表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
37/145

#37 メイドの底力?



「ん? ……そういや、俺の帰る場所ってどこだ?」


 アルドワイン・ベルクを脅迫してからベルク邸を出た俺は、街中を歩きながら呟く。

 前と同じなら、魔術師団の団員寮に行ってプラムと同じ部屋に入るだけだ。


 でも俺、プラムに何も言わずにマイホームをマゼンタから借りることになって……


「……いや、プラムいねぇんだった」


 そもそもあいつはゾンビになってる。

 今は『ダンジョン』とやらの地下深くを彷徨ってるんだろうか。


「しかも俺の新居を掃除してくれてたミーナは、ジキルに誘拐されかけたんだっけか……」


 まさか、ただのメイドを、俺個人のクッソどうでもいい騒動に巻き込んじまうなんて。

 考えが及ばなかった。俺の無能さ全開だぜ。


 気づけば、もう空は夕暮れの色に染まっている。


 綺麗だな。改めて見ると。


「……家の掃除をミーナが始めたのは、確か今日の朝とかだったよな。無理だろ、リスキーマウスが似合うオンボロの家を、数時間で住めるものにするなんて……」


 ミーナのことを貶すんじゃない。

 これは当然のことだ。丸一日すら経ってないんだからな。


 ま、しょうがねぇ。

 ――異世界転移して、このサンライト王国に初めて来た時を思い出せ。

 街中で野宿するなんて考えてたんだぜ、俺。


 ある種の原点回帰、ってヤツさ。


 別にいい。ホームレスみてぇな感じでも。


「俺なんか、綺麗な家だの最新の設備だの、求めて良いような器じゃねぇし……」


 正直、プラムを守れなかったことを本当に悔いている。心の底から……へこんでる。


 だが、もう決めてんだ。



「絶対に騎士団と一緒に『ダンジョン』に突入して……()()()をプラムに浴びせてやるんだ」



 絶対、あいつを助けてやるって。


 フラスコに入った白い液体――恐らくゾンビ化から元に戻せるポーション。

 それを振り、眺める。


 白い液体を女の子にぶっかける、とか言うと絵面が卑猥なのしか想像できないって?


 そんなことを思いついた変態は消え去れ(?)。


 こっちは真剣なんだ(?)。


「お? そろそろ『夢のマイホーム(笑)』が見えてくる頃かな?」


 俺は皮肉をブチかましながら、両手をポケットに入れて口笛を拭きながら歩く。

 目的地に着いた、と思ったその瞬間。


「!?」


 口笛を止めちまう。


「い、いやいや有り得ん。見間違いだろ、そうだろう? だってほら、お、おか、おかしいもんなぁ?」


 見間違いか、そうでなくても幻覚か。

 だって、すげぇきらびやか、というか、ビカビカに光ってる建物が見えたんだぜ?


 んなワケねぇよな?


「えーっと。あのオンボロハウスは、この建物の一軒、二軒、これの隣の……」


 慎重に記憶と照らし合わせる。

 そしてしっかりと見定める。ここだ。これこそが俺のオンボロ――



「「「おかえりなさいませ!!! マコト・エイロネイアー様!!!」」」



 チョ〜きらびやかなお屋敷。これがオンボロだなんて死んでも言えねぇ。超綺麗。

 出迎えるは、ミーナを筆頭にした何十人ものメイド服の女の子たち。


「いやメイド多っ!!?」


「失礼を、マコト様! やっぱり私一人では力不足かと思いまして、同僚を呼んだのです!」


「別にそりゃ良いが呼びすぎだろ! 俺は魔術師団の重鎮とかじゃねぇんだぞ!? しかもこりゃ掃除どころか劇的ビ◯ォーアフターじゃねぇか!」


「で、でも……でもですね……?」


 俺ごときの家のためにこんなに大勢のメイドをフル活用するなんて、申し訳ねぇよ。

 と思ってたら、



「私には……いえ、私たちには、このぐらいのことしかできないので。せめて気に入ってほしくて」



 ミーナが両手の人差し指をツンツンして、まるで拗ねた少女みたいな動作をしながら言ってきた。

 俺は、


(あらカワイイ)


 おっさん全開。その動作にトキメキを感じていた。

 だが、


「ミーナ……自分のこと役立たずとでも思ってんのか? そんなワケねぇだろ、俺は家事の一つもロクにできねぇアホだ、お前にはいつも助けてもらってる」


「え……」


「戦えなくたって、別に戦うだけが人生じゃねぇんだ。俺はミーナの掃除後の家がどんな様相であっても、『これぞ俺のマイホーム!』と声を大にして言うつもりだったぜ」


「あ……では、やり過ぎでしたか……?」


 また申し訳無さそうに上目遣いで言ってくるミーナだが、俺はそんな彼女の頭に手を乗せ、



「いいや、完璧だ。ありがとうよ」


「……えへへ」



 嬉しそうに頬を緩める彼女に、



「……つまりこの『救世主』である俺から金を毟り取ろうって魂胆だな? よっしゃ受けて立つぜ、後で請求書を頼む。クソほど借金して貢ぐから」


「重っ!?」


「「「雰囲気ブチ壊し!?!?」」」



 ミーナ、そしてメイド達から総ツッコミをくらった。


 結局のとこ、無料サービスらしい。

 ラッキー。



「……あ、それと……プラム様の件……」


「あぁ俺のことは気にすんな。プラムのことは心配だろうが、それについては信じてくれ。絶対に俺が救ってみせるから」


「……もちろん、マコト様を信じてます」


「お前の方こそジキルに狙われちまって……巻き込んじまったよな、本当にすまねぇ」


「こちらのこともお気になさらず。ルーク様が助けてくれましたから、問題無しです」



 他のメイド達がザワついてる中、俺とミーナは小声で会話をした。

 プラムのゾンビ化の件は、誰かから聞いたんだろう。


 そこは、俺を信じてもらうしかねぇんだが……


 今後は大丈夫だとは思うんだが、ベルク家との話に巻き込んじまったのは事実なのに。

 この子もまた……強いな。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ