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#26 依頼達成……じゃない!?



 ベアヘルムを殺――じゃなくて眠らせた(大嘘)俺はプラムを引き連れて、東の墓地を脱出。

 ゾンビとか、泥に目をやられてるハイドを、とりあえずブラッドたちに任せてな。


「畜生! ……マコトの親分、プラムちゃんすまねぇ! 危うくプラムちゃんが犠牲に……」


「うるせぇブラッド、お前ら先行くぞ! リスキーマウスの尻尾とガーゴイルの翼をよこせ!」


 悔しそうなブラッドには悪いが、細けぇ話は後にしてもらおう。

 俺とプラムは、絶賛逃走中らしい依頼人のポーション屋を追うぞ。


 墓地を出ようとすると、



「……ん?」



 プラムが、ご遺体――じゃなくて冬眠中のベアヘルムを見てる。

 まぁ(獣)人の生き死にについて思うところがあるんだろうよ。


 ――何かゴソゴソやってるのには、この時は気づかなかったんだけどな。

 すぐに理由はわかるさ。



▽▼▼▽



 生み出した()()()のアクセルを全開に吹かし、毒が広がっちまう前に馬車へ追いつくことを願う。

 もちろん後ろにはプラムがいる二人乗りだ。


「半年前にも、こうやって二人でバイク乗ってドラゴンに突っ込んでったよなプラム!」


「そうだっけ〜?」


「もう忘れたのか!?」


 俺の背中をぎゅっと抱きしめながら、プラムは楽しそうにとぼけてる。

 そして、


「でもマコト、これズルくない? だってマコトの能力って『武器……ナントカ』でしょ?」


「ああ『武器ガチャ』な」


「そう、『ぶきんちゃが』なんでしょ?」


「全然言えてねぇので後でお尻ペンペンの刑だな」


「やめて!! やだ!!」


「暴れんなって事故るから!!」


 茶番はさておき、プラムの言いたいことはわかる。


 ――乗り物をどうして武器として生み出せるのか?

 まぁ一応、理由はある。


「あ、マコト! スライムだよ!」


 道の先に現れたのは、動くぷるぷるゼリーみてぇな最弱の魔物、スライム。

 俺はスピードを落とさず、


「グシャ!!」


 バイクの前輪でスライムを轢き殺した。

 さらに、


「あ、スケルトンだ!」


 プラムの指差す先に、歩くガイコツの魔物、スケルトンがいた。剣を振り上げてるが、


「ガシャン!!」


 例に漏れずバイクで轢くと、スケルトンはバラバラに吹き飛んでった。

 今度は、


「ガーゴイルだよ!」


 空飛ぶ魔物ガーゴイルが、ゆらゆらと低空飛行してて俺たちに気づく。

 なので俺はウィリーして、


「グギェェェ!?」


 浮かび上がった前輪でガーゴイルをぶっ飛ばした。


「あははは! バカみたい、変な攻撃〜!」


「バカみたいでも攻撃は攻撃だろ?」


「うん! あははっ!」


 ――こういう芸当もやろうとすりゃできるんで、たぶんこれが理由だと思うんだが。


 いかんせん、俺も能力ってモンに深く理解があるワケじゃねぇ。全部の説明はできん。


 ただこの『武器ガチャ』能力は、使用者の想像力も大事らしい。

 脳内イメージから武器が生み出されるからな。


 俺はちょっと頭がおかしいから、出てくる物も大概おかしいって説も強い。

 およそ武器とは呼べねぇモンばっかり出てくる。


 もう一人、別の転移者で『武器ガチャ』能力を有してるヤツに会ったことあるんだが――そいつはマジの戦闘用、人を殺す用のちゃんとした武器ばっかり出してたんだよな。

 本来はそういう能力ってことかね。


 となると、やっぱ俺がイカレてるのか。



「私さ」


「……ゔぁッ!?」


「ちょっと、何でそんな驚くの!」



 いや考え事してんのに突然話しかけてくるから、ビビるだろそりゃ。

 いつになくプラムがシリアスだな。どうしたんだ?



「……私ね、マコトの背中が一番落ち着くの」


「マジ?」


「うん」


「大きいからか?」


「わかんないけど……」



 おいおい怖いぞ、急に何だそのノリは。ぎゅうっと、強く抱きしめてくるプラム。

 ――俺は聞き逃さなかった。



「……パパ……」



 プラムが蚊の鳴くような小声で、もうこの世にいない存在を呼んだのを。

 バイクのエンジン音に混じって聞こえねぇとでも思ったのか。


 ――ああ、参ったな。


 俺がお前の本音、聞き逃すワケねぇだろ。

 だが、


「おっとっと、感傷に浸っちゃってるところ悪いがプラムお嬢さん? 馬車が見えてきたが、バイクに毒も広がってきた。飛び降りるぞ!」


「えっ、また飛び降りるの〜!?」


 半年前のこと、やっぱ覚えてんじゃねぇかお前。

 本当に馬車のケツがすぐそこまで迫ってるとこで、俺とプラムはタイミングを合わせて横にジャンプ。



「――ひ、ひぃっ!」



 馬車を操るポーション屋が怯える声を出したのは、馬車の前に魔物たちが現れて通せんぼしてきたから。

 なんだが、


「フギィイ!?」

「ブゴオオオ!!」


 立って歩くイノシシみてぇな魔物、オークの群れは、突っ込んできた運転手のいねぇバイクの爆発に巻き込まれ、丸焦げになった。



▽▼▼▽



「や〜〜〜っと捕まえたぜポーション屋! あんたに用があるんだ」


「……そ、そうなのか……た、助けてくれてありが」


「話は後にしてくれ」


 感謝しようとする、ローブを身にまとった中年男性って感じのポーション屋の言葉を止める。

 こっちは解毒のポーションのおこぼれが欲しくてしょうがないんだ。


「あのな、俺は冒険者で――」


 さっさと自己紹介して材料を渡そうとするが、



「――親分! 親分っ! マコトの親分! 大変なことが起きちまったっス! 今回のは今までの比じゃねぇ、本当にヤバい!」



 何だ?

 ゼインの野郎が血相変えて走ってきやがった? 汗はすごいし、涙まで流してる。


 だってのに、



「さてさて皆様! 何のポーションをお望みでしょうかな? この青色のは『回復』のポーション、傷をたちまち癒やしてくれますよ! こっちの紫色のは『毒』のポーション、嫌いな人に猛毒をおみまい……ってのは冗談で、魔物なんかに投げれば武器として――――クソ、そうだ『毒』のポーションは材料不足で無いんだった」



 ポーション屋は三人も客が来たのかと勘違いしちまって、営業モードに入りやがる。面倒な。

 だが最後に心の声が漏れ出ちまってたんで、


「俺は冒険者だ。あんたのその悩みを解決すべくここに来たんだよ」


「な、何だって?」


 ひとまず俺はゼインの件を後回しにし、リスキーマウスの尻尾とガーゴイルの翼をポーション屋の男に渡す。


「おお、あの依頼を受けてくれたのか! 助かるが……火の魔石は? あれが一番重要でね」


 うわ、マズい。

 俺は恐る恐る、ポケットから消しカスみてぇなサイズの火の魔石を取り出す。


 引きつった笑顔で男に渡すが、



「こんなんじゃ足りん!! 冒険者ともあろうもんが情けない!!」


「クソ、ダメか!!」



 やっぱ足りねぇとさ。

 仕方ねぇ。かくなる上は、



「よこせ! 解毒のポーションよこせ! 治験させろ、この毒を治したら火の魔石探し回ってやるから!!」


「確かに『解毒』は材料が足りていて、ある! だが! 依頼達成もままならない冒険者に渡すポーションは無い! 貴重なんだぞ!」


「じゃあ金払う!」


「ポーションの値段は一律、金貨100枚だ!」


「高ぇ!! そんな金は無ぇよ、人が死にそうだってのにこの野郎!!」



 イライラが最高潮に達しそうな俺は、危うくポーション屋のヒゲヅラを殴り飛ばしそうになったが、



「あるよ、マコト! 火の魔石!」


「……は?」



 ここで声を上げたのは、まさかのプラムだった。


 おかしいだろ。こいつは持ってねぇって言ってたはずなのに。

 プラムが持ってる小さな袋の中に、たんまりと赤い石が入ってるのが確かに見えるが。



「さっきマコトが眠らせたクマさんが、この袋を持ってたんだ。マコト、火の魔石が欲しいって言ってたから……」


「でかしたっ!!! やったぞ、マジで助かった! お前は天使だ、ありがとうプラム〜〜〜!!!」


「わっ、わっ……!?」



 汗だくのゼインやポーション屋の視線も気にせず、ものすごい喜んじまった俺は、左腕だけでプラムを抱きしめてぐるぐる回る。

 プラムも赤面して恥ずかしそうではあるが、どこか嬉しそうでもある。


 さっきベアヘルムのご遺体をゴソゴソやってたのは、これが理由だったか。

 やっぱお前サイコーだぜ。


 プラムを地面に下ろし、俺は自信満々に火の魔石の袋をポーション屋に手渡す。



「欲深な冒険者よ……これで依頼完了ってことだな」


「は?」



 ポーション屋の男は、おもむろに材料たちを収納すると、不気味に笑う。

 意味わかんねぇんだが……



「金というのは人を狂わすものよ、冒険者。この依頼の報酬は『金貨500枚』だったな」


「ま、まぁ……そう書いてあったが」


「――アレが本当だとでも?」



 さっぱり状況が飲み込めてねぇ俺に、ポーション屋はおもむろに一つのフラスコを取り出す。

 赤色の液体が入ったそれを、



「これは『攻撃』のポーションです、死んでくださいませお客様……!」



 俺に向かって投げてきて、



「――ぐぁアアアアアッ!!!」


「マコト!?」

「親分!?」



 毒ですっかり疲弊してる俺の体が、赤色の液体を浴びると、ものすごい痛みと衝撃に襲われる。


 まるで特大のハンマーでぶん殴られたような痛みに、俺は吐血しながら何メートルも吹き飛んだ。


 ――そうだった。


 最初からずっと、この依頼はおかしかったんだ。




『こりゃ『怪しい』依頼ですぜ』




 ブラッドが言ってたな。

 依頼者の情報は一切無し、報酬も嘘みてぇな大金。




『うーむ。これはあのポーション屋から奪ったもの。奴は『ゾンビポーション』と呼んでいた』




 そうだ。

 社会の役に立とうとしてる善良なポーション屋だったら、ゾンビポーションなんか作るワケねぇ。


 あいつは冒険者を騙してクソみてぇなポーション作って大儲けしようとしてる、悪党だ……



「さぁこちらは『ゾンビ』のポーション! 効果を実感してくださいねぇ……!」



 ヤツは黒色の液体を俺たちの近くの地面に投げて、馬車で逃げて行きやがった。


 俺は、ただ地面に大の字に倒れてた。



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