#48 お掃除&正拳突き大作戦
作戦はこうだ――叩いても斬っても倒せねぇスライムども。だったら一箇所にまとめて焼却処分してやる。
そのために、
「ごぼぼ……!」
叫ぼうとしたが、赤スライムが顔に貼り付いてて呼吸もできねぇのを忘れてた。てへっ。
(これだって殴りゃあ武器だ!)
生み出したのは掃除機。なるべく大きめのをイメージしたが足りるかな。
(とにかく吸引開始ッ!!)
吸引力を最大にして、俺の顔や体に群がってきた赤スライムを全部吸い込む。
はぁ〜〜〜やっと解放されたぜ。空気が美味ぇ。
「上手くいった! あぁ、スーツもシャツも溶かされてパンツ一丁だが……」
恥ずかしいとか言ってる場合じゃねぇな。
洗脳されてるポンプはどうすりゃいいかわからんが、とにかくウェンディを救出だ!
「ご、ぼぼ……んぐっ! んん……!」
巨大赤スライムの中で鎧を溶かされ、あられもない姿にされちまったウェンディ。
追加で触手スライムまで、あいつの口を無理やりこじ開けて入ろうとしてる。
「――そうはさせるかよ!!」
ギュイ〜〜〜〜ンと吸い込み続け、巨大赤スライムをウェンディから引き剥がす。
ついでにポンプの背中から伸びてきてた触手まで吸引してやった。これ以上味方が操られちゃおしまいだからな。
「う……げっほ、げほっ……! 助かった……その兵器は何なのだ!?」
「『掃除機』っていう一家に一台ある便利な兵器だな……あと、すまねぇ。ブラストがやられちまった」
「ッ! そんな……」
あいつが殺されちまう前に掃除機を思いついてれば良かったのにな。
だがもう手遅れ――ポンプを救うことに集中だ。
ウェンディと背中合わせに。お互い下着姿で締まらねぇけど……
部屋全体に点在する、今もスライムを生み出し続けてる黒い結晶を見回す。
「――俺はこのままスライムどもを集めて、闇の結晶を破壊する! ポンプはお前に任せていいか!?」
「――ああ、任せろ!!」
力強く頷いたウェンディが、剣を抜いてポンプの方へ突撃していく。
あいつ、何か思いついたっぽいな――全く思いつかねぇ俺はアサルトライフルを生み出す。
掃除機とアサルトライフルの二つ、同時に生み出すこともできたな……今までやったこと無かった気がするから、これも賭けだったんだが。
「うおおおおお!!!」
寄ってくるスライムどもの吸引を左手の掃除機で続け、右手でライフルを乱射。
まずは360°ぐるぐる回って、壁から生える結晶を全部壊す。
「おらおらぁぁぁ!!!」
さっき赤スライムが飛び出してきた壁の穴の奥にも銃弾をブチ込むと、やっぱり奥から破壊された結晶の欠片が出てくる。
たまにスライムが上から落ちてくるのも天井の結晶のせいだな。全部だ、全部壊す!
「ん!? おぼっ……!」
壊し終えたところで、ブラストを殺しやがった巨大青スライムが跳んできて、覆い被さるように俺を飲み込んできた。
中からライフルをぶっ放すが、普通に貫通して外に出てくだけ。やっぱりスライムに銃は効かねぇな。
(じゃあ吸い込むだけだっ!!)
ライフルを捨てて消滅させ、掃除機を唸らせる。
タンクいっぱいに詰まったスライムどもが暴れてるが、もうちょっと溜め込ませてくれ。
一方ウェンディは、
「コロス、コロス……」
「せぇぇいッ!!」
洗脳されたポンプが繰り出してくる触手スライムを、バッタバッタ斬り裂きながら進んでく。
あっという間にポンプの目の前まで辿り着いちまった。
「少し危害を加えるが――貴様を救うためだ、許せ!」
「コ、ロス」
するとポンプも剣を抜いて振り上げる。
おいおい、操ってんのはただのスライムだろ!? どんだけ自由自在に暴れる気だ!
しかしウェンディは全く怯まねぇどころか、
「すぅぅ〜〜〜っ……!!」
剣を地面に刺して、両足を開いてドッシリと低く構える。左の掌はポンプへ向け、右手は腰の所で拳を握りしめて力を溜めてる。
そんなポーズで深く息を吸うその姿、まるで空手家みてぇだ。
下着姿なのに堂々としててカッコイイぜ。
「――おおおおォ!!」
雄叫びを上げたウェンディに、ポンプの剣や触手スライムが全方向から迫る。
そのどれよりも速く、
「〈貫流正拳〉ッ!!!」
豪速で撃ち出される右手の正拳突きが、ポンプの腹に命中する。
ドォンッ――と音が聞こえた。
だがポンプは吹っ飛んだりもせず、身体に目立った外傷も無く。ウェンディの拳から伝わった波動が内部を駆け巡り、貫いただけに見えたな。
「……おえぇっ……」
駆け巡った波動に従って、ポンプの口から白い触手スライムが飛び出してきた。
――ようやく巨大青スライムを吸い込み終えた俺も駆けつけ、
「でかしたぞウェンディ!」
ポンプが吐き出した触手スライムを吸い込む。こいつがラストだな。
タンクが暴れ回って今にもスライムどもが出てきちまいそうだが、
「――汚物は!!」
たんまりスライムを溜めた掃除機を空中にブン投げ、手榴弾を生み出してピンを外す。
「消毒!!」
手榴弾も空中の掃除機のすぐ近くへ投げ、ロケットランチャーを生み出して構え、
「だァァァ〜〜〜〜!!」
掃除機のタンクが破られる寸前。
撃ち込んだロケットランチャー、そして手榴弾が大爆発を起こした。
掃除機もろとも、スライムどもは跡形もなく焼け死んだようだ。
良かった……作戦通りだぜ。
二人が無事かどうか確かめるため振り返ると、
「何とかなったようだな。マコト」
「お、おぉ……」
微笑むウェンディが俺に近づいて来ようとするんだが、どうにも俺は見たこともねぇその姿に戸惑っちまう。
「……あれ?」
視線に気づいた下着姿のウェンディは、
「みっ、みるなぁぁぁ!!!」
まさか、気づかず戦闘してたのか……
普通の女の子みてぇに赤面して、体を隠して座り込んじまった。
――さっきまでのカッコ良さどこ行った?




