#24 ZOMBIEポーション
「さてと、色々と質問あるぜアニマル軍団……」
「うーむ?」
ポーション作りの依頼人がいるっていう東の墓地に到着したら、残ってたのは襲撃されたテント跡。
そして、熊男と狼男だった。
「ポーション屋みてぇなヤツがここにいたよな。お前ら何の関係だ?」
「うーむ、さっきお前たち自身が言っていただろう? 襲撃さ。単純に」
「そう! そう! 襲撃! 襲撃!」
熊の方は、でけぇ体の割には理論的に見えなくもないが、どうやら具体的に質問しないと具体的に答えてくれねぇタイプらしい。めんどい。
狼の方は小柄な体躯に見合う、チワワみてぇにキャンキャンうるせぇタイプか。
こういうのは無視だ。日が暮れちまう。
単なる襲撃って話だが――んなワケねぇだろ。
「おいおい。そこのオオカミくんが『現れたぜマコト・エイロネイアー』って言ったの聞いてたぞ? ……何で俺の名前知ってやがる」
「うーむ、答える義理など無――」
「雇われた!! 雇われた!! ベルク家!! アルドワイン・ベルクに!! マコト殺せ!! マコト殺せ!!」
「…………」
「…………」
「…………」
「……だってよ、クマくん。お前の相棒は何でも答えてくれて助かるぜ」
「……うーむ。そうだ、お前を殺すため雇われた」
「殺す!! 殺す!!」
なんだコイツら。
何となく予想してた通り、ベルク家の雇った殺し屋だったらしい。
――が、予想に反してアホそうだな。大した敵でもなさそうだ。
だがマズいのは肝心のポーション屋が見当たらねぇことにある。
「うぐ……!」
「マコト!? 大丈夫?」
「あぁ。おい近寄るなプラム……こんな思いするのは俺だけで充分だぜ」
リスキーマウスの毒だが、とうとう首の辺りまで到達し始めてるな。
さすがにキツくなってきた。しかし解毒のポーションはもしかして、もう――
「親分! ゼインが何か見つけたようですぜ!」
諦めかけたところに聞こえたのは、ブラッドの嬉しそうな声。
ブラッドの巨体の肩に登り、望遠鏡みたいな道具で遠くを見ているゼインが、
「全速力で走る、ボロボロの馬車が見えるっス! ……距離と方向からして、この墓地から出発したっぽいっスね」
同じく嬉しそうに叫ぶ。
距離的には、どうやらまだ走れば追いつけるようなものらしい。
「クマとオオカミのくせに、獲物を逃がしたってのか? ずいぶん弱気な肉食獣だな」
普通に考えりゃ、その馬車はポーション屋のもので、こいつらから逃げてくって状況だろ。
「うーむ、好きに言え。ある『面白いもの』を手に入れたんでねぇ……引き換えに命は助けてやった」
「ゾンビ! ゾンビ!」
クマは喋りながらニヤリと不気味に笑い、オオカミは相変わらずうるせぇ。
って、
「ん?」
やけに物騒な、しかも聞き覚えのある単語が聞こえた気がするが……まさかな。
ここはアメリカの映画の世界じゃねぇ。ファンタジーな異世界だぜ。
と、ここで俺の前に巨大な背中が現れる。
ブラッドが前に出たんだ。
「熊の獣人と狼の獣人、殺し屋二人組……てめぇらは『ベアヘルム』と『ハイド』だな? 裏の世界じゃ誰もが知ってるが」
「うーむ。詳しいな、Bランク冒険者ブラッドよ」
「Bランク! 強そう、強そう!」
「……ま、半年前までは、ただの悪党の親玉だったもんでね」
さすがは元悪党、こいつらを知ってたか。
――獣人、か。
存在があることは知ってたし、街でもすれ違ったことぐらいはあるが、こうやってまじまじと見るのは初めてだな。
ファンタジーだからもちろん人間以外の種族もいる世界なワケだが、俺が会ったことある人外は――魔物とドラゴン、あとはエルフか。
実はそのぐらいだ。
「見ての通り親分は重傷。てめぇらに構ってるほど暇なお人じゃねぇんだよ……邪魔すんなら俺が相手だ!」
ブラッドは背負っていた大ナタを抜き、地を蹴ってベアヘルムとハイドへ突撃していく。
「死ねやぁ!!」
「……うーむ!!」
豪快に振られる大ナタの刃を、ベアヘルムも豪快に爪を振って弾いた。
――こう見るとブラッドとベアヘルムは同じくらいの体のデカさだな。
「ふん、おらッ!! ……マコトの親分! こんなザコどもは俺がぶっ殺しとく、あんたはポーション屋を追ってくれ!」
「そ、そうか……!」
本格的にベアヘルムと交戦し始めたブラッドの叫びに、俺は同調しようとしたが、
「うーむ、そうはさせんぞマコト・エイロネイアー……放っといても死んでしまうようだな? ならばこれで遊ぼうじゃないか」
「ヒャッハー遊ぼ!! ゾンビャッハー!!」
名前を呼ばれたもんだから、ベアヘルムが高く掲げた手を見ちまう。
ありゃ、フラスコってヤツか。理科の実験を思い出すが、何やら泡立つ液体が入ってるな。
黒色の液体、なんか気味悪いんだが……
ブラッドが飛び退いた瞬間、ベアヘルムは地面に向かってフラスコを投げる。
地面に叩きつけられたフラスコは当然割れちまって、中の液体が飛び散った。
「――うーむ。これはあのポーション屋から奪ったもの。奴は『ゾンビポーション』と呼んでいた」
ゾンビポーションだぁ? ひょっとしてポーション屋も異世界転移してきたヤツなのかとビビった俺だが、
「……ゾンビ、だと? あり得ん、嘘つくんじゃねぇ」
顔面蒼白のブラッドの反応は、どうにも知らないヤツの反応じゃなさそうだ。
ふざけてるようにも見えん。まさか。
「プラム、なぁ」
「え?」
「ゾンビって……俺がいた世界にある要素なんだが、まさかこの世界にも存在してんのか?」
「うん」
「えぇッ!?」
当たり前じゃん、とでも言いたげにプラムはあっさりと頷いた。
魔物の一種なのかと驚いたが、
「でも実在しないよ。本の中とかだけに出てくる、伝説とか創作の怪物かな」
「……あれ? こっちと大して変わらん扱いだな」
「そうなんだ。腐った動く死体、脳みそ食べるとか、噛まれたら同じゾンビになる、とか?」
「あぁ、同じ同じ。安心したわ……いや待て、何で安心してんだ俺?」
「一人で何言ってんのマコト?」
まぁゾンビについて俺も詳しいワケじゃねぇが、ゾンビものの映画だのドラマだのは溢れるほどあったって記憶はある。
まさか異世界でも創作物として人気とは……
「あー、親分。プラムちゃん。安心してる場合じゃなさそうですぜ」
「何?」
さっき『ゾンビポーション』がバラ撒かれた地面だが……ボコボコって聞いたこともねぇ音とともに、次々と盛り上がってくる。
え? おいおい、勘弁してくれよ。
「ア"ー……」
どう見ても腐ってやがる手が、墓地の土の中から続々と這い出てくる。
――ちょっと待てって。
ポーションってのは回復だの解毒だの、そういう薬みてぇな代物だって聞いたが!?
「オ"ォ……」
「ウア"アー……」
し、死体だ……墓地に埋葬されてたはずの死体どもが、ポーションの力で蘇ってやがる。
どいつもこいつも両手を前に出して、俺たちの脳みそを食おうと、ゆっくり歩いて迫ってくる。
「みんな来い、俺の後ろに!」
「で、ですが親分……」
「ブラッドお前もだよ、早くしろ!」
「へ、へい」
ったくよぉ!
どうしてこの俺が、異世界まで来てゾンビと戦わなきゃならねぇんだよ!
しゃーない、俺は両手にミニガンを生み出す。
連射できるバカでかい機関銃……普通はヘリコプターだの小型航空機だのに乗せるもんだけあって、結構重いな、これ。
「ブラッド少し手ぇ貸せ、照準が合わねぇ」
「へい」
ブラッドが後ろから支えてくれると、ミニガンはキュラキュラと音を立て始める。
「やば……本当にゾンビいる!! マコトどうしよう! ってゆうかそれずっとキュラキュラ鳴ってグルグル回ってるだけじゃんバカなの!? 死ぬの!? 脳みそ食べられるの!?」
「お、親分!? いつの間にか百体ぐらい迫ってくるっスよ!? 早く攻撃しねぇと……」
確かに、もう俺の目の前までゾンビが近づいてきてる。みんなが焦り始めた次の瞬間、
ズドドドドドドドドドド――――――!!!!
「「「ア"アアアァァァ!?!?」」」
ミニガンが掃射を始め、前方で大口開けてたゾンビどもが粉々になって吹っ飛んでいった――




