#25 瞬殺
――――ドドドドドドドドド!!!
「「「ホ"アァァァ!!!」」」
ミニガンのけたたましい射撃音が連なり、近寄るゾンビを次から次へと粉砕してく。
「うーむ、あんな巨大な兵器をどこから? 遠距離攻撃だ、避けるぞハイド!」
「飛ぶ! 飛ぶ! 避ける! ヒャッハー!」
ベアヘルムとハイドはゾンビどもを上手く盾に使ったりジャンプして躱してやがる。
すげぇ反動だからミニガンをブラッドにも支えてもらってるが、
「よしブラッド手ぇ離せ! 毒が危ねぇ!」
「へい」
俺の右手から毒が広がり、ミニガンはあっという間に紫色のオリジナルカラーに染まっちまう。
というワケで俺一人で反動に耐えるんだが、
「うぐぐ……おおおおお!!」
……何とかなるもんだな。
さすがは《超人的な肉体》だ、白いオーラが俺の体から湧き出てきてる。
掃射中のミニガンを右へゆったり向け、今度は左へとゆったり向けた。
ここで、どこから生成されてたんだかミニガンの銃弾が尽きちまう。ポイ捨てして消滅させる。これでゾンビどもをあらかた葬れたか?
「……いや、まだちょっと残ってるな」
「もう充分ですぜ親分、俺がベアヘルムを瞬殺する! 残ったゾンビは子分たちに任せて、今度こそポーション屋を追ってくれ!」
「そうか、よし。ブラッドがそう言うなら……絶対噛まれるなよお前ら!」
「「「へい!」」」
俺よりもボスの経験が長いから、ブラッドが司令塔になってるな。
指示の直後から子分たちが俺に道を作るように、残ったゾンビたちを始末してく。剣とかナイフとか斧とかで。
「うーむ……俺に見合う強さがあるかな!? ブラッドぉ!」
「ナメたこと言ってんじゃねぇ熊野郎!」
走り出す俺の前方、大ナタを振り回すブラッドとベアヘルムが激突寸前。
ってとこで、
「ヒャッハー!!」
それを横から邪魔しようとする、ハイドとかいう狼野郎が現れたもんだから、
「野暮だぞ! くらえ犬っころ、伝統的なイタズラであるパイ投げだぁ!」
「――ぶっ!?」
バラエティ番組とかでよく見る(よく見た?)顔にぶつける用のパイを生み出し、俺はハイドの顔面にぶん投げた。
ベチャッ、と見事に直撃したが、
「おっ! 美味ぇ! これ美味ぇ!」
「は!?」
ハイドは本物の犬みてぇに自分の顔をベロベロ舐め回し、パイの味を堪能。
ってマジで!? あれ味あんのか!? 俺知らねぇぞ、聞いたこともねぇからな!?
しかも俺の手から離れてるから、パイもすぐハイドの顔から消滅してるし。
だが舌に残る味は消えてねぇらしく、ハイドは墓地を転げ回ってずっとベロベロしとる。
アホか。
「ウ"ォーォオ!!」
「どわっ! ゾンビ!?」
油断してた、噛まれるとこだった!
子分たちもだいぶ片付けてくれてはいるんだが、どうやらゾンビポーション効果はまだ持続してるらしく、ゾンビはまだまだ出てきやがるようだ。
「ん〜〜……にゃろが!!」
「ウ"ォオッ!?」
俺はチェーンソーを生み出して、襲ってきた不届きなゾンビをぶった斬る。
すると今のだけに留まらずどんどん集まってきやがるんで、
「状態異常なら毒で忙しいんだ! ゾンビ化とかまで足されちゃ困る! ……要するに来んじゃねぇ!!」
「オア"ァゥ!」
「ア"ー!」
左足を軸にターンして、近寄るゾンビどもをまとめて斬り裂く。
「ここの墓地の管理人は後で掃除が大変そうだな!」
「前だってここでスケルトンいっぱい倒してたでしょマコト! 〈ファイア・ジャベリン〉!」
「「ク"オオォ!」」
チェーンソーを左右へすいすい動かして、ゾンビどもをねじ伏せる。
プラムの火属性魔法の援護を受けながら、着実に墓地の出口へ向かってく。
「うーむ……瞬殺とはいかないようだが?」
「は、良いのさベアヘルム。てめぇがマコトの親分を邪魔しねぇのが優先」
互角……というかちょっとベアヘルムに押され気味なブラッドの横を通過。
ブラッドはBランク冒険者だ、サンライト王国内の強さランキングがあるなら上位に食い込むヤツだぞ。
そいつに互角以上って、ベアヘルムもなかなかじゃねぇかよ。
裏の世界で有名なだけあるってことか。
……おっと、チェーンソーが燃料切れ。捨てた。
「カ"アアア!!」
「うざってぇなゾンビども! プラム、このまま突破するぞついて来い!」
「う、うん!」
ひとまず墓地の中の敵は、まとめてブラッドやゼインら子分たちに任せるとしよう。
ポーション屋捕まえて、材料渡して依頼完了させ、解毒してもらったらすぐ戻ってくりゃいい。
って考えてるのに、
「食い物ありがとよ! ヒャッハーァ!」
「お前マジ邪魔だぞオオカミ!」
ゾンビに囲まれた俺とプラムの真上から、パイの味を堪能し終わったハイドが降ってくる。
イラついた俺は泥団子を生み出し、
「ぶおっ!? 目に入った!? 目に入った!」
またハイドの顔面にぶん投げた。
本人が言ってるが泥が目にクリーンヒットしたらしく、地面に墜落してる。
泥は消滅したんだが、目に入っちまった痛みは継続してるらしく、両目を擦りながら墓地を転げ回ってる。
アホだなやっぱ。
「マ、マコト!?」
さて問題のゾンビだ。
何も思いつかないまま俺が生み出したのは、
「何だこりゃ……お面!? これは恐竜……トリケラトプスのお面、だよな」
今まででも一位か二位を争うほどの意味不明なのが出てきやがった。
忘れがちだがこれは『武器ガチャ』なんだぜ。
「もう殴った方が早い気もするが……腐った死体を触りたくもねぇ」
とりあえずトリケラトプスのお面を付けてみる。
お? 案外、顔に生えてる三つの角みたいなのが、いい感じかもしれん。
「おらよ!」
「ア"ァァァ!?」
頭突き。
とにかく何度も頭突き、頭突き、頭突き。ヘッドバッドともいう?
「そらよ!」
「「ホ"エェェェ!?」」
動物のキリン同士の喧嘩って見たことあるか?
首を鞭みたいにしならせて、ぶつけ合って攻撃するんだが。
俺も、首を振り回してトリケラトプスの角をゾンビどもに叩きつけた。
これがよく効くんだわ、囲んでたゾンビどもみんな吹っ飛んでいっちまった。
さ、もう出口は目の前。
「ありがとうトリケラトプス」
と言いつつお面をポイ捨て。
強がってたが実は不安だったんだろうプラムが、
「ふ、ふぅー……」
と胸を撫で下ろしてるところ、
「うーむ。悪いが『瞬殺』と言うのは、圧倒的な力の差があってこそのものだ」
「え?」
振り返った俺に衝撃が走る。
――プラムの真後ろに、いつの間にかベアヘルムが爪を構えてやがった。
「プラムちゃん逃げろぉぉ!!」
胸を爪で引っ掻かれちまったらしいブラッドが、必死の形相で叫ぶ。
きっと一瞬の隙を突かれたんだろう。
「うーむ、やはり消すなら弱者からだな」
その爪がプラムの頭を割ろうと振り下ろされ――
「ぬ?」
――る、なんてことは無かった。
「マ、マコト・エイロネイアー……? うーむ、その右腕は何だ? なぜ俺に押し付けて……」
「この手は使いたくなかったんだが」
なぜなら俺が、既にベアヘルムの顔に飛びついていて、
「殺害の対象は俺だってのに、しっちゃかめっちゃかにしやがって……プラムまで奪うってんなら、もう許さんぞ」
「う、ぐぅおおお!? なんだ、なんだナンダなんなんだコレはぁぁぁ!!!」
「俺自慢のリスキーマウスの毒だよ! よく味わえ、ベアヘルム!!」
毒に染まった右腕を、遠慮なくベアヘルムの顔面に押し当てたから。
噂通り、ベアヘルムの熊みてぇな顔に感染した紫色の毒は、一瞬でヤツの全身に広がり、
「……げふ」
瞬殺、しちまった。
改めて……俺、こんな毒をくらってたのか……
「マ、マコトすごいっ、でも、殺しちゃったの……?」
「え? あ、いやいや……寝てるだけだろ(大嘘)」




