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#30 〇〇ゾンビ、爆誕!!



「うおぉッ……」


 仰向けに倒れた俺の首を、ハイドがとんでもねぇ握力で掴んできた。


「ぐ……げぇ……ッ?」


 ハイドの手からは闇の魔力が溢れ出てて、今まで感じたこともないパワーで絞められる。


「ヒャッハー! 死ね、死ね、マコト・エイロネイアー! ベアヘルムに捧ぐ、捧ぐ!」


 やべぇ。何だよコレ。すぐにでも死ねそうだ。少しでも気ぃ抜いたら意識飛ぶ。

 息できねぇ。このままじゃ目ん玉が飛び出そうだ。


 ――でも俺は、俺が死ぬことよりも、



「うぅ、う…………ウーッ……」



 プラムがゾンビになっちまうのか、って絶望の方がよっぽどキツい。


 ゾンビに噛まれちまったプラムが、ガクガクと震えながらその場にうずくまり始めた。

 声が、変貌してく。人間じゃなくなってく。


 ポーションの影響で、まだまだ周囲からゾンビが湧き出てくるが、


「ア"ー」

「オオ"ァア……」


 すぐ近くにいるプラムに目もくれない――もう、プラムのゾンビ化が始まってんだな。

 ああ、幼気な金髪の少女の姿が、ゾンビ達の影に消えていって、




 ――――ボカァァァァァン!!!!




 大爆発。

 何だ? 何が起きた? 何がどうなると、どっからどうやって爆発が起きんだよ?


 地面から這い出してきたゾンビどもが、爆発に巻き込まれて全滅しちまった。

 黒煙が立ち昇るのは黒焦げのゾンビどもの真ん中――まさか、プラムがいた所か?


「ぐぉ……プラム……? 異世界じゃ、ゾンビになると爆発、すんのか……?」


「ヒャッハー!? 何だそりゃ! 何だそりゃ! 聞いたことねぇ!!」


 異世界人のハイドが言うんだから、そういう設定は存在しないんだろう。

 じゃあ、一体何が……



 ――ドォォン!!



 黒煙の中で、再び爆発が起きた。

 俺の首を絞めながらも、ハイドが驚いたような目線をそっちに向けてると、



「――――ウ"ア"ァァァァァ!!!!」



 煙の中から飛び出してきたのは、まさかの。


「プ……プラム!?!?」


「あのガキ!? あのガキぃ!?」


 瞳の色が生きてる人間のソレじゃねぇ……明らかに、ゾンビ化したプラムだった。

 一度目の爆発はゾンビ化の瞬間。二度目の爆発は、どうやら地面を蹴った衝撃だったらしい。


 え? マジ?


 プラムゾンビが、ジェット機みてぇなものすごい勢いで()()()()飛んでくるんだが。

 しかも拳には炎を纏ってて、



「ア"アアアア!!!」


「んギャッッッハーァァァ!?!?」



 咆哮上げながら、その勢いの全てを、拳の熱さを、ハイドの顔面にブチかます。

 ビビりすぎて何の抵抗もできなかったハイドは、地面を抉りながら面白いぐらいに吹っ飛んでった。


 え? 何これ?


 まさかプラムのヤツ、ゾンビになったことで、火の魔法の限界超えてんじゃねぇか?

 ある種の暴走状態か……いや、待てよ?


「今、ハイドだけを殴ったな。おいプラム! 俺だよ俺、マコトだ!」


 飛んでったハイドの方を睨んで仁王立ちしているプラムゾンビに、声をかける。

 なぜなら、



「ど、どうせお前アレだろ! ゾンビにはなったものの俺との絆が深すぎて、かろうじて人間の頃の意識が残ってるって展開――」


「ウ"ァァァァ!!!!」


「ぎゃああ普通に違ったぁぁぁ!!」



 声をかけたせいで俺の方に振り向いてきたプラムゾンビが、大口を開けて飛びかかってきた。


 仰向けの俺は噛まれる寸前だったが、どうにか左腕をプラムゾンビの首の辺りに押しつけて、プラムゾンビの動きを止めた。


 ゾンビになったとはいえ、プラムだ。


 毒の付いた右腕で触れるワケにはいかねぇ。



「カ"ァッ! アカ"!! ァアカ"カ"!!」


「……く……そ……ったれ……」



 プラムゾンビの変わり果てた顔面が、俺のすぐ目の前まで迫る。

 もう、プラムの意識は欠片も残ってねぇのか……そりゃそうだよな。俺の脳みそ食おうと必死に口を開閉してるんだし。



「……プラム……」



 自然と、泣けてきた。


 サングラスから溢れ出るほど、涙が……



「ア"〜!! ア"ァッ!!」



 ――でも、俺が死ぬのは違うよな。プラム。


 俺がお前に噛まれて終わるのは、お前にとっても違うだろ、プラム。


 それに、お前を救う方法がどこにも無いなんて、まだ決まっちゃいねぇんだ。


 俺がゾンビになったら、その可能性も消えちまう!



「許せ! おらっ!」


「コ"ォッ」



 俺は謝罪しながら、プラムゾンビを蹴飛ばした。

 しかし身体能力が死ぬほど向上しているプラムゾンビは、空中で一回転してから綺麗に着地。


「おま、ちょっ待て!? 強くなりすぎだって!」


 明らかに普段のプラムより強くなってるプラムゾンビに待ったをかけながら、俺は立ち上がる。

 プラムゾンビは四つん這いになり、靴の裏から炎を出して、



「ア"ァァァァ〜〜〜!!!」


「うわっ」



 飛んでくるのを、俺はギリギリ避けた。

 俺の横を猛スピードで通り抜けてったプラムは、


「ウ"ゥウ!!」


 どうやら、その先にいるヤツに標的を変えたらしい。



▽▼▼▽



「ぜぇ……ぜぇ……よくも俺に、ナイフ刺してくれたな……クソ冒険者どもめ……」


「ギャアァァ〜〜!!」


「ざまぁみろ……俺は生き延びてやる」


 ポーション屋は、『毒』のポーションを食らって転げ回るゼインを見下す。

 そして肩に刺さったナイフを抜き取り、


「か、回復……『回復』のポーションは……いかん、色を間違えたらシャレにならんぞ……」


 ナイフを投げ捨て、馬車の荷台からゴソゴソとフラスコ達を漁る。

 青色のポーションを手に取り、中身を全部飲み干す。


「ふぃ〜……っ!」


 一瞬にして、肩の傷が治った。

 蓄積していた疲労までスッキリしてしまったポーション屋は、苦しむゼインを見て、



「そうだ。新作の『発狂』ポーションをお前で試してみるかな。精神的に追い詰められているほど効果が望める……お前は、あの金髪のガキが好きだったみたいだから丁度いい。ガキも可哀想にな、ゾンビにされちまって……」



 水色のポーションを手に取って眺めながら、ゾンビの件を他人事のように茶化して――



「……ウ"アアアアアアアア!!!!」


「えっ?」



 ようやく気づく。


 ターゲットを俺から()()()()()()に変更したプラムゾンビが、異常な脚力で走ってきてることに。


 笑えねぇが、ギャグみたいな光景だ。


 プラムゾンビの走り終わった地面からは、炎が上がってんだ。

 速すぎて摩擦で火がついちまったのか、火属性の魔法が出ちまってるのか。後者、だと思うが。



「ウ"ォォォウッッ!!!」


「え? あ? ひっ!? くっ、来るな来るな来るなギャアアアァァァ!!!」



 焦るポーション屋の、情けない悲鳴。


 ジャンプしたプラムゾンビは真上から覆い被さり、仰向けに倒れたポーション屋に馬乗りになる。

 そして、



 ――バキッ!!



 ポーション屋のヒゲヅラに、容赦ないパンチを打ち込んだ。

 あれ?



 ――バキ! バキ、バキ!! バキッ!!


「噛まねぇのか!?」



 律儀に左右交互に、荒々しくパンチを入れまくるプラムゾンビ。

 まぁプラムが人を食い殺すとこは見たくなかったし、結果オーライってことで。


 顔をボコボコにされ、血だらけで満身創痍のポーション屋は、



「ぼふ……や、べ、て……」


「ォォォォォオ"オ"オオオ…………ッ」



 燃える拳を大きく振り上げたプラムゾンビに、弱々しく慈悲を求めたが、



 ――――グシャ!!!



 あーあ。

 普通にぶん殴られて、頭が破裂したみてぇに潰されちまった。


 お気の毒〜! ざまみろクズ野郎!!


 自分で作ったゾンビポーションの影響で、自分が殺されちまうなんて皮肉だな!!

 お前が撒いた種だぜ、悪党。




「……って、そういえばヤバくね? この状況」




 俺は、リスキーマウスの毒が自分の目のすぐ下まで回ってきていることを思い出す。


 マズい。

 ポーション屋が死んじまったら、どれが『解毒のポーション』なのか判断できねぇ……


 死人に口無し、だ。


 未だにプラムゾンビにオモチャみたいに殴られてるポーション屋は、もう絶命してる。


 どうしよう。

 俺まで共倒れか――と思ったが、




「ギャアアア〜〜……あっ! マコトの親分、わかったっス!! ポーションの仕組みが!!」




 毒で頭をやられたからか、逆に頭が冴えちまったらしいゼインが、俺に朗報を届けてくれた。


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