ一人称も言い切ってないようなタイミングで、食い気味に二人が頭を下げてきた。

 イジメだろこんなの。


「こ、この薄情者ども!! ウェンディお前、俺たち、お前っ……ダチだろ! ポンプは俺のファンだろ!?」


 今の俺、かなり言っちゃいけねぇこと言ってる気がするけどな。

 あ、レディファーストの話とかしていい?


 しかしウェンディもポンプも辛そうな表情。


「いくら私と貴様が『親友』とはいえ……」


「そう。いくら私がマコト様の『ふぁん』とはいえ……()()()には逆らえないんですよね?」


「俺に聞くなボケ!! わかったよ行くよ! 行きゃ良いんだろ!」


 クソ、変な異世界の風習を覚えやがって。この小娘どもがよ……

 まぁ俺ってば『異世界からやって来た救世主』だし? これぐらいの試練ならアホほど経験してきたんだぜ。


 一番最初の罠、巨大ハンマー振り子の前まで慎重に歩いてきた。

 足を止めると、


「は?」


 目の前のハンマーが振られる速度が、ものっっっすごい速くなりましたけど?

 え? 何? ナメてんの?


「あ、あの……後ろのお二人? スピードアップしちまってんですが?」


「頑張れマコト!」

「こ、これが噂の『マ虐』……! ハァ、ハァ」


「しれっと変なワード作んな!!」


 ウェンディは励ますような満面の笑みで俺に一言も言わせねぇ圧があるし、ポンプに至っては鼻息荒くしてんぞ。

 何だアイツ。どこに興奮してんだよマジで。


「だが俺はもうこのトラップ部屋――攻略済みのようなものよ。メガネクイッ」


「さすがマコト様!!!」


 メガネの代わりにサングラスをクイッとやる。


 要するに、この一直線上に並ぶ無数のトラップは、それぞれ勝手に動作してるように見えるが……

 よく観察すると実は一瞬だけ、全てのトラップを回避して走り抜けられるタイミングがあるのさ。


 スライム戦を頭脳でクリアした俺に敵は無い。


 俺は目を凝らし、もう一度全てのトラップを回避できる一瞬のタイミングを視界に捉えた。

 そして正確にカウントを開始する。



「ワンッ、トゥッ、スリッ、フォッ、ファイブ、シックス、セェブン、エイト……」



 コク、コク、と頷きながら、全身で感じ取る。その一瞬を逃さねぇために。

 いつでも飛び出せるように足の位置を整える。その一瞬で必ず走り抜けるために。



「ワンッ、トゥッ、スリッ、フォッ、ファイブ、シックス、セブン、エイト……」



 軽く準備運動も終わり。足の位置も整って、全身の筋肉がスタンバイ完了だ。

 さぁ行くぞ。



「ワンッ、トゥッ――――!!!」



 ここだっ!!

 俺は駆け出すっ!!



 バコォォォォォ――――ンッ!!!



 ……最初のハンマーに激突。



「ぶへあっ……ぶへぁ、ぶへぁ(エコー)……」


「マコト〜〜〜〜ッ!!」



 とんでもない勢いで弾き飛ばされた俺は、当然に奈落の底へと落ちていく。

 カッコ悪っ……そんな思いを表すように宙へ散っていく俺の涙の合間から、



「へぁ!?」


「キャーッ! マコト様カッコいい〜!! 地獄の果てまでお供いたしますぅぅぅ〜!!」


「ポンプ〜〜〜〜ッ!?!?」



 ウェンディの驚く声も無視して、まさかのポンプまで飛び込んできて俺に抱きつきやがった!

 二人揃って落ちるぞぉ!?



「「ああああああ〜〜〜〜っ…………」」



▽▼▼▽


▽  ▽



 私はジキル。

 斬られた脇腹を、雇った殺し屋のハイドに回復魔法で治療してもらっていた。


「なぜ……」


「あぁ、何だぁ!? オラァ! オラァ!!」


 治療が終わった瞬間、ハイドは先の部屋をひとっ飛びで通過し、金色の結晶だけ置いてある妙な小部屋へ。

 扉を殴りまくって次の部屋へ強引に入るつもりのようだが――私には引っ掛かる。


「ハイド……なぜ、すぐにマコト・エイロネイアー達を追わなかった? 私をしっかりと治療する義理も無いと思うけど」


「あぁ!? 今殴るのに必死! 殴るのに必死! よく聞こえん!!」


 開かない扉を『闇の魔法』を纏って全力で殴りまくってはいるが、私は至近距離で喋っている。聞こえているはずだ。


「……答えてくれ」


「……もしお前が死んで、報酬下げられたりしたら困る!! 俺困る!!」


 あのアルドワイン様が私が死んだくらいで報酬を下げる? メイド長のジキルを守れなかった罰だ、とでも言うと思うのか?

 おかしな理由だ。


「それにこの金色の結晶……無視して良いのか?」


「嫌な感じ! 嫌な感じ! それ『光』の力感じる! 気持ち悪いのは無視、無視!」


「光属性の魔法? 『光の結晶』なのか……」


 こんな『闇の結晶』だったり『闇の瘴気』だらけのダンジョンに、なぜこんな物が?

 わざわざ小さな部屋を用意しているし、目的は絶対にあると思うが。


 まぁ、考えても仕方ない。こんなわけのわからない場所で頭を回すのはムダだ。


「……というか、ハイド?」


「もうすぐ壊れる! もうすぐ壊れる!! マコト・エイロネイアー待ってろ!!」


「あなた報酬の心配したけど、マコトの周囲の人間に手を出したらゼロに――」


「オラァァァ!!」


「きゃ!」


 びっくりした。ハイドが扉を壊したんだが、爆発したような音がしたから。

 ま、また女の子みたいな声を出してしまった。メイド長としての威信に関わる。反省、反省……


「え?」


 壊した先の景色に唖然――罠だらけの一本橋ももちろん驚きだが、


「騎士ウェンディ……だけ? マコトと、他にも騎士がいたように見えたが……?」


「……」


「それに何だ、その露出の激しい姿……『闇の瘴気』を吸って頭がおかしくなってしまったのか」


「ッ、貴様まで! やめろッ!!」


「それとも、その……マコトとそういう関係?」


「違うッッ!!」


 無言を貫くのかと思いきや、服装を指摘した瞬間に血相を変えて怒鳴った。

 ただの騎士のくせに妖艶な体つきだ……私の体は起伏が少ない。少しだけ羨ましい。


 茶番はここまでという意味か、



「おい女! 女騎士! マコト・エイロネイアーはどうした!? どこだ! 言え! 言え!」


「……!」



 ハイドがゆっくりと距離を詰めながら、肝心な質問を投げる。

 ウェンディも後ずさりしようとするが、残念ながら背後は罠だらけ。逃げ場は無い。


 ハイドがウェンディにこの質問をするのは、そういえば二回目だな。

 ダンジョンに入ってすぐこのやり取りがあった。既視感があるのはそのせいか。


 だが、あの時と違い――



「マコトならば()()()だ」



 ウェンディは指を差してマコト・エイロネイアーの行き先を告げた。

 示されたのは、


「この罠の数々を……あんなに間の抜けた男が、全て突破して進んだと言うのか!?」


 殺意の高い罠たちをくぐり抜けた一本橋の先に、確かに見える――この部屋の出口。

 しかも私たちがここに来るまでに、これを全て突破できるほど長い時間は掛けていないはず。


「私は信じられないが……」


「……」


「ハイド?」


 恐ろしいことに、ハイドはウェンディをじーっと見て思案している様子。

 この男がどんな行動を取るかは、誰にも予想ができない。


 と、


「ヒャッハー!!」


「……くっ」


 ハイドは正面へ跳躍。

 腕を伸ばし、ウェンディが抜いた剣を一瞬で払いのける。それでも彼女は剣を振るうがやっぱり簡単に避けられ、


「捕まえた! 捕まえた! ヒャハハハァ!!」


「ああッ……」


 ウェンディの足首を掴み、軽々と持ち上げる。逆さまに吊り上げられるウェンディは上手く剣を振れていない。

 ――やはり、殺して隠蔽するのか。



「〈大災害(ディザスター)・ブレス〉……」


「うぅっ……無念……」



 大きく息を吸い込んで胸部を異常に膨張させたハイドが、発射前にその口を開ける。

 まるでこれから浴びせかける極大の闇魔法を、怯えるウェンディに見せつけるかのように――

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