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#45 剣技



 俺の拳が振り抜かれ、


「おぼぉおアァァァ〜〜〜〜ッ!!!?」


 鼻血を噴きながらハイドが吹っ飛んでく。

 〈超人的な肉体〉のフルパワーは、洞窟みてぇなダンジョンの壁を一枚、二枚、三枚と豪快にブチ抜いていった。よく飛ぶもんだ。


「はぁ……はぁ……」


 またアイツとの戦いが始まっちまうのは勘弁だな……そう思う俺の拳から白いオーラが消え、


「……」

「……」


「……」


 俺とウェンディ、ジキルの間に流れる沈黙。

 そして、


「現れたなっ! マコト・エイロネイアー!!」


 ジキルが地面を蹴って走り出し、腰から剣のようなものを抜いて――


「お!? オ〜ゥ!? よく見たらそりゃあ、ジャパニーズ カタ〜ナ!!?」


「その妙な喋り方をやめろ!」


 何でこの異世界で異世界人が刀使ってんだ!? 転移者ですら『武器ガチャ』が無きゃ持ってねぇだろうに。

 ってか防御だ!


「あぁ、クソ、思いつかねぇ! 何か出ろ!」


「……ん!?」


 俺が両手に抱えるように生み出したのは『信号機』。と言っても先端部分だけだ。

 青・黄色・赤の点灯するとこな。


 とりあえず信号が刀から守っちゃくれたが、


「そんな大きな物、今どこから出した!? 未知の魔法か!」


「うるせぇなメイド服で殺し屋でジャパニーズ刀まで使ってキャラ迷走してるヤツに言われたくねぇぜ!」


「は!?」


「しかもお前ら『ジキルとハイド』って前の世界で聞いたことあるし! 確か二重人格のお話だな!」


「はぁ!?」


「そら、お返しだ!」


 信号を振り回して刃を弾き、怯んだジキルの脳天に向かってブン投げる。


「あいたっ」


 なんか可愛い感じの痛がり方をして、ジキルは両手で頭を抱えた。

 あんな重たいもの「あいたっ」で済まねぇだろ普通。一般人ぶるなよお前マジで。キレるぞ(?)。


「この……! 大人しく殺されろ『救世主』!」


「やだね〜っ!!」


 やっぱりピンピンしてるジキルが振るってくる刀を、俺は生み出した2本のナイフで受け止める。

 負けじと何度も振るわれる刃をヒョイヒョイ受け流していると、


「ッ!?」


 女騎士ウェンディがジキルの脇腹に蹴りを入れる。

 グラついたジキルだったが、すぐに体勢を立て直してウェンディを睨みつけ、


「2対1か!? 『救世主』と『騎士』が卑怯な!」


 俺より先にあっちを消しに行くようだ。

 が、


「『殺し屋』に卑怯呼ばわりされても、何ら心に響かぬものだな」


 突撃からの刀の一撃は、ウェンディの剣に簡単に受け止められちまってる。


「そうだそうだ、言ってやれウェンディ! フェアじゃねぇのはコイツだ。この前はミーナを人質にしようとしやがったんだぜ!」


「何……ミーナを? ……この外道が!!」


 あれ、ウェンディの心に火ぃ点けちまったか?

 そういえば魔術師団のメイドのミーナとは意外と仲良かったっけ。百合の花咲いてるかは知らねぇけど。


「う、わっ……!」


 ナイフを構えた俺そっちのけで、ウェンディは騎士らしく正確で美しい剣撃を次々に繰り出す。

 ジキルはあっという間に防戦一方だ。


「私にはこの『カタナ』があるのに……!?」


 歯噛みしながら悔しそうに言うジキルだが、ウェンディの静かな剣はブレーキ知らず。

 劣勢の末に刀は大きく弾かれ、



「〈清流(せいりゅう)〉……」


「ぐぅぅッ……!?」



 滑らかな動きで、一瞬の内にジキルの背後へ移動したウェンディ。

 するとジキルは腹部を深く斬られていたようで膝をつく。ま、勝負アリってこったな。


「良い武器を持っていれば強い――戦いとはそう単純ではない。そのような素人丸出しの剣技では、その『カタナ』とやらも浮かばれぬな」


「……く……っ!」


 ウェンディのごもっともな言葉に、ジキルは歯を食いしばって俯いてる。

 さて、このままシバき倒すといきますか――



「マコト・エイロネイアーァァァァァ!!!!」


「うっ、やべ!」



 ずいぶんと遠くからだが、またしてもオオカミ獣人のハイドの咆哮だ!

 パンチ一発で終わるとは思ってなかったが――ここは決断の時だな。


 俺は、選ぶぜ。


「戦略的撤退!!!!」


「ん? マコト!?」


 冷や汗ダラダラの俺はジキルも無視して、届かねぇだろうがナイフをハイドの方向へぶん投げ、ウェンディの手を引っ張って走り出す。

 アテもねぇがどこだっていい。ヤツから離れるのが先決だ。


「トドメを刺さず()いのか!? ハイドもだが、ジキルの狙いだって貴様なのだろう!? 奴はベルク家のメイド長――」


「そりゃ知ってるっての! でもお前はハイドの強さ知らねぇだろ!? マジで嫌になる! マジで嫌になるから!」


「魔王を倒した男の発言とは思えぬな……」


「好きに言え!」


 まぁ俺自身マジで嫌だが――もしあの野郎がまたウェンディを狙ったら、二度と守れる自信がねぇ。

 それが一番の理由だったりする。


「と、というか……おっ、おい! マコト!」


「あ!? 何だ……顔赤いぞ?」


「当然だっ!」


「大丈夫か、ぽんぽん痛い?」


 クールな顔が珍しく紅潮してて、声も震えてる。急にどうした?

 走りながらだが、ウェンディは俺と手を繋いでるとこをもう片方の手で指し示し、


「い、いや、男と手を繋ぐなんて初めてで――」


「お前……顔除いてフルプレートで鎧越しだろうが!」


「鎧があっても初めては初めてだぁっ!」


「そもそも俺みたいなおっさんのこと『男』として見んじゃねぇよ! 若ぇのにドキドキしろバカ!」


 俺としちゃゴツい鉄の塊を握ってる感触しかねぇんだが、顔だけ露出してるウェンディは真っ赤だし目を泳がせてる。

 半年以上一緒にいて初めて知ったわ。経験ゼロなのかよ、こいつ……



「〈大災害(ディザスター)・ブレス〉ゥゥゥ!!」


「あぁクソぉぉぉ!!」



 そうこうしてたら、変わらずずいぶん離れたとこから声がした。

 ビーム飛んでくるぞ! どうする、どうする!



「――ウェンディ小隊長!?」

「何か問題ですか!」



 見えてきたのは二つの篝火に挟まれた、なんか『神殿』みてぇな造りの扉。

 というか門? ただの洞窟と思ったが、ああいうのもあるんだな。


 開いた向こう側の部屋から男女二人の騎士が俺たちに気づき、呼んできた。


 ――あれに賭けるしかねぇ!!



「飛び込むからすぐ閉じてくれお前ら! 後ろからヤベー魔法と殺人鬼飛んでくるからな!」


「「えぇ!?」」


「うりゃあぁあっ!!」



 俺とウェンディは全力疾走のまま、よくわからねぇ部屋に滑り込んだ。

 直後に騎士が扉を閉じて、



 ズゥゥゥンッ…………!!



 扉の向こう側を中心に、部屋全体が軽く揺れた。天井から土埃が落ちてくる。


 あ、あっぶねぇ……


 てっきり扉もブチ抜いてくるもんだと予想してたが、びっくりするほど丈夫だな。何製だ?

 何にせよ、さすがダンジョン。ヤワな造りじゃねぇってことか。



「もう、開かなくなりました……」



 絶望した様子で男の騎士が言う。つまり閉じ込められたのか?

 この部屋も危険な可能性は高いが……たぶん向こう側の方がよっぽど危険だぞ。俺は複雑な気持ちになった。


「で、この部屋は何なんだ?」


 当然のことを呟いた俺の眼前――



「……スライム??」



 最低ランクのEランク冒険者でも片手間で倒せることで有名なザコ魔物。

 それが一体、ぴちゃぴちゃ跳ねてきた。

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