#39 残された子分
マゼンタと一緒に酒を飲んだ俺。
少し大人な夜だったが、その後は真っ直ぐに帰宅した。
メイド軍団が超絶リフォームしてくれやがった、今後の俺の家。
「本当にここ、ミーナと一緒に内見したオンボロハウスなのか……?」
ふっかふかのソファーに腰掛けて、とんでもねぇ変貌を遂げた内装を見回す。
信じらんねぇ……そんなことを考えてると、気づけば俺はソファーで寝ていた。
▽▼▼▽
「あー、頭痛ぇ。気持ち悪ぃ、吐きそう」
朝に目が覚めて早々に出掛けた俺は、あまりにもボロボロな自分の体の愚痴を漏らしちまう。
……酒か。
おかしいな、昨晩にゃ酔ってる感じは無かったんだが、久々の酒でおかしくなっちまったか。
「だが……」
それでも俺が外出した理由。
「ここには来なくちゃいけなかったよな」
目の前の建物は、『診療所』だ。
サンライト王国で一番大きい医療施設だな。まぁ病院さ。
入院設備もあるワケで、ここには、今すぐにでも会わなきゃいけねぇヤツらがいるんだよ。
▽▼▼▽
入ってすぐ看護士っぽい女性に「エイロネイアーさん? 治療は終わったはずですが……」と呆れたような反応をされた。
もちろん治療後は自然回復に任せてる俺は「いや面会だ」と答え、上の階へ上がる。
教えてもらった部屋にノックして入ると、
「……親分……!」
「来てくれたんスね!」
ブラッドとゼインが迎えてくれた。
包帯やガーゼやギプス、そんな痛々しい姿でベッドに寝かされている、俺の子分たち。
もう、子分はこの二人だけになっちまった。
「……体の調子はどうだ? お前ら」
心配なんで聞いてみる。するとブラッドは慌てて上半身を起こしながら、
「と、とんでもねぇ! 親分に比べたら俺の傷なんて……」
「いやお前が一番の重傷だぞ……どう見ても」
俺は《超人的な肉体》のおかげで自然回復力が高いんだが、如何せんケガばっかしてるんで、診療所の職員からはケムたがられてんだよな。
今回も軽くパパッと治療を受けて「後はご自分で……」と宣告された。
慣れすぎだろ、俺の対応。
「親分。俺はあと何日かで退院できるらしいっス。大きなケガしてないっスからね。ブラッドの兄貴は、あと十日はかかるとのことっスけど」
「うわ、やっぱそんなに酷ぇのか」
「い、いや……ウグッ!」
冷静に説明してくれたゼインに対し、ブラッドは強がってんのか否定しようとしたが、どうやら痛みには勝てねぇらしいな。
いや……ブラッドのは強がりじゃねぇよな。
「大丈夫だ、ブラッド。俺に責任を感じさせまいとしてくれてんだろ?」
「……! ち、違っ……」
「わかってるよ、わかってる」
プラムもそうだが、ブラッドやゼイン、殺されちまった子分たちも、みんな、別に今回俺についてこなきゃいけねぇ義務は無かった。
つまり、これは『俺が巻き込んじまった結果』と言っても過言では――
「本当に、違いやすからね、親分? 巻き込まれたんじゃねぇ。親分を救うため、俺たちは俺たちの意思で、命を懸けたんだ」
「その通りっス」
「……ッ!」
ブラッドにもゼインにも、すっかり俺の心は見透かされちまってんだな。
「ごめんな、本当に……あいつらを守れなかった」
「だから謝らねぇでくだせぇ!!」
ブラッドは眉間にシワを寄せ、叫んだ。
俺は幸せ者だな、俺のためにこんなに叫んでくれる子分を持ったなんて。
「マコトの親分。俺はあんたのことを少しずつ理解してきてるつもりだ、だから言うが……あんたが気にしてんのは、俺やゼインのこともそうだが、それよりも『俺に従ってあんたの子分になっただけ』って奴らが殺されたことなんでしょう?」
「……まぁな」
案外、鋭いなブラッドも。
どっかで言った気もするが、ブラッドやゼインは襲ってきたのを俺が返り討ちにして、勝手に俺に屈服して子分になってきた。
だが、それより下の名前も知らねぇヤツらは、兄貴のブラッドについてきて、流れで俺の子分になっただけだ。
それが今回、俺のせいで皆殺しにされちまった。
「親分、親分……自分を責めねぇでくだせぇ。ちゃんと説明しやすから」
マジでブラッド、俺の考え読んでるのか?
「もちろん――最初は反対意見もありやした。『ブラッドの兄貴が負けたのはマグレだ』『あんな弱そうなオッサンの子分なんて御免だ』……そんなことを言う奴らもいた。正直」
「だろうな。初めから全会一致で俺の子分になりたがるワケがねぇ」
「はい。ですが心底あんたに惚れ込んでた俺とゼインは、めげずに説明と説得を続けた」
「…………」
「そのうち、あんたの活躍の噂がどんどん流れてくるようになった。サンライト王国中には知れ渡ってなくても、そういう話ってのは何だかんだで耳に入ってきやす」
「…………」
「少しずつ、少しずつ、子分たちもあんたの人となりを知り、実績や活躍を認め、少しずつ……あんたを親分として認めていってた」
「……!」
「あんたが魔王討伐を果たす頃には、もうみんな、あんたのことを親分として誇りに思っていた。これは間違いねぇです」
ブラッドは熱心に、身振り手振りもしながら、俺に説明をしてくれた。
なんとなく、嘘じゃないとわかる。情熱が伝わってくるから。
「あいつらも本気で親分のことを救いたくて、ゾンビや、ハイドに立ち向かったんでさぁ……少しでも親分の役に立って死ねたなら、あいつらだって本望さ。そうに決まってる」
「その通りっスよ兄貴! ハイドを足止めするあいつらは、生き生きと戦ってたっスからね!」
「…………」
嘘じゃねぇだろう。俺を励ましたいって思いもあるだろうが、真実だと思う。
でも、俺は、こいつらに何も言えなかった。
何を言っても不謹慎だったり、野暮ったくなっちまう気がした。
――俺よりもブラッドやゼインの方が、悲しくて苦しいに決まってんだ。
だから、
「ありがとう。体……ゆっくり治してくれな」
「「おう!」」
礼だけ述べておく。
二人の元気な返事に、また俺も元気を貰える。
「親分の方こそ……プラムちゃんのこと、本当に辛かったと思いやす」
「俺たちゃこんな体だから無理っスけど、マコトの親分には不可能なんて無いと信じてるっス。無茶だけはせず、頑張ってくれっス!」
「……おう! 俺も頑張るぜ」
こいつらも何だかんだプラムとも付き合いあるからなぁ、心配してくれてんだろう。
でもミーナやマゼンタ、こいつらもあんまり深く思い悩んでないのは、プラムがどうでもいいんじゃなくて、
「俺……思ったより信じられてんなぁ」
ということなんだろう。
みんな信じるヤツ間違えてねぇ? 大丈夫?
そんなこと思いながらも、俺はなるべく元気な気持ちで病室を後にする。
この診療所で――他にも会いてぇヤツがいるんだ。




