#4 リリーの悩み
「おい見ろあの赤い髪。騎士団の団長、ジャイロ様だ!」
「本物!?」
「どうして急にこんな所に!」
『ジャイロ』ってのはオレのことだが――クソ、騒がしくしねーでほしいぜ。
オレだって好きでコソコソと行動してるわけじゃねーんだからよ。
なんてったって、
「報告通り……壁上にいた見張りが二人揃って、地面に叩き落とされてやがる……!」
「いったい何が!」
「どうします、ジャイロ団長!?」
この平和なサンライト王国を巡回してた騎士(オレの部下)から、妙な報告を受け。
壁のはじっこまでやって来ると、まー……見ての通りの状況だ。体がヘンな方向に曲がってやがって、こりゃ子供達にゃ見せられねー。
「とりあえず死体を隠して運んじまえ。わりーけど、遺族のこと考えんのは後な」
「は……はっ!」
「んで、この原因は? 団員が一気に二人死ぬとか、すんげー緊急事態なんだが……」
「ジャイロ団長、ご報告が! 空をご覧に!」
「そらぁー? あー……ガーゴイルの群れか」
馬で駆けてきたオレの部下の言うとおり見上げれば、サンライト王国上空をグルグルまわっていやがる、魔物『ガーゴイル』の群れがあった。
んー。騎士殺しもアレが原因だろうけど、こりゃマズいぜ。
「普通の黒いガーゴイルも数十体いるが……中にはエリートガーゴイルに、ドロッパーガーゴイルも混じってんなー」
まー今言ったのはガーゴイルの上位種的なやつ。
ただのガーゴイルも群れると厄介だが、上位種どもは単体でも面倒くせー。
「あ、団長。あの中央の巨大な個体は……」
「マザーガーゴイル。あいつが指揮を執ってやがんだな?」
とにかくバカでけーボス的な存在もいる、あの群れはしっかりとした構成だ。
放置すると被害は拡大する。とはいえジャンプして届く高さでもねーしな……オレが珍しく顎に手をやって考え始めると、
「ジャイロ団長、群れが動き出しました!」
「あの方向には『学園』があります! 子供達が危険だ!」
「弓で撃ち落としますか!?」
「待て待てバカども!! 矢を外したら落ちんのはどこだ!? 国民の脳天にぶっ刺さったらどうする! ってかガーゴイル仕留めたって肉塊の雨になんだろが!」
慌てんな、オレの部下達。状況をみて冷静になることは大事なこと……って、あれ?
『学園』?
「なー、お前ら……今日って『学園』で何か特別なことやってなかったっけ?」
「はい? いきなり何を……」
「えぇと確か、救世主マコト・エイロネイアーによる特別講義――」
それだ……オレが引っ掛かったの。
『マコト』がいるんだった。
「今はまだ何もしなくていい、馬を出せ! 全速力で『学園』に向かい、マコトと共闘じゃー!!」
「「「えっ!?」」」
オレは『不死鳥』という名の剣を掲げ、部下達を急かした。でも慌てる必要は無い。
どうせマコトのことだ、『学園』が襲われたら黙ってるはずねー。
――お前、救世主だもんな。相棒。
▽ ▽
▽▼▼▽
……ふぅ、リリー(プラム唯一の友達)の教室を探すのに数分使っちまったぜ。
俺とプラムはようやく彼女を見つけ、
「どうも先公、救世主のマコト・エイロネイアーだ! 救世主特権で生徒を一人連行させてもらうからな!」
「リリー! 来たよー!」
講義中でも構わず、その綺麗な制服姿の背中に大声を掛けた。
「えっ、えぇ!? マコトおじさんがいるのは知ってたけど……プラムまでー!?」
たくさんいる生徒の中で一人だけ呼ばれたリリーは、焦った様子で振り返る。
茶髪とそばかすが特徴の、プラムとは違って大人しめの女の子。普通にかわいいぜ?
まぁでも照れて赤面しちゃって動きにくいようだし、
「おら、あと数分くらい大丈夫だ。人生の時間は限られてる、講義より友達だろ?」
「わわ、そうですけどー! 予習してるから良いですけどー! マコトおじさーん!」
俺はズカズカと教室に入ってリリーを強制的に連行。講義中の講師はポカンと口を開けてるが、まぁ大丈夫だろ。
俺、有名だもん。
リリーが廊下に出て、
「ひゃほー! リリー!」
「プラム!」
いきなりプラムが抱き着く。リリーももちろん喜ばしげ。
「制服姿は何回か見たけど、『学園』の中で見るとまたなんか違うねー!」
「う、うん! そうだね、ここで会うのは初めてだもんね……」
「そういえばリリー、弓矢はどう? 弓、上手くなったのー? 見せて見せて」
「え……あ、うん、前より上達したと思うよ……」
まだ照れてるのはわかるが、なんだか浮かない顔してる気がすんな。
予習してるとか言ってたし、講義抜け出したのを気にしてるワケじゃなさそうだが……
チリリリリリン!!
……お? チャイムか。アメリカ式か。
ということは今度こそちゃんと講義が終わったらしいが、
「よぉ、リリーちゃーん!」
「……あっ」
今の教室から出てきた、リリーより体の大きな三人組の男。
その内の一人が、背後からリリーのポケットに手を突っ込み、何かを抜き取った。
「あぁっ! お、お金、返してよ!」
「やなこった。お前このクラスで一番弓が上手いんだから、このくらい寄越せ!」
焦る彼女の声。小さな皮袋みたいのを抜き取った三人組は、ニヤニヤ笑ってる。
「金……? サイフか」
ちょっと待て、急に何だこの展開は。許せねぇんだが。
「そ、そうですけど……そうですけど、いいんですマコトおじさん! ずっとこうなんです!」
「あん?」
俺が怒ったのを察したんだろう、聡明な少女リリーは俺を止める。
だが止める意味がわからんな。財布だぞ。
「乱暴しないでください……私、そういうの……嫌なんです……」
「……リリー」
「は、はい?」
俺に名前を呼ばれ、リリーはビクッと体を震わせた。んな怖がるなって。
「乱暴なんかしねぇよ。ただ、ダメなことはダメだ。正させてもらう……おいガキども」
「なんだよ、ジジイ。あんた誰?」
うわ、おいおいこの三人組、生意気すぎるにも程があるぜ。プラムと違って可愛げが無い。
俺は表情を変えずに悪ガキどもに近づき、
「リリーの、ダチだ!」
「うおっ!?」
パッ、と素早く皮袋を奪う。でもってリリーに返した。
彼女は小さく「ありがとございます……」と呟いちゃいるが、どうにもあの悪ガキどもに対して申し訳無いと思ってそうだな。何でだよ。
「友達!? 嘘つけクソジジイ!」
「そんな『良い子ちゃん』に友達なんかできるわけないね!」
「あぁ……!?」
何だ、リリーってそういう扱いなのか。
確かに優等生タイプっぽいし、弓も上手いらしいが、まさか同級生からは嫌われてんのか?
いかんいかん、眉間にシワが寄りそうだ。
すると、
「……あれ? なんだ、特別講師のおじさんじゃん。その良い子ちゃんの知り合いだったんだ」
「お前、アールじゃねぇか」
廊下の向こうから来たのは、さっきまで俺が特別講義をやってやってた教室にいた、ムードメーカーみたいにうるせぇ男子。
フィー先生からアールと呼ばれてたヤツだ。
なぜか、アールは三人組の男に加わるように混ざってきた。
どうしてアールがここにいる。あの三人やリリーは、アールより歳上だろ?
「……この三人は、俺が金で雇ったんだ。俺よりも人気者だったその良い子ちゃんに、ちょっと引っ込んでてもらうためにね」
「はぁ!? 金だぁ!? お前クソガキのくせに何様なんだ!?」
俺はリリーやプラムのことも考えず、感情の乗った声を上げちまう。
マセてるにも程があるアールのその正体は、
「俺は、有名な貴族の息子なんだぞ? あまり大きい口を叩くなよ一般人」
「何!?」
「パパがその気になれば、こんな『学園』はペシャンコにできるんだぞ!」
「お、お前なぁ……」
イライラが止まらない俺は、つい歩きだしちまう。その袖を掴んできたのは、
「マコトおじさん! 今のを聞きましたよね、やめてくださいっ!」
「リリー……?」
イジメを受けている張本人だった。
「さっすが『良い子ちゃん』はよくわかってるなぁ〜!」
「そうやって皆のご機嫌を取るのが、大好きだもんなぁ〜!」
「う……」
クソみたいな悪口に泣きそうになっているリリーだが、俺のスーツの袖を離そうとはしない。強い力だ。
「アールくんのお父さんはすごく権力のある人だから、先生たちも怖がってるんです」
「……!」
「私の友達もみんな、あの大きな体の三人組が怖くて、私に近寄らなくなっちゃったけど……でも、良いんです!」
「……」
「私さえ、私さえ耐えてれば大丈夫なんです」
「……リリー」
なんて健気なんだ。
なんて、悲痛な叫びだ。
俺は怒りも悲しみも通り越して、ワケのわからない感情になり、掛ける言葉が見つからねぇ。
リリー、お前みたいな良いヤツが……どうして。
「ちぇっ、面倒くせーな。邪魔なジジイもいるし、今回はもういいぞお前ら」
「「「おう」」」
俺もプラムも、リリーも何もできないままだが、アールは三人を撤収させ、自分も戻っていく……その途中に一瞬だけ振り返る。
「あとでな。良い子ちゃん」
不穏すぎる言葉を残し、今度こそアールは自分の教室へ戻っていった。
「リリー……ね、リリー……?」
プラムの呼び掛けにも応答しないリリーは俯き、教室の自席へ戻る。
よく知った友達の、未知の感情に触れた俺たちはどうすりゃいいかわからなくなり、とりあえず教室に戻ることにした――