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#27 おい、嘘だろ?




「わぁぁぁ! ゾンビが出てくるよーっ! みんな気をつけて、武器を構えてー……」


「ちょ、ちょっと待ってプラムちゃん……!」


 ポーション屋が悪党だったことを知った俺たちだが、例のゾンビポーションを近くに投げられた。

 焦るプラムだが、ゼインがそれを止めた。


 理由なら俺にもわかる。


「……ゾンビ、出てこねぇな」


 『攻撃ポーション?』をモロに浴びてぶっ飛ばされてた俺は、サングラスを掛け直して立ち上がる。

 ポーションを浴びた部分が未だにビリビリと痛む気がするが……毒が元々痛ぇからな、もう感覚無くなりそうだぜ。


「そっスね、墓地ではポーションが弾けてからすぐにゾンビ出てたっスけど」


「……やっぱ、死体が埋まってねぇと機能しねぇんじゃねぇか?」


「……どうスかね。確かに『ゼロからゾンビを作り出す』ポーションだとすると、世紀の大発明すぎるっスかね」


「ああ、きっと『死体を蘇らせる』ポーションなんだろ……ヤツを捕まえねぇとな」


 と、俺は言ったものの。

 ずっと気になってることがあるんだよな。



「ゼイン……お前、焦りながらこっち来たよな。何だ? 墓地で何かあったのか?」


「……あ」



 ブラッドや他の子分たちと一緒に、墓地でゾンビやハイドの相手をしてたはずのゼイン。

 大慌てで来たが、ポーションの依頼達成のために一旦無視したんだよな。



「……い、いや。まずはマコトの親分の体調を優先させるべきっス……もう起きちまったことなんで……俺は、俺たちは、ブラッドの兄貴を信じるべきっス」


「は?」

「ゼイン……?」



 俯き、目を閉じ、明らかに普段のおちゃらけた様子ではないゼイン。

 その様子の深刻さは、ロリコンなゼインのことを良く思ってないロリであるプラムが心配するほどだ。


 こいつがそう言うんだ、今は、放置しとくべきか。


 ――と、思ったのに。




 ドゴオオオオオオ――――――!!!!




 えげつねぇ音がした。

 何キロメートルも離れた、森みてぇな林みてぇなところで爆発が起きたらしい。


 ゼインは冷や汗で汗だくになり、望遠鏡的な道具で爆心地を見る。


 その一言は、最悪の始まりだった。



「ああ、そんな……()()()()()()()っス」


「は!?」


「……東の墓地から吹き飛ばされたみたいっス……もう、戦闘不能みたいっスね……」



 いや待てよ。待て。

 あの林、東の墓地からどんだけ離れてると思ってんだ、遥か向こうだぜ。


 墓地にいる敵は、アホでノロマなゾンビどもと、同じくアホな狼の獣人だけだろ。

 しかも相手は天下のBランク冒険者、ブラッド。


 どうすりゃそんなに吹っ飛ぶことなんか――



「ああ、なんてこった、マズいっスよこれは……こっちに向かって来てる」


「はぁ!? おい何がだよゼイン!? いったい何が起こってんだ!?」



 今のゼインが望遠鏡で見ているのは、今度こそ東の墓地の方向だった。

 ってことは、そっちから来るって……




「ヒャッハー!! 皆殺し!! 皆殺し!!」




 あの喋り方は。まさか。



()()()っスよ。誰もがアホで弱いと思ってた、あの狼の獣人っス……」


「…………」


「俺とブラッドの兄貴以外、()()したんス。気づいたらみんなやられてた……」


「……は?」


「ブラッドの兄貴に『マコトの親分に危険を知らせろ』と、命令されて逃がされたのが俺なんス……」



 望遠鏡を握るゼインの手が震えてる。

 何だそれ。



「おい待て、ゼイン。そりゃ、おい……死んだってことか……? 他の子分たち」


「……そうっス」


「…………殺されたのか? あの狼に」


「そうっス」



 何だよそれ。何だよそれ。


 何なんだよ……それは。




「――あの野郎ォォォォ!!!!」




 俺は駆け出した。


 そうだ、俺は子分たち全員の名前なんか知らん。元々はブラッドの子分たちだし。

 あいつら一人一人と絆があるワケでもねぇ。


 あいつらは、兄貴のブラッドが俺に屈服したから、俺を親分と設定しただけ。


 それなのに……あいつらは俺のせいで死んだ。


 俺が今回あいつらを巻き込まなければ……!



「親分!? ポーションはどうするんス!?」


「ゼイン、プラム、お前らに任せる! 俺はあのクソったれ犬野郎をギタギタにブチ殺してきてやる!! ポーション屋は殺さずに捕まえろ、どれが解毒のポーションか吐かせてから殺す!!」


「りょ、了解っス……!」



 もうブチ切れちまってどうしようもねぇ俺は、ゼインに乱雑に命令した。



「え……しんだ……? ころ、された……?」



 一応プラムの名も出したが、あの子はこの状況にはついてこれてねぇだろう。

 仕方ないと思うよ――俺だって、慣れたりできねぇから。


 走ってたら、向こうも近づいてきてるんだ。


 邂逅する。



「ヒャッハー! また会えた! また会えた! マコト・エイロネイアー!!」


「うるせぇ!! マジで殺す!!」



 笑顔で走ってくるハイドの野郎、両手に何かを持ってやがる。

 それには言及しまいと思ってたが、



「っ!! てめぇぇぇ!!!」



 ダメだった。

 俺はもう一段階ブチ切れることになった。



「マコト・エイロネイアー! お前の()()()()()()()、生首!!」


「やめろぉぉ!!」



 大量に持ってるのは、見覚えのある、確かに俺の子分だったヤツらの首だった。

 髪の毛を乱雑に掴んで、まるでお買い物バッグみてぇに扱って……あー、やばい耐えられねぇ。



「踏んじゃうぜ! 踏んじゃうぜ! 生首!」


「……ッ!!」



 やめろやめろ、やめろ!!

 ――そんな言葉も出てこねぇほど、俺の怒りはもう止まることはない。


 ハイドは、持ってた生首を地面に落とし、踏んづけては破裂させてく。トマトみてぇにな。

 あいつの体が返り血に染まってく。


 俺の子分たちの血で、だ。


 自由を愛し、腕っぷしを誇り、悪いこともしたが、しっかり足を洗った冒険者たち。

 ……こんなクズみたいな俺の、子分になってくれた気のいいヤツら。

 半年前は殺し合った仲なのに……今や無条件で俺を助けてくれるようにまでなった、最高の仲間たち。


 名前を知らねぇだの、思い出や絆がねぇだの、そんなもんはどうでもいい上っ面だ!


 何で、あんなにいいヤツらが無意味に死ななきゃいけねぇんだ?

 俺を生かすために戦ってくれるようなバカどもが、どうして俺より先に殺されちまうんだ?


 ただ俺をターゲットにしてるだけの殺し屋に、どうして理由もなく殺されなきゃならねぇんだ??


 おまけに殺された後も、まだ弄ばれて……


 ……絶対に許さん。


 やっと、ハイドに手が届くとこまで着いた俺は、



「――お前を殺す。ハイド」


「うぉ!?」



 未だに毒に侵されてる右手で、ハイドの顔を鷲掴みにし、そのまま地面に叩きつける。



「ギャアッハァァァァ!?!?」



 当然。

 ハイドの顔から紫色の毒が広がってく。一瞬で、毒はハイドの全身へと回っていった。


 またも瞬殺――ハイドは仰向けのまま、もう、動くことはなかった。


 これでいいんだ。


 これで、親分としての、なけなしのプライドは守れたんだろうか。

 筋を通せたんだろうか。


「ごめん……ごめんな、お前ら」


 転がっている生首たちに、そう言った。


 そうだ、ゼインやプラムは上手くやっただろうか……ポーション屋は捕まえたかな。

 現実逃避のためにそんなことを考えて、ハイドの死体から踵を返して、






「……ヒャッハー!!」






 ……は?

 何だよ、今の声は。おかしいだろ。おかしいよな。いやいや、あり得ねぇ。


 俺は幻聴だと思いながらも振り返る。


 そこには、間違いなく全身が紫色に染まってるハイドが、二本足でしっかりと立っていた。



「リスキーマウスの毒! リスキーマウスの毒! 俺、これ何度も浴びたことある!!」



 おい。おいおい。



「やっと追いついた……狼め、俺らの仲間を……」

「……お、親分……逃げて……」

「ぶっ殺して……やる……クソめ」



 墓地の方から、何とか生き残ってたらしい数人の子分たちが駆けつけて、背後からハイドに襲いかかろうと迫りくる。


 ちょっと、待て。待ってくれ。



「ずずずずずぅぅぅ〜〜〜…………ッ!!」



 どんな技なのか意味不明だが、ハイドの全身に広がった紫色が、どんどん引いてく。引いてった紫色は、口のところに集まってく。


 つまり――回ってたはずの毒を全部、自分の口内に一点集中させてやがる。

 狼なのに、リスみてぇに毒液で頬を膨らませてる。


 ……あいつ、誰もが脅威としてたはずのリスキーマウスの毒が、全く効かねぇってのか?


 ただのバケモンじゃねぇか……



「うぶぶッお返し! ぶくぶくッお返し!」



 その口内に溜めた毒を、ハイドは後ろへ振り返って、



「ごぼぼ、ぼ、ぼ、ぼ……ボォォンッ!!」



 大砲でも撃つみてぇに吐き出す。

 ザパァン! と音が鳴るほどの量の毒液が、生き残った子分たちに浴びせられて――



「ぎあぁぁぁ!!!」

「うおおおおぉぉあ!!」

「があぁあッ!!」



 子分たちは当然、一瞬だけ叫んで即死していった。


 ハイドは、もう毒も何も残ってねぇ笑顔で俺の方へ振り向いてきた。



「勝負、勝負!! マコト・エイロネイアー!!」



 拳を固めたハイドの体から、黒色というか、とにかく暗い色をした禍々しいオーラが湧き出てくる。

 アレは……見覚えがある。



「『闇』……ハイド、お、おま……『闇属性』の魔法まで、使えんのかよ……」


「そうだ!! そうだ!!」



 おい、嘘だろ?


 強すぎねぇかこいつ……魔王の相手してる気分だ。


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